コロナ禍で香水など“香り”の市場が盛り上がっている――と聞いたら意外だろうか。コロナ禍前、香水は外出するときに使う人が圧倒的に多かったが、コロナ禍では、家の中や車の中など、プライベート空間で香水を楽しむ人が増えているという。テレワーク環境での気分転換や、癒しを求めて香水を利用する人が多い。
自社ECサイト「カラリア」で香水のサブスクリプションサービスを提供しているHigh Link(ハイリンク)は、「カラリア」の会員数が約50万人(2023年1月時点)、サービスの月次継続率は98%と、「香り」のEC市場で存在感を増している。単に“香水の小売りサービス”を展開しているのではなく、「香り×テクノロジー」によるマーケティングが成功につながっているという。
High Link取締役COOの岡本大輝氏に、「カラリア」ならではのマーケティング手法と、ファンを増やす“仕掛け”を聞いた。
High Link取締役COOの岡本大輝氏
“香り”の市場はジワジワと拡大中
富士経済がフレグランスの国内市場を調査した「化粧品マーケティング要覧2022 №1」によると、2021年のフレグランス市場は382億円。2022年は前年比2.6%増の392億円を見込む。2023年は、室内での気分転換目的に加え、外出機会の回復に伴う香水本来の使い方も増えることが期待されるため、さらなる市場拡大が期待される。
2020年に外出自粛や百貨店の休業の影響により市場は縮小したが、一部では室内での気分転換目的でフレグランスが活用され使用習慣の広がりが見られた。
購入前に香りを確認するニーズが高いことから従来は店頭購入がメインであり、通信販売はリピート顧客が多かったが、SNSでの情報発信をきっかけに定番アイテムのミニサイズを通信販売で購入するケースもみられ、新規ユーザーの開拓が進んでいる。(「化粧品マーケティング要覧2022 №1」より)
海外でもコロナ禍で香り市場は拡大している。
調査会社のMordor Intelligence (モルドールインテリジェンス) は、湾岸協力会議(サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、カタール、オマーン、バーレーンのペルシャ湾岸6か国による地域協力機構)の2023年~2027年における香水市場のCAGR(年平均成長率)は8.6%と予測20代前半~30代後半にあたるミレニアル世代を中心として、香り関連製品の人気が高まってきたが、今後はより高品質な香水の需要が高まるとみている。
このように、香りの市場は国内外で拡大し続けている。香りのサブスクリプションサービスの第一人者とも言える存在になった「カラリア」は、“通販では香水が売れにくい”という従来の印象を覆した。
「カラリア」は、高級ブランド香水、ルームフレグランス、バスグッズなど香りの商品を毎月試せるサブスクリプションサービス。約1000種類の香りから選ぶことができ、1種類につき1か月で使いきれる容量(4ml)をアトマイザーで届ける。プランは月額税込1980円~(香りは1種類)、同3620円~(香りは2種類)、同4540円~(香りは3種類)の3つを展開している。
「カラリア」が展開する3つのサブスクリプションプラン
会員は気になる香りを試しやすく、一回当たりの金銭的な負担も少ない。手軽に香りを楽しむ環境を用意することで、2019年のECサイト開設から約4年で約50万人の会員を獲得した。
取締役COOの岡本大輝氏はこう言う。「自分たちはただ単に香水を小売り販売するだけの事業者ではない」。香りとテクノロジーを組み合わせた、顧客1人ひとりに“刺さる”香りの提案、口コミを増やすための仕掛けなど、「カラリア」ならではのマーケティング戦略が奏功している。
「カラリア」トップページ
「香り×テクノロジー」のマーケ戦略とは? 「カラリア」の直近実績
- サブスクリプションサービスの会員数は約50万人(2023年1月時点)
- 月次継続率98%。前月のサブスク利用者は“ほぼやめない”
- 商品レビュー件数は累計20万件超
特筆すべき点は、前月の利用者のほとんどがサービスを継続し続けていること。岡本氏は次のように話している。
「カラリア」は、日常的に香りを楽しんでいる方にご利用いただいている。また、そうでない方も、当社のサービスを通じて「日常的に香りを楽しむユーザー」に成長していただくことができるのではないかと思っている。(岡本氏)
これまであまりフレグランスに親しんでこなかった人が“香り”がある生活を楽しむようになるためには、まずは自分の好みの香りを知る必要がある。一方で、目には見えない香りをオンラインでユーザーに伝えるのは難しい。
しかし、岡本氏は「香りは目に見えないからこそ、データとテクノロジーの力を掛け合わせることで、香りの楽しさを最大限に伝えていくことができる」と話す。
“膨大かつ質の高い”データ収集。独自アルゴリズムの開発へ
サービス開始以来、Instagramなど自社運用のSNSメディアを軸とした認知拡大をとり、会員数の増加施策に打ち込んだ。現在、会員数は約50万人(2023年1月時点)。この約50万人の購買データおよび口コミの取集に力を入れており、“香り”を起点とした会員の性別、年代、趣味、嗜好といったデータを精力的に集めている。
データの質を高めるために、「カラリア」独自の基準で香りのタグづけを行っている。岡本氏は次のようにして“質”を担保していると言う。
同じ「Sサイズ」の服でも、ブランドごとにサイズ感が微妙に違う。香りも同じように、一口に「フローラル」とか「ローズ」と表現しても、人によってイメージする香りは異なる。その微妙な違いを評価できるような独自基準を「アイテムデータ」として設定しており、それを的確に判断できるフレグランスのスペシャリストを社内で採用している。(岡本氏)
「アイテムデータ」に生かすため、ユーザーに購入は商品のレビューを募る場面では「香りの感じ方は暖かい感じですか、冷たい感じですか」「どのようなシーンに合う香りだと思いますか」(「オフィス」「カジュアル」「デート」などから選択式)といった具体的な質問を設けている。
「カラリア」トップページの商品検索画面でも、「イメージ」「シーン」などの細かい条件を設定して好みの香りを検索することができる
「カラリア」では、独自アルゴリズムの開発や、データを活用するためのAIを扱うことができるテックチームが活動しているという。
サービスの会員には、購買情報や口コミをもとに、ぴったりの香りをレコメンドする施策を実施。購入回数や口コミが増えれば増えるほどレコメンドの精度が上がるため、会員が自分にぴったりの香りに出会える環境が整っていく仕組みだ。
High Linkは自社のあり方を「Scent tech Company(セントテックカンパニー)」と呼んでいる。「Scent」は香りを意味し、「tech」はテクノロジーを指す。
当社が手掛けるサービスの本質は、香水の小売り販売ではなく、この「セントテック」。質の高いデータを大量に集めて活用していくことは、テックカンパニーだからこそできる強み。(岡本氏)
爆発的に“口コミ”を増やす仕掛けとは?
質の高いデータ収集のためには、購買情報(=サブスクリプションサービスでユーザーが選んだ香水)だけではなく、顧客からの口コミ収集が欠かせない。口コミの収集に先立って、会員数を拡大するため、SNS公式アカウントでの発信や、メディアを通じた認知拡大に努めてきた。
香りのサブスクリプションサービスのほか、PRポイントの1つに「香水診断」がある。約1分間でできる、選択式のオンライン診断で、ユーザーの好みの香りがヒットするというものだ。
選択式の診断でユーザーの好みの香りやおすすめの香水を表示する
「香水診断」では、好きな香りの系統だけにとどまらず、好みのファッションや性格も聞く。ユーザー1人ひとりのパーソナリティをとらえておすすめの香水を提案する
会員向けには個別のマイページに「フレグランスプロフィール」を設置。「フレグランスプロフィール」は、それぞれの会員による香りの評価――すなわち商品レビューをもとに、好みの香りの傾向や、まだ手にとっていないが「好きかもしれない香り」を紹介する。
会員は、商品レビューを書けば書くほど「フレグランスプロフィール」のページが充実していく。プロフィールページをSNSにシェアできるボタンも設置している。
占いの診断結果をSNSでシェアしたくなるのと同じように、「香水診断」を通じて知った自分の好みを友人同士でシェアしたくなるような仕掛けにしている。
「フレグランスプロフィール」は、ゲーム感覚で自分だけのページを充実させることができ、会員にとっては楽しさがある。
このようにして「自然と口コミが増えていく」仕組みづくりにこだわった。会員が喜んでくれたり、ワクワクするようなコンテンツの提供を心掛けている。(岡本氏)
現在、レビュー(=口コミ)数は、累計20万件超え。SNSの総フォロワーは40万人超となっている。
コロナ禍でスタートした香りのECプラットフォームがここまで成長し、多くのファンに愛されているのは、テクノロジーを活用したデータマーケティングと、「香りの豊かな体験を顧客に届けたい」という思いが支えている。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:香水EC市場に新たな風! テクノロジーで香水のファンマーケティングに成功した「カラリア」の独自戦略とは
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