オンライン通販事業者が 2023 年の成長計画を達成するためには、よりコンバージョンに力を入れる必要があります。
米国のEC業界誌大手『Digital Commerce 360』が実施した「2023年パフォーマンスとコンバージョンに関する調査」には、小売事業者73社が回答。年末年始の業績、KPI、投資戦略、成長機会、潜在的な課題、年間を通じたコンバージョン促進要因などを探った調査結果から、自社ECサイトのコンバージョン率を向上させるためのヒントを見つけてください。
記事のポイント
- コンバージョン率は2022年比で上昇
- オンライン通販事業者は、ユーザーエクスペリエンスと、2023年の目標との乖離(かいり)を縮小するために尽力している
- カスタマーエクスペリエンス、Eコマース、プラットフォーム、デジタルマーケティングへの投資が、2023年の取り組みリストの上位にあがっている
コンバージョンなど収益に関する数値の現状と傾向
ホリデーシーズンの売上成長と成果
コンバージョンは、オンラインにおける収益創出の要です。アクセス解析ツール「Adobe Analytics」によると、オンラインの2022年ホリデーセールスは、前年比3.5%上昇にとどまっているため、コンバージョン改善に向けたさらなる取り組みが必要のようです。
『Digital Commerce 360』が実施した「2023年パフォーマンスとコンバージョンに関する調査」によると、小売企業の57%がホリデーシーズンの売り上げを伸ばした一方、22%は「横ばい」、21%は「売り上げが減少した」と答えました。
2022年ホリデーシーズンの売上伸長率(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)
回答した小売事業者によると、カスタマーサービスの向上(29%)、サイトパフォーマンスの改善(22%)などカスタマーエクスペリエンスに関する成果をあげた企業が目立ちました。
カスタマーエクスペリエンスに関する成果
- カスタマーエクスペリエンスの最適化:15%
- 顧客満足度の向上:10%
- パフォーマンスを含むサイト体験の向上:8%
- モバイル体験の向上:5%
成長性に関しては、27%が「トップラインの成長と収益の増加」、「マーケットプレイスの売上成長」は25%に達しました。「収益性の向上」(18%)、「モバイル販売の拡大・浸透」(14%)と回答した事業者は、それほど多くありませんでした。一方、「厳しい環境下での労働力管理による生産性向上」(21%)は大きな効果と言えるでしょう。
また、マーケティングの成果も注目されています。小売企業の26%が「新たなマーケティング施策」、22%が「マーケティング費用の効率化」をあげています。また、15%が「顧客獲得の成功」「顧客維持率の向上」につながったとしています。
サプライチェーンについては、23%が「サプライチェーンの課題への対応」を、物流面で「フルフィルメントの迅速化」(18%)、「倉庫業務の改善」(11%)、「新規サプライヤーの獲得」を成果にあげています。
「2022年のホリデーシーズンにおけるEコマースの最大の成果は何か」(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)出典:Digital Commerce 360による小売事業者73社への調査(2023年1月)
コンバージョン率や平均注文金額などの各種KPIについて
KPI(重要業績評価指標)は、小売事業者が同業他社と比較して自社のパフォーマンスをベンチマークするのに役立ちます。コンバージョン率は、「ウェブサイトの収益」(57%)、「収益性」(51%)とともに、64%の小売事業者が2021年よりも上昇しました。
調査対象となった小売企業の半数弱は、「平均受注額(AOV)」が47%増加し、「マーケットプレイスのパフォーマンス向上」は44%でした。
各種KPIの達成度合いについて(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)
コンバージョン率は、小売事業者の57%が、2%もしくはそれ以下であることが判明。一方、2%以上のコンバージョン率だったのは43%でした。その内訳は次の通りです。
- 1%から5.0%:21%
- 5%以上:13%
- 該当なし:9%
Amazonを含むマーケットプレイスのコンバージョン率を見てみると、自社サイトよりも低いことがわかります。
ECサイト別コンバージョン率の結果
- 0%~1%
- 小売事業者の自社サイト:25%
- Amazon:30%
- その他のマーケットプレイス:30%
- 1.1%~2.0%
- 小売事業者の自社サイト:31%
- Amazon:28%
- その他のマーケットプレイス:20%
- 2.1%~5.0%
- 小売事業者の自社サイト:20%
- Amazon:6%
- その他のマーケットプレイス:8%
- 5.1%以上
- 小売事業者の自社サイト:13%
- Amazon:6%
- その他のマーケットプレイス:9%
- 該当なし
- 小売事業者の自社サイト:9%
- Amazon:36%
- その他のマーケットプレイス:33%
コンバージョン率について(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)
小売事業者のオンライン平均注文金額(AOV)は、100ドル以上が54%、100ドル以下が46%とほぼ同率。もちろん、これは商品の品ぞろえや消費者の購買行動に直接関係しています。
AOV率について(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)
2023年にオンライン通販事業者が投資するポイント
ユーザーエクスペリエンスの向上に努める傾向が顕著
賢い投資をするためには、常に自社の状況を確認することが賢明です。最適なユーザーエクスペリエンスを「10」と設定して、1から10までで自社の評価をしてもらったところ、「9」または「10」と評価したのは9%。57%のオンライン通販事業者は「6」から「8」の間で評価しました。残りの34%は6点以下です。
裏を返せば、オンライン通販事業者は向上心にあふれていると言えるでしょう。8点以上のユーザーエクスペリエンスを実現したいと考えている通販事業者は67%。8点未満はわずか33%でした。次のグラフが示すように、小売事業者はユーザーエクスペリエンスに関するギャップを縮めようと努力しています。
最適なユーザーエクスペリエンスを「10」とした場合の自社評価
自社ユーザーエクスペリエンスの評価(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)
カスタマーエクスペリエンスへの注力が最多
Eコマースへの投資は、「カスタマーエクスペリエンス」「Eコマースプラットフォーム」「デジタルマーケティング」「パーソナライゼーション」が優先順位の上位を占め、軒並み上昇しています。
「カスタマーエクスペリエンス」は71%に達し、また、2023年に「増える」と予想される投資のトップもカスタマーエクスペリエンスで、71%でした。
「パーソナライゼーション」(51%)、「Webデザイン」(45%)、「カスタマーサービス」(45%)が続きました。
デジタルマーケティングに注力する事業者の割合は55%に達しており、マーケティング費用は増加するでしょう。「ソーシャルメディア」は49%、「SEO」も44%が投資すると回答しています。
チャネルの観点では、49%が「マーケットプレイスの成長」に期待しており、マーケットプレイスへの取り組みが進んでいます。一方、「オムニチャネル」は18%にとどまりました。
「オペレーション」への投資は43%が増加しており、「倉庫やフルフィルメント管理などのロジスティクス」は39%。倉庫業務を含むロジスティクスは31%で、18%のサプライチェーンとともに増加しており、いずれも重要な改善がもたらされるはずです。
2022年比で2023年に投資増を見込んでいるテクノロジー分野(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)
コンバージョンを促進するためには、カスタマーエクスペリエンスに重要な投資を行う必要があり、66%がその重要性を認めています。他にも、「カスタマーサービス」(46%)、「パーソナライゼーション」(27%)、「返品無料」(14%)などがあげられています。
コンバージョン促進には、テクノロジーの役割も非常に重要です。「Eコマースプラットフォームへの投資」が54%でトップ、「Webサイトのパフォーマンス/スピード」が45%で上位にランクインしています。また、「Web解析/データ」も38%が重要視しています。
物流は「倉庫管理」を重視する傾向に
デジタルマーケティングは、コンバージョンを促進する上で重要であると40%が回答。コンバージョンを物流の観点から考えた場合、37%が「倉庫管理」、23%が「サプライチェーン」、19%が「マーケットプレイスでの取り組み」をあげています。
コンバージョンの最適化において、2023年に投資が重要だと思うデジタルマーケティング(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)
コンテンツの観点からは、オンライン通販事業者の3社に1社が、2023年にコンバージョンを最適化するためには、Webデザインとブランド価値の紹介が重要であると考えています。
その他の要素では、「動画/ライブストリーミングコンテンツ」(21%)、「ロイヤルティプログラム」(19%)、「ブログ/編集コンテンツ」(16%)、「企業情報ページ」(14%)は、調査対象の5社に1社のみがあげています。
コンバージョンの最適化において2023年に投資が重要だと考えるコンテンツやデザインの項目
(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)
マーケティング施策は「SEO」「Eメール」が上位
コンバージョン率を向上させるためには、戦術に加え、マーケティング施策が最も重要です。「SEO」(48%)、「Eメール」(39%)、「ソーシャルメディア」(18%)がその代表施策です。
商品面では、「在庫水準の最適化」(36%)、「プライベートブランド/独占販売商品」(26%)があげられています。「チャネルを超えた一貫した体験」は36%、「物流」は34%で引き続き重要な役割を果たし、「ユーザーテスト」も22%でした。
カスタマーサービス関連の数字は低く、「ライブチャット」が19%、「バーチャル相談/予約」が8%と、おそらくアフターコロナの影響を受けているようです。
コンバージョン率を向上させるために投資が重要だと考えるマーケティング施策(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)
コンバージョン率を向上させるWebサイトの施策とは?
小売事業者は、コンバージョン率を向上させるために多くの戦術を重要視しています。オンライン通販事業者の47%は「サイト内検索」、「主要ページのアップグレード」(44%)、「モバイルサイトの改善」(38%)を重要視。また、21%は「コール・トゥ・アクションボタン(編注:自社のWebページを訪れたユーザーに、購入など、何かしらの行動を起こしてもらうための要素)の改善」も要因としてあげています。
商品に目を向けると、「情報と画像の向上」が42%、「画像の洗練度」が37%と、圧倒的な支持を得ています。
チェックアウトに関しては常に改善の余地があり、29%がステップ数を減らすことを提案し、同数が「サインアップとチェックアウトの簡素化」をあげています。
商品マッチングツールなど、コンバージョンを促進するためのインタラクティブツールは21%に上りました。この方法はニッチな傾向があり、家庭用品やアパレルなどのカテゴリーで有効なため、普及率は低くなっているようです。
また、同じ数の小売事業者が、ソーシャルメディアの投稿からのリンクの埋め込みをあげています。ソーシャルメディアの場合、その魅力と利用は若い消費者により浸透しており、その層をターゲットとする特定の小売事業者にとってより価値のあるものとなっています。
コンバージョン率を向上させるために投資が重要だと考えるECサイトの施策(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)
2023年にオンライン通販事業者が直面する課題とは?
2023年にオンライン通販事業者が直面する重要な問題は、インフレや消費者行動の変化に対応しながら、費用対効果の高いマーケティング、UXの改善などを通じて、計画的な成長を実現することです。
2023年に小売事業者が自社のビジネスにプラスの影響を与えるために取るべき最も重要な行動について、寄せられた回答のいくつかを統合することで、今後の展望を示すことを試みてみました。
調査対象社の62%が回答した第1位の回答「収益性」を中心に、今後の展望を考えてみます。収益性に関しては、「収益性の向上」「収益性のKPIと一致するような流通戦略の見直し」などがありました。
これまでに続き、2023年に取り組むべきだと考える課題(出典:『Digital Commerce 360』による小売事業者73社への調査)
収益に貢献するものとして、「費用対効果の高いマーケティング」との回答が60%に上りました。何が最も重要な活動になるかに関しては、マーケティング費用や顧客セグメンテーションの最適化から、収益性の高い売上の拡大まで多岐にわたりました。
ある企業はマーケティングの強化、また別の企業はデジタルマーケティングのコスト削減をあげています。いくつかの小売事業者は、検索マーケティングへの投資や、新たなマーケティング施策への注力をあげました。
また、「ソーシャル広告の拡大」「Facebookのオーディエンステスト」「販売アフィリエイトの強化」など、より具体的なターゲットへのアプローチも回答に上りました。ある企業は適切な顧客の発掘に注力し、別の企業はロイヤルティプログラムと顧客維持の拡充に期待を寄せています。
さらに、53%が「計画的な成長の達成」、21%が「マーケットプレイスの売上拡大」と回答しました。
ユーザーエクスペリエンスの向上に課題をもつ事業者が多い結果に
カスタマーエクスペリエンスの観点からは、「ユーザーエクスペリエンスの向上」が55%に上りました。さらに、「カスタマーサービスポリシーの調整」も21%があげています。
カスタマーエクスペリエンスは、最も重要なものとして注目されている項目の1つですが、他にも注目されている課題は以下の通りです。
- チームの再編成
- オンライン体験の改善
- カスタマージャーニーの変更
- 顧客エンゲージメントの強化
人材については「スタッフの増員」「プラットフォームとインテグレーションのアップグレード」「採用プロセスの改善」「無駄のない経営」「チームと目標の編成」「従業員のスキルアップ」などがあげられています。
戦略面では、調査対象の小売企業の約半数が「今後もインフレとの戦いに直面する」と回答しており(49%)、約同数の小売企業(44%)が「消費者行動の変化に直面している」と回答しています。
インフレの時代にあって、「商品価格の調整」(27%)と「在庫商品の最適化」は、「オムニチャネルの提供」(23%)と同様、25%の要因として残っています。ある企業は在庫の絞り込みを、他の企業は平均単価の引き下げや引き上げを指摘しました。
さまざまな計画があげられましたが、ポジティブなものもあれば、ネガティブなものもありました。その内容は、流通の拡大、事業への資金投入の増加、異なる方向への転換など多岐にわたっています。
いくつかの企業は、重要なチャネルとしてEコマースへの移行、消費者への直接販売(DtoC)、WalmartやTarget(編注:ウォルマートとターゲットは米国のスーパーマーケットチェーン)を含むより多くのマーケットプレイスへの参入を検討しています。
また、「低業績を解消する必要がある」「企業再編が必要である」「克服できない不正行為により既存のEコマースサイトを閉鎖することになるだろう」と考える企業もありました。
サプライチェーンとロジスティクスも、小売事業者にとって依然として最重要課題となっており、以下のような懸念があげられています。
サプライチェーンとロジスティクスに関する懸念
- 輸送業者による配送の遅延:27%
- サプライチェーンに関する懸念:23%
- フルフィルメントの需要に応えること:22%
- 当日配送の可能性:15%
- 倉庫業務の適応:12%
小売事業者は、倉庫のアップグレードや複数輸送業者による配送システムへの移行を、プライオリティの高い計画としてあげています。
また、直接的には取り上げられていませんが、多くの小売事業者が以下のようなテクノロジーにも言及にしています。
- 新しい Eコマースプラットフォーム
- アナリティクスの改善
- サイト内検索
- AIとディープラーニング
- プロセスおよびワークフローの改善
課題は無限にあり、2023年にECを成長させるためには、小売事業者の決意が必要です。増加するKPIを継続的にクリアしていくためには、ユーザーエクスペリエンスのモニタリングが不可欠です。資金は常に限られているため、賢い投資をすることが重要な結果をもたらすでしょう。
サイトエクスペリエンスからマーケティング、基盤となるテクノロジーに至るまで、コンバージョン率と収益性の向上を目標とする小売事業者にとって、やるべきことはまだまだ沢山あるのです。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:コンバージョンUPに直結する施策、EC事業者が課題解決のために投資する領域とは? | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.