アパレル大手のユナイテッドアローズ(UA)が運営する公式アプリは、顧客とECサイト、オフライン店舗との関係作りに重要な役割を持つ。UAのEC化率は3割と、まだまだ店舗が購買チャネルのメインだが、見方を変えるとオンラインの伸びしろが大きいと言える。UAのアプリを活用したコミュニケーション施策について、ユナイテッドアローズ デジタルマーケティング部/ CX推進チーム リーダーの池田沙貴子氏が紹介する。
シームレスな購買体験のためのデジタル施策
店舗を有するUAでは、ECサイトやアプリのログはもちろんのこと、店舗側のデータも加えて顧客の行動を把握し、デジタルマーケティング施策を展開している。
たとえば、顧客が「次の旅行に向けて秋っぽい色の新しいトップスを買おうか。でもまだ暑そうだし、涼しさも大事。コーディネートで冬前まで長く着られるものが良い」と考えたとする。
その際にまず想定されるのが、オンラインでの検索だろう。その後、ECサイトで商品を閲覧したり、既存顧客であればアプリを開いたり、あるいは店舗に足を運んで商品の素材や生地を見たり、試着したりする。
このように顧客が商品に興味を持ってから購買に至るまでのすべてのデータを、オンライン・オフラインを問わずシームレスに捉えていてくことに力を入れている。
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オンラインとオフライン双方の顧客行動を統合して把握
店舗側のデータを管理する上で肝となるのが、「ハウスカード」という会員プログラムだ。「ハウスカード」では、顧客に会員番号を付与し、この会員番号をキーとしてECサイトでの購入と店舗での購入を一元管理している。
また、2020年秋から一部店舗でビーコンを設置。UAのアプリを利用している顧客の来店情報を把握し、来店中にはアプリにプッシュ通知を配信。オススメ商品などの情報を来店客に届けている。
まだまだ店舗でお買い上げいただくお客さまが多いため、オンラインだけでお客さまの行動ログを取っていても、最終的な購買データを一元的に見た際に、どうしても歯抜けの状態になってしまう。まだすべてのデータを収集できているわけではないが、来店のタイミングとECサイトやアプリを閲覧いただくタイミングなどを分析して、お客さまに良いサービスを提供していきたい。(池田氏)
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ユナイテッドアローズ デジタルマーケティング部/CX推進チーム リーダー 池田沙貴子氏
集めたデータを使いアクションへ
UAではデータの種類を3つに分類している。
1つ目が、顧客がサイト上でお気に入り登録をしたりスタイリングを見たりした「ECデータ」。2つ目が、購買金額や会員ステージといった「CRMデータ」。3つ目が、メールの開封やビーコン情報などの「反応データ」。
この3種類のデータを使って顧客をセグメントし、ターゲットリストを作り、施策を生成する。
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データを3種類に分類しアクションにつなげる
コミュニケーションのシナリオ
アプリのシナリオの軸を27、28通り用意しており、そこから経過した日にちに合わせてステップ配信を組んでいる。
池田氏は「27、28通りのシナリオは決して多くはない。まだまだやりたいことはあるので、今後も増えていくだろう」と話す。今後は新規顧客獲得の施策に特化したものや、リピート顧客を増やすことに特化したシナリオなどを追加していく計画だ。
マルチチャネルのコミュニケーション
UAは配信ツールとしてメールやアプリ・LINEを活用しており、なかでも顧客接点が最も多いチャネルはメールだという。その次がアプリ、LINEという順番だ。
複数のツールを運用する上で、いくつか気をつけていることがある。たとえばセールの通知を行う場合、各ツールにすべて同じタイミングで送るのではなく、送る時間に差をつける。内容にも気を配り、メールはコンテンツを充実させ、アプリやLINEはスマホのUIに合わせて情報量を少なく簡潔に伝えるといった具合だ。
CRMのゴールは「生涯顧客化」
UAはCRMでめざすゴールとして「生涯顧客化」を掲げる。顧客と1回限りの接点ではなく、強みである店舗スタッフの接客を通じて顧客と長い関係を構築しようと考えている。
そこで、LTVを上げるために年1回以上購入している稼働会員数をKPIとして捉え、稼働会員の比率を上げていくための維持率、2回目の購買に至ったF2転換率、新規会員数などを指標に据えている。
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CRMでは生涯顧客化をめざしてKGIとKPIを設定
コロナの影響を考慮して購買データを確認
UAではオンラインだけでなくオフラインも含めたデジタルマーケティング戦略を展開しているが、新型コロナウイルスの影響も無視できない。
緊急事態宣言によって一部の店舗が休業になるといった事態が生じている。UAのEC化率は3割前後と、圧倒的に店舗での購入が多い。コロナによって店舗への来店機会が減ると、顧客との接点が減り、売り上げの減少につながる。
こうした不安材料がある一方、明るい兆候も出ている。それは、ECサイトやアプリの利用率がコロナ禍で大きく伸びたことだ。
UAが分析したところ、アプリ利用者ではECと店舗の両方を利用するケースが多いことがわかった。両方を利用する層は、アプリだけの顧客や店舗だけの顧客に比べて購入単価が高い傾向にあることも判明した。
つまり、UAにとってアプリが果たす役割というのが非常に大きいと言える。
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コロナ禍でECサイトとアプリの利用が伸びた
UAが運営するアプリの特徴とは?
UAの公式アプリについて整理すると、ユーザー数は約140万人、稼働ユーザー数が約80万人、男女比は4:6で若干女性の方が多い。このアプリは、店舗での購入時に提示するデジタル会員証として主に利用されている。
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UAのアプリの概要
アプリの位置づけ
UAにとってアプリは、顧客との貴重なコミュニケーションの接点であり、EC機能と店舗をつなぐハブという位置づけだ。具体的に、以下の3つの特徴があげられる。
- アプリのUI:店舗における「居心地の良さ」「探しやすさ」
- プッシュ通知:店舗における「声がけ」や「DM」
- アプリ内メッセージ:店舗における「接客」
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UAにおけるアプリの位置づけ
お客さまが商品に触れる場所は、店舗・ECサイト・アプリ、どこでも良いと思っている。必ずしもアプリに寄せたいとか、ECに寄せたいとは考えていない。スムーズに心地よく商品を探せることが大事。「店舗だとすごく気持ち良く買えるのに、ECやアプリだと使いにくい」といった声があれば、そこを改善してきたい。(池田氏)
アプリDLの8割は店舗がきっかけ
UAのアプリは店舗とECサイトのハブの役割を担っているが、アプリのダウンロードを促すようなWeb広告は一切行っていない。顧客にダウンロードしてもらうための重要な場となっているのが店舗だ。
店舗スタッフの声かけやレジ前のポップ、あるいは会員登録時に渡す冊子を通じてアプリがダウンロードされることが多く、ダウンロードのうち8割が店舗をきっかけに行われている。
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アプリが店舗とECのハブになっている
店舗スタッフと連携し、アプリ利用を促進
UAではアプリを活用する上で、ユーザー層を把握しそこから傾向などの「気づき」を経て、具体的なアクションにつなげている。
先述したように、アプリと店舗の両方を利用する顧客の客単価は高く、店舗だけ利用する顧客と比べて3倍程度にのぼる。そこで、店舗だけを利用している顧客にECやアプリといったオンラインチャネルを併用してもらうことが求められる。
UAではこのような両チャネル利用を「オムニ化」と呼んでいるが、そのためには顧客にアプリをダウンロードして使ってもらうことが大事であることから、店舗スタッフと連携してアクションを進めている。
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状況を把握してアクションにつなげる
Reproを活用した3つの施策
UAでは、アプリを運用するにあたってRepro(リプロ)社のマーケティングプラットフォーム「Repro」を活用している。「Repro」を使った取り組みはいくつかあるが、そのうちの3つを紹介する。
セグメント配信
1つ目がフィルター機能を活用したセグメント配信。お気に入りに商品を入れたユーザーに向けて、お気に入り機能の使い方を案内するなどセグメント配信を実施。こうしたセグメント配信は全配信に比べて開封率が高くなる。
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セグメント配信で開封率がアップ
アプリの不足機能を補完
2つ目は補完機能。UAのアプリには、ツールチップやチュートリアルの設定がない。そのため顧客レビューには「使い方がわからない」「店舗在庫はどこから見るのか」といった声が寄せられていた。ただ、アプリの改修は時間やコストがかかる。そこで、Reproの機能を使ってツールチップの役割を補完。顧客の行動に応じた機能紹介を実施している。
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Reproの機能を使って不足機能を補完
メッセージ配信
3つ目が、外部データを活用したメッセージ配信だ。UAは「トレジャーデータ」を活用して顧客データを管理しているが、そのデータとECサイトのお気に入りデータを連携。これにより、在庫僅少や値下げ通知のメッセージを顧客に送っている。
また、お気に入りのどの商品が値下げしたかわかるよう、プッシュ通知から簡易的なランディングページに遷移できるようにし、そこから当該商品を確認できるようになっている。
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外部データと連携しメッセージを配信
Reproを選んだ理由
3つの施策を見てきたが、そもそもUAがRepro選んだ理由は大きく「サポートの手厚さ」と「簡単な管理画面」といった2点があげられる。
池田氏は「『どのようなコミュニケーション設計をすれば良いか』といった課題に対して、一緒に考えて提案してくれる体制をReproが用意してくれている。また、管理画面が使いやすいことも魅力的」と話す。
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Reproを選んだ理由と魅力
今後は顧客との接点としてのアプリを強化
今後の展望について、池田氏は「お客さまとの大事な接点としてのアプリを強化し、満足いただけるように接客を工夫し続けたい」と語る。
さらに、オンラインと店舗の橋渡し・ハブとしてのアプリを意識して、2020年秋から開始したビーコンのサービスをさらに推進し、顧客が楽しく店舗のなかでアプリを使いたくなる仕組みの構築をめざしていくという。
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UAが掲げる今後の展望
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オリジナル記事:アプリを活用してリピート顧客を育てるコミュニケーション施策とは? ユナイテッドアローズの取り組みを一挙公開!
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