広告会社の行く末  その2 | 業界人間ベム

業界人間ベム - 2012年10月18日(木) 16:52
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 DAS(Diversified Agency Services)というワードが聞こえてきてから、もう6~7年経つのだろうか。Diversifiedとは「多様な」とか「多角的な」とかという意味で、いわゆるDAS領域での売上シェアが高くなるということが、WPPにしろ、オムニコムにしろ、メガエージェンシーグループが言っていたのを記憶している。で、そのDAS領域とは、CRM系とか戦略PR系、またはspecialty communication とか呼ばれるヘルスケアとかの専門分野だったりするのだが、こういう分野が昔はなかった訳ではない。しかし専門性の高いそれぞれの領域はより専門性に特化することで競争力をもつということになってきたため、改めてDASという概念が出てきたように思う。

 前回のエントリーでの話の繰り返しだが、専門性とは、営業のフロントラインからして専門家ということだ。スタッフだけ専門家ではないのだ。

 昔の代理店の営業マンは、売りに行くメディアについてはいちおう専門家だった。私が82年に入った当時のアサツーなどはむしろSP代理店に近かったので、私も紙を指でつまんで「これは90キロ」とか、印刷会社の営業並みの知識があったし、メディア部のスタッフは媒体社との交渉ごとをするのが仕事ではあるが、媒体そのものの知識やプランニングに関する知見は営業もほぼ同等に持っていた。というかむしろ営業の方がほぼすべてのメディアに精通している分、プランニング能力があった。

ところが、ここ20年くらいでのマーケティングコミュニケーションに関わるサービスの多様化は、代理店の営業マンの素人化(知見の希釈化)を相当促進したようだ。クライアントに対してフロントに立つ営業マンが、なんでもかんでもスタッフに聞かないと分からないとか、プロデューサーとしての仕切りができないとか、アカウントプランナーとしてのプランの方向づけや、「決め込むこと」ができないとか聞くと、ずいぶん情けなくなったものだと思う。もちろん自分がやっていたころのビジネスが大してハイエンドなものでなかったかもしれないが、マスメディアのプランニングにしても、そのメソッドにさえ熟達してしまえば、営業にでも当然出来る。そもそも欧米のメディアエージェンシーなどは、そんなに高いスキル(よって高所得)ということにはなっていない。ちゃんと勉強していないだけだ。

いつから代理店のフロントは、スタッフに丸投げするようになったのだろうか。もちろんそうでない優秀な営業マンもたくさんいるが、実は丸投げの方が効率がいいという経営判断が右肩上がりのころにあったのだと思う。御用聞きしてくれば、あとは専門スタッフにやらせる方が大きな仕事が効率的に回るという時期もあっただろう。また営業の仕事のうち企画や実行の実務以外のところで、もろもろの仕事(役割)があったし、またそれが相当増えたのだろうと思う。

しかし、時代は広告会社のフロントに、プランニングとエグゼキューションにおけるプロ(専門家)の知見を求めるようになった。広告主もやらなければいけないことがものすごく増えて、トータルに(ワンストップに)アウトソースしたい一方で、それぞれの専門性の高いスペシャリストが常にインターフェイスしてくれて、フロントで解決してくれる方がありがたいのだ。それだけ現代はスピードが要求されている。まあPDCAサイクルが実に高周波になっているのだから、「スタッフに聞いてきます」といってその場で解決できない営業マンはいらないということにはなる。

フロントを少なくしてバックヤードを厚くする方が効率的な時代も、それはあった。ワンストップはクライアントも便利だった。しかしそれはクライアントに知見が乏しい場合だ。また、ペイドメディアだけならともかく、企業のマーケティングメディアがトリプルメディア化するなかでは、オウンドメディアとアーンドメディアでは広告主が素人ではなく、広告会社の方が素人になった。


よって代理店は根本的にその機能を再編しないといけない。そして、そこには専門性と機動力がきわめて重要になった。


が、日本の広告会社くらい高齢者が経営しているとこころはない。広告主企業の経営トップがどんどん若返りしているのに、広告会社、媒体社の経営トップはおそろしく高齢だ。昔の成功体験からマインドを切り替えることがそもそも無理な世代とも言える。

昔の世代は「企業は大きい方がいい」と思っている。(電通や博報堂くらいのスケールがればそのケーパビリティは確かに武器だが)また、「360度だなんだ」と1社で何でもできることがいいとも思っている。しかしこの時代「何でも出来る」なんてのは大うそで、こんなことを標榜するのは「何ひとつ完全にプロの仕事は出来ません」と言っているようなものだ。


すでに問題はどういう専門性に区分して、それぞれの組織構造や人材育成をどう組み立てるかであって、フロントからスタッフまで全体がプロ集団化するエッジの効いた専門会社(当然、給与形態もキャリアステージの考え方も違う)を持ち株が統合するスタイルになるのは必然だろう。
必要なのはマーケティングに関わる様々なサービスを、それぞれ専門性の高いプロ集団で販売する、販売力の水平拡大であり、もう一方でのビジネスモデルの垂直拡大である。広告会社が成長戦略を描くのであれば、こう考える以外にはない。

ビジネスモデルの垂直拡大とは、従来のドメインからシナジーの効く領域への事業モデル開発であり、いわば広告代理業からの脱却である。


おそらく、広告代理業のモデルは衰退を余儀なくされる。Googleのアドワーズが誰でもオンラインで買えるように、限られた「枠」を大きな企業広告主に売るというビジネスはシュリンクする。大きな企業広告主も広告枠を買うことで行うマーケティング施策は減っていくだろう。また大きな企業でも社内でオンラインで入札型の広告を買うだろう。
従来からの「枠もの」は売る側の論理でできている。買う側の論理で「人」を選んで買う広告はすべての広告主、ブランド、キャンペーンに究極にカスタマイズされるもので「枠」の概念では対応できない。
売り買いの仕組みが、代理店の営業マンの「手売り」から広告主企業の「入札」にかなりシフトするだろう。
それはなぜか・・・。

「広告」にとって「広告代理店」がもっている「メディア情報」が優位だった時代(多少は今もそうかもしれないが)は、そろそろ終焉を迎えるだろう。「広告」にとって重要なのは「顧客情報」になる。つまりCRMの延長線上に新規顧客を獲得するための「広告」があるということだ。顧客化したユーザー、情報をプルしたユーザー、そうした顕在化したユーザーを分析することよって、まだ認知していない見込み顧客を選別して広告配信対象とするのが当たり前になるだろう。
となると、この世界には「広告会社」以外のスペシャリストがごちゃまんといる。CRMをやってきたテクノロジーベンダーはじめ、様々なプレイヤーだ。IBMやオラクルも広告会社にはコンペティティブな存在になるだろう。


そして、広告会社にとって競合してくるプレイヤーが増えるのは、これだけではない。前回エントリーで書いたように、マーケティングコミュニケーションのために開発すべきものは、「読み物」や「映像」のようなコンテンツばかりではない。Webサービス開発やリアルなビジネス開発も含まれる。
ただでさえ、「広告クリエイティブ」しかやってきていないので、「情報クリエイティブ」や「ブランデッド・コンテンツ」開発が簡単でないのに、「ユーザーサービス開発」や「事業開発」までが領域となると、これは「広告会社」がマーケティングコミュニケーション開発のメインな担い手ではなくなる。

新しいマーケティングコミュニケーション開発の視座2.jpg

こうした外部環境認識に立って、既存事業の再編や新たな事業モデル開発ができるかどうかが今の広告会社の経営トップの責務である。

この人たちには、バブル期の成功体験はむしろない方がいい。

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