コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百参十壱
はねるのトびらでの衝撃
フジテレビの人気バラエティ番組「はねるのトびら」のコーナー「短縮鉄道の夜」は、「アケオメ」「ドクモ」「マンキツ」と短縮される若者言葉の正式名称を答える人気コーナーです。なお、それぞれの正解は「明けましておめでとう」「読者モデル」「マンガ喫茶」です。回を重ねるごとにネタが尽きたのか、若者言葉から遠ざかり「DVD」が出題されるに至っては「若者言葉じゃないじゃん」とテレビに突っ込みをいれ楽しんでいます。
このコーナーで「PV」とでました。私の口をついてでたのはホームページの閲覧単位である「ページビュー」。ところが正解は「プロモーションビデオ」。故マイケルジャクソンさんが革命を起こしたミュージッククリップが世間一般的な「PV」です。そしてある朝、家電量販店のチラシに「ウイルス対策」とあり、何が掲載されているのかと目をやるとそこにあったのは「空気清浄機」でした。さらに「クッキー」という単語に過敏に反応し「業界脳」の切り替えができていないことを反省します。
お盆休み突入直前特別号。肩の力を抜いてお楽しみください。
新聞の無意識な誤読
家電量販店のAVコーナーで妻が「HDって何のこと?」と訊ねます。「ハードディスクだろ」と答えるも不正解。高解像度を意味する「High-Definition」のことで危うく妻の信用を損ねるところでした。ハードディスクは「HDD」で最後にドライブのDがつくとのことですが、ならば「DVD」にもドライブをつけて「DVDD」としなければと屁理屈を並べてその場を繕います。
パワーポイントを「PP」と略しているネット記事を発見しました。「パワポ」で十分かと思いつつも脳のテンポラリーファイルに書き込んでおくと、今度はスポーツ紙で「PP」を発見しました。どうしてここにパワーポイントが登場するのかと読み進めると、何のことはないカーレースのF1の記事で「ポールポジション」のことでした。
次に一般紙で「スマートIC」という記述を見つけ、新しい集積回路がでたのかと見ればスマートインターチェンジ(高速道路の簡易型降り口)の説明です。さらに「直帰」という言葉に「1ページしか見ないで帰ってしまう訪問者」を真っ先に想像します。しかし、一般的に「直帰」とは、客先や出先から会社に戻らず帰宅することです。営業マン上がりの私が、「直帰」と申告して明るいときから飲みはじめたビールの旨さを……忘れていたのです。
燃え上がる世代故の
IT業界ではSVを(グーグル)ストリートビューとするのが定着しつつありますが、コンビニなどのフランチャイズチェーンでは「スーパーバイザー」を意味します。またCVSとはバージョン管理システム(Concurrent Versions System)ですが、小売り・物流業界ではコンビニエンスストアの略号として流通しています。
非IT系の方との会話では「Ruby」「Perl」、または「PHP」を使わずにプログラム言語と表現します。音にすれば「ルビー」「パール」で連想するのは宝石ですし、PHPから出版社を連想されると話が混乱します。同じく「Hub」も気をつけています。スイッチングハブに差し込まれた絡み合うケーブルをみて「蛇のようだからハブっていうの?」と由来を訪ねた人は実在します。
余談ですが、何度修正しても「誤読」してしまうのがマイクロソフトの略称「MS」です。新聞では「次期OSの開発が待たれるMS」などと使います。この「MS」を「モビルスーツ」と何度も読んでしまうのはガンプラ世代の宿業なのでしょうか。
マニアが首をひねっても商品として成立
私の名刺に「IT界の戸田奈津子になる」と入れているのは「超訳」を怖れずに「商品」を作る彼女へのリスペクトです。仮にIT界で100点の説明でも、非IT界の人間に何も伝わらなければ0点とし、学術上の見地から首をひねるとしても相手(客)が納得すればそちらが正解と考えます。私は学者や研究者ではなく商売人。IT系の略語のコンセンサスを測るツールが「新聞」です。
新聞不況が叫ばれていますが「社長」と呼ばれる人の購読率はまだ高く、紙面に頻繁に流通するようになれば「一般用語」と考えていいでしょう。それでも相手に通じなければこう補足します。
「先日の日経新聞でも紹介されていましたが
」
新聞の「ステータス」は経営者層には健在で、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」も使えます。
プログラマ時代の符丁
「業界用語」に敏感に反応するようになったのは20年前にさかのぼります。プログラマの新人研修にて「FD」を「エフデー」と発音しろと指導されました。同じく「T」は「テー」です。アルファベットの誤読防止のためだと説明されます。生意気盛りの私は反論します。
「じゃあデズニーランドっていうんですか?」
すると指導担当者はニッコリ笑っていいました。
「ご自由にどうぞ。指導しているのはオンタイム(仕事中)の話、オフタイム(プライベート)でミヤワキ君がどんな言葉を使っても自由よ」
ガツンとやられたと同時にこれが「戸田奈津子」へのルーツとなります。業界用語は「素人さん」にひけらかすものではなく、使い分けするのが大人の所作だと。
HPといえば、いまはもうあれしか
それでも「PV」を間違えました。成長していない自分を反省します。
専門性に特化していけば略語と業界用語に染まるのは仕方がありませんし、技術者や研究者ならそれで結構です。しかし、「Web担当者」には外部との調整能力も求められ、同時に社会やトレンドをサイトに活かすためにアンテナを張る情報収集能力も欠かせません。「PV」と見てページビューと読み下したらお盆休みにリフレッシュをお勧めします。DVといえば昔はデジタルビデオでしたが、今では「ドメスティックバイオレンス」です。言葉はつねに変化しており「休暇」は外界(業界外)の言葉と触れるチャンスです。
そして今、「HP」といえば何でしょう。私が思うに「ヒットポイント」。5年ぶりにドラクエの新作がでましたので。
♪今回のポイント
特殊な世界の特殊な略語。
略語に染まりすぎている自分をリセット。
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