データ活用革命のヒント

生成AIは「使うだけ」から「成果を出す」フェーズへ:マーケターが知るべきROIの考え方

インティメート・マージャー簗島亮次氏が、生成AIマーケティングでROIを最大化するためのモデル選びと運用設計のポイントを解説する。

簗島亮次

7月21日 7:05

生成AIをマーケティング業務に取り入れる企業は、この1〜2年で一気に増えました。ただし、コスト構造をよく見ると注意が必要な点があります。

AI生成コンテンツは単価では人の手による制作より安価な一方、実際に業務で使えるレベルに仕上げるまでのファクトチェック・トーン調整・ブランド固有の知見の追加といった人によるレビュー工数は、見落とされがちなコストです。

たとえば、Sight AI「AI Content Generation Pricing」という記事によると、AIを使った場合でも1記事あたり30〜60分の編集工数が発生し、月間本数によっては数万円単位の隠れコストになり得ると指摘されています。この工数を見込まずに「AIは安い」と判断してしまうと、想定よりコストが膨らむケースが出てきます。

生成AIを「導入すること」自体はもう差別化にならず、どう使えばコストが成果を上回らずに済むかが成否を分ける――これが、生成AI活用における「新しい現実」です。

本記事では、この連載の最終回として、マーケティング担当者がAI活用のROIを考えるうえでの実務的な視点を整理します。

なぜ「とりあえず使う」だけではROIが出ないのか?

原因は大きく2つに整理できます。

①モデルとタスクのミスマッチ

生成AIのモデルには、性能・得意領域・コストの異なるものが複数存在します。すべての業務に一律で最上位モデルを当てはめると、業務の難易度に対してコストが過剰になり、費用対効果が悪化します。

②活用が一部の担当者に閉じている

AIに詳しい特定の担当者だけが使っている状態では、組織全体の生産性向上にはつながりません。属人化した活用から抜け出せないことが、投資対効果を最大化するうえでのボトルネックになります。

モデル選びがROIを左右する

これを実現するのが、戦略的なモデル選択:業務とAIの最適マッピングという考え方です。業務内容に応じて最適なモデルを割り当てることで、コストと成果のバランスを崩さずに運用できます。

  • 高付加価値タスク:専門性の高い判断や独自のクリエイティブが求められる業務。コストをかけてでも質を担保できる高性能モデルを充てるのが合理的
  • 量産タスク:バナー広告のバリエーション作成など、一定の質を保ちながら「数」を出すことが優先される業務。スピードとコストを両立できる軽量モデルを充てることで、全体の効率が上がる

どの業務のどの工程にAIを介在させるかを事前に定義し、タスクの性質に合ったモデルを選ぶこと。この一手間が、コストと成果の分かれ目になります。

現場での実践例:バナー制作の効率化

日常的なマーケティング実務でこの使い分けが効果を発揮しやすいのが、バナー制作です。

活用のポイントは、AIにゼロから丸投げすることではありません。人が意図した「核となる1案」を保ったまま、AIにバリエーション展開を任せるという考え方です。

軸となるクリエイティブを1つだけ、人がしっかり作り込み、そこからのサイズ違い・訴求違いのバリエーション出しをAIに任せることで、制作工数を抑えながらA/Bテストの検証データの分母を確保できます。

人の役割は「操作」ではなく「品質保証」

AIを業務に組み込んで持続的に成果を出すには、技術面だけでなく運用体制の設計が欠かせません。

AIをただ操作するのではなく、どの工程で人が関与し、最終的なアウトプットの質を担保するかを決めておくこと。

AIの特性を理解した人が要所で品質をチェックする体制があってはじめて、AIの生成物は「業務として使えるアウトプット」になります。この協調を前提としたワークフローの設計が、コストを成果が上回らないようにする最後の砦です。

まとめ:問われているのは「使い方の設計力」

これからのマーケティング担当者に求められるのは、「どのモデルを、どの業務に、どのワークフローで組み込むか」を設計する視点です。

ROIを常に意識しながらモデルを使い分け、人とAIの役割分担を運用に落とし込む。それができて初めて、生成AIは単なる目新しいツールから、成果を生み出す実務的な武器になります。

最後に:最強のエンジン(AI)に最高の燃料(データ)を

連載を始めた頃と比べても、この期間でAIは目覚ましい進化を遂げ、生成AIからAIエージェントへと、ビジネスの現場における活用のあり方も大きく変わりました。今後はさらにAIの活用の主役がデータの質になる世の中になると考えています。

AIが進化するほど、企業が保有するデータをどのように整備し、活用し、価値へとつなげていくかが、これまで以上に重要になります。本連載が、皆さまのデータ活用やAI活用を考えるきっかけとなっていれば幸いです。

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