「子どもが熱中する謎のゲーム」の正体。大人が知らない「Roblox」に企業参入が相次ぐ理由
小学生を中心に爆発的人気を誇る「Roblox(ロブロックス)」。マインクラフトとの違いや子どもが熱狂するコミュニティの正体、企業参入が相次ぐマーケティング背景を解説。α世代にリーチするためのシビアな現実と成功戦略に迫る。
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小学生など若年層の間で爆発的な人気を誇るプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」。1億人以上のユーザーが毎日遊んでいるという。※1
世界中のユーザーが作成した数千万種類のゲームが集まるこの場所に、ホンダやタカラトミーをはじめとする多様な企業が相次いで参入し、新たなマーケティングの主戦場として熱い視線が注がれている。
子どもたちはなぜ熱狂するのか。そして、企業はなぜRobloxに次々と参入しているのか――。
『先読み!Roblox α世代にリーチするコミュニケーション戦略』(インプレス)の著者であり、GeekOut株式会社 取締役CPOの田中創一朗氏に取材し、「大人の知らないRoblox」の実態と、企業が若年層であるα世代にリーチするためのシビアな現実を聞いた。
Robloxは「ゲーム」ではなく「プラットフォーム」
大人から見れば、Robloxはグラフィックも粗く、一見すると何がおもしろいのか理解しがたい。「Minecraft(マインクラフト)」や「フォートナイト」といった人気ゲームと比較されることも多いが、田中氏は「決定的に違うポイントがある」と言う。
極端に言えば、Robloxの中で「フォートナイト」や「マインクラフト」のようなゲームを作れます。Robloxはたくさんのゲームで遊べる場所、つまりプラットフォームなのです(田中氏)
最大の魅力は、「コンテンツの豊富さ」とリアルタイムに他のプレイヤーと遊ぶことによる「偶然性」にある。常に新しいユーザー生成コンテンツ(UGC)のゲームが生み出され、「毎回ログインするたびに違う体験ができる。今日は何かおもしろいことが起きるかもしれないというワクワク感」が子どもたちを惹きつけている。
このゲームつまんないから、次のやつ行こうぜ
リビングからそんな子どもの声が聞こえてくる。彼らは音声通話で友だちとつながりながら、Robloxの世界を自由自在に渡り歩いている。一方で、必ずしも友だちと一緒に遊ぶ必要はない。仮に自分1人しかいなくても、「誰か来るかもしれない」という期待感がある。この独特なコミュニティ性も大きな特徴だ。
数千万という膨大なゲームが存在するこのプラットフォームでは、一つのゲームに執着する必要はない。おもしろくなければ一瞬で見切りをつけ、また別の新しいゲームへと移っていく。それは、大人が考えるような一つのゲームをコツコツ進める姿とはまるで違う。彼らにとってのRobloxは、次から次へと遊び場が見つかる無限の公園のような空間なのだ。
Robloxの「安全性」
子どもが知らない人と同じ空間で遊ぶとなれば、親として気になるのは安全性だ。
Discord(ディスコード)やYouTubeなど多くのサービスが若年層の利用を厳しく制限している中、Robloxは5歳以上という極めて低い年齢からアカウントを作成できる。※2
それほど対象年齢が低いからこそ、安全性対策には力を入れているという。年齢層に応じた制限が細かく設けられており、カメラを用いた年齢推定技術なども導入されている。具体的には、年齢が近いユーザー同士でしかチャットができない仕組みなど、既存のプレイヤーからの反発があっても「安全性最優先」でポリシーを運用しているのだ。※2
安全性に配慮されたプラットフォームではあるが、「ペアレンタルコントロールは設定したほうがいい」と田中氏はアドバイスする。
企業参入の背景にある「ターゲティング広告の限界」
この子どもたちが集まる巨大な遊び場に、企業がこぞって参入しているのはなぜか。Robloxのユーザーは約8割が24歳以下であり※3、13歳から17歳の利用者が最も多い。※1最大の目的は、この「若年層との接点作り」だ。
未成年に向けてターゲティング広告を打つことは難しく、彼らにリーチするためには、子どもがたくさんいるところでメッセージを出さざるを得ないのです(田中氏)
Robloxユーザーの1日の平均利用時間は平均2.6時間に及ぶというデータもある。※1その間、子どもたちはテレビもYouTubeも見ていない。未来の顧客にアプローチするためには、もはやRobloxを使わざるを得ない状況にきているのだ。
安易な参入は失敗する。ビジネスとしての厳しい現実
初期の企業参入では、「簡単にゲームが作れて何千万人も遊んでいる人がいるなら」と、自社で独自のゲームを一から開発するケースが多かった。しかし、田中氏は「作ったからといって人が来るとは限らない」と指摘する。
Robloxでヒットを生み出しているのは、寝る間も惜しんで制作に没頭する若き専業クリエイターたちだ。企業が安直に作ったゲームでは彼らに太刀打ちできず、結果的に誰も寄り付かずに維持を諦めてしまうケースが多発したのだ。
そこで現在の参入企業の主流は、ゼロからゲームを作るのではなく、すでに多数のユーザーを抱える「既存の人気ゲームとコラボする」戦略へとシフトしている。
たとえば、映画『ジュラシック・ワールド』のプロモーション※4では、独自のゲームを作るのではなく、Roblox内で人気の釣りゲーム『Fisch(フィッシュ)』(作:Fisching)などと期間限定でコラボレーションし、「恐竜が釣れる」など、ゲーム内で特別なコラボ体験を提供するイベントを実施した。このように、一筋縄ではいかないコミュニティの性質を理解し、すでに熱量のある場所にうまくブランドを溶け込ませることこそが、Roblox参入の最適解となりつつある。
企業がRobloxに参入するときの「NG行動」を聞いた。ユーザーの期待に沿わない明らかに違うものを作ると、大きな反発があるが、それ以外は意外にも「特にない」と田中氏は言う。Robloxのユーザーは、気に入らないコンテンツに対してわざわざ文句を言ったり、ヘイトを向けたりすることはほとんどないのだという。
大人の都合で作られたイケてない空間は、「ただただ無視される」――。
その最たる例が、企業や大人の「子どもに学ばせたい」という思惑が透けて見える「お勉強系」のコンテンツである。Roblox内で絶大な人気を誇る極地探索ゲーム『Expedition Antarctica (エクスペディション・アンタークティカ)』(作:Playduo Studios)をオマージュしたゲームを制作した企業があるが、ユーザーには全く見向きもされなかったという。
一方で、飛行機オタクが趣味を爆発させて作った、異常にリアルな飛行機運行シミュレーションゲーム『Project Flight (プロジェクト・フライト)』(作:Project Flight)などには多くの人が集まり、人気を博している。
Robloxにいるユーザーが求めているのは、企業側が知ってほしいことの押し付けではなく、「自分の好きなものをシェアしたい、楽しんでほしい」という純粋な熱量なのだ。自社の都合や思惑を押し付けるだけの企業は、文句すら言われず、巨大なプラットフォームの片隅で静かに無視されるわけだ。
未来の顧客と「深いエンゲージメント」を築くために
Roblox内では、一般的なウェブマーケティングと同様に、訪問数やインプレッション数、滞在時間といった基本的な指標を計測できる。さらにRobloxならではの特徴として、「実際にブランドとインタラクション(接触)した時間や人数」といった、より深さのあるエンゲージメントも計測可能だ。
また技術的には、RobloxのユーザーIDを企業のCRM(顧客管理システム)などと連携させることも可能だ。これにより、ゲーム内で特定の行動をしたユーザーが、実際に自社ECサイトで商品を購入したかどうかのデータを紐づけて検証することもできるという。
一方で、Robloxではすぐに直接的な購買行動(商品の購入など)に結びつくわけではない。そもそもユーザーが若年層であり、購買の決定権を持っていない場合も多い。
そんな状況にもかかわらず、参入企業が増加しつつある背景には、可処分所得の取り合いの激化がある。動画広告が1分見られれば成功とされるなか、Robloxのゲームは、1セッションは10分~15分にも及ぶ。これほど長くブランドに触れてもらえるメディアは他にないと田中氏は言う。
日本経済新聞社の記者が、スーツ姿のアバターをRoblox内で作成し、ゲーム内に設置されたこたつに座る形で、50人の子どもアバターに取材するイベントを行い人気を博した。※5
おもしろくなければ無視されるRobloxで、なぜ人気が得られたのだろうか。
実は、子どもたちはRobloxが大人に理解されていないとわかっているのです。でも、そこに大人が来て、アバターを通じて取材してもらえた、という体験が楽しかったんだと思います(田中氏)
今後のRoblox市場の変化
今後、Robloxの市場や企業のマーケティングはどのように変化していくのか。田中氏によれば、数年前までは半数以上が13歳未満だったユーザー層が年々上がり、現在では13歳以上が60%以上を占めるようになっているという。今後は購買力のある層がメインのプレイヤーになっていく可能性が高い。※1
年齢層が上がると、コンテンツも複雑化し、ユーザーの興味も分散していきます。かつてのように『クラス全員が同じゲームをやっている』という状況ではなくなり、みんなが自分の好きなゲームをやるようになる。人気ゲームの裾野がさらに広がっていくでしょう(田中氏)
そうなると変化を迫られるのが、企業のマーケティング手法だ。現在は一部の圧倒的な人気ゲームとコラボレーションする手法が主流だが、ユーザーの興味が分散すれば、自社に最適なコラボ先を探し出す労力やコストが割に合わなくなってくる。
その結果、今後はRobloxアプリのホーム画面などに配信される「動画広告」のような、よりシンプルでプラットフォーム全体にリーチできるメディアとしての使い方が増えていくと田中氏は予測する。Roblox側もそうした広告メニューの整備を始めているという。
プラットフォームが成熟し、広告のあり方が変わったとしても、「Roblox自体が広告の導入には非常に慎重」であると田中氏は語る。
これから参入する企業も、単に広告をばらまくのではなく「どうせだったらおもしろいことをしよう」というユーザーファーストの姿勢を持ち続けることが、この巨大なコミュニティに受け入れられる鍵となるだろう。
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