受賞企業が教える「セミナー作りのコツ」

AIに「上司の思考」を学習させてレビュー。Salesforce流・BtoBマーケのAI活用術【最優秀賞インタビュー】

Salesforceがセミナー最優秀賞を受賞。AIと共創するBtoBマーケの最前線をインタビュー。

深谷 歩[執筆], 小沢トモノリ[撮影]

7:05

AIに「上司の思考」を学習させてレビューを行い、資料作成にはNotebookLMを駆使する。BtoBマーケティングの最前線で、Salesforceが実践する驚きのAI活用術が明かされた。

Web担当者Forumでは、年4回実施するイベントにおいて、集客・聴講者からの満足度が高いスポンサー企業の講演を「スポンサー部門最優秀コンテンツ賞」として表彰している。2026年2月に開催された「デジタルマーケターズサミット 2026 Winter」でその栄冠に輝いたのは、株式会社セールスフォース・ジャパンの島田崇史氏と企画担当の坂本耀氏だ。

受賞を記念し島田氏と坂本氏にインタビュー。セミナー作りのコツやAIを活用したリード獲得から商談までのプロセスを聞いた。

株式会社セールスフォース・ジャパン 
製品事業統括部 Agentforce Marketing 統括本部長 
島田崇史氏
マーケティング統括本部 デマンドジェネレーション 
Agentforce Marketingキャンペーン 
坂本耀氏

講演のための資料作成は不要。話し慣れた説明資料を元に講演用にアレンジ

島田氏は、自律型AIエージェントプラットフォーム「Agentforce for Marketing」の事業責任者だ。約20年にわたりデータとAI領域に携わり、楽天やGoogle在籍時にはユーザーとしてベンダーを利用してきた経験もある。そうした知見を背景に、プロダクトへの理解の深さには自信があると語る。

坂本氏は、Agentforce for Marketingのデマンドジェネレーションを担当しており、自社または媒体のセミナー企画や広告、SNSなどデジタル流入全般のキャンペーンを担当している。

島田氏は、スポンサー部門最優秀コンテンツ賞受賞の知らせを聞いて「光栄に感じた」と顔をほころばせる。

今回の評価ポイントは、ユーザーが抱える課題の提示から始まり、原因分析、ソリューション、そしてSalesforceで実現できることまでの流れが、わかりやすく整理されていた点だ。なお、講演内容は島田氏自身が構成したという。

製品を売ることよりも、お客様がどうすれば成功するのかという視点で話しました。日々の業務では、現場担当者から役員、経営者まで、さまざまな立場の方と接する機会があります。そうした中で、日本企業が抱える課題を間近に見てきました。その課題に対して、日本よりも一歩先を行くグローバル企業がどのように解決しているのか、成功事例を交えて紹介しています。

講演資料は特別に作り込んだものではなく、普段お客様に説明する際に使っている資料をベースにアレンジしました。多くの方の反応をもとにブラッシュアップを重ね、今回の講演で最も良い形でお伝えできたと思います(島田氏)

もちろん、資料があれば誰でも島田氏のように説得力ある講演ができるわけではない。新人や若手の指導では、同じ資料でも時間に応じて柔軟に話せるように伝えているという。

同じ資料でも、話すペースや内容の深さは調整できます。短い時間であれば情報を絞り、重要なポイントにフォーカスしますし、時間に余裕があれば、どこに厚みを持たせるかを考えます。資料をどう伝えるかは、それぞれに解釈してもらっています(島田氏)

島田氏自身も、講演時間が限られている場合は短期的な成果にフォーカスし、講演時間が長い場合には長期的な視点まで含めて話すことが多いという。

なお、資料は複数のバリエーションを用意し、常にアップデートを重ねている。具体的には、対象や顧客のフェーズに応じて内容を切り分けており、BtoB向け/BtoC向けで分けた後、BtoBではリード獲得前後、BtoCでは購入前後といった段階ごとに構成を変えている。

 

AIを活用して、集客率の高いセミナータイトルを付ける

今回の講演は、満足度だけでなく集客数も良かった。その背景について、坂本氏は時間帯とタイトルの工夫を挙げる。

大規模なイベントの場合、集客しやすいのは基調講演の後とお昼時です。午後の遅い時間帯になるほど集客のハードルが上がるため、参加者が参加しやすい時間帯を選ぶようにしています。タイトルは私が担当しており、AIと対話しながら、その時ターゲットが気になっている情報を盛り込み、自分自身も聞きたいと思えるものに仕上げています。今回は「マーケターがいなくなる?」というコピーをフックにしました(坂本氏)

セミナーの中には、AIが生成したものをそのまま転用したような、違和感のあるタイトルを見かけることもあると坂本氏は指摘する。AIのアウトプットの質を高めるには、コツも必要だ。

全社的にAI活用の底上げとアウトプットの標準化を目的に、上司の思考やアウトプットを学習させた“上司レビュアー”のようなAIを構築しています。ただし、人間とAIでは感覚に差が生じることもあるため、AIの答えが妥当かどうかを判断できるだけの一次情報や知識が不可欠です。

さらに、メルマガの文面やイベントタイトル、企画の作成といった担当者のスキルに依存しがちな業務もSalesforceのマーケティング製品、Agentforce Marketingで平準化。過去の成功パターンや効果が出ている施策をAIに学習させることで、アセット生成から配信前の品質レビューまで一貫してAIが実行できます。

これにより、すべてのマーケターがトップクラスの品質をアウトプットできるようになり、作業時間を大幅に削減しながら戦略検討や施策の高度化に集中できます。
AIエージェントで進化するマーケティングの詳細はこちらです(坂本氏)

一方、島田氏は講演資料の制作に NotebookLMを取り入れているという。まず講演内容をすべて文章として書き起こし、AIを活用して雑誌に掲載できるレベルまで磨き上げる。その文章データをNotebookLMに取り込み、スライドの構成案やコピーを作成する。見せ方を変えた5パターンを生成し、そのまま使える場合もあれば、構図のみを参考にして自ら作り直すこともある。

 

媒体のイベントに協賛するかどうかは、複数の視点から判断

媒体との協賛セミナーと自社セミナーは、どのように使い分けているのだろうか。

協賛セミナーは、Salesforceと接点のない方や、まだ知らない方に向けて認知を広げることを目的としています。CRMの会社という印象を持たれている方も多いため、マーケティング領域にも取り組んでいることを知っていただきたいと考えています。

一方、自社セミナーは、すでにSalesforceをご存知の方や導入されている方が中心です。そのため、最新のトレンドや技術に加え、マーケティング担当者や役職者が知りたい事例、トレンド、他社の活用方法などをお伝えしています(坂本氏)

協賛時の選定基準として重視しているのは参加者だ。自社のハウスリストには含まれない顕在層と接点を持てるかどうかを軸に、複数の観点から評価している。参加者の質は、協賛の可否だけでなく講演テーマやタイトルにも影響するため、次のような項目をもとに慎重に判断しているという。

  • 媒体に掲載される記事などのコンテンツが、自社としてアプローチしたい層と一致しているか
  • 媒体が提供する参加者データ(BtoB/BtoCの割合、役職者の比率など)
  • 自社のハウスリストとの重複率が、あらかじめ設定した許容範囲内か
  • 過去に協賛した際の成果(リード獲得数、商談率、成約率、ROIなどの実績)

過去の実績については、媒体だけでなく、講演テーマや登壇者など複数の観点で数値を追跡し、判断基準としています(坂本氏)

(右から)終始にこやかに取材に応じてくれた坂本氏と島田氏。トロフィーを渡すWeb担当者Forum編集長の四谷志穂

Salesforce流、リード獲得後のナーチャリングから商談までのプロセス

登壇者の選定は坂本氏が担う。島田氏は営業経験が豊富で講演スキルも高く、安心して任せられる存在だという。一方で、社内のタレント育成の観点から他のメンバーに依頼することもある。

未経験の方には、上手な人の講演を見て、話し方や立ち振る舞いを学んでもらっています。まずは社内勉強会や収録型のウェビナーなど、やり直しが可能な場での登壇から挑戦してもらい、適性を見極めています(坂本氏)

セミナー後は各種指標を細かく追跡している。KPIはイベントやテーマによって異なるが、主に次の指標を重視している。

  • リード獲得単価(協賛費用に対するリード獲得件数)
  • 商談件数
  • 契約件数
  • アンケートの満足度
  • 集客件数
  • 獲得したリードの構成(役職者、大企業/中小企業の割合、ターゲットとの一致率など)

獲得したリードは、Salesforceのツールを活用してすべてCRMに登録される。担当者や部署が変わっても過去のやり取りが蓄積され、引き継がれていく仕組みだ。

まずはインサイドセールスにリードを引き渡し、フォローを行う。自社のマーケティング製品を活用し、メールアプローチやステップメールのシナリオを設定したうえでリードのスコアリングを実施し、商談につながる可能性を見極めた上で、スコアが高いリードへ担当者が架電する。

スコアが低いリードについては、AIでナーチャリングを自動化しています。Agentforce(SalesforceのAIエージェントプラットフォーム)が、参加したセミナーや閲覧ページなどのデータをもとにパーソナライズし、受信者の名前や最適なコンテンツを盛り込んだメールを作成・配信。さらにインサイドセールスエージェント「Piper」の登場で、Web上で音声・チャットやビデオによる自動接客から商談の予約、メール配信までできる仕組みも作られたことで、いよいよマーケティングと営業の自動化が実現しています(坂本氏)

なお、AIエージェントの活用がここまで進むまでには、約1年にわたりテストと調整を重ねてきたという。当初は少人数を対象にコンテンツを作成して検証を行い、徐々に対象を拡大。現在では、人間が作成したコンテンツとAIが生成したコンテンツの差はほとんどなく、マーケティングやインサイドセールスの現場で実用化されている。

24時間365日リードを見極め、育成し、商談へとつなげるPiperとは?

Salesforceでは、ID統合とコンテンツにタグ付けを行い、閲覧履歴からユーザーの関心を判定する仕組みを活用している。今後は、AIが判断に用いるデータソースをさらに拡充し、より精度の高いメール配信の実現を目指す。

さらに、人間が自然言語で指示するだけで、AIエージェントがメールの作成やシナリオ設定、配信まで担う仕組みのテストも進めている。ツール設定そのものをAIに任せられるようになれば、マーケターの業務は大きく変わりそうだ。

AIエージェントでマーケティングの業務を変革する方法はこちら

今回贈られたトロフィー

製品ではなくビジョンを描いて、価値を売る。Salesforceが目指す講演のあり方

自社セミナーのテーマや内容は、アプローチしたいターゲットから逆算して設計している。自社主催のウェビナーでは、1時間から1時間半程度が、飽きずに視聴できる目安だ。協賛セミナーの場合、セッション時間は、お昼から午後にかけての時間帯が参加しやすいという。

協賛セミナーと自社セミナーでは、参加しやすい時間帯が異なります。リアル開催の自社セミナーであれば、15時開始、17時終了にすると、その後直帰しやすくなります。懇親会を実施する場合は、お昼前の開始、もしくは17時〜18時終了を目安にしています(坂本氏)

また、1本あたりの講演時間が長い場合は、登壇者を2人に分けるなど、集中して聞ける構成にする工夫も行っている。操作を体験できるハンズオンセミナーでは、休憩を挟みながら2〜3時間で実施し、参加者が受け取れる情報量のキャパシティを見ながら調整しているという。

一方、島田氏はオンラインよりもオフラインのほうが、参加者の反応を把握しやすく、それに応じて内容をアレンジできるため、話しやすいと語る。

営業はビジョンセリング、つまり未来を売るものです。未来に何ができるのかを語ったうえで、現場の提案に着地させることを意識しています。セミナーで満足してもらうだけでなく、ビジョンを示すことでビジネスにつなげることにこだわっています(島田氏)

最後に今後の展望について、二人は次のように語った。

Salesforceはソフトウェアベンダーとして業務オペレーションや製品を売るのではなく、成功や価値を提供することを重視しています。もし私の講演でそれが十分に伝わっていないと感じられた場合は、ぜひ率直にご指摘ください(島田氏)

お客様が“おもしろい”“もっと聞きたい”と思える内容を届けていきたいと考えています。AIによってマーケターの働き方も変わっていく中で、お客様のビジネスの成功はもちろん、マーケター自身の成功も支援していきたいです(坂本氏)

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