AIがもたらす次世代のマーケター像を「創るマーケター」というワードで表現し、コンテンツもタイトル負けしない内容にできました。聴講者が知りたいAI活用の部分は具体的に示したので、参考にしてもらえたと思います
と話すのはBrazeのカスタマーサクセス部 部長 吉永氏。
Web担当者Forumでは、主催イベントにおいて集客数と聴講者満足度がともに高いスポンサー講演を、「スポンサー部門最優秀コンテンツ賞」として表彰している。2025年9月に開催されたセミナー「生成AI × マーケティング フォーラム 2025」で受賞したのはBraze株式会社。
受賞を記念して吉永氏に、満足度を高めるセミナー作りのコツを伺った。
外資系企業初の受賞。
リード獲得よりも市場への啓蒙を重視した企画に
今回で7社目の選出となる「スポンサー部門最優秀コンテンツ賞」を受賞したBraze株式会社。外資系企業としては本賞初の受賞となる。講演レポート記事は以下の通り。
同社では、顧客エンゲージメントプラットフォーム「Braze」を提供している。Brazeは、顧客に最適なタイミング、かつ適切なチャネルで自動的にメッセージを配信できる。AIをはじめとするテクノロジーを活用し、顧客行動に合わせたコンテキストで心地よいコミュニケーションを提供できる。
吉永氏は2021年の日本法人立ち上げから参画。当初はソリューションアーキテクトという技術職で入社し、その後グロースエンジニアへ転換し、マーケティングチームと共に日本市場の開拓を行ってきた。現在はカスタマーサクセスの責任者として、導入企業の伴走支援を統括している。
今回の受賞を聞いた吉永氏は「率直にうれしかった」と笑顔をみせる。
普段のセミナーはリード獲得が主目的となりますが、今回はマーケットを啓蒙することを主眼に置きました。わかりやすい定量指標がない分、成果が見えにくかったのですが、顧客満足度という形で評価いただけたことで、方向性は間違っていなかったと確信できました(吉永氏)
過去の受賞企業の傾向を見ると、満足度が高いセミナーは、製品やサービスに直結しない内容であっても、結果として商談につながりやすい。今回の反響はどうだったのだろうか。
インサイドセールスからは「新しい発見が多くて面白い内容だった」という好意的な反応が多かったと聞いています。また、先日開催したユーザー会では、私に直接「セミナー見ました、よかったです」と声をかけてくださる方もいました。
普段、顧客と向き合っているカスタマーサクセスチームのメンバーが、広く世の中に向けて発信することは、お客様からの信頼感を得るという意味でも好循環を生んでいると感じます(吉永氏)
企画時間はわずか30分。AIを活用し集客力のあるセミナーアイデアを作る
今回は、イベントのスポンサーとして登壇した。このような協賛型のセミナーの場合、企画をどのように考えていったのだろうか。
Slackでマーケティングチームから打診があり、目的を聞いたところ、「後日予定している自社イベントの前段コンテンツとして幅広くリーチしたい」という話がありました。そして、AIがマーケターの視界を広げることをテーマにして、Brazeの話は最小限で良いという条件のもと、企画案を練り始めました(吉永氏)
今回、吉永氏が内容を考えるに当たっては、AIをフル活用したという。まず、インプレスが提供したセミナー依頼の企画書と、吉永氏が考えたアイデア、マーケティングチームの意向をChatGPTに入力し、セミナーの構成案を出力させた。
AIへの前提情報が不足していると、ありきたりな章立てになってしまいます。そのため、
- このポイントを訴求したい
- Brazeの色を出しすぎないでほしい
と、自身の意図をフィードバックしながら、AIと壁打ちを繰り返して構成案を練り上げました。途中で「創るマーケターになる」というキーワードをタイトルに入れたいと伝え、タイトル案を出してもらいました(吉永氏)
それを初期アイデアとして、マーケティングチームにSlackで共有しOKをもらった。企画の打診を受けた後、約30分で構成案が確定した。以前であれば、初期アイデアを出すだけでも対面の打ち合わせを一度行い、1週間ほど考えていたので、驚くほどの効率化だ。
ただし、スライド化する段階では、吉永氏自身の手で構成案の順番の入れ替えや削除・追加などを行い調整をしている。スライド生成についても、実験的にGensparkを使った。Gensparkが生成したものを自分で修正して、中身を書き換えていったという。
スライド作成に要した期間は2週間ほどです。構成案作成までの時間を大幅に短縮できた分、コンテンツの質の向上に時間を充てることができました。新しいテーマに取り組む過程自体が楽しく、いろいろ工夫ができました(吉永氏)
最後にマーケティングチームに資料確認を依頼し、1回で承認を得られた。吉永氏はマーケティングチームとの関わりが長く、普段の発信内容や今回の狙い所がわかっていたこともあり、スムーズに進んだという。
聴講者が知りたいことを具体的に盛り込み、タイトル負けしない内容に
集客率と満足度が高かった理由として、吉永氏はタイトルと中身のバランスをあげる。
「AIがもたらす次世代のマーケター像を『創るマーケター』というワードで表現できましたし、見てみたいと思わせるタイトルになったのではないでしょうか。コンテンツもタイトル負けしない内容にできました。自社の話は抽象的に留め、聴講者が最も知りたいAI活用の部分は具体的にし、プロンプトの書き方まで示したので、参考にしてもらえたと思います。また、ご自身で試してみたくなるような「次の一歩」講演中に差し込んでいます」(吉永氏)
これまで吉永氏が登壇したセミナーで評価が高かったものも、トレンドを加味しながら少し先の未来を描くような内容だった。誰もが知りたいけれど、まだ詳しくは知らない領域を伝え、聴講者が能動的に試したくなる余地を残す。これが満足度向上につながっているのだ。「前の吉永さんの講演がおもしろかったから、今回も参加する」と言ってくれた方もいるという。
登壇を通して、自分のブランディングができるメリットも感じているので、マーケティングチームから依頼があれば、前のめりで受けています。頼んでくれてありがとう、という気持ちですし、聴講者を楽しませることも好きなんです(吉永氏)
吉永氏は、スライドには要点のメモのみを記載し、台本は作らない。準備は万全にした上で、40分間ほぼアドリブで語りかける。なお、オフラインイベントの場合は、一方的な講義にならないよう問いかけを交え、現地ならではのインタラクティブ性を意識しているという。
協賛セミナーと自社セミナーの違いは聴講者の前提知識。それぞれにに合わせた設計を
同社では、自社開催セミナーと協賛型セミナーで、明確にコンテンツを使い分けている。
自社セミナー
- 参加者:すでにBrazeを知っている人が中心
- 企画の目的:自社製品の具体的な機能やユースケース、成果事例など会社や製品を深く知ってもらうためコンテンツが中心
協賛型セミナー
- 参加者: Brazeを知らない人が中心
- 企画の目的: 認知獲得とリーチ拡大がメイン。製品の細かい機能説明をしても興味を持ってもらいにくいため、マーケットに響くテーマが中心
参加者の前提知識に合わせ、企画を考えるのが重要だと話す。
なお同社のセミナーのKPIの一つが認知度だ。定期的に認知度調査を行い、その改善率を計測している。また、施策ごとのリード獲得率、リードの案件化率、成約率についても検証している。
さらにマーケティング活動全体としては、以下の4つの指標をKPIとして、施策をバランスよく行うようにしている。
- 新規獲得リード
- MQL(MAツールのスコアによって確度が一定以上と判定したリード)
- アポイント獲得数
- 案件金額
今回の施策では、認知の獲得に重点を置き、その後のナーチャリング施策で獲得した新規リードに対して、フォローアップを行う設計となっている。
個人のブランディングを企業の資産へ。Brazeを誰もが知るブランドへ
最後に今後の展望についてうかがった。
会社としての登壇ではありますが、これを通じて「吉永」という個人を知っていただき、メディア側から対談などの企画をご提案いただけるようになれば理想的です。オーガニックで強力なマーケティングが可能になりますし、個人のプレゼンスを高めることで会社に貢献していきたいと考えています(吉永氏)
自分のブランディングだけでなく、Brazeのセミナーはおもしろいと評価されるようになれば、他のメンバーの登壇にも良い影響が出てくる。聴講者に「おもしろい」と思ってもらえる情報を発信し続けることが今後の目標だという。
いずれはBrazeの名前がマーケティング界隈だけではなく、他の分野の人でも「聞いたことがある」と言われるように、ブランド力を高めていきたいと吉永氏は力強く語った。
