【漫画】デジマはつらいよ

仮説・検証・分析なんて無駄。PDCAは質じゃない、数だ!/【漫画】デジマはつらいよ・第2話

マンガ新連載第2回! 伝説のマーケター虎から言われた、セオリー無視の指示に納得できなかったルリだが、意外な実行結果に唖然。

前回のあらすじ

伝説のマーケター・京極虎がアクセサリー販売会社にやってきた。さっそくデジタルシフト推進室のルリから「コンバージョン率を上げるには?」と聞かれた虎は、「サイコロで必ず1の目を出す方法」を考えるよう課題を出した。その真意とは?

ここから始まります

サイコロを1回だけ振って必ず1の目を出す方法ってなんだと思います?えなにそれ?そんなの無理に決まってるだろですよねところでルリ何をそんなに必死に仕事してんだ?京極さんに無理難題言われたんですよ
30分前――サイコロを1回振って1の目?ところでルリちゃんルリちゃん今回の企画で一番お客さんに伝えたい事って何なの?えっと…有名デザイナー八神光一さんがデザインしたアクセが千円で買えちゃうってことですかね…あと送料無料もありますそれに使っている石もすごく特徴的なんですよ質の高い石を独自のルートで仕入れてますからふーんで一番伝えたいのは?!えっとやっぱり八神光一さんのデザインかなじゃ八神光一さんデザインに的を絞って今から10パターンくらい訴求メッセージ出してえっ10パターンもですか今が13時だから…16時までにお願いたった3時間っ?18分に1つ考えればいけるよねアホですか!そんなの無理に決まってます!
ちゃんと仮説も考えなきゃいけないし分析もしないとっそんなこと考えなくていいよえお客様の気持ちになってまずは数だしてよよろぴくりんって言われたんですなんだそれこれまでは最低1週間かけてた仕事じゃないかそうなんですよとにかくやらないと…で…できましたまったく自信無いですけど…いーのいーのたしかうちってA/Bテストツール入ってたよねはい…ただあんまり使ったことないですよ…そうなの?まーいいやじゃあ…10個のうち使えそうなのは…この5つの訴求メッセージを今のデザインのままでいいんで八神光一さんの写真の横に画像で貼ってくれる?デザイン変わんないから5パターン分1日でできるっしょ
5パターン連続でA/BテストするからURLは変えといてねはいとりあえず3日ごとにA/Bテストの対象切り替えちゃおえ!3日に1回ですか!5パターンだから15日でとりあえずやってみようちょっと待ってくださいそれだと結果の検証も分析も間に合いませんそんなの後でいいよとりあえず制作に依頼して回しといてわ…わかりましたなにこれ…めちゃくちゃじゃない…15日後そろそろ結果出たよね?どうだった?何も変えていないコントロールページは相変わらずCVR0.5%で推移してますが…テストした5つのうち3つがCVRで上回って特にパターンDは1.0%…とても好調ですお!結果が出たのあったんだ
でもDが良かった理由がわからないんですが…理由?それはおいおい考えていこうよけ…けど検証しないといいからいいからじゃあ次は送料無料の訴求メッセージをまた10個出してみよっか締切はまた3時間後ね3時間後――できました…早かったねじゃあ勝ちパターンのDパターンを正式版としてまた5つ試してみてあの…今度はもっとちゃんと検証してやりたいんですが…いーのいーのとにかく回してできません
こんな当てずっぽう続けて何の意味があるんですか?もっと検証を重ねて戦略的にやるべきですよ…ルリちゃんこの前のサイコロのクイズ覚えてる?え必ず1回で1を出す方法ですか?そうそうあの答えなんだけどそんな話はあとで――たくさんのサイコロを一度に振る
そうすれば1個ぐらいは1が出るだろここんなのズルいですっ!え?そう?けど店頭のPOPをちょこちょこ書き換えてみたり商品の位置を微妙に変更してみたり何度も細かいトライアルを繰り返すでしょそれは店舗での話で…デジタルマーケティングも一緒だからお客さんがどう動くのかなんて超スゴ腕のマーケターだって正確に予測なんてできないよ仮説の検証なんて時間の無駄だとにかくサイコロを振りまくって1を出すようにトライ・アンド・エラーを重ねる
つまりPDCAはね質よりも数なんだよそれじゃあなぜお客様がそれぞれの勝ちパターンを選択したのか考察しようか?えA/Bテストの目的は「お客様を理解」することだろ数あるうちのテストプランの中でなぜ当たったかを考察しなきゃ次に活かせないからないいこと言ってるのに服を脱ぐな服を!

次回に続く

PDCAは質より量

こんにちは、「デジマはつらいよ」原案・監修を担当している中澤伸也です。

第1話、第2話では、PDCAはその「質」よりも「量」が重要であるとのメッセージをお伝えしました。

漫画ということもあり、刺激的なタイトルや描き方に、やや誤解を招く表現もあったかと思うのですが、「仮説・検証は無駄」という描き方をしたのは、もちろんそれ自体が無駄ということではありません。「仮説や検証に時間をかけすぎることが無駄」という意味です。より正確に言うなら、PDCAを回していくためには、いかに「仮説」を短時間に大量に産み出すかが重要であり、検証をいかに効率よく行うかが重要という意味合いになります。

A/Bテストは仮説そのもの

そもそも、PDCAで多用される「A/Bテスト」とは、「ユーザーがどちらを望むのかわからないので、直接ユーザーに問うてみる」ということであり、それ自体がもっとも正確な「ユーザーアンケート」であるとも言えます。ユーザーアンケートにおいて、いちばん難しく、時間がかかるのが「設問」の設計です。すなわち、「A/Bテストを実施するために、AとBを何にするかを設計する」ということ自体が「仮説」そのものなのです。

お恥ずかしい話、私自体デジタルマーケティングに10年以上携わっているものの、いまだに「顧客が本当は何を求めているのか、どうしたいのか」を正確に導出することはできておりません。自分としては渾身のプランを立てたつもりでA/Bテストを行っても「え? ユーザーはこっちを選ぶの? なんで?」といったことが、それこそ毎日のように発生しています。私自身の能力の低さがあるのかもしれませんが、日々、ユーザーに新しいことを気づかされ続けているというのが実情です。

PDCAの目的は顧客の理解

ときどき、PDCAの目的を「自身の仮説が正しいかどうか検証する」というふうに置いているケースを見かけます。私自身は「仮説の検証を通して、顧客の理解を深める機会をいただく」というふうに、目的を「仮説の検証」でなく、「顧客の理解」に軸足を置くべきだと考えています。我々は思っている以上に顧客のことを理解できていません。この事実を謙虚に受け止め、「自分たちが常識と考えていること、当たり前の前提として考えていること」を、つねに一度取り払って考えるよう努力し続けることが、マーケターにとって重要なスタンスではないでしょうか?

PDCAの量に集中することで得られるもの

今回の漫画でも強調したように、PDCAにおいて、あえて仮説の「量」をたくさん出すことに集中すると、思い込みによって切り捨てられていたかもしれない仮説を検証する機会が生まれます。それにより普段は気づかなかった前提条件や思い込みを捨てることが可能になり、思ってもいないような結果や気づきが得られていく。意外な結果が出れば、なぜそうなったのかを、分析ではなく顧客の視点に立って「考察」する。その上で、新たな仮説を生み出し、また検証していく。この繰り返しで、少しずつ、しかし着実に顧客の理解を深めていく。そのためには、「質」ではなく、あえて「量」を意識して、PDCAに取り組んで行くことが大事ではないかと考えています。

PDCAを大量に高速に回していくためには、それを行いやすくする「環境投資」が極めて重要です。環境を整備してあげなければ、現場は急速に疲弊していきます。これを整備するのは課長・部長といった予算権限を持つ上長の責任です。OptimizelyといったA/Bテストツール、Kaizen Platform、KARTEのようなWeb接客ツール、いずれもPDCAの高速化に非常に有効な環境を提供します。ぜひ、上長の方々には、現場でPDCAを回すための負担が軽くなるような環境を、ご自身の事業や組織状況に合わせて構築されることをおすすめいたします。

次回に続く

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