注目を集める生成AI(人工知能)の「ChatGPT」。気軽に利用できるAIの登場に、利用者は急増し、官公庁や大企業でも導入が進むなど話題沸騰中です。メルマガ、商品説明など文章作成が必要なECサイト担当者のなかには利用してみたい方も多いのではないでしょうか。一方で、セキュリティへの懸念や「間違った回答なので使えない」と疑問視する声もあります。そこで、EC担当者の方々に、ChatGPTの概要や仕組みをわかりやすく解説します。
話題の「ChatGPT」とは
OpenAI社が開発したAIサービス。対話型で誰もが簡単に利用できるため、急速に利用者を伸ばしています。OpenAI社は、テスラで有名なイーロン・マスク氏や現CEOのサム・アルトマン氏らが2015年にAIの開発を目的として設立した組織です。
AIの開発は大きな投資が必要で、かつ「将来、AIが人間を支配してしまうのでは」といった倫理的な問題が絡むため、大企業にAI技術を独占されることのないようにオープンな非営利組織として誕生しました。
日本でその名が広く知れ渡るようになったのは2022年11月。対話型AIのChatGPTの公開です。1週間で100万ユーザ、2か月で1億ユーザに到達。世界最速で1億ユーザを獲得したサービスとも言われています。
- ChatGPT……2か月(2023年1月)
- TikTok……9か月(2017年6月)
- Instagram……2年4か月(2013年2月)
- Facebook……4年6か月(2008年8月)
- Twitter……5年5か月(2011年8月)
短期間にこれだけのユーザを獲得できたのは、その性能の高さと使いやすさ。一度でもChatGPTを触ったことのある方は、これまで私たちがECサイトで触れてきたチャットボットと比べると、まるで人間と自然な会話をしているような感覚に驚いたことでしょう。
ChatGPTがEC担当者にもたらしたインパクトと活用例
EC向け活用例① 非エンジニアでもプログラミングができる
ChatGPTは、言語の壁を越えます。多言語対応だけでなく、自然言語とプログラミング言語の壁も乗り越えてしまいました。つまり、自然言語でコンピュータに命令ができるのです。
しかも出力する言語も壁がありません。EC担当者のなかには、コーディングが苦手という方もいるでしょう。たとえば、「ECサイトのバナーを1列から2列にしたいのに見た目がよくない。頼りにしている制作会社は営業時間外……」といったシーン。そんな時は、ChatGPTに聞いてみましょう。日本語でお願いしても、HTMLやCSSなどの言語でちゃんと返してくれますよ。
筆者が実施した2つのバナーを並べるためのプロンプトとその出力例
ちょっとした作業効率化もお手のもの。著者は非エンジニアですが、Googleドライブに関する単純作業に飽き飽きし、日本語で指示をしたら、Google App Script(GAS)のコードが返ってきたことに驚きました。しかも、ちゃんと動作しますし、お願いすれば親切に解説文までつけてくれるのです。その結果、これまで20分かかっていた作業が、GASのボタン1つで完了し、驚愕しました。
EC担当者の皆さんは、ExcelやGoogleスプレッドシートを使った業務において、マクロやGASを活用することで日々の業務を効率化できるでしょう。
Googleドライブ関連の作業に関して、効率化するためのGASが出力された例
EC向け活用例② EC担当者の文書作成を圧倒的に楽にする
販売促進において言葉のコミュニケーションはつきもの。たとえば、新商品を1つ取り扱うことになれば、プレスリリース、ECサイト上のお知らせ、トップバナーのキャッチコピー、テキストの広告文、SNS投稿、メルマガ、商品ページの紹介文、パンフレット、チラシ――など文章作成の連続です。
また、各種ABテストを実施するのであれば、さまざまなパターンの文章を複数作成しなければなりません。「とても大変……」。今まではそうでしょう。しかし、ChatGPTは24時間、脳が疲れることなく、文章を捻り出してくれます。たとえば、メルマガのSubject作り。以下のようなプロンプトで、ChatGPTにSubject作りを依頼してみました。
筆者が実施したメルマガのSubject作成に関するプロンプト
筆者が実施したメルマガのSubject作成に関するプロンプトに関する出力例
気に入らないな!と思ったら、条件にあなたのノウハウを足していけばいいのです。「倒置法を使って」「数字!数字!数字は絶対使って!」「新発売は絶対入れて」何度お願いしても、文句ひとついわず、何案も作ってくれますよ!
EC向け活用例③ チャットボッとでWeb上の顧客体験を大きく変える
これまでのチャットボットでは、定型文を交えた購入前後のサポートが中心でした。一方、ChatGPTでは、商品提案を含めた接客ができるようになります。
皆さんもお客さまの立場で、店舗で店員さんと会話していたら「つい買ってしまった」という経験があるのではないでしょうか。
ChatGPTの登場で、消費者がチャットでAIの店舗スタッフと自然な会話をしながら商品を選ぶといった世界観が実現します。しかも、AIには感情がありません。クレームにも適切に消費者の感情に配慮した丁寧な対応ができ、多言語対応にも対応しています。海外の消費者にも、言語の壁を越え、スムーズな接客ができるようになるでしょう。
なお、ECサイトにChatGPTを実装するにはAPIを用いて、EC側のデータと連携し、学習やカスタマイズを行う必要があります。
「ChatGPT」の仕組み
ChatGPTが自然な会話だと感じるのは、技術に秘密があります。ChatGPTは、GPTというAIを使った言語処理のプログラムを使ったチャットサービスです。
ChatGptの仕組み
GPTは大規模言語モデル「LLM(Large Language Model)」の1つ。LLMは入力されたテキストから、最も確率が高いと推論される次の文字列を生成します。たとえば、「日本の首都は」の次にくる文章が「東京」なのか「法律で定められていない」なのかを推論して、文字列を生成します。よくChatGPTにおいて「具体的な指示が大事だ」と言われるのは、推論を重ねて1つの成果物を導く過程で、具体的な指示をしなければ推論が違った方向に行ってしまうからです。
また、GPTは"transformer" という仕組みを採用しています。transformerの特徴は、文章全体を同時に見ることができること。つまり、前後の文脈を判断できるため、矛盾のない自然な回答が返ってくるのです。さらに、対話型のChatGTPでは以下のような手順で学習し、自然な会話を実現しています。
Step1. 事前学習
インターネット上の膨大なテキストデータを用いて学習し、知識や文脈の基本的な理解を身につけます。これよって、さまざまなテーマ、言語、表現に対応できるようになります。
Step2. 微調整
チャットサービスとして、自然な会話になるよう、以下のようなステップで微調整を図っています。
ステップ① 教師あり学習
データを読み込んで学習する段階です。チャットボットの導入に関わったネットショップ担当者の方がおられたら、質問例と回答例を大量に作った経験はないでしょうか。それが教師あり学習です。また、ChatGPTはユーザーとAIの「会話」のサンプルも学習をさせています。これにより、会話特有の砕けた表現でも意味を理解できるのです。
ステップ② 報酬モデルの学習
人間が「良い回答」と「悪い回答」を評価し、スコアをつける方法を学ぶ段階です。ChatGPTは、人間が回答を評価し、真実性、無害性、有益性の観点から、どんな回答がスコアが良いのか、また悪いのかを学びます。
たとえば、武器の作り方といった倫理的な問題がある質問は、害があり有益性も低く悪い評価を与えられるため、回答がなされないのです。
なお、ChatGPTの画面には「いいね」ボタンがありますが、これは即座に評価として取り込まれるわけではなく、OpenAI社が今後の開発の参考情報として利用するために収集しています。
ステップ③ 強化学習
スコアが最大になるような回答を見つけて、それを覚え込むステップです。これにより、より、適切で人間が好む回答とは何かを学習し、回答として提供することができるようになります。
このように、ChatGPTは、前後の文脈を適切に判断し、人が好む回答とは何かを学習しているからこそ、会話をしているような「自然」な回答を生み出せるのです。
間違った利用をしていないか?「ChatGPT」には苦手なことも
一見、万能なAIにみえるChatGPTにも苦手な処理があります。最初にやってしまいがちなのが「自分の名前を検索する」「近所のお店を検索する」などの「検索」です。結果、落胆した経験はないでしょうか。だからChatGPTは使えない、と考えるのは軽率です。ChatGPTの得手・不得手を理解しましょう。
最新情報、固有名詞、ローカルな情報の検索
よくクローズアップされているのが間違ったことを自然に回答してしまう点です。GPT-4では「私の知識は2021年9月までの情報しか持っておらず、それ以降の情報は提供できない」と回答する修正が加えられています。
ChatPptが持つ知識量についての回答例
では、2021年8月以前の情報なら正しいのかといえばそうとも限りません。確率上、ありそうな回答を返すにすぎず、ネット上の膨大なデータから、正誤を判断するのが難しいのでしょう。以下はGPT-4を使った出力例です。2021年8月以前も目黒の次は、五反田、大崎、品川が正しい順序ですが、順序を間違えるだけでなく、同じ駅が2度出てくるなど間違った回答をしています。正確な情報をアウトプットする必要がある業務では、ファクトチェックが欠かせないのが実情です。
間違った回答例
複雑な計算
GPT-3.5は計算が苦手です。3桁の計算でも間違えることがあります。「順序立てて計算して」という指示を加えることで、多少正解率はアップしますが、やはり苦手なことがわかります。
GTP-4は高性能になったとはいえ、間違った回答をします。これは、先ほどの仕組みを読んだ方は納得いただける結果でしょう。
インターネット上の情報からは特定の計算結果の学習は困難です。また、LLMは生成される文章が正しいかどうかよりも、自然でスムーズな会話を重視します。このため、複雑な計算で誤った答えを返すことがあるのです。
なお、以下の例の回答は、(1)は「3」、(2)は「1,376」、(3)は「19,404」、(4)は「908,682,210」、(5)は「45,211,784」です。
GPT-3.5の計算その1、正答数は2/5
GTP 3.5の計算その2、正答数は3/5
GPT-4の計算、正答数は3/5
明確な答えのない問いへの回答
人の価値観や意見が分かれる問いへの回答も、ChatGPTは苦手としています。微調整の学習過程で、人が判断した良し悪しのスコアが分かれてしまうため、最適解の判断が難しいのです。
以下の例では、ギャグを生成してもらいましたが、面白さは主観であるため人の評価が分かれることの典型かもしれません。
また、日本の価値観や会話の学習が不足していることも一因でしょう。「日本語の例証は、多くても英語の10分の1程度」「ファインチューニング(微調整)もヨーロッパや英語にバイアスがかかっている」と2023年2月にOpenAI社の社員が述べています。
人の価値観や意見が分かれる問いへの回答例
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ここまでChatGPTの概要や仕組みを踏まえ、ChatGPTが苦手な処理を解説してきました。「ChatGPTって、何がすごいの?」と思っている方は、このような使い方をしていなかったでしょうか。次回「後編」では、いざChatGPTを使う際に、ChatGPTが得意とする処理、業務で使う際の留意点などを解説します。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:ECの現場で使える「ChatGPT」活用法。ネット通販担当者がビジネスシーンで利用するための基礎知識と事例を解説 | 中小企業診断士が解説する「ChatGPT」のECビジネス活用法
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