今回は、天然素材「カポック」を活用したサステナブルファッションブランド「KAPOK KNOT(カポックノット)」を運営するKAPOK JAPAN代表の深井喜翔さんへのインタビューです。
「KAPOK KNOT」はECに始まり、現在では渋谷・宮下パークにリアル店舗を構えるなど、どんどん注目を集めています。サステナブル以外の観点からも強みをもつ素材選びや販売戦略が成功し、順調にファンが拡大しているKAPOK JAPAN。同社ならではの取り組みを紹介します。
大量生産、大量廃棄が前提のアパレル業界に疑問。深井喜翔氏の人物像は?
みなさんは、「KAPOK KNOT」というファッションブランドをご存知でしょうか? 「カポック」とは、木の実由来の天然素材の名称で、現在「大量生産・大量廃棄」で環境への悪影響が懸念されているアパレル業界において、注目されている新素材を指します。
実は私(「ECタイムズ」編集長の“みなつ”氏)、深井さんのことは以前から存じ上げておりまして、「サステナブルブランド」という一見トレンドの波の中でポジションを確立していく手腕について、一度お話を伺いたいと常々思っておりました。
かくいう私も、洋服はもっぱらECで買う派の人間でして、「アパレルEC」の分野は日々無関心にはいられません!
今回は、深井さんが「カポック」にこめた思いをお聞かせいただきつつ、「KAPOK KNOT」躍進(やくしん)の秘密に迫っていきたいと思います!
KAPOK JAPAN株式会社 CEO 深井喜翔氏
1991年生まれ、大阪府吹田市出身。1日に10回以上「カポック」と発する自称カポック伝道師。2014年慶應義塾大学卒業後、ベンチャー不動産、大手繊維メーカーを経て、家業である創業75年のアパレルメーカー双葉商事に入社。
現在の大量生産、大量廃棄を前提としたアパレル業界に疑問を持っていたところ、2018年末、カポックと出会い運命を確信。「KAPOK KNOT」のブランド構想を始め、クラウドファンディングで新規事業を開始。
2020年には、「KAPOK KNOT」の運営を軸としたKAPOK JAPAN株式会社を設立。双葉商事の後継ぎおよび、スタートアップのKAPOK JAPAN、両社の経営に参画中。
サステナブルな新素材「カポック」をビジネスに
――まず、深井さんとカポックの出会いについて、ぜひ教えてください!
深井:大学時代から、持続可能性のあるビジネスに関心がありました。これからの社会、そのようなビジネスでないと続いていかないだろうな、と。
“遊休資産”と言われるような「社会で余っているけど、本当は誰かのためになるもの」を使ってビジネスを起こしていきたいという気持ちは、ずっとありました。
中途で旭化成に入社し、座学で「カポック」の存在を知りました。「これを使いビジネスを組み立てたい!」と思い立って動き始めたのが始まりです。
「カポック」は木の実のため、木を伐採する必要がないんです。インドネシアの自生植物から採れるため、少ない水で育ちますし、農薬はほとんど必要ありません。
「カポック」から作られた繊維は発熱するという特徴から、通常ダウンに使われるような水鳥の羽と同じ暖かさを発揮します。環境に優しい、サステナブルな素材で、ずっと考えていたビジネスのビジョンとマッチすると思いました。
軽くて暖かいからこそ売れる。ユーザーのメリットに焦点を当てた商材が成功のポイントに
――近年、環境に優しいテックファッションの波は来ていますよね。「キュプラ」(編注:天然素材を原料とする再生繊維のひとつ)や「サボテン」など、複数のサステナブルファッションの素材がある中で、なぜ「カポック」だったのでしょうか?
深井:「カポック」の機能性に引かれました。「カポック」は確かに環境に優しいのですが、それだけではないんです。
まず、「カポック」から作られる繊維は中が空洞になっているという特徴があります。そのため、非常に軽く、コットンの1/8の軽さと言われています。また、「カポック」は空気の層が湿気を吸って温かくなるという吸湿発熱という機能を持っています。「たった500gでダウンの暖かさ」を実現できるのはこのためです。
サステナブルブランドの多くがやりがちなミスとして、「地球に優しい」を消費者の購入動機として設定してしまうというものがあります。
実は消費者は「地球に優しい」だけの理由では購入しないんです。「機能性が高い」から購入の動機になるんですね。
ユーザーメリットを考えたプロダクトであること。ビジネスをしていく上で、これは見失ってはいけないポイントだと思います。
「カポック」の利点は地球環境にやさしいほか、軽くて暖かいこともあげられる
アパレルD2Cでポジションを確立した「KAPOK KNOT」躍進の秘密とは?
2022年はピッチコンテスト(編注:スタートアップなどの起業家を対象に、投資家などの審査員に対して自らの事業計画をプレゼンテーションするイベント)「KANSAI BUSINESS PLAN CONTEST produced by KFS」で優勝されるなど、アパレルD2Cという競合他社が多い世界でポジションを確立されている「KAPOK KNOT」。ここからは、そんな「KAPOK KNOT」が躍進している秘密に迫っていきたいと思います。
「KAPOK KNOT」は2022年のピッチコンテストで優勝した経緯をもつ
秘密① Web3の時代でも、「地道な努力が実を結ぶ」に変わりはない
――印象的だったのは、ブランド立ち上げ時のクラウドファンディングです。たくさんの応援コメントにあふれ、大成功のクラファンでしたね! 成功の秘訣は何だったのでしょうか?
深井:「ECタイムズ」というメディアの名前と逆行するようですが、「地道に足で稼いだ」ことが大きかったです。この時期は本当に、毎日スーツケースに「カポック」のダウンを入れて持ち歩くくらいでした。笑
会う人会う人にプレゼンをして、プロダクトにこめた想いを伝え続けましたね。
――スーツケースに……!? すごいですね。笑
深井:でも実際、ECでも「全てオンラインで」が絶対に正解ということはなくて、たまにはアナログだったり、地道だったり、そういう工夫や努力が実を結ぶことは往々にしてあるかと思います。
結果として思いを受け取ってくださった方々が多くクラウドファンディングで応援をしてくださったので、ブランドとしてスタートすることができましたね。
――Web3の時代に逆行するようですけど、割とアナログな「地道な努力」「プロダクトへの愛」これはやはり軽視できませんね。
応援コメントが多く寄せられているMAKUAKEのページ
秘密② ECからのスタートで「ブランディングに重きを」
――「KAPOK KNOT」は、初めはECショップからのスタートですよね。ECからスタートしたことによって、何かメリットなどはありましたか?
深井:店舗と比較して、ECは最初はやるべきことが明確で、比較的ローコストでスタートできるというメリットがあります。
そのおかげで、時間的余裕が生まれ、他のことに力を割けた。もっと言えば、「ブランディングに力を割けた」というのはありますね。乱立するブランドの中で自社のポジションを明確にするには、非常に重要なポイントですから。
ネットの世界だけにとどまらず、現代においてブランドは群雄割拠です。ECでは、消費者には「検索結果」という膨大な海の中から「KAPOK KNOT」というブランドを選んでもらわないといけない。
最初にECからスタートして、ブランディングを甘く見ずしっかり行ったのはよかったですね。
うちの場合は、昔からの友人に企業のCI(編注:コーポレートアイデンティティ。企業の存在価値や独自性を、体系だったイメージやデザインで発信することで、企業ブランドを社会に浸透させていくビジネス戦略)を仕事としている者がいまして、彼に知見を借りつつ取り組みましたね。
実は2022年は、女優の二階堂ふみさんとのコラボも実現しました。元々二階堂さんがスタイリストさんに「アニマルフリー」のオーダーを出されていて、その中でうちの「KAPOK KNOT」を知っていただいたという経緯です。
ECでブランディングに力を入れていなければ、二階堂さんの目に留まることはなかったと思うので、しっかりやってきて良かったな、と思いましたね。
「KAPOK KNOT」は女優の二階堂ふみさんとコラボレーションしたことも
秘密③あえて実店舗展開。オンラインでの信用獲得につなげるねらい
――「KAPOK KNOT」は2022年、渋谷・宮下パークにリアル店舗をオープンされましたよね! おめでとうございます!
深井:ありがとうございます!
――ECで展開していたところからの、リアル店舗への進出にはどのような意図があったのでしょうか?
深井:2022年のiOS14のアップデート以降、Web広告のパフォーマンスに懸念を感じていました。オンライン一本足打法では拡大しきらないかもな、と。オンライン・オフライン両輪で展開することで、より売り上げの拡大にコミットしていきたいというのが狙いです。
店頭顧客は約半数が購入
深井:店舗の方だと、購入率がかなり高いんです。店舗に来てくださった方のうち、約50%の方が購入されます。リアルにプロダクトに手を触れていただくということの重要性を感じますね。
一方、オンラインでは、やはりどうしても立地的に店舗にいけない方にリーチできます。オンライン・オフラインのシナジーとしては、「リアルな店舗がある」という信頼感がオンラインでの購入につながっているというのがありますね。
ECサイトと店舗の両輪で、両方のメリットをくみ取りつつ運営していくことに可能性を感じますね。
「KAPOK KNOT」はオンラインと実店舗それぞれの強みを実感している
ECの知見は「外から取り入れ、中に貯める」
―― 逆にECを進めていくにあたって、苦労した点はどんな点でしたか?
深井:これは途中で気づいたことなんですけど……。社内にECの担当者をおいて、外部からの知見をそこに貯める体制を作ることの重要性を感じます。うちもECについては初心者のところからスタートしたので、やはり外部の知見が必要だということでコンサルの方にお願いしたんですよね。
でもその時は、外部の知見を内部のものとするための体制が充分ではなかったんです。ノウハウはやはり全て素晴らしいものなので、社内でそれを吸収していく体制を作ることはECを伸ばす上で重要ですよね。
――「外部の人材(コンサルタント)を使うこと」を「内部に知見がたまらない」とイコールで捉え、「やはり正社員で採用すべきでは」という意見もあるかと思います。
深井:そういう意見もありますね。ただ、「外部の人材(コンサルタント)を使うこと」と「内部に知見がたまらない」はやはり必ずしもイコールではないですよね。内部だけで完結していては、内部にないものを取り入れることは難しいので。
ECは特有のノウハウがあると思いますので、その特有のものはちゃんと蓄積していくことがECの売上アップにつながりますよね。
自社のサステナブルブランド拡大を視野に
――「KAPOK KNOT」の躍進の秘密、たっぷりと聞かせていただきありがとうございました! ではここで、今後の「KAPOK KNOT」の展望についてもお聞かせください。
深井:僕たちがめざしているものとして、「サステナブルブランドのグラデーションを作る」というものがあります。
極端にユーザーメリットを放棄し「サステナブル」に振り切ったブランドでもなく、ビジネスとして「お金を稼ぐ」に振り切るものでもなく、「ユーザーメリットもある、けど持続可能性のあるブランド」に成長することをしてめざしています。
実は現在組織としても拡大期でして、こういうビジョンに共感してくださる方にたくさん来て欲しいですね! ゆくゆくは、KAPOK JAPANの中に、「KAPOK KNOT」以外にもさまざまなサステナブルブランドができる未来がやってくるとうれしいなと思います。
まだまだここからなので、これからも頑張っていきたいですね!
――深井さんの素敵な思い、アパレルECで成長する秘訣(ひけつ)、どれもとてもワクワクする内容でした。
深井:ありがとうございました!
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オリジナル記事:アパレルEC「カポックノット」が、サステナブル業界で地位を確立した3つの秘密を解説【深井代表インタビュー】 | 「ECタイムズ」ダイジェスト
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