【レポート】デジタルマーケターズサミット2025 Winter

マーケティングを活かすも殺すも、コンテンツ次第! 「あるある」から見る、顧客理解の本質

現場の「あるある」を通じて、コンテンツマーケティングの失敗を防ぐポイントと深い顧客理解に基づくコンテンツの全体設計のポイントを、Content Marketing Academyの村上氏、ユウト氏とコピーライターの近藤氏が解説。

マーケティングで成果を上げるには、深い顧客理解に基づくコンテンツ制作が欠かせない。「デジタルマーケターズサミット2025 Winter 」に、Content Marketing Academyの村上健太氏とユウトヤマモト氏が登壇。コピーライターの近藤智子氏とともに、現場で起こりがちな「あるある」や失敗例を交えつつ、成果を上げるコンテンツを作る全体設計のポイントを紹介した。

(左から)Content Marketing Academy 「CONTENT MARKETING DAY」プロデューサー 村上 健太 氏、Content Marketing Academy コンテンツ設計士 ユウト ヤマモト 氏、コピーライター 近藤 智子 氏

「コンテンツマーケで成果が出ていない」企業は約半数

Content Marketing Academy(コンテンツマーケティング・アカデミー、以下「CMA」)は、マーケティング担当者が学びを深め、実践的な知識とスキルを共有するビジネスアカデミーだ。業界最大規模のコミュニティイベント開催したり、マーケティングの実践支援を行ったりしている。

2024年にCMAが実施した調査によれば、55%の企業は「コンテンツマーケティングで成果が出ている」と感じているという。つまり、およそ半数は成果が出ない悩みを抱えている

企業Webプロモーションすごろく

上記の画像はユウト氏が作成したWebマーケティングにおける失敗事例を「すごろく」形式でまとめたものだ。Webマーケティングで成功するために、コンテンツを掲載したり、サイト改善を行ったりしながらゴールを目指す。

Webプロモーションでよくある失敗は、他社にも当てはまるありきたりなことを言って、結局ユーザーに何も伝わらないことです(ユウト氏)

コンテンツ飽和時代、コンテンツは空気のような存在に

ユウト氏は、失敗の背景をユーザー目線で次のように説明した。

ユーザーは毎日何時間もコンテンツを見ています。しかも、情報の多くは無料。もはや、ほとんどのコンテンツは「空気(あって当たり前)」なのです(ユウト氏)

そんな「コンテンツ飽和時代」の現在、一般的な情報はすぐに忘れられ、コンテンツの発信元も気にしておらず、その先の商談や問い合わせにつながりにくくなっている。その原因としてユウト氏は次の3つを挙げた。

  1. 施策ばかりで、中身のコンテンツが良くない
  2. 良いコンテンツに必要な顧客理解が浅い
  3. そもそも、相手に伝えたい「想い」や「思想」がない

原因① 施策に注力してしまい、中身のコンテンツが良くない

施策ばかりで、中身のコンテンツが良くない

1つめの原因として、施策ばかりに注力してしまい、中身のコンテンツが良くないことを挙げた。ありがちなケースとしては以下のようなものだ。

  • 当たり前すぎる商品紹介
    「この商品は省エネです」や「当社は地球と人の暮らしを守ります」といった一般的なコピーでは、誰にも刺さらない。

  • ありきたりな情報コンテンツ
    ネット上に大量にある一般的な情報を盛り込んだだけのコンテンツ。たとえば「Googleアナリティクスの初期設定の方法」など、作ることがダメというより、世の中にあるコンテンツを焼き増しして作るのがよくない。ユーザーが流入しても、その先の商談や問い合わせにはつながらない。

  • 商品特長を喋らせただけの角が取れたインタビュー記事
    インタビュー記事を作成する際に、社内の事情を考慮しすぎて、リアルな声を反映せず、無味乾燥な内容になっている。

原因② 良いコンテンツに必要な顧客理解が浅い

2つめは、良いコンテンツに必要な顧客理解が浅いことだ。「このコンテンツは誰のためのものか」が考えられていないと、ふわっとしたコンテンツになってしまう。

ユウト氏は、顧客理解の進め方を4つの段階に分けて解説していった。

顧客理解の4段階

顧客理解の4段階

〈第1段階〉属性理解
例)年齢や性別などのデモグラフィック情報。

〈第2段階〉詳細なプロフィール理解
例)営業部の部長で、どのようなメディアを利用しているのかといった情報。

〈第3段階〉ニーズ理解
例)売上の向上や人手不足の解消など、顧客が求めている情報。

〈第4段階〉コンテクスト理解
例)業務効率化を目指している顧客が過去にどのような課題に直面していたのかなどの文脈・背景の理解。

ターゲット設定を、顧客理解だと思っているケースも多い。ターゲット設定だけでは不十分で、もっと顧客を深く知らないと理解とは言えません(近藤氏)

原因③ そもそも、相手に伝えたい「想い」や「思想」がない

最後の3つめは、相手に伝えたい「想い」や「思想」がないことだ。「想い」や「思想」はどの企業にもあるが、施策立案の現場では、数字目標が優先され、本来伝えるべきことを顧客に伝えきれないことはよくある。

なぜ「想い」や「思想」がないとダメなのか?(ミニすごろく)

上記のスライドは、「なぜ、想いや理念がないとダメなのか」を①~⑥マスで記述し、ミニすごろく形式で表したものだ。

①目標数値を先行して中身を考え、人気のテーマを選ぶ ②数値が上がれば、中身は何でもよくなる ③結果、中身が薄くなり ④ユーザーの記憶にも残らない ⑤コンテンツから自社を想起できない ⑥数値を求めてテーマを決めたにもかかわらず、数値につながらない――ユウト氏はこの一連の流れを「コンテンツパラドクス」と呼ぶ。

では、失敗しないようにどのように対処していけばよいのだろうか。続いて、対処方法を解説していく。

良いマーケティングコンテンツ:
記憶に残り、自社の取り組みや姿勢が伝わるコンテンツ

目指すべき良いコンテンツとは、どのようなものだろうか? 先ほどの失敗の原因の裏返しが答えになるが、以下の両方が揃って初めて良いマーケティングコンテンツだという。

  • ターゲットの目に留まる・記憶に残る
  • 自社(商品)の取り組み・姿勢・立ち位置が伝わる
まず、目指すべき良いコンテンツとは?

良いコンテンツの事例として、村上氏が以下のコンテンツを紹介した。ぜひ参考にして欲しい。

「マーケティング・コミュニケーション5層」モデル

では、どのようにしたら良いコンテンツは作れるのか? 具体的な方法を村上氏が解説していった。

良いコンテンツを作るには、マーケティング・コミュニケーションの進め方を変えることが必要です。CMAでは、「マーケティング・コミュニケーションの5層」の下の層から順番に考えていきます(村上氏)

マーケティング・コミュニケーションの5層

この「マーケティング・コミュニケーションの5層」は、デジタル、動画、音声、紙媒体、どのメディアにも適用できる。5層目の施策化の詳解は今回のセッションでは省略し、階層1~4を解説する。

【階層1】自己理解のためのテクニック
~「プチ思想」と「マニアさん探し」~

1.自己理解「プチ思想」

1層の「自己理解」とは、自社や商品の魅力、目指す方向性、伝えたい理念を深く理解することだ。ここで重要なのは、「プチ思想」を作ることだと村上氏。「プチ思想」とは、企業理念や目的(いわゆるパーパスやミッション)を個人目線、日常目線に落とし込んだものだ。

多くの企業では「社会のため」「豊かな暮らしの実現のため」などの企業理念があります。これを「大思想」と呼ぶとしたら、それを日常目線に落とし込んだものを「プチ思想」と呼んでいます。

たとえば、理念を実現するためにどんな活動をしているのか、その活動を楽しんでいる様子などを洗い出します。こうした細かい部分を掘り下げることで、企業理念以上に魅力的なプチ思想が生まれることがあります(近藤氏)

近藤氏は「プチ思想」の好事例として、老舗の海苔メーカー「ニコニコのり」の社長挨拶を挙げた。

冒頭は、「世界中のお客様に『笑顔の食卓文化』をお届けする」という、いわゆる大義から始まっている。そのすぐ後に、「海苔の活用方法はまだまだ無限大」というユニークかつ具体的なメッセージが続き、文章の後半では、社長が熱く海苔の食べ方を語っている。

「プチ思想」の具体例:ニコニコのり

もう1つの自己理解のテクニックとして、「マニアさん探し」が紹介された。社内で特定の分野に情熱を注いでいる人を見つけ出し、その人の視点を活用する。

1.自己理解「マニアさん探し」

マーケターが自ら「プチ思想」を生み出すのが理想ですが、難しい場合は、情熱を持つ人に話を聞くのがおすすめ。たとえば、ある製品の検査にこだわりを持つ人や、特定の作業に誇りを持って取り組んでいる人など。そういったマニアさんの話を聞くだけで、会社の理念を体現した魅力的なコンテンツになり得ます(ユウト氏)

【階層2】顧客理解のテクニック
~「フィールドワーク」でお客様像を常にアップデート~

2.顧客理解「フィールドワーク」

2層は「顧客理解」だ。顧客のニーズや行動を観察し、対話を通じて深く理解することだ。ここでは「フィールドワーク」、つまり現場に足を運んで、直接観察や調査を行うことが重要だ。顧客に直接会ったり、売場を観察したりすることで、数値化できない感情や文化的背景から人の心を掴むヒントがある。これにより、机の前でデータを見るだけではわからない、最新のお客様像や市場のリアルを常にアップデートする。

フィールドワークでインサイトをつかむには高度なテクニックが必要……と思われるかもしれませんが、実は単純です。ただただ、話をしましょう、相手の話を真摯に聞きましょう(近藤氏)

フィールドワークで使えるテクニック「手段の巻」

フィールドワークで使えるテクニックが近藤氏から、手段と姿勢の観点で、3つずつ紹介された。

  1.  ユーザーインタビューや直接顧客に話を聞くのが最も効果的
    難しい場合はオンラインアンケートサービス(たとえば「ミルトーク」)や、SNSを活用するのも良い方法だという。SNSの活用は、単に検索やハッシュタグを追うのでなく、自分でアカウントを作り、特定のコミュニティ(たとえばミニマリストやソロキャンプなど)に参加し、その人たちが日々どのような発信しているかを体験することが重要だという。

  2. 謙虚になる
    普段自分が持っている主観を捨て、相手の考えや行動に自らを合わせることが大事だ。顧客になりきる、顧客を演じてみるイメージだ。自分がターゲットではないと思考を停止するのではなく、「自分がターゲットだったらどう感じるか」を想像する。

  3. 1人の意見(いわゆる「n1の意見」)に引っ張られすぎない
    良い意見を聞いたらすぐ飛びつくのではなく、他の意見も聞いてバランスを取ることを意識しよう。また、どのようにインタビューをしたらよいかを学ぶには、クレイトン・M・クリステンセンの『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン:2017年刊)という本がおすすめだと近藤氏は紹介した。

ここまでの話で「顧客理解」の本質をまとめると、表面的なデータに基づいた都合の良い顧客像ではなく、その奥にある動機や価値観まで理解することが大切です。そして、「数値至上主義」「ペルソナ依存」に陥らず、顧客は常に合理的な判断をしているのではなく、感覚やバイアスで意思決定することもあることも含め、顧客を理解していきましょう(村上氏)

【階層3】戦略設計のテクニック
~複雑性を尊重した「ペルソナの物語化」~

3.戦略設計「ペルソナ物語化」

3層は「戦略設計」だ。ここでは、「戦略設計」で活用できるテクニック「ペルソナ物語化」を紹介する。カスタマージャーニーの作成は、すべての購買行動を洗い出す必要があり、手間がかかる。そこで、具体的な顧客像(ペルソナ)を設定して、その人の購買までの流れを物語にする方法がおすすめだ。

ペルソナ物語化

「オフィスにアート(絵画・ポスター)を設置する」を例に、村上氏が進め方の例を紹介した。 

  1. 箇条書きで整理する
    顧客の背景や行動を簡潔に書き出す。たとえば、「オフィスにアートを設置したい」と考える担当者の動機、初期の不安、比較検討の悩み、最終的な意思決定ポイントなどを箇条書きにする。この際、フィールドワークや顧客インタビューで得た情報があるとより良い。

  2.  物語として具体化する
    箇条書きをもとに、リアルなエピソードや会話、感情の起伏などを盛り込んでストーリー化する。たとえば、「朝起きた担当者がアート設置をどのように考えているか」「購入を決める際の心境」などを書くと、チーム内で共有しやすくなる。「この方法は楽しくなりすぎて、議論が逸れることがあるのが注意点」と近藤氏。あくまで仮説として作るものなので、固執しすぎないようにしよう。

物語化の利点は、お客様の背景や文脈(コンテクスト)を深く理解しやすくなることです。お客様は点として物事を考えるのではなく、これまでの経験や感情の積み重ねで意思決定をします。そのため、複雑さを排除せず、保持したまま考えることが重要です(ユウト氏)

【階層4】コンテンツのテクニック
~「常套句を禁止」して、言葉を見直し、魅力的な内容に~

4.コンテンツ「常套句禁止令」

4層は、「コンテンツ」だ。メッセージや細部を詰めて、実際のコンテンツを作成する段階だ。

たとえば「お客様の暮らしに寄り添う」「豊かで快適な」「上質な」といったフレーズ。これらは使いやすく、よく目にする表現だ。それだけに、インパクトが薄れている。こうしたありきたりな言葉を使うのをやめてみる。すなわち、「常套句禁止令」を発令しようという提案だ。

たとえば、「上質」という言葉は、ファストファッションから老舗シャツメーカーまで使える言葉だ。では、何をもって「上質」と言えるのか? その根拠や事実を洗い出してみる。こうした検討を重ねることで、曖昧な表現に頼らず、自社にとって説得力のある言葉が生まれるはず。

具体的には、「コンテンツプランニングの検討シート」を使って、考えてみるとよい。

コンテンツプランニングの基礎

一方的な売り込みではなく、顧客と共に価値を創り出す関係性を目指そう

マーケティング・コミュニケーションの本質について、村上氏はこう締めくくった。

マーケティング・コミュニケーションの本質は、良好な人間関係を築く営みです。そのためには、深い顧客理解と共感を生む物語が必要です。顧客理解が大切な理由は、お客様は商品そのものではなく、商品がもたらす未来や意味を購入しているから。商品の差別化が難しくなる中、顧客と共感を軸にした関係性を築き、一方的な売り込みではなく、顧客と共に価値を創り出す関係性を目指しましょう(村上氏)

最後に、CMAの活動予定として、以下が紹介された。

マーケティング・コミュニケーションやコンテンツ制作をさらに掘り下げたいと考えている人は、CMAの今後の活動にも注目してみよう。

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