花王がDX戦略推進センターを設置したのは2021年1月。それ以降、全社ブランドごとにECの実施によるDXを推進している。売上増とLTV(顧客生涯価値)の向上を両輪にEC売上の拡大を実現する計画だ。ECチャネルの売上拡大というミッションを担う生井秀一氏(コンシューマープロダクツ事業統括部門 DX戦略推進センター ECビジネス推進部長)に、ECビジネス推進部がめざすEC戦略の構想やこれまでの取り組みを聞いた。
急ピッチで進めたDXとECの強化
カテゴリー別にみると、化粧品市場のEC化率は約4割にのぼるのではないかと推測している。この化粧品のEC化率は、他のカテゴリー市場の中でも抜きん出て高い。化粧品の自社EC、D2Cの立ち上げおよび運用は、DX戦略推進センターを立ち上げた2021年から急ピッチで進めている。(生井氏)
コンシューマープロダクツ事業統括部門 DX戦略推進センター ECビジネス推進部長の生井秀一氏
DX戦略推進センター ECビジネス推進部には現在約70人ほどが所属しており、花王のEC全体を統括している。従前の組織体制での課題であった、ECの窓口がそれぞれの花王グループ関連会社や部門ごとに散在していた状態を解消。リソースを最大化し、知見やノウハウなどを一箇所に蓄積する為に、プラットフォーマー担当者や自社ECの担当者が一堂に集まって、さらに会社としてナレッジを高め、今後の戦略に活かしたいと考えている。
また、EC物流・決済といったフルフィルメント機能の担当者もECビジネス推進部に所属している。「ECに関わるメンバーが1つの部署で仕事をすることが新たな試みとなっている」(生井氏)
花王初のリテンションモデルに挑戦
ECは、売上シェアを重視するアクイジションモデルと、LTV向上を重視するリテンションモデルの両輪で推進している。
アクイジションモデルのKGI(目標の達成指標)は売上規模の大きさ。それを実現するために活用するのが、多くの顧客を抱えるECプラットフォーマーだ。生井氏は、「顧客による1回の購入で得られる売り上げを指す、いわゆる『ワンタイムバリュー』の最適化が、アクイジションモデルのKGI」と言う。
リテンションモデルは、ライフタイムバリュー(LTV、顧客生涯価値)の最大化が焦点。生井氏は「リテンションモデルでは、顧客との関係の長さと体験価値をどのように構築していくかが重要になる」と話す。
花王はこれまで、ECプラットフォーマーなどに出品する販売事業者を通じて販売するのがメインのEC活用法だった。そのため、リテンションモデルに挑戦するのは今回が初めてとなる。アクイジションモデルとリテンションモデルは別々のビジネスモデルとして運用し、生井氏が全体を統括している。
リテンションモデルのKGIはLTVの向上。その理由は、「顧客に長く愛されることでブランドとの絆が強くなる」と考えるためだ。EC化率の上昇や消費行動の変化などもあり、収益を見込めるビジネスになると見ている。
ECビジネス推進部としてのEC戦略
リテンションモデルの実現を担う自社ECの立ち上げはプレステージブランドの「est(エスト)」から開始。「est」は認知度が高いため、自社ECと店頭顧客の両方のお客さまがestブランドとの接点が多くなり、予想を上回る売り上げになっているという。
自社ECをユーザーと共創のメディアに
花王はブランドの自社ECサイトを共創メディアに育てていきたいという。この実現に向けて導入したのが、ビジュアルマーケティングプラットフォームvisumoの「visumo social」「visumo snap」「visumo video」だ。「visumo social」はInstagram上のUGCや公式投稿、アンバサダー投稿などを活用できるツール。「visumo snap」は、アンバサダーやスタッフが投稿できる専用ツールだ。「visumo video」は、ECサイトでの動画コマースを推進する機能を持つ。
花王は「KANEBO(カネボウ)」に「visumo snap」を導入、「KANEBO」コンサルタントによるレコメンド投稿の掲載などを行っている。このほか、化粧品ブランド「KATE(ケイト)」には、「visumo snap」「visumo social」「visumo video」を導入している。「visumo social」では公式投稿を掲載し、外部ECモールへの導線に活用しているという。
「KATE」での「visumo social」活用イメージ
生井氏は、visumoのビジュアルマーケティングプラットフォームの導入によって生まれるメリットを次のように話す。
従来はメーカー側が一方的に情報発信するものだったが、visumoのツール導入によって、ユーザーと双方向のコンテンツになった。リテンションモデルの形成に当たって、ブランドと顧客の深く長い関係性は欠かせない。双方向のコミュニケーションは重要だ。(生井氏)
KANEBOコンサルタントは顧客と双方向のコミュニケーションを図っている
ユーザーにとって、公式ECサイトだからこそ得られる信頼感は大きい。ツール活用によって第三者の声を入れることで、メーカーならではの安心感をさらに後押ししているのだ。
直近では自社EC「KANEBO Global」を開設。ブランドが選出した「KANEBOコンサルタント」がおすすめするコンテンツをUGCとして掲載している。「コンサルタント」として選ばれたスタッフによる使用感のレビューで、メーカーとして商品をおすすめするほか、スタッフが第三者の実体験としてレビューを発信することで、ユーザーの購入を後押ししている。
「KANEBO Global」では、KANEBOブランドの美容スタッフである「ブランドエバンジェリスト(BE)」が一推しする、ユーザー発信のレビューをUGCとして掲載している。また、BE自身も実体験としてレビューを発信することで、メーカーとしてもユーザーの購入を後押ししている。
UGCはすごく大事。これからの時代は、商品が気に入った人にシェアされてどんどん広まっていく。従来、コンテンツを作り出すのはメーカーからのプッシュ型だったが、これからはユーザーが作り出すコンテンツに置き換わっていくと思う。(生井氏)
「やらないリスクよりも、やるリスクをとる」
生井氏は消費者行動の変化を踏まえ、ツールはスピード感のある導入を重視している
visumoのツールはいずれも自社開発が不要で、花王はスピーディーに導入できたという。消費者行動の変化を踏まえたマーケティングを重視する生井氏にとって、スピード感のある導入は重要なポイントだ。生井氏は、いま流行しているサービスを迅速に取り入れて、「やらないリスクよりも、やるリスクをとる」という考えを持っている。
消費者は、より賢くなっている。メーカーから一方通行の情報を発信するだけでは、効果的なマーケティングは難しい。一方で、商品情報や、商品開発の裏話のように、メーカーだからこそ持ち得ているネタもある。消費者とメーカーをつなぎ、消費者と一緒に作り上げるメディアをめざしていく。(生井氏)
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:プラットフォーマーとの共創とリテンションモデルで 進める花王流のメーカーEC戦略
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.