EC業界の大きな課題の1つにあげられる人材獲得。企業が求める人材像を適切に求職者へ伝え、ほしい人材の獲得につなげるためにはどうすればいいのか。僕がEC責任者として採用広告に携わった経験から、ECマーケティングの知見を活用した「中小企業の人材採用」のヒントをお伝えします。
ECのクリエイティブ作りを採用広告にも応用する
たまたまこの記事にたどり着いた皆さんに聞きます。
御社の採用広告は誰が作っていますか? それをちゃんと把握していますか? 代理店に丸投げし、完成した原稿を毎回使い回ししていませんか? 会社の要望だけを記載し“誰でもいいから応募してください!”といった採用ハードルが低い募集要項を作ってはいませんか? 毎回「望んでいた人材ではない」という理由で採用を見送っていませんか? 離職率が高いと嘆いてはいませんか?
EC企業に勤めていたある時、部門ごと(EC部門、実店舗部門、管理部門など)に行っていた採用活動にある疑問を抱きました。
なぜ、EC部門には求めている人材が募集して来ないのか? 原稿の内容に問題があるのか?
そしてある時、採用広告を眺めているとあることに気がついたんです。「採用広告は準広告と一緒なのではないのか!」
そこで取りかかったのが、広告クリエイティブを作る際に心がけていることを採用広告や採用ページにも反映すること。また、応募者が「どんなことを考えて採用広告を見ているのか」「どんなところを見ているのか」「何を見て何を感じて応募のボタンを押したのか」を面接時に必ずヒアリングするようにしました。
意外なことに、採用側が気にしていなかった答えが返ってくるケースが多々ありました。ECサイトと同様に採用サイトでも離脱者をできるだけ下げるために何ができるのか……。こんな取り組みを積み重ねていった結果、劇的な変化が。
徐々に有能な応募者が増え、最終的には5年以上も広告などでお金をかけることなく、コーポレートサイトの採用募集で有用な人材を無料で獲得できるようになりました。適した人材を獲得できたため、離職率も激減。1年以上採用をしないという状況も発生しました。
採用広告は「ターゲットに刺さるキャッチ」「人の写真を入れる」「分析をする」
それでは、具体的に取り組んでいったことを、募集要項に焦点を当てて紹介します。
採用原稿は広告出稿と同様に3点に注力・制作しました。
- ① 採用したい人のペルソナを設定し、そのターゲットに刺さるキャッチやコメントを作る
- ② ロゴや商品は掲載せずにとにかく人の写真を入れる(上場企業や一般的に有名企業でないため)
- ③ 出稿後のPVからのCT、応募のCVRを意識し、出稿中・出稿後の広告原稿の分析をしっかり行う
① 採用したい人のペルソナ設定
採用の問題はどこにあるのか?そこを分析すると、採用原稿を意図して作り、それを踏まえて採用を行っていないことにあると仮説を立てました。
今の状況に、部門として「どんな人が必要なのか」「その人にはどんなことをして欲しいのか」「採用面ではどんなことが妥協できるのか」をまずは熟考。そして、そもそも「この原稿を見たら自分は応募する」という原稿を作るようにしました。
マーケティングも採用も同じで、明確なターゲットを決めなければ、対象者にメッセージなどは伝わりません。
特定の社内スタッフのような人材を求めれるのであれば、その人が応募したいと思ってくれるようなクリエイティブを作っていきましょう。
求めるスキルや人間像などのハードルは文章でコントロールしていきます。ハードルを上げすぎると対象者の応募ハードルが高くなってしまうので、社内のバックアップ体制やフォロー体制を文中に記載するなどしていきましょう。重要なことは、応募者をセグメントするのと同時に、応募ハードルを下げるといった文章のコントロールです。
Googleの検索結果、ECサイトでのキャッチコピー、コメントなどを確認して消費者はお店を訪れるのと同様、採用広告や原稿のキャッチコピーやコメントは、きちんとターゲットを設定することで、募集要項の対象になる閲覧者の確率を引き上げていきます。
また、競合他社の広告原稿がどんなキャッチやコメントを使っているのか、チェックすることも重要です。それを踏まえ、自社のどの広告原稿のクリック数が高かったのかといったことも研究するようにしましょう。この結果を踏まえ、キャッチコピーやコメントを変更していくことをお勧めします。
② とにかく人の写真を使う
クリックを促進したい場合、広告原稿の目立つスペースにロゴマークを入れますか? そのロゴマークを入れる理由は何ですか?
広告に記載された企業ロゴを見てテンションがアップする人はほとんどいないでしょう。また、採用原稿に記載されている商品を知っているから応募ボタンをクリックするということはほとんどないでしょう。なのに、企業の採用広告、特に人事が絡む採用広告はロゴや商品を目立つスペースに掲載したがることが多いのではないでしょうか。
採用原稿を見ている人は何が気になっているのでしょうか? 僕は「楽しく働きたい」「楽しい職場がいい」といったところに直結する「誰と働くか」だと考えています。“どこで働くか”だけを考えてる人は案外、長続きする確率は低いのではないでしょうか。
僕は「誰と働くか」を打ち出せるクリエイティブとして重要視したのが、とにかく人が映っている写真を使うことでした、オフィスの環境、誰と働くのかが一番気になる所だと考えたためです。
また、全体写真も掲載しますがそれは一部のみ。掲載した多くの写真は、スタッフの笑顔が映っているものでした。そのため、被写体全員が笑うまで何枚でも撮影。代理店の担当者が撮影に来た際、200〜300枚の写真は撮影していましたね。
全員が笑っているというのが非常に重要なポイントとなります。1人でも笑い方が不十分であったりタイミングが悪いと確実にクリック数は悪化します。
また、毎月撮影することもCTRを引き上げることの重要な要素です。同じ写真を使い続けていると服装と季節感が合わなくなってしまうからです。
EC責任者時代に行った僕の検証によると、写真を変えずに数か月使い回しているとクリック数は劇的に悪化していきました。しかし、写真を変えるとすぐにCTRは復活します。人ってすごく面白いですよね。何か察するところがあるのでしょう。
③ 出稿中・出稿後の原稿の分析をしっかり行う
代理店とはきちんとコミュニケーションを取っていきましょう。採用広告を展開している場合、
- 詳細ページへのクリック数(詳細ページはどれくらい閲覧されたのかの確認)
- コンバージョン(どれくらい応募があったのかの確認)
- 採用側と応募者とはどれくらいのギャップが発生しているのかの確認
代理店担当者や人事に問い合わせし、データを取り寄せて分析しましょう。気になる人はもっと突っ込んだ質問をしてもいいかもしれません。口頭で聞ける情報などもあるかもしれませんから。
これもECビジネスの「ECモールのECC(ECコンサルタント)は敵ではなく、協力関係者」と同様で、代理店担当者と仲良くなり、さまざまな情報(もちろん公開いただける範囲内の情報)を提供してもらいましょう。そして分析します。
応募者と求めている人材の隔たり、スキル不足などがあれば原稿の見直しが重要になります。また、応募者が少ないケースは、応募ハードルが高いことが要因かもしれませんので、分析できる数値を見ながら調整していきましょう。
◇◇◇
ECビジネスに関わっている人であれば、ここまでの解説を見て、「そりゃそうだ!」と思われるでしょう。しかし、採用面になると、ECのノウハウをちゃんと生かしていないことが多いんですよね。
ちなみに、リクルートの担当者に聞いたお話ですが、ほとんどの中小企業は採用原稿を出稿すると、その後ほとんど「原稿」「キャッチコピー」「コメント」「写真」などを手入れしないそうです。そして、商品写真やロゴマークは入れたがるとのこと。大手企業でもこうした傾向は少なくないようで、同じようなことをしている採用担当者が多いようですね。
小売全体に言えることですが、ECスキルを持った経験者の採用はハードルが上がっています。自社に適した人材を獲得するには、募集セグメントを切り、応募者は自社が求めている人材に合っているのか? こんな人に来て欲しいというペルソナに対して採用原稿が適しているのか? などを考えていくと、会社の採用方法が変わっていくかもしれません。気になったらぜひ自社の採用要項を見てみてください。そして、ECのノウハウを活用していきましょう。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:ECの知見を求人募集に活用したら、広告費をかけずに良い人材を獲得&離職率の減少を実現した経験談 | EC責任者になるための仕事術
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.