Amazon(アマゾン)にお客も売り上げも奪われていく中、ネット通販事業者などの小売事業者はより効率的に消費者の関心を惹き、リピート客になってもらうためのマーケティング施策などでしのぎを削っています。アマゾンの得意分野である価格競争力と利便性を最も重視する消費者が多い中、小売事業者は消費者に訪問してもらうため、あらゆる努力をしています。
米国でもリピート顧客のロイヤリティUP施策が進む
テレビ通販・オンラインショッピングのEvine Live社の取締役副社長兼CMOニコル・オストヤ氏によると、売り上げの50~75%はリピート顧客の購入が占めています。そして、リピート顧客は新規顧客よりも購買単価が高いそうです。
リピート顧客が会社にもたらす価値を鑑み、Evine Live社はさらに進化したリピート顧客用のロイヤリティプログラムを第3四半期(2017年8~10月期)にスタートする予定です。
新しいプログラムは、Evineブランドのクレジットカード所有者を対象にスタートします。オストヤ氏は詳細な数字は開示していませんが、対象者数は何百万人にものぼり、全顧客の数十%が対象になるそうです。
現在、Evine Live社のクレジットカードを保有する消費者は、特定日の配送料無料、特別割引サービスなどを受けることができます。新プログラムは、購入金額の高い優良顧客がより大きな割引率で買い物ができるなど、さらにサービスを充実するようです。
Evine Liveの自社クレジットカード使用者には、送料無料特典、年間を通じた特別割引などを提供してる(画像はEvine Live社のECサイトから編集部がキャプチャ)
オストヤ氏は自社のロイヤリティプログラムを、「飛行機に乗れば乗るほど、良い席を確保できる航空会社のマイレージプログラム」に例えます。新プログラムの導入によって、Evine社はクレジットカード保持者の割合を3~4%増やし、リピート顧客の増加につなげたいとしています。
InternetRetailer社(インターネットリテイラー社)発行の「Top500 Guide.com」によると、リピート顧客の割合において、Evine社は北米500社のEC業者の中で4位にランクインしています。第1位であるアマゾンのリピート顧客の割合は88%で、500社の平均は37%です。
割引に頼ったロイヤリティプログラムは「もろい」
Evine社など複数の小売事業者は、競合他社の中でも非常に効率的なロイヤリティプログラム「アマゾンプライム」を持つアマゾンに対抗しようとしています。
消費者はスマートフォン、Google(グーグル)、アマゾンを駆使して、欲しい商品を数分またはそれ以下の時間で探します。膨大な数の販売事業者をオンラインで見つける消費者は、自身が最も重視するポイントに基づいて購入する店舗を決めています。そのポイントとは、「価格」「利便性」「信頼度」「ロケーション」「サービス」などです。
インターネットリテイラー社は2016年12月、オンラインで買い物をする550人のアメリカ人(21歳以上)に調査を実施。どのような要素がロイヤリティを高めるのか、オンラインと店舗を融合するといった小売事業者の試みに対して消費者はどんな反応を示しているか調べました。調査の結果、消費者のオンラインおよび店舗での購買決定に関し、何が決め手になり、何が妨げになっているかが明らかになりました。
たとえば、インターネットで商品を探す際、アマゾン以外の特定小売事業者のECサイトを最初に訪れる消費者の割合はわずか3.9%。まずアマゾンで最初に商品を探す消費者は52.4%で、グーグルはアマゾンに次いで38.8%という結果でした。
InternetRetailer社の調査によるとAmazonのリピート顧客の割合は約9割(画像はAmazon社のサイトから編集部がキャプチャ)
インターネットの商品検索ではアマゾンとグーグルが優位に立っています。しかし、消費者はネット上でさまざまな販売サイトを行き来するため、ネット通販においてまだ絶対的な勝敗は決まっていません。最初に特定小売事業者のECサイトを訪問する消費者の内、65%が最終的にその事業者のWebサイトで購入すると答えています。まだ、巻き返しのチャンスがあるのです。
そんな中、小売事業者はECサイトの利便性をより高めたり、サービスの拡充を進めようとしています。利便性向上、充実したロイヤリティプログラム提供のほか、実店舗を持つ事業者では、店舗とオンラインのオペレーションを融合するオムニチャネルサービスの拡大など、オンライン限定の事業者には真似できない店舗内でのカスタマーエクスペリエンス向上などにも取り組んでいます。
こうした取り組みについて、何が消費者を惹きつけるのでしょうか? 回答者の内、84%が同じ小売事業者で頻繁に買い物をするロイヤリティの高い消費者であることが判明。オンラインで購入する際、店舗へのロイヤリティが高まるのは価格と答えた消費者の割合は85%、送料無料と答えた人は70%でした(複数回答可)。
実店舗に関しても、価格が重要と答えた人が最も多く79%。商品の良さが大切と答えたのは63%、自宅や職場に近いからと答えた人は61%でした。
実店舗はオンラインへの送客にも強みがあります。インターネットリテイラー社発行の「全米EC事業 トップ500社」内の企業平均値では、店舗を持つ小売事業者のリピート率が43%だったのに対し、オンラインのみの小売事業者は34%にとどまりました。
消費者の83%が小売事業者のロイヤリティプログラムに参加していると答える一方、プログラムによって実店舗への愛着が湧くと答えたのは25%、オンライン小売事業者に関しては18%にとどまりました。その理由は、ロイヤリティプログラムが当たり前になっているからかもしれません。「Top500 Guide.com」によると、「全米EC事業 トップ500社」にランクインしているオンライン小売事業者500社のうち、448社がロイヤリティプログラムを提供しているのです。
多くの小売事業者は、消費者との関係を築き、長期間にわたって良好な関係を保つためにはロイヤリティプログラムが有効だと考えています。ロイヤリティプログラムにはさまざまなパターンがあります。特別割引、メンバー限定の特典、購入に応じて貯めることができ次回以降の購入で使えるポイント制度――などが一般的です。
調査会社Forrester Research社によると、ロイヤリティプログラムに参加している消費者は、参加していない消費者よりも3か月間で平均42.33ドルも多く商品を購入しています。また、Accenture Interactive社の調査では、ロイヤリティプログラム会員の方が、非会員よりも12~18%多く販売事業者の売り上げに貢献するという結果が出ています。
Forrester Research社のシニアアナリスト、エミリー・コリンズ氏によると、ロイヤリティプログラムの提供は消費者の購入を促すきっかけにはなるものの、価格や利便性以外の訴求も必要だそうです。コリンズ氏は次のように説明します。
割引に頼ったロイヤリティプログラムで作られた消費者との関係はとても不安定なのです。小売事業者は、ブランドや品質に結び付くような多面的な関係性を消費者と築く必要があります。
消費者のロイヤリティを上げるには努力が必要
家電のネット販売を手がけるAbt Electronics社の共同代表ジョン・アブト氏は、「消費者のロイヤリティは努力して獲得していくものです。コツや秘訣(ひけつ)があるわけではありません」と話します。
アブト氏は1936年に創業し、1998年にオンラインショップをスタートしました。非上場のAbt Electronics社は、2015年に4億ドルをオンラインで売り上げ、イリノイ州のグレンビュー市で大型店舗も経営しています。Abt Electronics社に消費者が高いロイヤリティを示すのは、長期間にわたってカスタマーサービスに注力していることです。そして、熟練したスタッフがもたらす影響が大きいようです。
Abt Electronics社のECサイトには、「カスタマーサポートが最も重要な優先事項」(赤枠)と記載されている(画像はAbt Electronics社のECサイトから編集部がキャプチャ)
Target(ターゲット)は、オンラインショップや実店舗での再購入を促すさまざまな取り組みを展開しています。たとえば、1802店舗中80店舗をリノベーションし、オンラインで購入した商品を店舗の前でピックアップできるスペースを設置。店舗に入らずに商品を受け取ることができるようにすることで、消費者の利便性を高めています。
コンサルティング会社Retail Systems Research社の取締役ニッキー・ベイアード氏は、次のように解説します。
伝統的な小売事業者が“便利になり過ぎること”を恐れている中、ターゲットのこの取り組みはとても大胆なものと言えるでしょう。店舗は利便性を追求したデザインにはなっていません。より長く店舗内に滞在してもらうようにデザインされているのです。滞在時間が長ければ、より多く買い物をするわけですから。一方、アマゾンが証明したのは、消費者の利便性を高めれば高めるほど、より多くの人が商品を購入してくれるということです。伝統的な小売事業者は、利便性に対する偏見を克服する必要があるでしょう。
*今回は前編をご紹介しました。後編は3月16日に公開します。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:リピート客約9割のアマゾンに勝つロイヤリティ施策には何が必要? 米国ECの今に学ぶ | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.