広報・PR術入門/インタビュー

広報としての判断に正解はあるのか!? リモート会見をいち早く開催したローソン 楯さんの判断の裏付けは「学び」にあり

仕事と両立しながら、なぜ博士課程で学び続けているのか? ローソンの執行役員コミュニケーション本部長の楯美和子さんにお聞きした。
ビーコミ 加藤恭子さんが、活躍中の広報担当者にインタビューし、広報として役立つTipsを紹介する本連載。今回は緊急事態宣言が出された翌日の4月8日、オンライン会議形式でお話を伺った。

今回インタビューさせていただいたのは、ローソンの執行役員コミュニケーション本部長の楯美和子さん。ローソンの広報に入られてから大学院に行かれ、現在も博士課程で学ばれている。仕事と両立しながら、なぜ学び続けているのだろうか? コンビニというまさに消費者と向き合う企業で広報業務に就かれている楯さんに、「学びと広報業務」について、種々語っていただいた(4月8日、オンライン会議形式による)。

今回、インタビューから得た主な知見は、以下の通り。それぞれの項目については、記事後半のインタビューで詳しく紹介している。

インタビュア加藤さんによる本インタビューまとめとアドバイス
  1. 広報の力を大学院で高める
    複数の社会人向け大学院が開設されており、広報の専門大学院もある。大学院によっては土日だけ通えば良いところや、残業で遅刻しても講義内容を録画して提供しており、後日キャッチアップできるところもある。英語に抵抗がなければテンプル大学ジャパンキャンパスやオンラインで受講できる海外のMBAも選択肢に入るだろう。実務に加えて学問的な理論や経営の知識を身につけることで、個人の能力はさらにアップし、所属企業にも貢献できる。聞き手の加藤も社会人になってから青山学院大学大学院、東京経済大学大学院に在籍して、コミュニケーション学を学び、それらは現在の業務にも役立っていると感じている。

    社会人も通える都内大学院の例(実際に加藤の知っている広報担当が通っていた、または通っている大学を中心にあげた)

    大学院名特徴最寄駅学位
    青山ビジネススクールMBAが取得できる大学院。コーポーレートコミュニケーションの講義も受講できる。表参道経営管理修士、博士
    社会情報大学院大学日本で唯一、広報・情報専門の大学院。高田馬場広報・情報学修士
    テンプル大学ジャパンキャンパス講義は全て英語。修士だけでなく、終了証書がもらえるプログラムや、学位を取得しない生涯学習プログラムでもPRやコーポレートコミュニケーションを学ぶことができる。三軒茶屋マネジメント修士(2020年秋より)
    東京経済大学 大学院コミュニケーション学研究科を設置。企業広報に詳しい教授のゼミがある。「アイビー・リー 世界初の広報PR業務」は同学で駒橋ゼミに在籍した河西仁氏の修士論文を書籍化したものである。国分寺コミュニケーション学修士、博士
  2. 広報と経営はつながっている、広報は経営である!
    広報と経営は結びついている。言い換えれば経営の知識がないと、企業にとって最適な広報活動を行うことは難しい。広報を極めるためには経営の勉強が必要となる。企業広報戦略研究所(電通PR内に設置)は、「変化の激しい時代に企業が成長し続けるには、自らより良い経営環境をつくることが必要。その推進のためには経営戦略とリンクした広報戦略そしてそれに基づいた広報活動の実践が必要」だと説いている。記者を訪問することが広報だ、プレスリリースを書くことが広報だと思っていたら、ぜひ経営と広報のつながりについても考えてみてほしい。

  3. 自分が詳しくなれば相手を説得できる
    メディア側は、ある程度こんな記事を書こうとあたりをつけて取材時に質問をしてくる。だが、それが違っていることもある。そんな時、自分がその分野において経験、そして学問に裏打ちされた知識があれば相手を説得することができる。また、炎上したときでも、なぜ炎上したのかを明確にできれば、どんな立ち位置で何を伝えれば鎮火するかを推測できたりするようになる。それらを積み上げることで、自分自身の自信にもつながる。

  4. 広報は人の動きを想像する仕事
    メディアリレーションも広報の一部だが、広報はズバリ、人の心の動きを想像する仕事。発信した情報を受け手がどのように受け止め、行動するか。そういう意味では幅広い経験、趣味、人との繋がりも広報に生きてくるので、いろいろな経験を積むことが役に立つ。広報の日常業務のみにどっぷりとつかっては、視野は広がらない。

  5. 実践と勉強のバランスが大事。キャリアアップしようと思わなくても、勉強がキャリアを後押しする
    出世しよう、有名企業に入りたい、そんなことを考えなくても、勉強による知識と実践のバランスが取れていれば、それらが自分のキャリアを後押ししてくれる。

    広報を極めるには一分野では足りない

ダイレクトに消費者に役立つ仕事がしたいから広報に!

加藤: 大学を卒業されてからこれまでのご経歴からお伺いできますか?

楯美和子氏(以下、楯): 大学を卒業してまず広告代理店に入って、それから毎日新聞の広告局に2年ほどいました。その後、広告代理店の電通EYE(後に電通東日本に統合)に入り、2016年にローソンに移ってきました。広告畑で長年やってきて、4年ほど前から企業広報になったわけです。

ローソンの執行役員コミュニケーション本部長の楯美和子さん

加藤: ローソンの広報になられたきっかけは何だったのでしょう?

楯: 電通東日本では営業として広告に係るさまざまな仕事をしてきました。2010年代には自治体や旅行関係、飲食業などの広報部門と仕事することが多かったんです。ローソンも私が担当しているクライアントさんの1つでした。そんなご縁もあり、これからチャレンジしたいことを考えてローソンの広報になりました。

広告代理店ってBtoBの仕事なんですが、コンビニはまさにBtoC。消費者のために何ができるかとか、新型コロナのような社会問題に対して企業としてやれることがあります。「ダイレクトに消費者に役立つ仕事がしたい」というのが大きなきっかけですね。

リモート会見をいち早く開催!

加藤: ローソンではどのような業務をなさっているのでしょう?

ビーコミ 加藤恭子さん(聞き手)
IT系月刊誌、オンラインメディアでの記者・編集者を経て、BtoBのIT企業でPR/マーケティングマネージャーを歴任。2006年に個人事業、2007年より株式会社ビーコミとして法人化。複数企業のPR/マーケティング支援を行うほか、各種媒体で執筆活動や企業・団体向けに講演活動もしている。PRSJ認定PRプランナー。日本マーケティング学会理事、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)

楯: 商品や企業の取り組みのPRは大切な業務です。それと、「リスク案件への対応」も重要です。というのも、コンビニはお客様をはじめ、加盟店のオーナーさんたちやそこで働いているアルバイトさん等関係者が多く、さまざまなことが起きるため、リスク案件もたくさんあります。PRとリスク対応の両輪で「企業レピュテーションをどうあげていくか」というところ、これが私たちの大切な業務だと考えています。

加藤: 企業広報では、メディアからくる問合せを受ける人と、こちらからこんな取材をしてほしいという働きかけをメディア側に行う人とを分けていることが多いようですが、ローソンさんもそのように役割分担をされているのでしょうか?

楯: うちの場合はメディア担当制を敷いています。たとえばAさんは読売新聞さんと日本テレビさんが担当ね、というように決めて、担当しているメディアさんからの問い合わせはAさんが受け、仕掛けも行います。今は新型コロナの影響で、顔を合わせて記者さんと会えない状況ですけれど、担当制のおかげで毎日ダイレクトに連絡がとれる体制にはなっています。

加藤: 記者の顔も覚えられますし、深い絆もできますね。ところでローソンでは、3月2日に「玄米のダールカレー(レンズ豆)&ココナッツチキンカレー」の記者会見をリモートで開催されましたよね。大手企業のリモート会見、社内調整は大変ではなかったですか?

楯: 2日の会見は、3月3日から発売する新商品のものだったので、実は事前に会場もすべて押さえていたんですよね。新商品の発売日を変えることはできないですし、フランスでお店をやっている松嶋啓介シェフに監修していただいているカレーなので、その方にも会見に登場していただく予定でした。

その松嶋シェフも新型コロナの影響で来日できなくなってしまい、「では松嶋シェフとはSkypeでつなげよう」ということになった。そうこうしているうちに、日本も大変な状況になってきて、「いっそのことリモートで全部やろう」となったんです。社内ではリモート会見への抵抗はあまりなかったですね。

加藤: 大企業になるとリモート会見に抵抗があると聞いたりしていますが、ローソンさんは考えが柔軟、意思決定も速くてすばらしいですね。

リモートで行われた新商品の発売会見。
あらかじめ借りていた会場にいるのは登壇者とスタッフのみ

大学院で「広報は経営だ」と知ることができた!

加藤: では、ここからは大学院での学びについてお聞かせください。そもそも大学院に入って「広報」を勉強しようと思われたきっかけは何でしょうか?

楯: 企業の広報は、それまでの広告畑とは違う新しい職場だったので、改めて学び直す必要があると思ったのがきっかけです。それと、20年以上広告関係で経験を積んできたので、してきたことを体系立てて学びたいとも思ったんですよね。ちょうどローソンに転職して1年後です。

加藤: 社会情報大学院大学に入学されたんですよね。フルタイムの仕事と勉強との両立とか、時間の使い方でご苦労されたのではないでしょうか?

楯: 授業は18時半からだったんですが、18時半に行けたことは1回もなかったですね。ただ、後から動画を視聴できたり、資料をいただけたりしたので助かりました。それと自分が長く広告の仕事をしてきたことが授業の理解につながりましたね。まったく違う世界ではなかったので、ついていけたのかなと思います。それと、日々の広報業務と学ぶこととがリンクしていたので、腹落ちしやすかったですね。

加藤: 大学ではどのようなことを学ばれたんでしょう?

楯: 私が最終的に提出した研究レポートのテーマは「ネットリスク」でした。お客様やアルバイトのクルーさんのネットへの書き込みから炎上になることもありますし、情報の取り方、発信の仕方も含めネット環境が大きく変化しています。学校に行くことで、日々起きている変化、最新の情報を自分の知識にし、アップデートできたことは大きかったですね。それと、「広報は経営だ」ということも知ることができました。

学びは判断の裏付け、自信につながる!

楯: 卒業後も学び続けたくて、今もコミュニケーション学の博士課程に通って、月に1回、担当の教授にみてもらっています。

加藤: 学び続けるのはなぜでしょう? 若手の広報担当者に、大学院等で学び続けることをオススメされますか?

楯: 日々の広報の仕事、なかでも仕掛けるときやリスク対応の場合は「判断」が必要になるんですけれど、正解っていつもわからないんですよね。必ずしも白黒ちゃんとみえるわけではないことが、広報には多いと感じています。そういうときに判断の裏付け、自信になるのが、「私は学び、研究している」ということです。

よくスポーツ選手の方が「ここまで練習したんだから大丈夫」「毎日の練習が自信になる」とおっしゃっていますが、私にとってそれと一緒なのが大学院の修士課程や博士課程です。資格をとるというよりは、業務への自信をつけるために今も続けています。そういう意味では、広報担当者には「学び続けること」をオススメします。

加藤: 同じようなことをしても、ものすごくバッシングを受ける企業もあれば、あまり炎上が大きくならない企業があるようです。なぜそんなふうに差がでるのか。日ごろから支持をされていたからなのか、いろいろな原因が考えられますが、確かに正解がないですよね。

楯: 昨年の1月、2月くらいにバイトテロが流行りましたよね。外食チェーンやコンビニなどのアルバイトが、インスタグラムのストーリーに炎上動画をあげて、仲間内だけと思ったけれど広がっちゃったというような。そのころ、メディアの社会部さんから取材を受けることが多かったんです。

メディア側の視点は、コンビニは人手不足だということもあって、夜間にバイト一人だけという「劣悪な労働条件だからこういうことが起こるんだ」というものでした。しかし私はネットリスクを大学院の研究テーマとしていたこともあって、異なる視点をもっていました。会社への報復ということではなくて、彼ら自身は仲間内で面白がりたがっただけで、外には広がらないだろうと思っていたのに広がっちゃったみたいな、ネットリテラシーのなさが原因じゃないかと思い、調べたら実際にそうだったんです。

お付き合いが少ない社会部からの取材に、当初は少しドキドキしましたが、自信をもって話すことができ、メディアも「なるほどね」と考え方を変えてくれたりもして、最終的にローソンの事例はほとんど出ずにすみました。これも学んでいた裏付けがあったからだと思います。本当によかったです。

加藤: 学びの裏付け、大きいですね! 若い広報担当者にも大学院などで学んでほしいですが、若い年齢から通い始めるのと、ある程度ビジネスのことがわかってからのほう、どちらがいいですか?

楯: そういう意味では、あまり経験がないなかで大学院に行かれるよりも、少し経験を積まれたくらいからがちょうどいいのかなあと。大学院は討議も多いですし、ある程度実践経験があって、さらに学問として学ぶ方がより広がるように思いますね。

キャリアアップに役立った大学院での学び

加藤: 楯さんはキャリアを積まれ、現在は執行役員になられましたが、キャリアアップに大学院の勉強は役立ったと思われますか?

楯: キャリアアップのために大学院に行ったわけではないんですが、役に立ったと思います。というのも、広報の仕事は「外の視点をどれだけ会社に入れられるか」が大きい。メディアの方と話すことで「メディアはこう見ている」「消費者はこうだ」とわかることもあるんですが、「学問として学んだ知識や情報を会社にインプットしていく」ことも重要だと思います。

授業にはいろいろあって、過去の広報事例から最新のIT環境がどうなっているかなど、幅広い分野を受講しました。それらを蓄積して自分の引き出しを増やしていくことができたこと、そしてそれを会社の業務に役立てていけたことはキャリアアップにプラスだったと思いますね。

加藤: ほかの学生さんとの横のつながりができたことも、収穫だったのではないでしょうか?

楯: そうですね。私同様、働きながら来ている方がほとんどで、さまざまな業界の方がいらっしゃった。同じ広報でも業界によって違うんだなあと、視野が広がりました。

加藤: 最後に、若手の広報担当者にアドバイスをお願いします。

楯: 最終的には広報って、自分の中の蓄積、知見でコミュニケーションしていく仕事だと思います。自分の業界での経験だけではなくて、遊びやプライベートの1つ1つも無駄にはなりません。幅広い視点や視野を養うためにも、若いからこそいろんなことにチャレンジしてほしいですね。

私もワインエキスパートの資格をとったり、ケニアやマチュピチュなどへの旅行などいろいろなことをしてきました。余暇は仕事から離れてのストレス解消時間と考えていましたが、思い返してみるとこのような体験も、世の中を観察したり、自らの判断力を養う材料になっていると感じています。最終的に広報は、「人の心がどのように動くのか」とか、「こういうメッセージをしたら、人はどう思うのか」ということを想像していく仕事です。いろんな経験をした方がいいと思いますよ。

加藤: 広報分野に限らず、さまざまな経験を積むことが大事ということですね。本日は、オンラインという変則的な形式になりましたが、いろいろお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

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