ブログは1000記事を超えると何かが変わる/橋本大也さんのブログ論(第11回)
いしたに このインタビューは、おもに企業のWeb担当者が読むことを想定しています。今回は、前回の「俺と100冊の成功本」の聖幸さんからご指名をいただきました、「情報考学 Passion For The Future」の橋本大也さんです。
橋本 橋本です。2003年9月から書評、ソフトウェアレビュー、イベント情報が主な話題のブログをやっています。毎日更新で2000日と少しやってきました。
ブログ名 | 「情報考学 Passion For The Future」 |
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一言で言うとどんなブログ? | 書評、ソフトウェア評の草分け的なブログ |
運営者略歴 | 橋本大也(はしもと・だいや)。IT起業家、ベンチャーキャピタリスト、情報技術研究者、ブロガー、データセクション(株)代表取締役、(株)早稲田情報技術研究所取締役、ngigroup(株)イノベーションラボ所長兼投資事業本部パートナー、(株)メタキャスト取締役、(株)日本技芸取締役、ジョブテシオ(株)顧問、デジタルハリウッド大学専任准教授「リサーチ&プランニング」、多摩大学大学院経営情報学研究科客員准教授「知識イノベーション論」、特定非営利活動法人オーバルリンクI/O理事。 |
開始年 | 2003年9月 |
RSS登録数 | 393フィード(livedoor Reader調べ) |
「何をテーマにしたら続けられるか」を考えた
いしたに 前回の聖幸さんのインタビューでも触れているのですが、大也さんと言えば、「ブログと書評」というスタイルを開拓した人という印象が強いのですが、最初からそれは狙いであったんですか?
橋本 最初にブログを始めるときに、何をテーマにしたらずっと続けられるだろうかとよく考えました。本は年間に7万点以上も出版されるので、ネタ切れすることがないだろうなと思って。
いしたに ほぼ、1日1冊ですよね。とにかくすごい。仕事しているんだろうか心配になりますよ(笑)
橋本 基本的に電車で本を読みます。往復2時間半くらい。あと寝る前に少し読みます。いわゆる速読というのはしていないのですが、読んでいるうちに自然と速くはなったようです。ブログを始めてからの5年でかなり読書スピードは速くなりました。
いしたに 自然にそうなったと。
橋本 文章は集中して読めば誰でも速いですよね。いかに集中モードに移行できるか。毎日読書しているうちに、読み始めたらすぐ没頭モードに移れるようになりました。
いしたに その意味では通勤電車というのは理想的な場所と時間なんですね。
橋本 はい。帰りは少し遠回りして必ず座って帰るようにしています。集中するために。途中で読書スピードを点検すると速くなりますね。時間を気にするとなんでも速くなるみたいです。
1000本を超えると何かが変わる
いしたに 「ずっと続けられるだろうか?」という自問は、ブログをやってる人なら実感できる問いだと思うのですが、まだブログをやっていない人に、そもそも、続けるとはどういうことなのか、続けると何が変化するのか、実際のブログ上だとどうなるのか、そのあたりを少しお聞かせいただけますか?
橋本 私にとってブログは大学院みたいなものだなあと思うことがあります。毎日学習ノートを公開している書生みたいな気がします。5年半で1100冊以上の本をレビューしましたが、勉強になったというのが実感です、ブログが人気になったとか、他者に影響を与えたということよりも、知識の量や構造が増えて、視野が広がったことの方が自分にとっては大きいです。
いしたに ただの知識じゃなくて知見ですね。
橋本 毎日テーマが1つあるのがいいです。実世界でなにも達成できなかった1日でもブログは残る。積み上がる。1日1記事で年間365記事。少なくとも何らかの思考のログが残る。
いしたに 積み上げを実感されたのって、どのぐらいの時期からですか?
橋本 やはり1000本超えるあたりですねえ。
いしたに 1000本(笑)
橋本 過去ログが何を検索してもひっかかるようになる。自分で書いたんだけど忘れていた知識が見つかって、これは便利だなと。自分データベースです。
いしたに 外部記憶がDBとして機能してくる感というのはありますね。そうか、そのボーダーが1000なのかも。
アウトプットを促進するために最適なツール?
橋本 あとは、インプットとアウトプットを均衡させるっていうのが重要だと思うんですね。アウトプットがブログになっている気がします。
いしたに 私は最近インプットが増えていてバランス崩れてます。均衡させるコツなんてありますか?
橋本 Pomeraを買いました。ネットにつながらない、シンプルにテキストしか書けない端末です。あれはアウトプットには向いています。
いしたに なるほど。
橋本 ただ文章を書くだけの端末なので、アウトプットするしかない。やはりそういう環境が重要なのではないでしょうか。Webをブラブラしているといつのまにか時間が経ってしまうし。ROM吸い出しみたいに脳を吸い出して、自分の知っていることをすべてWikipediaみたいにしたい。
アイデアが出ないときに、会議室に白紙とペンを持って閉じこもると、何か書かざるを得ないから何か書く、みたいなところがPomeraの魅力です。
いしたに さっきの通勤電車で本を読む環境に追い込むのと似てますね、インプットとアウトプットの均衡だ。
ツールに「使われ」て、新しいやり方をみつける
橋本 『情報力』という本を書いたんですが、「情報収集→情報整理→情報分析→情報活用」という流れをデジタルとネットのツールを使って、超効率化しようという本です。
いしたに 超!
橋本 超ですね。それがなければできないことができるという意味で。たかがツールされどツールだと思うんですよ。ケータイでWikipediaを見る方法を知っている人がいるグループと、1人もいないグループがあったとして、いるグループは未知の単語をその場で調べて議論を先に進められるじゃないですか。いないグループはじゃあ今度までに調べておきましょうになってしまう。たかがケータイでWikipediaなんだけれども、知っているか知らないかで全然ちがうわけですね。手帳やノートの効率とは違って、できないことできるようになる。
いしたに そりゃぜんぜん違いますね。ミーティングが1回減るぐらいの勢いですね。
橋本 Evernote、Dropbox、Frieve Editor、FreeMind、OneNote、iEditなど思考支援アプリの使い方、欲しい情報がすぐに見つかる検索テクニック、速読術を使わずに速く読むハイパー読書術、メモや発想を外部脳に保存するノウハウ、ネット上にあなた専用私設顧問団を持つコツ、集合知を機能させるハイパー・フェルミ推定などについて書きました。私は500本くらいのおもにフリーソフトを、ブログでレビューしているので、そこからより抜きのアプリを選びました。
いしたに 言い換えると、「ツールに使われない使い方」という理解でもいいのでしょうか?
橋本 「ツールに“使われて”発見する新しいやり方」でもいいのかもしれません。「今日はパソコンはやめて、iPhoneだけで仕事するぞ、おー!」みたいにがんばって新しいやり方をみつけちゃうみたいな。
いしたに 「ツールに使われる」「ツールに使われない」はどちらも正しいわけですね。
橋本 ただ現実には困ったことに、会社のルールとぶつかるアプリもありますね、Webサービスは情報が外に出ちゃうから使ってはいけないなど。そのあたりがいま葛藤だなあと思うのですが。情報力を出版して2か月、好意的な評価が多いのですが、「うちの会社だとセキュリティや内部統制の制約があって使えないんです」という声もあります。しかし旧態依然としたルールで情報システムを考えている会社、個人はどんどん取り残されていくんじゃないかとも思います。
いしたに 思いますね。私もかなりいろいろなツールに依存していまして、システムがダウンすると自分もダウンという状況に(笑)
ガジェットは3か月ごとに買い換えろ!?
橋本 あと、扱う情報をインポート/エクスポートできるツールを選ぶのも重要ですね。そういう意味では乗り換えが前提です。私は昔はPDAマニアで、出れば買うという状態で散財していたのですが、買っても結局は半年も使わない。
いしたに 使いませんねえ(笑)
橋本 ただその半年のうち、最初の3か月は濃い使い方をするから、それまで紙の手帳には書かなかったことも書こうとするし、スケジュールもやたら埋めようとしてみたりで、ツールにつられて書き込む情報が多くなる。だから、ツールも3か月で乗り換えていけばいいと思うんですよ。
いしたに なるほど。
橋本 そのかわり情報は引き継ぐ。
いしたに それでインポート、エクスポートですね。
橋本 モノへの3か月の情熱を連続させることで、人の何倍ものアウトプットをする。結果としてお金も稼いで次のガジェットをガンガン買う。みんながそうなると情報量が増えるし、ガジェット産業も景気良くなる。
いしたに 景気対策ですね(笑)
橋本 ツール類は3か月で取り替えていいと思うんですよ。よく「一生モノ」とかいいますが高級文具、一生使うどころか、1年も使わないことが多いとおもうんですよ。
アルファブロガーはブログ脳!? ブログという病
いしたに 大也さんとガジェットの話をするのは危険でした(笑)。話は尽きないのですが、ここで大也さんに過去のご自分のエントリーからベスト3を選んでもらいました。
橋本 まず「書きたがる脳」です。私は昔から字を書くのが好きだったのですが、これはハイパーグラフィア(書かずにいられない病)というのがあるという話。自分のことを言われているみたいだなと思った本で印象深いのです。
いしたに ブログを書いている人には思い当たるところがありそうですね。
橋本 ブロガーになる人、ならない人って、ある程度、先天的に決まっている気がしますね。とくに長く続ける人は。
いしたに ぼくも少しドキッとしました。エントリ文中に「強烈なハイパーグラフィアは一種のビョーキ」とありますが、アルファブロガーは一種のビョーキと読んでしまいました。ブログ脳ですね(笑)
橋本 そういうことですね。ブログのコミュニティは「ブログという病」を相憐れむ仲というわけです。
いしたに でも、ブログと個人の資質というのは切っても切れないものですよね、むしろ切れないからこそ価値があるという気さえします。
橋本 確かに。毎日書いていると、表現をコントロールしているつもりでも、自然に素や性格が出てしまう。
「出版社の目録サーフィン」で本を探す
いしたに 猛烈にこの本読みたくなりました。なかなか書店に言っても目に触れることがない本との出会いというのは、最近はほとんどこういったブログが中心になってます。
橋本 出版社の目録を集めてきて、休み時間に目録サーフィンしています。
いしたに それはすごい! やっぱり、そういう裏技というか、努力があるんですね(笑)
橋本 新聞各社の書評欄は見るのですが、それを参考にしすぎると他と同じになってしまうので、自分の発掘分も混ぜないといけないという編集上の工夫です。古典発掘が今年の裏テーマ。写真本とかビジュアル本を意図的に多く選んでいた時期もありました。
いしたに では、続いて「フェルマーの最終定理」。
橋本 感動的な科学読み物。こういう本を発見していきたい。これは私が最高と思ったし、読者にもウケた。
いしたに これはいい本ですよねえ。僕も読みました。
橋本 こういう本をたくさん取り上げられるといいんですが。
いしたに この手の本で感動というのがあるんだと、驚きました。
橋本 私は趣味が少々偏っているので、自分の趣味と世の中の趣味が合致すると嬉しい。
いしたに ブログを続けられるというところと、自分の趣味が受け入れられるというところは本来別の話ですけど、やっぱり受け入れられると嬉しいですよね。
橋本 週に1回くらいはウケるとよいですね。その他は我が道を行かせてもらいます。
いしたに ウケるというのはPV? ブックマーク?
橋本 一概には言えないですが、PV、はてブ、言及ですね。
いしたに まあ、それぞれ違いますよね。記事の中身によっても反応違いますし。
橋本 ソフトウェア評の記事の方がアクセス数は多い傾向があります。
いしたに なるほど。それにしても『フェルマーの最終定理』はブログでオススメされてなかったら読まなかったと思います。タイトルだけだとまったく意味がわからないし、意味がわかっても、自分には関係ない本だと思ったと思います。
開始してからしばらくは読者10人くらいだった
いしたに では、もう1つ、「Blogをはじめてみます」。
橋本 個人的には記念すべき最初のエントリ。書いた時にはまさかこんなに続くとは思いませんでした。開始してからしばらくは読者10人くらい。
いしたに 今はどれぐらいですか?
橋本 いまは1日1万人くらいですね。
いしたに 1000倍、すごいなあ。
橋本 PVですけどね。まあだいたい一緒です。ブログのアクセス数は2005年くらいまではブログブームでぐぐぐっと伸び続けたんですが、その後は横ばいです。ブログが増えたのが原因だと思いますが、そのかわり濃い読者、趣味が適合した読者層が増えました。
いしたに そうですか。
橋本 ニッチメディアの運営者としては、適合率はこれぐらいでよいかもと思っています。
いしたに それはなんとなくわかります。
橋本 ブログブームのころは話が噛み合わない読者も多かった。
いしたに 「勝手にやらせてもらう=ニッチでよし」ですね。
いしたに では最後のコーナーです。いつも読んでいるオススメブログを3つお願いします。
橋本 「百式」「俺と100冊の成功本」「たつをのChangeLog」です。
いしたに なぜか、全員この連載に出ていただいているみなさんです(笑)
橋本 情報がおもしろいのは当たり前ですが、友人という関係性で読んでいる部分もあります。実はあんまり「いつも読んでいる」というブログがありません(笑)。ブログ検索に引っかかったのを読む、リンクしてくれたのを読む、ランキング系で読む、という感じです。
まとめ
今回、話を聞いていて、やはり大也さんは自分のスタイルを徹底していると改めて思いました。自分というエンジンを動かし続けることに徹底しているという言い方でもいいかもしれません。ツールのような枝葉へのこだわりではなく、ある意味自分自身をツール化していくような印象です。あとインプットとアウトプットのバランスに気をつけているというのも印象的でした。
大也さん自身「毎日更新して6年目でライフスタイルになってきた
」とおっしゃってましたが、続けることでしか、自分にとっての本当の読者(企業ブログにとってはお客さん)は見えてこないし、定着しないのかもしれません。企業情報を見てくれるお客さんも同じように考えていいでしょう。これを実感するまでは、時間もかかるのでなかなか難しいかもしれませんが、まずはお客さんを一過性のものと考えない姿勢が大事です。現在目の前にいるお客さんをつかむことばかりに必死になっていると、逆に本当のお客さんが逃げていってしまう可能性もあるということを、今回のインタビューでは改めて痛感しました。
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