山田養蜂場が景品表示法の措置命令を受けた。消費者庁は新型コロナウイルスの感染拡大以後、対策をうたう商品に繰り返し注意喚起してきた。山田養蜂場は表示の違反リスクに直面しながらも改善に踏み切れなかった。元社員によると、社内では疑問の声をあげにくい構造があったという。
消費者庁は2022年9月、山田養蜂場の「ビタミンD+亜鉛」「1stプロテクト」「2stプロテクト」に措置命令を行った。コロナに関連づけた自社商品のPRが景品表示法違反の対象になった
消費者庁は過去にも再三、山田養蜂場に調査や改善指導
山田養蜂場は、顧客への説明責任を理由に、健康情報の積極発信に転じた。ただ、市場は、機能性表示食品制度の誕生などで大きく変わる。
業界が過渡期を迎える中、同社は今回の処分を前に、具体的な危機に直面していた(過去に蜂の子の健康食品に対する調査、認知機能関連の機能性表示食品で改善指導を受けた)。
山田養蜂場は過去に蜂の子関連の健康食品に対しても調査を受けていた
「キーン、ジージーザーザーが気になる」「不快な雑音が気になる方に」。機能性表示食品制度が始まって2年が経過した2017年秋頃、消費者庁は、難聴や耳鳴りなどの悩みをイメージさせる、耳の健康について訴求する健康食品の広告に関する調査を進めていた。
当時、消費者庁は「調査内容は答えられない」としたが、ある会社には、「貴社の販売する〇〇の表示は景品表示法および健康増進法で禁止する不当表示および虚偽誇大広告に該当するおそれがある」との書面が届き、表示の合理的根拠が求められている。
山田養蜂場は、耳の健康ケアに対応する商品として「酵素パワー蜂の子」を販売していた。前述の表現は、同社のものとは異なるが、「指摘を受けたのは事実」(当時)と、通販新聞の取材に回答している。
耳の健康ケアに対応した素材は、蜂の子や冬虫夏草、イチョウ葉が知られる。調査対象企業は複数社に渡り、大規模な一斉処分に発展する可能性があった。
調査は立ち消え、イメージ訴求は過渡期に転換
だが、調査は立ち消えになる。この点は今後の連載で考察するが、機能性表示食品制度の育成が図られる中、業界はこれまで機能訴求の定石だった“暗示(イメージ訴求)”から転換を求められていた。
耳の健康ケアに対応した健食への景表法調査を前にした2017年3月には、象徴的な出来事も起こる。アイケアの健食を販売していただいにち堂が「ボンヤリ・にごった感じに」といったイメージ訴求の広告表現を対象に景表法処分を受けたことだ。
抽象的表現を対象にした不実証広告規制の適用は、業界各社の反発も招いたが、消費者庁が暗示規制に本腰を入れたと理解された。
だいにち堂は、処分を不服として「表現の自由」や不実証広告規制適用の是非を最高裁まで争ったが、2022年3月、敗訴で決着している。
消費者庁はこれまでに「認知機能」標ぼうの115社対象とした改善指導を実施
機能性表示食品制度の導入を機に、以降も規制との調整は進む。2017年には機能性表示食品の表示を対象に16社が一斉処分された「葛の花事件」、2018年には医薬品の効果表示との一致が指摘された「歩行能力の改善問題」、2022年4月には、「認知機能」を標ぼうする機能性表示食品を扱う115社に対する改善指導が行われた。
山田養蜂場は「認知機能」に関する指導の有無に「非開示」とする。ただ、通販新聞の取材では、販売する「ノンアルツBee」を対象に行われている。
山田養蜂場はこれまでにも認知機能関連の機能性表示食品「ノンアルツBee」について 改善指導を受けた
表示の危うさに気が付きながらも見直しに至らず?
「こんな変化を感じていませんか?」という問いかけとともに、「知人の名前が出てこない」「鍵をかけたか不安になる」といった表現、「認知症予防医〇〇 医師監修」といった表現が違反のおそれがあると指摘された。
だが、同業他社からは、「監視対象がウェブであったためか、指導後も新聞などで積極的に広告している」との声が聞かれた。そして今回の処分だ。
同社は、過去の調査や指導を受けた表示管理体制の見直しについて、「今回指摘された通り、不十分でしたので、今後改善してまいります」と回答している。
表示の危うさに気づく機会を得ながら、根本的な見直しに着手できてこなかったことが今回の処分につながったのではないか。
「なぜ書けないのか」。上層部の「鶴の一声」が負のスパイラルへ
山田養蜂場は、少なくとも2度に渡り表示違反リスクに直面した。変化する規制と自意識のかい離に気づく確かな機会はあったが、表示管理の体制が抜本的に変わることはなかった。「コロナ対策」の広告は、どう作られたのか。
「これはまずい」。処分を受けた広告表現をめぐり「社内でも疑問を持つ者はいた」と、同社関係者は明かす。
関係者によると、表示管理のおおまかなプロセス(=表)は、販促部門が作成した広告を、商品企画、顧客対応窓口など各部署が確認。内容を集約した上で、「最終的に社長が確認していた」という。一方、販売関連部署から独立して表示の妥当性を指摘する品質保証・薬事管理関連の部門は「ない」。
山田養蜂場における表示管理のプロセス(通販新聞が関係者などへの取材をもとに作成)
同社元社員も「大半の広告、DM、会報誌に目を通していたはず」とする。問題となったコロナ対策関連の表示も商品企画部門の担当者は「赤(修正)を入れていた」。だが、結果的に修正されることなく顧客の目に触れることになる。社長報告で販促部門と調整が進められたが「なぜ書けないのか、という鶴の一声で表示規制の観点と顧客に採用が決まったと聞いている」(同)と話す。
“疑問を強く主張できない”組織構造
この元社員は、ガバナンスが効かなかった背景に、トップダウン型の組織構造があったとする。「代表自ら健康効果を実感して信念を持っている。本来踏んではいけないレッドラインがあり、使命感との相克が生じるが、法律起点ではなく顧客視点を突き詰めた結果」。
強力なカリスマ性を持つ創業者や経営者のキャラが事業に反映されるのは通販でよくみられる構造だが、各部門が縦割りで、責任を自分事化できていないという。
少なくとも元社員が在籍した当時は、月1回、窓口対応の一部従業員を除く全社集会で、社員表彰や企業理念を定期的に共有する機会が設けられていた。一部の幹部、従業員は就業時間以外の休日も顔を合わせる機会があり、連帯を深めていたとする。
社外と接する機会の多い商品企画部門は、規制とのかい離を意識する機会もあり、「一度となく、NGを出していた」というが、「使命感の共有があり、疑問を持ってもそれを強く言えない組織構造になっていた」とする。処分対象のプレスリリース、DMを含め、会報誌など顧客向け媒体で繰り返し“レッドライン”を踏む中で「感覚が麻痺していたのでは」とみる。
賞罰はトカゲの尻尾切り。山田養蜂場は抜本的な改革に踏み切れるか?
同社関係者は、今回の処分を受けて販促部門の責任者が降格されたと話す。ただ、今後の管理体制の見直しには、「これまで以上に気をつけようという共有はされ、“そうだね”という雰囲気はあるが、そこまで。賞罰はトカゲの尻尾切りで構造を変えなければ本質的な問題は解決に至らない」とみる。
山田養蜂場は、コロナ対策関連の表示に社内で指摘の声があったかについて、「気をつけていたが結果として出てしまった」と、肯定も否定もしない。
コロナ対策関連の表示が含まれている、措置命令の対象となった広告表示の一例
表示管理のプロセスで、山田社長が主要な表示物を確認するプロセスがあるかは、「媒体により行うものもある」としたが、処分対象の広告は「確認していない」と回答した。品質保証部門、薬事管理部門の設置は「今後の課題として検討する」としており、従前はなかったとみられる。
処分を受けた責任者の賞罰・異動は、「従業員への評価は答えていない」と明らかにしなかった。
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オリジナル記事:山田養蜂場が景表法違反で措置命令を受けた背景に迫る。原因は「疑問の声あげにくい」トップダウン型の組織構造? | 通販新聞ダイジェスト
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