千趣会は、基幹のファッションカタログ「わたしの着たい服」を刷新し、2015年1月発刊の春号から「BELLEMAISONfashion(ベルメゾンファッション)」として発刊を始めた。ベーシックな普段着を切り口とした“商品機軸”のカタログと位置づけるもので、素材や製法、デザインなどにこだわり、ひとつひとつ作り込んだオリジナル商品を掲載。誌面とネットの役割を見直した商品紹介やコーディネート提案など新たな試みも盛り込む。同カタログでは、14年からスタートした5カ年中期経営計画の重点戦略として強化を進めるSPA(自社企画の製造小売り)型オリジナル開発商品を落とし込んでいく計画で、今後の事業展開を占う上でも重要な役割を担うことになる。
SPA型商品を基幹媒体で展開
新装刊した基幹カタログ「ベルメゾンファッション」
千趣会は2014年から、経営環境の変化を受けた事業構造の根本的な変革を骨子とする5カ年中期経営計画をスタートした。通販事業では、今後の主戦場をネット販売と捉え、ネット販売市場での“独自の優位性”の確立をテーマにした取り組みを盛り込み、この目標達成に向けた重点施策として、顧客、商品、販売、フルフィルメントの4つの戦略を掲げる。今回、新装刊した基幹カタログ「ベルメゾンファッション」の取り組みは、商品戦略を反映させた試みになる。
商品戦略では具体的な施策として、付加価値型のオリジナル開発商品による差別化と、SPA型開発商品の強化・拡充による収益性の向上を提示。前者は、ポイントやサービスを集客ツールとするネット販売事業者に対し、持ち前の商品開発力を活かした独自の商品展開により主戦場のネット販売で存在感を示すもので、後者は、粗利益率の高いSPA開発商品の強化・拡充による収益性の向上を狙ったもの。いずれも持ち前の商品開発力を基盤とした施策だ。
SPA型開発商品の展開では、収益の柱となる基幹カタログに落とし込み、通販事業全体の収益性の向上につなげることを構想しており、基幹カタログの「ベルメゾンファッション」への刷新は、いわばその布石となるもの。さらに、家具・生活雑貨の基幹カタログとなる「sumutoco(すむとこ)」でも、同様の取り組みを行う方針だ。
SPA型開発商品の展開に当たっては、専任部署の「SPAブランド推進室」を設置。これまでファッションやライフスタイル、育児など事業本部ごとに各カタログの担当者を置き、カタログに掲載する商品の決定などを行う形としていたが、「SPAブランド推進室」は各事業本部から独立し、基幹カタログに掲載するSPA型開発商品の企画・開発などに特化した体制を敷く。
現状、高収益型のSPA型開発商品は一部に過ぎないが、千趣会では今後、「SPAブランド推進室」を通じ当該商品の展開の拡大を進める意向で、同部署は「『ベルメゾン』の今後の収益構造を担うことになる」(同社)とする。
少し高くても品質で選ばれる流れを
新装刊した「ベルメゾンファッション」は、本誌年4回(春・夏・秋・冬)と特別号年2回(盛夏号・厳冬号)の発行。新装刊第1号の2015年春号(A4判・420ページ、発行部数約250万部)では、衣料やインナー、シューズ、バッグ、ファッション雑貨などオリジナル商品を中心とした約770型・1万8000品番の商品を掲載。メーンターゲットとなる30代後半~40代女性と、周辺の30~50代に向けたベーシックアイテムを中心に扱う。
掲載商品数としては、前年同期に発行した「わたしの着たい服」の春号に比べると約1割減らした。類似商品のカットなど商品の絞り込みをしたためで、アウターでは、掲載商品数を約3割カットしたという。一方で、キッズカタログの「チャイルド」への誘導を目的に、子ども服の基幹ブランド「GITA(ジータ)」の商品を新たに掲載するほか、売れ行きが好調なインナーの掲載商品数を増やすなど戦略的に追加した商品もある。
また、「ベルメゾンファッション」は、普段着に焦点を当てており、キャッチコピーに“私の普段着”を採用。普段着については、シンプルでありながら素材やパターンにも気を配り、産地やメーカーにもこだわった商品と位置づけ、ひとつひとつ作り込んだ商品を展開。“普段着にいいものを着て気持ち良く過ごす”という提案を行う。
これは千趣会ならではの商品開発力を活かした取り組みと言えるが、「ベルメゾンファッション」の展開では、顧客が安い商品に反応しないという昨今の購買行動の変化も意識した。
これについて同社では、顧客がより賢くなり、“こだわって買う”ようになっていると分析。加えて、顧客がすでに持っている洋服に単体の商品を自分で組み合わせて普段着を楽しむ傾向がみられるという。このため、低価格を訴求した商品よりも、ひとつひとつの商品を作り込み、顧客が納得して購入できるようにする方がニーズにマッチしているわけだ。
実際、同カタログでは、有名ブランドが採用するデニム素材を使ったデニムパンツや、特殊な織機で作った縫い目のないシームレスセーターなど、素材の品質や製法にこだわった商品を掲載。価格は、前出のデニムおよびシームレスセーターとも税込4212円で、従来、カタログで扱っていた低価格商品と比べると割高に映るが、ブランド店や百貨店で販売されている同等の商品と比較すればむしろ買い得感があると言える。
「ベルメゾンファッション」の取り組みは、より品質の高いレベルで商品の値ごろ感を打ち出そうとする試みと言え、千趣会でも「少し高くても『ベルメゾン』の商品は素材がいいから買おうという選ばれ方をしたい」とする。
商品とコーデを逆転させた誌面
「ベルメゾンファッション」は、“商品機軸”のカタログとして展開するもので、これに伴い誌面の構成も大幅に見直している。
まず、カタログの表紙については、シーズンごとのテーマカラーを基調に商品をシンプルに見せるデザインとし、「ベルメゾンファッション」第1号の春号では、春をイメージした黄色を採用。また、従来の「わたしの着たい服」では、イメージキャラクターの女優・麻生久美子さんの商品着用画像を前面に打ち出していたのに対し、今回のカタログでは、商品の単体画像を大きくかつシンプル見せる形にしている。
これは、“商品機軸”のカタログとしての特徴を打ち出したものだが、千趣会としては、基幹カタログで展開する商品を足掛かりに「ベルメゾン」とはどのようなブランドなのかを知ってもらう狙いがあり、同時期に発刊した家具・生活雑貨の基幹カタログ「すむとこ」でも春号の表紙も同様のカラー・デザインを採用している。
また、カタログ誌面についても、従来、日常の利用シーンがイメージできるよう、モデルの商品着用画像を使ったコーディネート提案を中心としていたのに対し、「ベルメゾンファッション」では、商品単体の画像をメーンとした構成に変更。素材や製法、デザインの工夫などの説明と合わせ、カタログ誌面で商品の良さをじっくりと見せるようにした。コーディネート画像も掲載するが、スペースは小さく、誌面の中での商品とコーディネートの「主従関係が逆転している」(千趣会)形だ。
カタログから「ベルメゾンネット」に誘導しコーディネートを提案する
コーディネートについては、カタログから「ベルメゾンネット」に誘導し、ネット上で提案する形としており、ネットの特徴を活かしてカタログ誌面では掲載していないコーディネートや商品説明画像なども見られるようにしている。
これまでメーンとしてきたカタログ誌面でのコーディネート提案を見直すのは思い切った判断だが、すでにコーディネートは、カタログ誌面で見せなくても色々なところで見ることができ、インターネットやスマートフォンの普及で、「ネットでコーディネートを見る人も増えている」(同)。
さらに、顧客が様々な媒体で見つけたコーディネートを参考に、手持ちの洋服と単体の商品を自分で組み合わせるようになってきている傾向も踏まえ、「ベルメゾンファッション」では、カタログで単体商品の良さをしっかり伝え、コーディネートの楽しみ方をネットで提案するという、カタログとネットの新たな“使い分け”の試みを行っているわけだ。
一方、直近の春号で「ベルメゾンファッション」と同様の表紙デザインを採用した家具・生活雑貨の基幹カタログ「すむとこ」については、商品を訴求するための括りや作り込みの方向性、SPA型開発商品の取り組みの進捗状況などの兼ね合いで、従来とほぼ変わらない誌面となっているが、今後、各課題を解消し、“商品機軸”のカタログの特徴を打ち出していく考えのようだ。
働く女性に向けた新ブランド投入も
千趣会では「ベルメゾンファッション」の展開を足掛かりに、2015年は、各種カタログの再編・リニューアルに取り組む意向で、この一環として働く女性に向けた新ブランドおよびカタログの展開に乗り出すことも計画する。
5カ年中期経営計画で掲げる顧客戦略では、子どもの有無、有職・無職の切り口で30、40、50代の女性を30代シングル・DINKS、30代育児ママ、40代キャリア、40代主婦・パート、50代アクティブの5つのセグメントに分類。それぞれの生活スタイルやニーズに対応したアプローチで、顧客基盤を拡充する方針を打ち出している。
特に、働く女性については、女性の労働力に注目が集まり、今後、増加が見込まれる層で、千趣会でもアプローチを強化。待機児童問題の解消の一助として子会社の千趣会チャイルドケアを設立し、保育園運営事業に乗り出すなど取り組みを積極化している。
ファッションの部分では、すでに30代の働く女性向けのブランドとして「スタイルノート」を展開しているが、現在はターゲットの30代だけではなく、40代にも利用されている状況。今後、より幅広い層で働く女性の増加が見込まれることを踏まえ、年代別にセグメントした新ブランドのカタログを展開することにした形だ。
働く女性向けの新ブランドのカタログ展開は、まだこれからだが、誌面の方向性については、コーディネート提案を主体とした従来のような雑誌感覚の誌面を踏襲することになるようだ。
普段着に焦点を当てた「ベルメゾンファッション」では、顧客がすでに持っている洋服に単品の商品を合わせてファッションを楽しむ傾向があることを踏まえ、個々の商品へのこだわりを伝えることに重点を置いているが、これに対し、仕事着の場合、日常の利用シーンのイメージが先行する面があり、コーディネートは重要な要素。「トータル的なコーディネートできれいに見せたいというニーズが強く、(普段着とは)買われ方も違ってくる」(同社)ことを勘案し、従来から得意としてきたコーディネート提案型の誌面構成とする可能性があるようだ。
“商品機軸”の「ベルメゾンファッション」、働く女性向けの年代別新ブランドなど、5カ年中期経営計画の戦略に基づいた新たな試みを盛り込むカタログの展開を本格化する千趣会の今後の動向が注目されるところだ。
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オリジナル記事:コーディネートはECで提案、カタログとネットの新たな“使い分け”を試みる千趣会の戦略 | 通販新聞ダイジェスト | ネットショップ担当者フォーラム
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