マーケターが知っておきたいAI

アドビに聞く「生成AIの安全な使い方」、著作権侵害や情報漏えい…高まる生成AI使用リスクへの対処法

生成AIの業務利用で気を付けるべきリスクとは。著作権侵害や情報漏えいへの対策、安全に使うためのポイントをアドビが解説。

小林 香織

8月19日 9:45

総務省が2025年に実施した調査によれば、国内企業における「生成AI利用率」は55.2%だった。9割を超える米国、ドイツ、中国に比較して、半分程度にとどまっている。この背景には、ツールに対する理解不足や情報漏えい等の懸念があるという。そこで、2023年9月からクリエイティブ生成AI「Adobe Firefly(ファイヤーフライ)」を提供するアドビのマーケティングマネージャー 轟啓介氏に、企業における「生成AIのリスク」と「安全な生成AIの使い方」を聞いた。

生成AIの生成物における「著作権」の考え方

まず、生成AIにおける「著作権」の考え方を確認しておきたい。そもそも著作物とは、著作権法において「思想や感情を創作的に表現したものであり、文芸、学術、美術、または音楽の範囲に属するもの」とされている。具体的には、小説、論文、音楽、写真、絵画、彫刻、建築、映画などが含まれる。

文化庁のWebサイトで公開されている『AIと著作権に関する考え方について』および『文化審議会著作権分科会法制度小委員会 AIと著作権に関する考え方について【概要】によれば、 AIと著作権の関係について、「AI開発・学習段階」「生成・利用段階」で分けて整理されている。

また、これらとは別に、AIによって生み出されたものが法律上の著作物として認められるかどうかという「生成物の著作物性」についてもまとめられている。

文化庁のWebサイトで公開されている『AIと著作権に関する考え方について【概要】』より

「AI開発・学習段階」における著作権について

国内では、2018年の著作権法改正により、原則として著作権者の許諾なしに著作物をAI学習に利用できることになった。ただし、著作物の表現を享受しない利用に限定される。具体的には享受を目的とする利用行為や享受する目的が併存しているような場合は適用されない。また、著作権者の著作物の利用市場と衝突するなど、著作権者の利益を不当に害する場合も適用されない。なお、改正前は数十億点にもなる大量の学習用データについて 個別に許諾を得ることが困難・非現実的という課題があったという。

「生成・利用段階」における著作権について

生成・利用段階において、既存の著作物の著作権を侵害しているかどうかの判断基準となるのが「類似性」「依拠性」の2点だ。類似性とは「創作的表現が共通していること」、依拠性とは「既存の著作物をもとに創作したこと」を指す。類似性は、より判断が難しくなり、他人の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得できるか」が焦点となる。このとき、「単なる事実の記載」「ありふれた表現」「表現でないアイデア(作風・画風)」等は含まれないとされる

「生成物の著作物性」について

AIの生成物が法律上の「著作物」に当たるかどうかは、人の「創作意図」があり、かつ人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったかによって個別に判断される。たとえば、創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示や、生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すことのほか、創作的表現といえるような加筆修正を加えるなどが挙げられる。単に長大なだけで創作的表現に至らないアイデアにとどまる指示や、単に試行回数が多いだけでは「創作的寄与」とは認められない。

生成AI利用における「3つのリスク」

続いて、企業が業務で生成AIを利用する場合の主なリスクについて、轟氏は「著作権侵害」「情報漏えい」「不正確な出力」の3点を挙げた。

1. 著作権侵害

生成AIモデルの中には、Web上のデータを許諾なく学習しているものもあると指摘されています。また、入力したプロンプトや画像がAIの再学習に利用される場合もあります。現状の日本の法律では、著作物をAIの学習に利用することは原則として問題ないとされています。しかし、学習データに大量の著作物が含まれている場合、生成物が著作権を侵害する可能性が高くなります。ユーザーが学習データにおける著作物の有無を把握していない場合でも、依拠性が生じるリスクがあります(轟氏)

轟氏が指摘したように、学習に著作物を利用しているツールの脆弱性が露呈したケースもある。2026年3月24日にサービス終了が発表されたOpenAIの動画生成AI「Sora2」は、まさに著作権侵害を指摘されていた。Sora2をめぐっては、同社が公開したコンテンツが著作権侵害にあたるとして、講談社、小学館、KADOKAWAなどの出版17社と、日本漫画家協会、日本動画協会が、2025年10月に「著作権侵害を容認しない」共同声明を発表。その数カ月後、OpenAIはサービス終了を決めた

2. 情報漏えい

社内の機密情報や顧客、社員の個人情報などを含む書類を生成AIにアップロードしてしまったり、プロンプトに打ち込んでしまったりすると、ツールや設定によっては学習に利用されることがあります(轟氏)

3. 不正確な出力

生成AIは複雑な情報の分析に強みを持ちますが、膨大な情報から最も確率が高い答えを導いているため、不正確な出力(ハルシネーション)が含まれる場合があります(轟氏)

取材に対応したアドビのマーケティングマネージャー 轟啓介氏(アドビ提供)

現状、報道されている生成AI関連の訴訟は、AI開発企業に対する「著作権侵害」にまつわる訴えが目立つ。しかし、企業がAIの生成物を商用利用した場合に、上記のようなリスクに関する責任を追求されることも十分に考えられる。現に、国内でも消費者から批判が相次ぎ、販売や配布の中止に追い込まれた事例が出ている

たとえば、海上保安庁では、生成AIを使ったアニメ風のイラストをパンフレットに活用したところ、「著作権侵害ではないか」との批判が多く届いた。同庁では、すでに5万部を印刷済みだったが、2024年4月に予定していた配布の中止を決定した。

集英社では、生成AIで作られた画像によるグラビア写真集「生まれたて。」を販売したが、消費者の批判があり、2023年6月に販売を終了した。同写真集は「実在の人物に似ている」という指摘があり、「肖像権やパブリシティー権の侵害の懸念があったのではないか」という報道もあった。同社では、「生成AIをとりまくさまざまな論点・問題点についての検討が十分ではなく、AI生成物の商品化は、より慎重に考えるべきであったと判断した」と説明した。

法的なリスク以外にも、「クリエイターの仕事を奪っている」「AI生成物特有の違和感がある」など、消費者の感情的な反発も世界的に起こっています。そうした批判があった場合、国内では企業が迅速に取り下げることが多いため、訴訟に発展する事例はまだ少ないようです(轟氏)

リスクを軽減する「生成AIの使い方」、5つのポイント

では、どうすればリスクを軽減して、生成AIを業務に生かせるのか。轟氏は、以下5つのポイントを示した。

1. 「安全な学習データ」から作られた生成AIツールを使用する

当社が最も重要視しているのが、「生成物の元となる学習データが安全であるかどうか」です。たとえば、当社のAdobe Fireflyは、「著作権フリー」「許諾済」「パブリックドメイン」の著作物のみで学習しています。許諾済みの画像とは、当社のストックフォトサービス「Adobe Stock(アドビストック)」で学習利用OKの許諾が得られたものを指します。といっても、投稿された許諾済みの画像や動画をそのまますべて使うのではなく、学習に適した高品質な画像を選別して利用しています。このように学習段階で安全性が担保されたツールであれば、生成物においても安全性が高いと当社では考えています(轟氏)

一方で、社内向けの資料など外部の目に触れない用途であれば、さまざまなツールを試してみるのもアリかもしれない。しかし、「社外に出るものは、権利関係がクリアになったツールに限定するのが賢明である」と轟氏は主張した。

2. プロンプトに「固有名詞」を含めない

海や空、町並みなどの風景は別として、ロゴやイラスト、人物などを生成する際は、一般的な固有名詞(ブランドやアーティストなど)の使用を避けることが重要だと考えます。たとえば、「油絵のタッチ」など抽象的な表現に言い換えるのが良いでしょう(轟氏)

3. 生成物に人間の手を加える

リスクを軽減する1つの方法として、生成AIの生成物に対して人間が手を加えることも有効と言えます。「どの程度の類似性があるか」が著作権侵害の論点になるため、人間によるオリジナリティを加えることで、類似性を持つリスクを軽減できます(轟氏)

轟氏は、生成AIと人間が協業した事例として、2026年3月に富山市が発表した「PRキャラクター」を挙げた。同市では、生成AIで生成を繰り返した原案をもとにクリエイターが最終調整してキャラクターを完成させた。さらに、代理店に依頼して類似性の確認をしたうえで、公開に至っているそうだ。

富山市の「PRキャラクター」において、AIが生成した原案(出典:富山市のプレスリリース)
生成AIの成果物をクリエイターが調整して完成した富山市の「PRキャラクター」(出典:富山市のプレスリリース)

4. 社内の「確認フロー」を徹底し、「責任の所在」を明確にする

上記を踏まえ、自社における「確認フロー」を徹底することも重要です。不適切なツールやプロンプトを使用していないか、生成AIへのインプットに機密情報は含まれていないか、Google等での画像検索を行ったか、表現の微調整などの加工を行ったかなど、必要事項を盛り込みます。また、最終的に誰が判断を下すのかという「責任の所在」を明確にしておくことも必要だと考えます(轟氏)

5. AI活用における「透明性」を確保する

最終的に生成AIを活用したコンテンツ等を社外に向けて発信する際、「透明性」を担保することも大事な視点だと思います。どの工程で、どの程度、生成AIを活用したのかを明示することで消費者の不信感を払拭し、結果としてリスク軽減につながると考えます(轟氏)

◇◇◇

生成AIの利便性の背景には、数々のリスクが存在している。商用利用においては、現状はどの企業も手探り状態だと言える。上記を踏まえ、リスクを軽減しながら活用の幅を広げていくのが良いかもしれない。

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