商品選定前の段階で、ユーザーに寄り添う“買い物の相談相手”として定着しつつある生成AI。最近では、Amazonの「Rufus(ルーファス)」やGoogleのAIショッピング機能など、AIショッピングアシスタントに関するニュースが続々と発表され、話題になっています。「用途に合う商品を教えてほしい」「条件に合うおすすめを比較してほしい」といった相談を、検索エンジンではなく生成AIに投げかけるユーザーも珍しくありません。
一方で、「AIが購入までを代行する未来」は、すでにすぐそこまで来ているのでしょうか。現時点のユーザー行動や調査データをもとに、 AIは今どこまで購買に関与しているのか、そしてEC事業者は今のフェーズで何を押さえておくべきかを解説します。
なお、記事内の消費者調査の有効回答数は150件で、市場全体の統計的な母集団を網羅する規模ではありません。AI利用者の解像度を高めることを目的に、調査結果を本記事にまとめています。
大きな反響を呼んだGoogleの「UCP」発表 2026年1月11日、Googleは新標準プロトコル「ユニバーサル・コマース・プロトコル(UCP)」を発表しました。「UCP」は、AIエージェントと加盟店をつなぎ、商品検索から購入まで一連のショッピング体験をシームレスにつなげるための基盤です。
要望を伝えればAIエージェントがぴったりな商品を探し出し、対話の延長で購入手続きまで進められます。ユーザーがECサイトを回遊せずに購入を完了する、そんな「ゼロクリック・コマース」の未来は、技術的な観点だけを見れば実現可能なフェーズに入りつつあります。
では、私たちは今すぐ「AIが勝手に買い物をしてくれる未来」が訪れることを前提に動くべきなのでしょうか? ここで一度立ち止まって考えたいのが、技術の進化とユーザーの心理との距離感です。実際のデータを見てみると、その傾向が見えてきます。
ユーザーはAIに「相談」はするが「決済」は任せていない 最新のデータからは、ユーザーがAIを「買い物を相談する相手」として活用している一方で、購入までを任せる存在としてはまだ受け止めていない 現状がうかがえます。
AIはすでに「買い物の相談相手」になっている (n=150、出典:PLAN-Bマーケティングパートナーズ) PLAN-Bマーケティングパートナーズが2025年6月に実施した調査では、日常的に生成AIを利用するユーザーのうち約4割が、AIとの対話をきっかけに実際に「商品の購入」に至った経験がある と回答しています。化粧品や食品など具体的な商品の選定において、AIはすでに「相談相手」としての地位を確立し始めていると言えるでしょう。(PLAN-Bマーケティングパートナーズ「【調査】生成AI利用者の4割が「AIきっかけ」で購買を経験。生成AIとの対話から始まる、新たな購買行動の実態が明らかに 」)
それでも「検証」と「決済」は自分で行う しかし、ここで注目すべきは、多くのユーザーがAIの言うことを鵜吞みにしていないという点です。当社の同調査では、購入に至ったユーザーの約9割が、AIの回答をGoogle検索などで検証してから購入している ことが明らかになりました。
(n=150、出典:PLAN-Bマーケティングパートナーズ) また、よりAIが普及しているであろう海外ユーザーを対象にした調査を見ても、慎重な姿勢が伺えます。channelengineが発表した、4500人のグローバル消費者を対象にした調査によると、58%がAIツールを商品リサーチに使用した経験がある一方、AIに「購入まで任せてもいい(快適だと感じる)」と感じている人は17% でした。(channelengine「Only 17% of consumers trust AI enough to complete a purchase, global study finds 」)
多くのユーザーは、AIの提案を参考にしつつも、最終的な決済は自分でコントロールしたいと考えているようです。つまり、現在は「AIが買い物を代行する時代」の前段階、「AIに買い物の相談をする時代」にあると捉えるのが妥当でしょう。
「AIに選ばれる」ために、動き始めるべき理由 一方で、「AIが勝手に買い物をしてくれる未来はまだ先の話だ」と静観するのは得策ではないかもしれません。なぜなら、AIが「相談相手」であろうと、将来的に「買い物代行者」になろうと、「AIに選ばれ、推奨される」ことの重要性自体は変わらない からです。
ユーザーがAIに相談した時点でどの商品が候補として提示されるかによって、その後の比較・検討の流れは大きく変わります。AIが相談相手になっている今、AIからのおすすめはすでに購買行動に影響を与える存在 になっています。EC事業者にとっても「これから備えるもの」ではなく、すでに「向き合い始めるべきテーマ」になりつつあるのです。
AIに選ばれやすい商品情報とは? 具体的にどのような情報がAIに評価されやすいのでしょうか。そのヒントとなるのが、2025年11月に公開された、コロンビア大学やMITなどの研究チームによる論文『E-GEO: A Testbed for Generative Engine Optimization in E-Commerce』です。(『E-GEO: A Testbed for Generative Engine Optimization in E-Commerce』 )
7000以上の商品購買クエリを用いた研究から、生成AIが評価しやすい商品説明には一定の傾向があることが示唆されています。研究では15種類のリライト戦略を比較し、どのような商品説明文が「生成エンジンにおけるランキング」を向上させるかが検証されました。
具体的には、次のような要素が有効であると述べられています。
競合優位性:他社製品と比較して何が優れているかを、客観的な事実に基づいて記述している こと
事実性:正確な情報に基づいている こと。AIはハルシネーションのリスクを避ける傾向があるため、事実に忠実であることは重要
意図への適合:「どのようなシーンで、誰が使うべきか」というコンテキストが含まれている こと
一方で、単に「クリックしたくなる表現」や「物語調」にするだけでは、AIによる評価向上への寄与が限定的である可能性も示されています。
つまり、人間が見て「なんとなく良さそう」と感じる情緒的な表現よりも、「比較可能で検証できる情報」を含んだコンテンツの方が、AIに選ばれやすい傾向がある と言えそうです。
EC事業者が今からできる3つの打ち手 AIが「買い物の相談相手」として定着しつつある今、AIにもユーザーにも判断しやすい情報設計が求められます。前述の研究結果をもとに、取り組みやすい情報設計のポイントを整理します。
① 商品ページの情報をAI向けの判断材料として整える まず重要なことは、他の商品との違いが客観的にわかる情報設計 です。AIは「高品質」「最高峰」といった抽象的な表現よりも、「どこが、どのように、どのくらい違うのか」を把握できる情報を参照しやすい傾向があります。たとえば、
同等スペックの商品と比べた重量の差分 一般的な製品と比べた耐久年数 従来製品と比べてランニングコストが年間でどの程度抑えられるか といった差分を具体的な数値や比較表で表現します。これはユーザーにとっても比較検討しやすくなるだけでなく、AIがユーザーに商品を推奨する際の判断材料としても機能します 。
② レビューの「問い」を設計し、用途・条件を浮かび上がらせる レビューは、AIが参照しやすい自然文データであると同時に、商品が「どのような条件・用途で使われているか」を伝える重要な情報源 です。そのため、単に自由記述で感想を書いてもらうのではなく、
どのようなきっかけで購入したか いつ・どんな目的で使用したか といった問いを設計したうえで、レビューを集めることが効果的です。レビューを通じて用途や前提条件が蓄積されることで、AIにもユーザーにも「どのような人に向いている商品か」が伝わりやすくなります 。
③ Q&Aで「判断根拠」を補完し、検証しやすい情報を増やす AIは Q&AページやFAQのような 「疑問→回答」の構造化された情報を、重要な参照元として扱う傾向があります 。たとえば、
購入前によくある不安や疑問 比較検討時に迷いやすいポイント などをQ&A形式で整理しておくことで、 AIにもユーザーにも判断しやすい情報源となります。
未来への準備は「情報の最適化」にある AIが完全に買い物を代行する未来は、まだ先かもしれません。ただ、かつてインターネット通販が登場した時も、「ネットでカード番号を入れるなんて怖い」という心理的抵抗がありました。しかし、利便性が勝り、今では当たり前のインフラになっています。AIによる「買い物代行」も、いずれ同じ道を辿る可能性があります。
重要なのは、AIが「相談相手」として商品を推奨するロジックも、将来「買い物代行者」として商品を決定するロジックも、根底にあるのは「正確で、論理的で、信頼できるデータ」であるという点です。
現状の取り組みとしては、「UCP」のようなAIショッピングアシスタントの動向を注視しつつ、自社の商品データを「AIが理解しやすい論理構造」に磨き上げることが重要です。それが、今の「買い物の相談相手であるAI」に推奨されることにつながり、やがて来るかもしれない「AIが勝手に買い物をしてくれる未来」に備えるための、有効な戦略の1つと言えるでしょう。
調査実施概要 調査タイトル :「生成AIとの対話による購買行動調査 2025」 調査方法 :インターネットアンケート調査調査期間 :2025年6月13日~18日調査対象 :日本全国20歳以上の男女で、生成AIを使った検索を日常的に行っているユーザー 150人調査委託先 :アイブリッジ
日本時間2026年2月6日に「Discover(ディスカバー)」、3月25日に「spam(スパム)」、3月27日に今年最初の「コアアップデート」が実施されました。
ユーザーの興味・関心を元におすすめコンテンツを表示する機能「Discover」。検索なしでサイトへのアクセスにつながることも多いため、「Discover」対策のような情報も出回っていました。
「ディスカバーアップデート」は、数か月で全世界に展開すると発表されています。ユーザーのいる国・地域に関連するコンテンツ、専門知識を持つウェブサイトからのおすすめが強化される一方、煽り・つりのようなクリックを誘発するコンテンツは削減する方針が発表されています。
「スパムアップデート」では、キーワードを少し入れ替えただけのような量産コンテンツ、いわゆるディレクトリ貸しなどがピンポイントに対策されたようで、19時間半という異例の速さで終了しています。
「コアアップデート」は4月8日に完了しましたが、しばらく変動が続くことも多いので、注視が必要です。
いずれも、真っ当にサイトを運営していれば過剰におびえる必要はないことも周知の事実ですね。ただし、人の手を介さず、大部分をAI作成に委ねたままのサイトは要注意。
権威性や信頼性を評価する基準である「E-E-A-T」の重要性が広く知られるようになったことで、「AIツールで引用数を増やす手法を提案された」という話も聞きます。しかし、これは危うい手法になりかねません。
「AIを用いたSEOツール」のプレスリリースも増えているように感じます。そうしたツールを選ぶ上で、アップデートの方向性が示す通り、自社の独自性と専門性を損なうことなく利用できるかどうかを判断基準にするのが良いでしょう。