『ネットショップ担当者フォーラム』の創刊(2014年)と同時にスタートした連載「ネットショップ担当者が知っておくべきニュースのまとめ」。EC事業者が押さえておきたい注目トピックやニュースを毎週火曜日に紹介してくれていたのは、運営堂の森野誠之さん。10年という節目を機に連載終了を迎えます。
連載スタート時に小学生だった森野さんのお子さんは、もう高校生。長い年月の連載を続けてきたコツ、EC業界の変化や注目トピックなど、この10年間を編集部と振り返ります。
最初は手探りでスタート。振り返ると「あっという間だった」10年
ネッタヌ
連載10年間、お疲れ様でした。10年を振り返って最初に感じたことは何ですか?
運営堂 森野誠之さん(以下、森野)
毎週更新していたので、あっという間でしたね。原稿を執筆していた時間を入れると、ずいぶんやったな、意外と書いていたなと感じます。
連載当時はもう少しWebマーケ寄りでECの情報は少なかったのですが、だんだんEC寄りになっていくなど、振り返るといろいろ試行錯誤していました。
ネッタヌ
連載がスタートした経緯を振り返ると、当時の「ネッ担」編集長だった安田英久が、森野さんが発行しているメルマガを購読していたことが始まりでした。「ネッ担」創刊にあたり、「森野さんに連載をお願いしよう」となりましたが、当時は編集部としてもどのような内容が良いのか、ニーズに刺さるのか手探りの状態。森野さんといろいろ相談しながら進めて行きました。
森野
連載当初は「運営堂」のメルマガ発行のほか、「Googleアナリティクス」の仕事がメイン。EC系のクライアントは少なかったため、連載のスタートに向けてたくさんの情報を収集しました。ただ当時、EC系の媒体はほとんどなかったので苦労しましたね。
苦労はありましたが、当時は「何でも受ける」という仕事のスタンスだったので引き受けました。「とりあえずやってみてから考えれば良いか」と思ってやっていました。
「この記事で良いのかな」と小出しにしながら、毎週探り探り進めていました。記事の見せ方も、最初は紹介する記事の本数を多くして、タイトルも記事の本数を押したり、少し大げさで強調した感じにしてみたり。記事のレイアウトも文字サイズの変更、アイコンの挿入など、とにかく試行錯誤を重ねていました。
森野
「注目トピック、今週のチェック記事、今週の名言」という今の形式になったのは2016年頃ですかね。「ニュースに縛られない記事があっても良いかな」と思い、「今週の名言」を入れるようになりました。
最初はニュースの紹介だけでしたが、少しずつ面白いニュースの重要ポイント・解説を入れるようにしました。記事だけ取り上げていても、何が大事かわかりにくいだろうと思って。
2014年3月からスタートして、その記事数はなんと489本!
ネッタヌ
EC関連情報があまりなかった当時、記事をピックアップする基準など、意識していたことは何でしょうか?
森野
数少ないEC系のメディア、EC関連の記事を書いていたり、情報を発信したりする人をとにかく探しました。他にも「Googleアラート」の活用、本を執筆している人やセミナーに登壇している人、ツールやカートを提供している企業など、とにかく情報をたくさん集めることを意識していましたね。それまでは意識してECの情報を集めていなかったので、書籍などもたくさん購入しました。
ニュースのまとめなので、元ネタがないと記事が執筆できない。最初はそれが一番大変でしたね。
運営堂 森野誠之さん
信頼できる情報源を継続して見続けることが大切
ネッタヌ
今はEC関連のメディアなども増えてきましたが、当時と変わったことはありますか?
森野
記事が増えすぎて、どの情報が正しいのか、信頼できるメディアなのかを判断することに時間がかかるようになりました。「note」でそれっぽいことを書いている人がいても、誤った情報を発信してしまう危険性があるので、執筆者が何をしている人なのかを確認・注意しないといけません。
情報の収集方法は連載開始当時から変わっていませんが、SNSなどチェックするメディアは増えましたね。
ネッタヌ
情報過多の時代に正しい情報を探して記事として出すのは大変だと思いますが、情報収集でアドバイスするとしたら?
森野
今だときちんとした情報を発信している人かメディアを見続けるしかない。いろいろなところをつまみ食いしているうちは永久に良い情報は見つからないと思います。ずっと見続けて「ここは大丈夫そうだ」と判断できるところ、信頼できるところを見続けることが大切です。
たとえばメデイアだったら、「ネッ担」「ECzine」「コマースピック」「日本ネット経済新聞」「通販新聞」など。あと、消費者庁、経済産業省、国土交通省などの統計データは絶対にチェックしています。
SNSでは、X(旧Twitter)で継続的にECの話をしている人が増えてきたので、そういった人の投稿は必ず見ています。たとえば、EC系の書籍を出版した人で、参考になる・良いことを言っているなと思ったら、その人はずっと見ている感じです。あと、本をたくさん購入して読んでいますね。
森野さんが読んできたEC関連書籍の一部(森野さん提供の画像を編集部が一部編集)
このほか『なぜ通販で買うのですか』(集英社新書)、『楽天にもAmazonにも頼らない! 自力でドカンと売上が伸びるネットショップの鉄則』(技術評論社)、『売れる販売員が絶対言わない接客の言葉』(日本実業出版社)などたくさんの書籍を読んでいるとのこと(森野さん提供の画像を編集部が一部編集)
ネッタヌ
森野
法律面とモールの動き、事例を選んでいます。法律面は厳しくなってくると対応しなくちゃいけなくなるので、早めにわかっておいた方が良いかなという理由で選んでいます。
それから、売れる方法や小ネタはあまり取り上げないようにしています。売れるネタは探せば無限に出てきますが、ピンポイント過ぎて汎用性が低いかなと。
反応があるから続けられた。続けることでビジネスの幅も拡大
連載を「やめたい」と思うこともあった
ネッタヌ
10年という長い間続けていると、正直「記事を書くのが辛い」と思ったこともあるのではないでしょうか。
森野
ありますよ(笑)。「もう無理」だと思うことが何年かに1回来る。他の業務が忙しいときが大変なわけではなく、業務で嫌なことがあった時に原稿を書くのが一番辛い。
1週間のまとめなので1週間経たないと記事が書けない、書き溜めることができないんですよね。本当に書けないときは夜中に公園へ行って缶コーヒーを飲みながらブランコをこいだりしていました。家にいても何も出ないと思って。
(画像はイメージです)
ネッタヌ
そこまで……。そういった状況を乗り越えるためにどうしていたのでしょうか?
森野
原稿を書いた翌日に見直して、「これ以上は書けないのでもう無理です……」と思いながら編集部の人たちに託していました。心の中では謝罪していましたよ(笑)
何年かやると流れが見えてきて、「こんな記事が出てきているなら、こういう流れで書けるだろう」となり、ここ数年は辛い流れはほとんどなくなっています。根性があれば続けられます。
ネッタヌ
毎年年始に1年間のまとめ記事も執筆していました。ボリュームがあるので、そちらも大変だったのでは……。
森野
11月くらいから頭の中にチラついてくるので、過去のまとめを振り返って「今年はこんな流れだったからこうまとめればいいか」といった構想が浮かんでくるようになりましたので。大変でしたが、不思議と3、4年やると慣れてきてしまいましたね。
年間のまとめ記事。毎年最初の記事では、前年の展望+注目トピックを月ごとに振り返っていました
読者からの反応があったから続けられた
ネッタヌ
そうした気持ちを乗り越えながら連載を10年続けられたコツ、モチベーション維持の方法を教えて下さい。
森野
SNSでコメントや何かしら反応があると続けられますし、どこかでお会いした時に「読んでいます」と言っていただけるとモチベーションになりますね。何の反応もなくて、「ネッ担」の週間アクセスランキングにもランクインしていなかったら続けられないですよ。
ランキング外が続いたときは「連載が打ち切られるんじゃないか」と思っていました。売れない漫画家さんになった気分(笑)。ただ、そういった経験があったお陰で、タイトルや記事の見せ方を学べました。
ネッタヌ
EC領域に関わる機会が増えたことで、ビジネスの幅が広がったりしましたか?
森野
それはありますね。EC領域は物流、カスタマーなどすべて網羅するので、情報を収集したことで幅は広がりましたし、クライアントに話せることも増えました。
販促企画をするときは在庫も気になるようになって、現場の人と話すことも増えました。モノがないと売れないですし、配送できないとクレームになっちゃいますからね。このあたりは、Webマーケだけだと絶対やらない領域なので本当に良い経験になりました。
この10年で印象深かったトピックは「3大モール」「越境EC」
ネッタヌ
ここからは、この10年間のEC業界について振り返って行きます。これまでに印象に残っているトピックは何でしょうか?
森野
「Amazon.co.jp」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」の3大モールの動きは印象的ですね。
ヤフーが2013年10月に「Eコマース革命」を発表したことをきっかけに、「Yahoo!ショッピング」が急激に注目を集めました。そして、2023年にヤフーとLINEが合併……。当時は、ヤフーがまさかLINEと合併するとは思いもしませんでしたね。「優良配送」の発表も印象に残っています。
楽天グループは三木谷浩史会長兼社長の思うままですが着実に進んでいるなと感じています。派手さはなくなってきたものの、毎年成長していますし数年先までは見えているのだろうと思います。
アマゾンは、元々すごかったものがこの10年で怪物のようになったなぁと。特に物流に関しては日本全国どこでもすぐに届くようになりましたよね。ここまで徹底できるのが強みですね。
モール以外でインパクトがあったのは中国EC。「独身の日(W11)」のとんでもない流通総額を見て、当時「あれは何だ」と驚きました。今は「SHIEN(シーイン)」と「Temu(ティームー)」の台頭ですね。
さまざまな商品を安く購入できる「SHEIN」。数百円で購入できるトップスなども(画像は「SHIEN」のサイトからキャプチャ)
森野
外せないトピックで言うと、やはり新型コロナウイルスが起きたこと。コロナを機にECを実施する企業が増えるなど、取り巻く環境がガラリと変わりました。BASEさんの契約者急増したのがいい例ですよね。そのコロナも収束してオムニチャネル的に店舗とECを活用する事業者も増えています。
法律面では、アフィリエイトなどに規制がどんどん入り始めた。それまで好き放題やっていた部分もあるので、仕方がない面はあると思います。ECの黎明期は悪質な人もそんなにいなかったように思いますが、市場が広がると悪いことを考える人も増えてきてしまいますからね。
SNS運用、配送の品質向上――EC事業者がやることがとても増えた
ネッタヌ
この10年で、ECにはどのような変化があったと感じていますか?
森野
ECはとにかくやることが増えました。昔はショップを開設して広告をうってメルマガを送れば商品が売れる時代でしたが、今はSNSやLINE、出稿する広告先が増えるなどやることは多いけれど、売り上げが伸びにくい。ただやることが増えて、現場の負荷が大きくなってきてしまいました。
昔は配送スピードもそこまで求められていませんでしたし、クレームもそこまで多くなかった。ECで注文した商品が届くだけで「すごい」と言われる時代でした。
ネッタヌ
ECができ始めた頃・黎明期は、創業者や店長が“スーパーマン”であることが多かったですが、今はどちらかというと現場の人が“スーパーマン”であることが求められている気がします。
森野
普通に運営していたらなかなか売れないので、何か得意なことがある人、センスが良い人がいないと難しくなってきてしまいましたね。全体を見られる“スーパーマン”ではなくて、SNSであったりコンテンツ作成であったり、部分でのスペシャリストが必要になっています。これらの能力がある人は手放したくないところです。
アマゾンの登場が大きな転機になった?
森野
アマゾンが登場して、「楽天市場」でさまざまな施策が行われ始めてから、大きく変わっていったなと。「楽天市場」は如実にアマゾンに寄せてきていると感じますが、アマゾン並に手軽に買えて商品が早く届くことに消費者が慣れてしまったら、そうなってしまいますね。
ネッタヌ
ページもシンプルというか無機質な雰囲気になってきているように感じます。
森野
10年前の「楽天市場」は動くエフェクトを使っていたり、縦長ページ、派手だったりとすごいページがたくさんありました。商売感があって、商人の世界だったなと。今はシステマチックでデジタルの世界になってきているように感じます。
森野さんは「10年前はSNSで商品を売る感覚がなかったので、そこは大きな変化」と話します
これからのEC、ポイントは「業界再編」「物流」「AI」
ネッタヌ
ECの未来についてもお伺いできればと思います。今後、EC業界で注目すべきトピックは何でしょうか?
森野
2024年2月にKDDIがローソンの株式公開買い付け(TOB)を発表したように、業界再編に注目しています。
今後、EC業界は大きいところと小さいところの二極化しそうだなと。そうなると、大きなモールで運営していくのか、とことん尖るかを決める必要が出てきます。中途半端なECでは生き残っていくのが相当厳しくなる。株主から「売り上げを伸ばせ」と言われても伸ばせないなら、企業同士が合併していくしかないでしょうし。
それから、物流。2024年問題を機に山奥などはモノが届かなくなってしまうんじゃないかと思っています。配送キャリア側が「細かいところまで届けられません」となってしまい、さまざまなところに影響が出るんじゃないかと。ドローンやAIが進化しても数が増えてしまえばコントロールが難しくなって、新たな問題も出てきますし。
ネッタヌ
地方配送は3大キャリアが共同配送で運用していきそうですね。そこに政府が補助金を出す、といった形式になるかも。
森野
コンパクトシティみたいにぎゅっと集まって、「そこにしか届きません」みたいになるんじゃないでしょうか。
物流問題って届く・届かないではなくて、町のあり方から問われていると思うんですよね。人口の少ない地域が点在するとなにかと効率が悪いので、一か所に固まらざるを得ない。その一方で感情的な面もありますし、歴史とか文化の面などいろいろな問題があります。
ネッタヌ
小売りは人口の増減に影響を受けるので、未来を見据えて運営していく必要がありますね。
森野
そう考えると、越境ECはチャンスだと思います。越境で商品を購入する人は増えていますし、日本の物価は世界と比べても安いので。インドネシアなど人口が多い国や地域で販売している人もいますし、海外に目を向けるなら今だと思います。もう少し遅くなるとみんな始めてしまうので。今、海外には夢がありますね。
ネッタヌ
テクノロジーがより発達して、カートなどが知らないうちに越境に対応している日が来るかもしれません。
森野
そうですね。AIなどの活用によって、ECでは国境がなくなっていく気がします。カートやツールのベンダーさんたちも「ここが伸びる」と思えば新しいものを出してくるでしょうし、そうなれば乗ってくる事業者も増えますよね。
ユーザー側がAIをもっと活用するようになったら、世の中はもっと変化するかも
森野
AIは必ず出てくるので、「楽天市場」などのモールは、似たような感じになっていくのではないでしょうか。そうすると、仕入れ型の店舗は差別化が難しくなり、何で勝負をしていくかを考えないといけなくなる。
「Shopify」では、既にAIを活用して商品説明文を作成したり、画像を編集したりする機能を導入しています。
「Shopify」のAI対応機能「Shopify Magic」。商品説明文の作成などが行えます(画像は「Shopify」のサイトからキャプチャ)
森野
今後、購入者側がAIを活用できたら、世の中は大分変化していくと思います。AIに「こんな感じの商品」とお願いしたら、「こういうモノがあって、これが最安値です」と提示してくれる世界がくるのではないかと予想しています。そうすると、「商品をわざわざ自分で選ばなくても良いかな」となってしまいそうですね。
ただ、ECは実際に商品がユーザーの元に届かないといけないので、現時点ではAIがどういった進化を遂げるか正直わからない部分が多いです。
ネッタヌ
EC事業者で、既にAIを活用している企業はいますか?
森野
クレームへのメール返信、レビューへのコメントなどで使っている人はいます。そういった対応はAIが向いていると思いますし、クレーム対応をAIが行ってくれるようになったら、ECの人もより楽しくなっていくと思います。EC業界でAIがどう活用されていくか楽しみですね。
連載を続けることで、ECの仕事に生かせることが増えた
ネッタヌ
今後、森野さんが実施したいことなどを教えて下さい。
森野
何もない週末は10年ぶりなので、最初は習慣がなくなって何もできないかもしれません。うっかり記事を書いちゃうかも(笑)
ただ、EC系のニュースを収集する習慣を止めてしまうのは勿体ないので、不定期で何か発信していきたいと思っています。これからは年数回、不定期で「ネッ担」でお会いできるかもしれません。
運営堂のメルマガは続けていくので、EC業務に役立つ情報を得たい人はぜひそちらをチェックしていただけたらと(笑)
ネッタヌ
最後に、連載を続けていて良かったと感じることを教えて下さい。
森野
実務やECの仕事に生かせたことが一番大きいですね。元々EC関連の仕事はしていましたが、連載を始めたことで、仕事の幅が広がり、在庫の扱いや商品設計など全体設計を見られるようになれたのは良かったです。
2年前も業界の流れについて語る座談会に呼んでもらえて、「そういうことができる人」だと思ってもらえるようになったのかなと。「インプレスさんのメディアで連載しています」と話すと「すごいですね!」と言っていただけるときもありましたし、運営堂というか私の認知度と信頼度アップにつながったと思っています。
それから、業界内で抑えておくべき人がわかるようになりましたし、そういった人たちとつながりやすくなりました。
「仕事で情報収集しなきゃ」と言う人は、強制的にアウトプットしなきゃいけないので、こういう連載のような、定期的に情報を発信するような仕事をすることをオススメします。
ネッタヌ
10年間、本当にありがとうございました! 森野さんの今後の記事も楽しみにしています!
◇◇◇
連載スタート時は小学生だったお子さんが高校生に成長するまでの年月にわたって連載を続けた森野さん。連載期間中は育児、引っ越しなど大変な時期も乗り越えてきました。現在はお子さんがネットで森野さんのことを検索して、連載やセミナー登壇記事を見て「お父さんってWebの専門家ですごい人なんだね」と言われるようになったそう。
そんな森野さんが平日毎日発行している「運営堂メルマガ(毎日堂)」はこちらから。X(旧Twitter)もぜひチェックしてみてください!
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:10年間でEC業界はどのように変化したのか? 運営堂の森野さんと振り返る業界の変化+注目トピック+長期間コンテンツを続けるコツ
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