米ウォルマートの子会社で、会員制スーパーマーケット「Sam's Club(サムズクラブ)」を運営するSam's West, Inc.(以下Sam's Club)は、顧客の利便性アップを追求しています。コロナ禍でも顧客に支持された数々の施策と成功事例を、Sam's Clubの担当者の話から解説します。
顧客の利便性アップを追求する米スーパーのSam's Club
Sam's Clubのeコマース担当副社長を務めるサブリナ・キャラハン氏は、コロナ禍の影響で顧客の生活やニーズが数日・数か月の間に次々と変化していく市況を目の当たりにしました。
「Sam's Club」の公式ECサイト(画像は同サイトから編集部がキャプチャ)
Sam's Clubは2020年、コロナ禍で小売業全体が店頭とECのオムニチャネル化を迫られた際、困難な状況のなかで迅速に適応。そして2024年、Sam's Clubはこれまでの4年間に取り組んだこと、そこから学んだことを土台にサービスの見直しを図っています。
2020年にECで注文した商品を店舗の駐車場で受け取るカーブサイド・ピックアップ(車中受け取り)を米国全土で開始。Sam's Clubはこのほか、アプリを使って購入予定の商品を顧客が店内でスキャンできる「Scan & Go(スキャンアンドゴー)」に投資したことでさらにブランド価値を高めました。
顧客が店内商品をスキャンする決済システム「Scan & Go」
ここ数か月でSam's Clubが提供する決済テクノロジーはさらに進化し、コンピューター・ビジョンを利用した新しいチェックアウト方法をスタート。これにより、顧客が店舗から退店する際、購入金額をレシートで確認する必要がなくなりました。
キャラハン氏と、Sam's Clubのデジタルマーチャンダイジング担当副社長であるジョーダン・エディ氏は、米カリフォルニア州南部の都市であるパームスプリングスで2月27日に開催された小売業界の招待制カンファレンス「eTail Connect West(イーリテイルコネクトウエスト)」に登壇。注目している顧客の傾向、オムニチャネル戦略について語りました。
キャラハン氏は後日、米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』のインタビューに応じ、キャラハン氏が見てきた市況の変化、Sam's Clubで現在うまくいっていること、そして今後の見通しについて詳しく説明しました。
Sam's Club eコマース担当副社長 サブリナ・キャラハン氏
EC責任者が振り返る顧客体験アップにつながったオムニチャネル施策
「Scan & Go」とカーブサイド・ピックアップが浸透
接客のホスピタリティーが求められるヒルトンホテルから転職してきたキャラハン氏がSam's Clubで最初に任されたのは、ブランドの開発と、そのソーシャルマーケティングの責任者でした。
キャラハン氏は「ブランドの開発と立ち上げ」という最初の任務を、自分にとって大きなチャンスだったと振り返ります。同時に、「Sam's Club」の会員がソーシャルプラットフォーム上でどのような顧客体験しているか注目するようにしました。
2019年の着任から、ブランドの立ち上げ、開発、展開が急速に進み、「Sam's Club」は大きな勢いがありましたが、そこに新型コロナが蔓えんしました。当時、私はEコマース事業に携わっていませんでしたが、コロナ禍で短期間にして市況が一変し、それに対して小売事業者がどのように適応していくのかを注視するのはとても興味深いことでした。(キャラハン氏)
キャラハン氏は、コロナ禍という最も困難な時期でもSam's Clubの従業員がきちんと出社して来たのを見て、やる気をもらったと語りました。さらに、オムニチャネル化の加速を通じて、新たに生まれたソリューションを目の当たりにすることができたと付け加えています。
コロナ禍でも「Sam's Club」が持ちこたえたのは、「Scan & Go」のおかげです。誰かと話したり、誰かに触れたり、誰かとの距離を気にすることなく店舗に来店して買い物できるのは、顧客にとって快適なことでした。しかし、そもそも「Sam's Club」の会員が店舗に来ることを避けたとしたら、どのような選択肢が残されていたでしょうか。ECで注文を受けた商品の配送サービスはコロナ禍当時もありましたが、即日配達に対応するサービスはありませんでした。そして、当時はカーブサイド・ピックアップのサービスもありませんでした。(キャラハン氏)
「Scan & Go」がコロナ禍のSam's Clubを支えたという
当時の夏、全米全土でカーブサイド・ピックアップが新たな買い物の仕方になったことで、すべての状況が変わったそうです。
カーブサイド・ピックアップはものすごい勢いで広がり、「Sam's Club」の会員たちもすぐに気に入ってくれました。突然、まったく新しい販売チャネルとまったく新しいサービスを導入することになったので、Sam's Clubにとっては大きな変化でしたが、会員たちからの要望に応えて素早くサービスを広げました。(キャラハン氏)
「Sam's Club」が会員向けに案内しているカーブサイド・ピックアップの手順(画像は「Sam's Club」の公式ECサイトから編集部がキャプチャ)
約半数の会員がアプリを利用
キャラハン氏は2022年にSam's ClubのEコマース事業に参画し、その後のオンラインと店舗のオムニチャネル化への取り組みでリーダーシップを発揮。「Sam's Club」のモバイルアプリは、オンライン注文以外にも複数の機能を提供しています。
たとえば、店内商品の「Scan & Go」に加えて、会員は店舗内のカフェでの注文、ガソリン代の支払い、店内で商品のバーコードをスキャンして個別に発送することもできるようになっています。
「Scan & Go」はカフェでの支払いなどもできる(画像はウォルマートのリリースからキャプチャ)
キャラハン氏によると、現在、「Sam's Club」の顧客の約3分の1がオンラインで商品を購入しているそうです。アプリの利用拡大が事業成長のチャンスとなるため、Sam's Clubは今後もアプリの活用を広げていくことになると考えています。
会員のうち約半数はアプリをダウンロードしていますが、実際に「Sam's Club」の商品をオンラインで購入している人は、そのうちのまだ3分の1にとどまっています。(キャラハン氏)
また、モバイル経由のサイトアクセス数が増えているため、今後はモバイルからのサイト利用者がアプリのユーザーになる可能性があるとキャラハン氏は見ています。
ECサイトのトラフィックのほぼ80%がモバイル経由です。現在、そのうちの50%はアプリ経由になっています。(キャラハン氏)
会員の「楽しさ」「快適さ」を広げる
一部のコアな会員によるニーズは変わっていません。キャラハン氏によると、利便性に焦点を当てると同時に、たとえば、商品棚をウィンドーショッピングしたり、サンプルの匂いをかいだり、食事を楽しんだりといった「Sam's Club」での体験を拡大するためのソリューションを増やしていくことに重きを置く予定です。
会員のために利便性を高めたいのです。それと同時に、さまざまな販売チャネルで購入体験をしてもらいたいと思っています。「Scan & Go」、カーブサイド・ピックアップ、当日配送サービス、店内での購入など、すべてのチャネルで買い物をしてもらえれば、会員の支出額は3倍になり、会員の更新率が向上して、ロイヤルカスタマーになる可能性も高くなることがわかっているからです(キャラハン氏)
市場調査や消費者動向に関するデータや統計を提供する、ドイツのStatista(スタティスタ)社が発表したデータによると、Sam's Clubの2023年売上高のうち、63%を食料品や消耗品が占めています。
食料品や消耗品カテゴリーの優位性は、「Sam's Club」のECチャネルにも表れています。しかし、キャラハン氏は、季節的な変化、「Sam's Club」のデジタルクーポンやオンラインイベントによる販促キャンペーンが購買に影響することもあると指摘。そのような場合、「Sam's Club」は電子機器、アパレル、家具など、売り上げに占める割合が低いカテゴリーをプッシュする可能性もあるということです。
デジタルの強みはレコメンド機能
「Sam's Club」のデジタル施策では何が最も効果的でしょうか? キャラハン氏は、顧客がよく注文する商品のレコメンド機能をあげました。「自分にとって買い物が便利であればあるほど、『Sam's Club』を利用してくれる会員が増えるのです」(キャラハン氏)
多くの場合、顧客はオンライン上の商品カルーセルや商品ページから商品を選んでいます。商品の選択後、過去の注文履歴から、カーブサイドでの受け取りが可能な商品が表示されることもあります。レコメンデーション機能をこのように改善し、買い物のプロセス全体で消費者の利便性を引き上げることを、キャラハン氏は狙っているのです。
私は会員の皆さんに「Sam's Club」で買い物をしていただきたいですし、買い物の際には快適な購入体験をしてもらいたいのです。会員は、「Sam's Club」に便利さを求めてやってくるのですから。(キャラハン氏)
付加価値の創造をめざして
より優れたレコメンデーションと利便性の向上は、キャラハン氏が改善したいと考えている2つのトピックスです。キャラハン氏はまた、「Sam's Club」が保有する40年にわたる会員データから新たなインサイトを得て、その過程で改善していくつもりです。将来的には、モバイル端末からのオンライン購入、店舗での受け取り(BOPIS)の両方が重要な役割を果たすと考えています。同時に、顧客がどのようなサービスを選ぶのかにも注目しています。
テクノロジーをどこまで活用できるのかを考え、より会員のためになる判断をするためにデータを活用し続け、さらに膨大な量のA/Bテストを行う予定です。新たな機能を会員に気に入ってもらえたかどうかを見るためです。テストの結果、会員に付加価値をもたらしていることがわかれば、新サービスとして迷わず展開していきます(キャラハン氏)
キャラハン氏は、利便性アップに価値があることを確信しています。
なぜなら、「Sam's Club」の会員は、『利便性がアップするなら、もっとお金を払ってもいい』と言っているからです。それが会員にとって重要なことであるなら、Sam's Clubも応えなければなりません。(キャラハン氏)
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オリジナル記事:買い物体験の向上には何が重要? ウォルマート子会社の会員制スーパー「Sam's Club」の事例に学ぶオムニチャネル施策 | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
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