ビーノスの直井聖太社長兼グループCEO
中国勢が世界を席巻、「より差別化を図らないといけない」
――直近の越境EC市場について。
コロナによるEC市場の特需が一段落したとはいえ、順調に数字としては伸びていると思う。最近のトレンドや大きな流れについては、まず、グローバルで見ると、(ファストファッションの)「Shein(シーイン)」さんだったり、(ECアプリの)「Temu(ティームー)」さんなど、越境ECにおいて中国勢が世界を席巻していることは周知の通り。これは我々のような日本からの越境ECビジネスにも少なからず影響がある。
日本企業からすると、より差別化を図らなくてはいけない段階にあり、きちんとブランディングされてない商品をECで販売したとしてもこれからは厳しい状況になるのではないか。
もちろんこれはシーインさんやティームーさんが出てくる前からの話。そもそもアマゾンで売ってる商品はノーブランドであっても買われているものがある。特に日用品については、どんどんそういった中国発の企業がたくさん出ていた。価格が安くて品質もそれなりに良いという商品が選ばれているのだと思う。シーインさんやとティームーさんの出現は、そうした流れを加速させる大きなきっかけになっている。
越境EC市場での変化は各国の規制
――市場での変化を特に感じる部分は。
各国の規制が変わってきたというのが日本にとっても重要なポイントだと思っている。例えば今年の1月からシンガポールにおいては400シンガポールドルを下回る商品に関してもGST(現地への輸出に関する税)がかかる形になった。今まであれば、通関業務も含めた処理の煩雑さを考えた場合、このような低価格帯の商品に関しては税がかからなかったというのがどの国でも一般的だった。いわゆる免税の上限額みたいなものが決められていたので、この金額以下の商品であれば税がかからないという形で簡素化されていた。
――なぜ、新たな規制ができるようになったのか。
ここは我々の認識としては、おそらく、越境ECでグローバルに商品を販売するプレーヤーがどんどん増えてきたことによって、各国が(自国の産業保護のために)規制を変えていった印象を受ける。この動きはシンガポールだけでなくインドネシアでもある。
オーストラリアやニュージーランドなどではそれ以前からこの越境ECが伸びてる状況下で、免税の上限額が低い商品であっても事業者がきちんと(購入者から税を)徴収して各国に納付しないといけないように変わっていた。そうした流れにアジアの国が続いているのだろう。EUにおいても、インボイスの項目に関してはより細かく明記しなくてはいけない状況が今年から始まっている。
おそらく、越境ECそのものが中国勢のプレイヤーによってゲームチェンジされてきたからだと認識している。国内の産業維持を見据えて、これまでのように手放しで海外の安い商品だけを買えば良いというわけにはいかなくなったことに各国が気付いて対策を取っているのではないか。
物流手段の確保が越境ECのカギに
――規制以外で変化を感じる問題は。
もう一つ、こうした背景の中でやはり物流が我々としては肝になってくると思うし、非常に難しい問題となっている。これは、コロナ禍においても浮き彫りになった問題で、国際線の便数が減少して、そもそもの空き枠が減ってきた。日本郵便のEMSに関しては地域によっては止まってしまったこともあった。同様に、国際宅配便業者についても物量に制限をかけたり、燃油サーチャージなどを受けて輸送価格が高騰したりした。このような中で、いかにして物流手段を確保して海外に送っていくかが問われる形になっている。
――越境ECを行う上で、これまでとは違うところで注意が必要になってきた。
やはり、今までの越境ECビジネスはそこまで特別に難しいものではなかった。あまりノウハウなどが無くてもどこかの大手モールに出店して任せておけば完結できた面もあり、そこまでグローバルにビジネスを考える必要もなかった。しかし、今はある種、商社のように世界中の情報を見て、先行きを読む力も必要になってきている。これまでとは違うビジネスゾーンに入ってきた感覚はある。物流をどのように抑えていくのか、また、情勢に合わせて激しく動く各国のレギュリエーにも対応することは非常に大きな課題だと思っている。
――物流については国内外を問わずEC業界で注目のテーマだ。
前述のシーインさんやティームーさんは、中国で製造したものを各国に運んでいるわけだが、そうした巨大な企業が動く中で日本企業が国際便の貨物の空枠を押さえるのは非常に難しいことだ。越境ECとして日本でどうやったらブランディングできるかということとはまた別に、そもそものインフラの確保だったり、レギュリエーション対応など、真剣にやらなければいけないフェーズが来ているということだと思う。
特に物流に関しては、当社でも独自に取り組んでて、9月から香港向けに関しても新配送サービスを開始した。台湾でも行っていたもので、受け取り場所について現地企業と組んでセルフ受取店舗やロッカー、カウンターなど自宅以外で受け取る機会を提供するもの。こうした国際配送をスムーズに行ってくる仕組みを作っていくことが重要になっている。
日本企業が取り組むべきことは
――物流事情や各国の規制内容などが変化する中、日本企業が取り組むべきことは。
今までは日本の人気ブランドを、海外の消費者が自分たちで知って買ってもらうことができていた。これからは日本企業から発信することが大事であり、インバウンドも絡めてブランドを認知してもらう取り組みが鍵になる。
――今、海外で支持される日本商品は。
よく売れるという点ではやはりホビー関連商材となる。それ以外では、昨年に当社が米国でキャラクターコスメを展開したところ、評判が良くてこの市場は成長するということを再認識できた。例えば、日本で人気のあったゲームキャラクターをブランディングに起用したコスメなどは意外と米国でも支持を得ることができた。現地のリアルの小売店からもっと販売してほしいという話も出たくらいだ。
また、こういったキャラクター商品は日本でのインバウンド人気もある。キャラクターのリップクリームなどを日本のリアルで土産物として購入している外国人観光客も少なくない。越境EC、現地のリアル店舗、日本でのインバウンド需要などを組み合わせながら顧客と接点を持っていくことを行っている。
――キャラクターコンテンツ商品以外のところでは。
一例として、当社でも支援をしている靴下のタビオさんとの取り組みがある。こちらはデザインや素材にこだわった単価の高い商品も取り扱っていて、海外でのプロモーションを支援した際にはその月の注文件数が3倍になったこともあった。きちんとした商品を作っていけば、まだまだマーケティングをしていく余地は十分あるというのが我々の感覚。また、以前に聞いたスタートアップ企業の話だが、北陸で昔ながらの日本食器を製造している職人の企業では、職人が作るストーリーをきちんと外国人目線で記事として落とし込んで販売したところ、一つのブランドとしての価値が伝わり、米国向けに成長しているところもあった。工芸品なので、決して単価も安いものではないが、一生懸命時間をかけて作っていることが伝わっているのだと思う。
――一方、売り上げで伸び悩んでいる企業の例としては。
やはりプロモーションなり、マーケティング活動なりを何かしら行わないと、自社商品が今持っている認知の範囲の中での売り上げにしかならないということはある。もちろん運良く何かのきっかけで注目されて、急激に売り上げが伸びるケースもあるので可能性がないわけではないが。とにかく、ここ数年で感じてるのは、日本企業による海外でのプロモーションが圧倒的に少ない。トライアンドエラーが少ないということ。この何年間かは日本企業も保守的になっていたり、自信を失っていることもあるのかもしれない。
中国向け越境ECの現状と影響は?
――今年10月時点で1ドル150円に近い為替となっているがその影響については。
越境ECにとって、追い風になっている部分は多少あると思う。1人当たりで購入する金額というのは日本円にすると増えているかもしれない。
――原発の処理水を巡り、中国政府が日本の海産物などの輸入規制を強化した。
当社でも2次流通でお酒などを扱っており、中国向けにも販売していたがそれがストップとなった。海産物だけではなくて食品全般が販売できなくなったので、市場が大きいことは事実だがリスクが大きいのも事実。当社も一時期は流通額で中国が50%に近いくらいの構成比となっていたが、年々減らしてきているということもあり、今では5%を切っているような状況。どちらかと言えば、今はもう影響を受けた後の段階にいる。
――越境ECで中国との取り引きが縮小することについては。
一つ言うと、日本の商品が中国にとってそこまでの魅力が無くなってきている面はある。10年くらい前は中国商品よりも日本商品の品質が高く見られて評価されていたが、今は中国の人たちも自国の商品が一番好きになっている状態。中国の電気自動車などが世界で伸びている例も大きい。自国のメーカーに対する消費者の信頼が増したという側面はあるし、実際に品質は向上している。
その上で、今回のような政治リスクもあるため、日本企業がわざわざ中国に入っていく余地は難しい面もある。もちろん、我々はまだ中国向けに活動は行っていて、別に閉鎖しているわけではないが、以前のようにそこだけに過度にフォーカスするようなことはしていない。すでに我々の販売国のうち、米国が約30%を占めている。
――今後の越境EC市場の可能性は。
間違いなく伸びていくと思う。当然、マクロの目線で見た時に、今後の世界経済の10年後を断言することは(紛争や政情不安など)不確定要素もあって難しい。
ただし、そうした不確定要素を抜きにして考えると、日本が差別化した商品であったり、ブランド化した商品を売っていく市場は間違いなく広がっている。そこをチャンスと見て飛び込むのか、日本の国内で止まっているのかということは、今、皆さんに決断してもらうタイミングが来ているのかもしれない。やはり、どうしても国内はなかなか伸びにくい状況となっているわけなので。
日本はASEANの各国や欧米との関係性が悪いわけではないので、市場はそれぞれある。そうした国々は経済も上り調子にあるため、そこに対して果敢に攻めて行くかどうかを考えるかということだと思う。
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オリジナル記事:「Shein」「Temu」などが世界を席巻、日本企業が越境EC市場を攻略するカギは?【BEENOS直井聖太社長に聞く】 | 通販新聞ダイジェスト
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