「再配達削減」に向けた取り組みで提携を強化すると発表した楽天と日本郵便。「店頭受取拠点」の拡充、「はこぽす」「楽天BOX」といった宅配ロッカーの利用促進、「指定場所配達サービス」、配達時間などの「通知サービス」といった多岐にわたる連携を計画している。
ECプラットフォームとして初めて「再配達削減策」に乗り出すその内容は? 出店者にはどんな影響があるのか? 楽天に取材した。
出店者はお得? 「特別運賃の提供」
「再配達削減」に向けた取り組みによる連携強化の内容は主に、「特別運賃の提供」「多様な受け取り方法の提供」の2つ。
配送運賃をめぐっては、ヤマト運輸が宅急便の基本運賃を27年ぶりに値上げすると発表。販管費の膨張につながる送料の値上げはEC事業者にとっては最も気になるところ。今回の連携強化によって、「特別運賃」は出店者か注目が集まっている。
通常、配送料金の契約は、EC事業者と日本郵便による直接契約。「特別運賃の提供」では、楽天が日本郵便と送料に関する契約を行い、出店者に楽天市場出店の特別運賃を提供する仕組みとなる。
配送ボリュームが大きい企業は送料に関し、ボリュームディスカウントによる配送料金で契約しやすいが、中小企業は難しい。今回の連携によって、こうした個別交渉がなかなかできなかった店舗でも、楽天市場の荷物を日本郵便で配送する際は、店舗によって以前よりも安い送料で商品を配送できるようになる。
出店者向けの特別料金についてこう説明するのは、ECカンパニー SCMイノベーション課 ヴァイスシニアマネージャーの佐藤敏春氏。中小企業向けの一律料金の提供のように映るが、大口顧客に対しても個別対応していくという。
ECカンパニー SCMイノベーション課 ヴァイスシニアマネージャーの佐藤敏春氏
配送個数の多い大口顧客は、ディスカウント価格が適用されているケースがほとんど。そのため、特別運賃の提供でメリットを受けることができない可能性がある。特別運賃が契約料金を上回る場合、「楽天と日本郵便で個別に対応していく」(佐藤氏)。
なお、具体的な料金体系は非公開。4月末までには出店者への説明を始めるという。特別運賃は、日本郵便の「ゆうパック」「ゆうパケット」で配送する店舗の荷物が対象となる。
連携を強化する理由はサプライチェーンの課題解決
佐藤氏が所属するSCMイノベーション課(SCMはsupply chain managementの略)は、商品が届くまでのラストワンマイルにおいて、サービスの改善、革新的新サービスの開発を担当するチーム。佐藤氏はこう言う。
楽天では以前から問題意識を抱えていた。配送面で付加価値を生むにはどうしたらいいのか。それを実現するため、2016年にSCMイノベーション課が新設された。
再配達のさまざまな問題について、「楽天市場」で
特設ページを設けて利用者に啓蒙している
日本郵便との連携を進めてきた楽天だが、これをさらに深化させるのは中長期的なEC市場の成長を見据えた戦略があるため。端的に説明すると、配送関連のビッグデータを配送キャリアと共有・分析していくことで、サプライチェーンに関する課題を解決していく狙いがある。
楽天が取り組んでいる配送関連の動き
◆配送キャリアとの連携
- 2015年7月 ヤマト運輸との連携(提携コンビニ約2万拠点、ヤマト運輸直営店約4千拠点)
- 2015年9月 日本郵便との連携(ローソンで受取。11月にミニストップ、2016年5月にファミリーマート)
- 2016年7月 佐川急便との連携(ローソンで受取)
- 2017年4月 日本郵便との連携の強化(EC物流における不在再配達削減に向けて)
◆拠点受取の拡充
宅配ロッカー:
- 2014年5月 「楽天BOX」開始、(現在23か所。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便での配送)
- 2015年4月 「はこぽす」開始、(現在86か所。日本郵便での配送)
コンビニ受取:
- 2015年9月 ローソンでの受取開始(日本郵便、佐川急便での配送)
- 2015年11月 ミニストップでの受取開始(日本郵便での配送)
- 2016年5月 ファミリーマートでの受取開始(日本郵便、ヤマト運輸での配送)
郵便局受取:
- 2017年内 全国2万局において開始予定(※詳細検討中)
指定場所配達:
◆その他
- 2016年4月 商品ページに、配送目処(納期情報)の記入を推奨
- 2017年4月 出店店舗向け、日本郵便の特別運賃の案内(※2017年夏頃から適用開始予定)
通常、配送面は出店者と配送キャリアが契約するため、プラットフォーム側、配送キャリア側の間に情報の分断が発生してしまう。
たとえば、プラットフォーム側は、1回で荷物は配送できたのか否か、配送キャリアへの問い合わせはどのような内容だったのか――といった情報は把握することができない。一方、配送キャリア側は配送している荷物がどこのプラットフォーム経由の商品なのかといった情報は入手できない。
今回の連携深化によって「データ連係も行っていく。出店者と配送キャリアをシステムでつなぎ、ビッグデータを収集・解析していく」(佐藤氏)と言う。データ連携により、
- 再配達利用が多い顧客の把握
- 再配達利用が多いエリアなどの把握
- 在宅・不在時間の傾向値の把握
など、プラットフォームと配送キャリアがさまざまな配送に関するさまざまな情報を共有。タッグを組むことによってこれまでできなかった再配達削減策などを創造し、出店者や契約企業と共有していくという。
多様な受け取り方法の提供を実現する4つの施策
楽天は日本郵便との連携強化で、「多様な受け取り方法の提供」で4つの施策を行う。
「多様な受け取り方法の提供」の4施策
拠点受取サービス
2017年1~3月に楽天市場で注文された商品の自宅外受け取り(コンビニ・ロッカー・店頭)の件数は直前3か月に比べて2倍以上。着実に利用者が増えている状況にある。
楽天と日本郵便は2015年4月、日本郵便の宅配ロッカー「はこぽす」での受け取り実験をスタート。楽天の宅配ロッカー「楽天BOX」、コンビニ受け取りでも協業している。
ファミリーマートやミニストップ、ローソンといったコンビニ店頭での受け取りに加え、今後は日本郵便の郵便局窓口約2万局での受け取りサービスを展開する(2017年中を予定)。
指定場所配達サービス
顧客が注文時に指定した箇所に荷物を届けるサービスを2017年中にも開始する予定。
同様のサービスには、ファンケルが1997年から実施している独自の配送サービス「置き場所指定お届け」がある。「玄関前」「自転車のカゴ」「ガスメーターボックス」など9種類の中から、商品を受け取る場所を顧客が指定。場所を一度登録すると、次回の注文以降は同じ場所に商品が届く。
商品の配送が完了すると、配達員が完了通知書を顧客の自宅ポストに投函する仕組み。受領印は不要。万一、商品が紛失した場合は改めて商品を送付する。
ファンケルの「置き場所指定お届け」を利用できる場所の例
ファンケルの「置き場所指定お届け」を利用できる場所の例
2015年4月~2016年3月における「置き場所指定お届け」を利用した配送は全体の30%で、消費者からのニーズは高い。
楽天も同様に、「玄関前」などに指定箇所を想定。マンションなどでは集合ポスト、管理人預け、宅配ボックスなどへ直接投函することも考えている。
お届け通知サービス
出荷時や配送員が最寄りの郵便局を出発した段階で、アプリのプッシュ通知などで購入者に配送情報を告知するサービスも2017年内に始める。
通知方法は「楽天市場」のアプリのほか、eメールなどを検討していく。
検討しているアプリのプッシュ通知やメールは楽天のシステムから自動配信するため、店舗側の負担はない。日本郵便を使った配送時に必要となる伝票番号を活用。この伝票番号を利用し、購入者にお届け日時を知らせるサービスを展開する。
1回受け取りで、楽天スーパーポイント付与
「楽天市場」で購入した商品を初回配達時に受け取った消費者に対して「楽天スーパーポイント」を付与する新たなキャンペーンを4月25日からスタートした。
これは、楽天と日本郵便による共同事業。環境省が主導する宅配便の再配達削減プロジェクト「COOL CHOICEできるだけ一回で受け取りませんかキャンペーン~みんなで宅配便再配達防止に取り組むプロジェクト~」に楽天も日本郵便も参画している。
このプロジェクトの一環として日本郵便は4月25日から、通販・EC会社が発送した「ゆうパック」を郵便局やコンビニ、宅配ロッカー「はこぽす」で受け取った消費者にポイントを付与する「COOL CHOISEできるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン」を開始。
楽天はこの仕組みに参加し、「楽天市場」で商品を購入し、「ゆうパック」で送られた商品を指定条件で受け取ると「楽天スーパーポイント」を付与するようにしている。
なお、このプロジェクトは日本郵便が主導しており、ポイントは日本郵便が負担。9月30日までの限定キャンペーンとなる。
楽天はこのプロジェクトの結果を見て、継続的に利用できるポイント付与の仕組み作りを検討したいとしている。
楽天は4月28日から各店舗への特別運賃に関する告知などを行っていく
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オリジナル記事:再配達はどう減らす? 楽天が始める出店者への特別運賃・多様な受取方法の施策とは | 再配達問題を考えよう! わが社の再配達削減策
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