第4回
予想外の行動をするユーザーの心をつかまえる
~ユーザー中心設計実践のコツ~
現実の店舗や窓口では、目の前にいるお客が困っていればすぐにわかるし、同じトラブルが重なれば問題が起きないように施策をとる。しかし、ウェブサイトを作っているときにはお客は目の前にいないし、公開後にお客の対応をするのはウェブサーバーやスクリプトという機械だ。そのため、現実の商売では当然のように行っている接客ができない、いや忘れてしまってはいないだろうか?
今木 智隆(株式会社ビービット)
「情報構造が整理されていればよい」と思ったら大間違い
これまで、「ウェブページのフォーム」や「ユーザーの目線」といったテーマを採り上げて、ユーザーにとって使いやすい(≒ビジネスに貢献する)サイト設計のコツについて書いてきた。今回は、実際にユーザビリティテストを行った結果わかった特徴的な行動パターンを具体的に交え、ユーザーの行動や心理モデルを踏まえた設計のコツについて解説する。
ユーザーは、せっかちで、しかもワガママである
この言葉は、ソフトウェア開発で知られるアラン・クーパーの著書『ユーザーインターフェイスデザイン――Windows 95時代のソフトウェアデザインを考える』(翔泳社)より抜粋したものであるが、これこそがユーザー中心設計における基本概念である。
ユーザーがサイト設計者の思いどおりに動くと思ったら大間違いである。また、大きくスペースを取って情報を置いたり目立つように配置したからといって、その情報をユーザーが見てくれるという考えもまったく通用しない。
これから紹介する事例をご覧いただければ一目瞭然であるが、目的を持ってサイトを訪れたユーザーは、見たいものしか見ないし、頭に浮かんでいるキーワードと少しでも違う情報には、まったく目もくれずに先へ先へと進んで行くのである。
最近では、CMS(コンテンツ管理システム)の導入も進み、情報構造が綺麗に整理されたサイトを非常に多く見かける。ところが、このようなサイトをユーザーに使ってもらうと、実はまったく「使えない」サイトであることが多い。
これは、ユーザーの行動パターンや心理の移り変わりを踏まえず、情報提供者側の論理で一方的に情報を区切ってしまったことから生じる問題である。
カテゴリーを整理したことがユーザーの行動を制限し、迷わせた
具体例として、製品を取り扱っているメーカーサイトでのユーザー行動を採り上げてみよう。すべてのメーカーサイトに当てはまるわけではないが、「綺麗に情報を切り分ける」ことがいかに危険かという一例だ。
図1、2に示したサイトでは、トップページにおいて、購入目的のユーザーと製品の情報を知りたいユーザーとを振り分ける流れで、カテゴリーを整理し情報提供を行っている。
一見、非常によくまとまっているように見えるが、実際にユーザーに使ってもらうと、まったくといっていいほどサイトが機能しなかったのである。
このサイトを訪れるユーザーは、自分が欲しいと思っている製品の名前(たとえば、ノートパソコン、ヒゲ剃り、光学マウスなど)を頭に描いており、とりあえず「ショッピング」か「製品情報」のどちらかに飛び込んで、その中で延々と情報収集を行う。その結果、次のような状況に陥ってしまっていた。
- ショッピングのカテゴリーへと誘導されたユーザーは、製品情報やサポート情報が十分に得られず、離脱してしまう。
- 製品情報のカテゴリーへと誘導されたユーザーは、購入ができずに、離脱してしまう。
また「ショッピング」と「製品情報」のカテゴリーをある程度リンクで結んでみても、ユーザーは自分がどちらのカテゴリーにいるのかを気にしないし、カテゴリー間を移動したことに気づいてすらいないことも多いために、製品を「買いたい」と思ったタイミングで購入ボタンが見つからず、右往左往してしまうという結果が見られた。
このように、情報は単に「綺麗に整理されている」だけではまったく意味を成さない。ましてや、それが提供者側の都合によるものである限り、本当に使いやすいサイトにはなり得ない。
ユーザーが何を頭に描いてサイトを訪問しどういう行動をとるのかを把握し、そのシナリオに沿って柔軟に情報提供を行うこと
これこそが、「ビジネス成果を生むサイト構築」のポイントである。
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