サイト閉鎖の“良い終活” SEOダメージを最小化する3例とドメイン名10年保持の鉄則

いつから準備し、SEO資産を残す方法、閉鎖後のドメイン扱いなどサイトの“良い終活”を聞きました。

四谷志穂(Web担編集長)

12月17日 7:05

サイトを閉じることになってしまった――。
サイトを閉じる“終活”は、失敗するとユーザーの信頼を一気に失うだけでなく、これまで頑張って積み上げてきたSEOの資産や価値を、一瞬でゼロにしてしまう「会社にとっての大きな危機」につながります。

本記事では、日本の検索トラフィックの約1割を扱うともいわれるso.laの辻さんと伊藤さんに、サイトの良い終活方法を聞きました。

インタビュイー

辻 正浩氏 (つじ まさひろ) 
株式会社so.la/株式会社Faber Company

伊藤 壮良氏 (いとう そら) 
株式会社so.la

ウェブサイトを予告なく突然閉鎖すると、どのような影響が出るのでしょうか?

ユーザー側から見ると、普段見ていたサイトが突然なくなることで、企業への信頼が大きく損なわれることになります。企業にとっては、ユーザーだけでなく取引先からも「サービスも突然止めてしまう会社なのでは」という印象を与え、信頼性の低下につながってしまいます。

ユーザーの混乱以上に大きい影響は、やはりSEOの観点でしょうか?

その通りです。サイト閉鎖によるSEOへのダメージは大きく、主に2つのポイントがあります:

リンク価値の喪失:
削除されたページ、404ページに貼られたリンクをGoogleは無視します。そのため、サイト閉鎖によって、それまで蓄積してきた被リンク価値が一気に失われてしまうのです。特にオウンドメディアの場合、閉鎖によってそのサイトへのリンクの9割が消失し、サービスサイトそのものの検索順位まで急落するケースを何度も見てきました。


ネット上での存在感(ブランド/需要)の喪失:
現在のSEOは「ネット上でどれだけ求められているか」が重要視されています。求められているメディアを閉鎖してしまうと、ネット上での存在感が一気に低下し、SEO上で致命的なダメージになります。これは、昨今注目されているAI検索対応の観点から見ても、さらに重要度が増しています。

閉鎖の準備期間:理想は半年、最小化すべきリスク

サイトは閉鎖しないほうが良いという結論になりそうですが、避けられない場合はどうすれば良いでしょうか?

本来は閉鎖しないほうがいいと思いますが、重要なのは「閉鎖しないこと」ではなく、「閉鎖によるリスクをどれだけ最小化できるか」です。適切な対応によって他サイトへのダメージを抑えることは可能です。

サイトを閉鎖する準備は、どのくらい前から始めるのが理想でしょうか?

明確な決まりはありませんが、ユーザーに唐突な影響を与えないこと、そしてユーザーへの告知よりも前に、関係者への周知を済ませておくことが非常に重要です。関係者には、取引先だけでなく、記事を依頼していたライターや外部編集者なども含みます。

  • ユーザーへの告知:閉鎖の約3ヶ月前に行う企業が多い
  • 社内調整や関係者への通知・準備作業:ユーザー告知のさらに1ヶ月前から始まる

最終決定をした段階から逆算すると、4〜5ヶ月ほどは必要だと考えています。ざっくり言えば、半年くらい前から社内で動き始めるのが余裕を持ったスケジュールです。関係者への連絡が不十分だったため、外部ライターが強い不信感を抱き、「もうその企業グループの仕事は受けない」となってしまう例もありました。

実際に記事の更新を止めるタイミングは、一般的にどれくらい前になるのでしょうか?

一般的には、閉鎖の約1ヶ月前に記事更新を停止するケースが多いです。しかし、告知と同時に記事更新を突然止めてしまうと、ユーザーからは「突然消えた」という印象になりがちです。サイトが消えること自体よりも、信頼感を損なうリスクのほうが大きいことを理解しておく必要があります。

閉鎖時の対応:リンク価値を保持する3つの方法

サイト閉鎖の際、一般的には301リダイレクトが行われますが、SEOやユーザー動線の観点から見て、最も望ましい対応は何でしょうか?

SEOの観点で言うと、価値を保つためには記事を残すしかありません。リダイレクトだけで価値を維持することは困難です。特に外部とつながる役割を担っていたサイトを閉じる場合は、その価値を可能な限り残す必要があります。

残す方法としては、以下の3つの対応が考えられます:

  1. 記事をそのまま公開し続ける
  2. サイトを静的化しアーカイブとして残す
  3. 価値の高い記事だけを選別して残す

1の記事をそのまま残しておくのがベストではあります。しかし、動的なCMSを残したままにすると、セキュリティ上のトラブルや外部サービス障害などのトラブルリスクがあります。リスクを考えても静的化は避けられません。

元の姿を保存し、在りし日を偲べるように“ミイラ化”しておくイメージですね。

ミイラ化…そうかもしれませんね(笑)。すべての記事を残すのが現実的でない場合、特に人気の高かった記事や多くのリンクを受けていたページなど、上位数十本だけでも残すことを強く推奨します。全体の9割を削除しても、1割を残すことで価値の毀損を大きく抑えられ、管理コストも下げられます。

これが現実的な落としどころだと思います。多くのサイトやオウンドメディアでは長く読まれ続ける記事、価値を生み続けている記事は全体の1%程度しかありません。その“価値ある1%”だけを残すことで、リンク価値もブランド価値も大部分を維持できると考えられます。

3つの方法が無理な場合、301リダイレクトは意味がないのでしょうか?

メディアを削除した際にリダイレクトを使うことが無意味ではありませんが、301リダイレクトには限界があります。多くのページから1つのページに集約すると、価値は大幅に減衰します。

さらに、Googleの仕様上、リダイレクトを評価させるには1年以上の継続が必要です。すぐに外してしまうと評価は引き継がれないことがあります。別ドメインで運用していたものを廃止する際には、301リダイレクトを1年続けることが必須です。

リンクが100本あったURL1を別ドメイン名のURL2へリダイレクトすると一般的には8割程度の価値がURL2に引き継がれる。1年以上経過後に、リダイレクトを解除しても移動した価値はURL2に維持される

サイトをアーカイブ保存する場合、スクリーンショットではなくHTML化のほうが良いのでしょうか?

はい、HTMLとして残すことが重要です。スクリーンショットでは検索に対応できず、検索流入は完全に途絶えてしまいます。

価値を活かす良い終活の4事例

サイトごと別の会社に「移譲」するケースについてはどうでしょうか?

企業としては自社の利益やブランド価値は弱くなりますが、メディアが築いてきたインターネット上の価値をゼロにせず残すという観点では、移譲は望ましい方法だと思います。読者に価値を提供し続けられますし、ネット上の歴史も途切れません。ここで、サイトの良い終活事例を4つ紹介します:

移譲するケース:
事業会社が運営するオウンドメディア「ソレドコ」を運営協力していたはてなが引き継いだケースがあります。
※参考:2023年4月3日、ソレドコがリニューアルします!そして、はてなが運営を引き継ぎます!

記事の権利をライターに渡すケース:
また、閉鎖せざるを得ない場合でも、担当者が外部ライター全員に「記事の著作権を放棄しますので、ご自身のブログに移設して構いません」と伝え、記事をネット上に多数残した例もあります。企業は撤退でも価値を無にせず残したいという努力が見え、素晴らしい終活だったと言えます。

終了ではなく更新停止で継続するケース:
厳密には閉鎖とは違いますが、たとえば「ウートピ※1」や、ぐるなびの「みんなのごはん※2」などは、“終了”ではなく“更新停止”と発表した後に、読者の要望を受けて更新を再開。更新頻度を落として細く長く続けた事例もあります。

※1参考:ウートピ:サイト更新停止のお知らせ(2023/09/22)
https://wotopi.jp/archives/148659
https://wotopi.jp/about

※2参考:みんなのごはん:みんなのごはん更新停止のお知らせ(2019/06/27)
https://r.gnavi.co.jp/g-interview/see-you-again
https://r.gnavi.co.jp/g-interview/we-are-back

ドメイン名だけ残すケース:
TechCrunch Japan(テッククランチ 日本版)は2022/03/31に閉鎖しました。記事はすべて消えてしまいましたが、ドメイン名とトップページ、3/31に更新した記事と謝辞は残ったままです。ある意味、“お墓を残した”と言えるかもしれません。検索した人に対して、お知らせが残る形になっていて、これも良い終活事例だと思います。

テッククランチ日本版

終わってみて初めて「やはり必要だった」となった場合、「戻す」選択肢を残しておくという視点も大事です。

使わなくなったドメイン名は捨てない

サイトを終わらせる際、ドメイン名をどう扱うかという問題があります。

使わなくなったドメイン名は手放さず保持すべきです。「ペットとドメインは、かったら最後まで面倒を見る」と私は常に言ってますが、その覚悟が必要です。

最低限の責任として、ドメイン名の価値をリセットするためにも、リダイレクトを設定し、最低1年間維持する必要があります。できれば1年間だけでなく、さらに9年間(計10年)保持してリダイレクトを継続することを推奨します。

  • 1年はGoogleに忘れもらうため
  • 残りの9年間は人間に忘れてもらうため

ドメイン名を放棄すると詐欺サイトなどに悪用され、企業のブランドが毀損するだけでなく、「だらしない管理をしていた企業」という世論が形成されつつあります。

特にここ2〜3年で海外からの犯罪目的でのドメイン悪用が大幅に増えました。ドメイン名のトラブルでは、厚生労働省やドコモ口座などは記憶に新しいです。

一度手放したドメイン名を再取得するのはとても大変です。ドメイン名を手放すことは、サイトのみならず、メールアドレスにも活用できます。最近は、メールを使った犯罪行為も増えていますので、「安易にドメイン名を取得しない。一度取得したら手放さない」は覚えておいて欲しいです。

厚生労働省:【重要なお知らせ(注意喚起)】令和6年6月にドメインを変更した「医療機関ネットパトロール」サイトのURLを利用した新たなサイトは厚生労働省と関係ありません

ドコモ口座ドメイン名流出の背景 企業・政府におけるドメイン運用の課題

都心でお墓を集積化するサービスがありますよね。辻さんの会社で“ドメインのお墓”サービスを始める予定はないんですか?

そういったサービスを展開しているところもありますが、本気で誰かがやるべきサービスだと思ってます。

終活のための日頃の備え:価値ある記事の棚卸し

技術的な観点よりも、価値をどう残すかという視点が重要だということですね。日頃からできる備えはありますか?

終活せずに継続できることが望ましいですが、終活せざるを得ない場合を想定すると「価値ある記事の棚卸し」はぜひやってもらいたいです。オウンドメディアで“価値ある過去記事のリスト”を持っているところをほとんど見たことがありません。人の終活でも財産を整理してエンディングノートにまとめますが、それと同じだと考えてください。

日頃から財産をきちんと管理しておけば、終活時の整理にも役立ちます。そして、それはサイトの構成にも活かすべきと思います。具体的には次の通り:

  • 過去の良記事が見える導線を設ける
  • 「傑作選」コーナーをつくる
  • 新着とは別動線で提示する

上記のような工夫で、長く読まれる記事を積極的に活かすべきです。長く運営しているサイトでは、公開後1年経つとほぼ全記事のアクセスがゼロになるのが現実ですがあまりにもったいないですよね。

長く読まれる記事に動線をつくることが、SEOにも影響するのでしょうか?

大きく影響します。リライトせずにトップページから動線を1本置くだけで、検索順位が復活する例もあります。今のGoogleは人の動きを評価指標にしているためです。つまり、良いコンテンツにユーザーを送り込み続ければ検索順位は維持されることが多いのです。

現状、多くのサイトではトレンド記事と同じ動線しかなく、過去の良記事に人を送り込めない構造になっています。長く読まれる記事を整理し、増やし、動線をつくり、人を送り込み続ければ、検索流入は安定して取り続けられます。

サイトの財産、過去の良記事を把握していれば終活のときにうまく管理しやすくなりますが、しっかり財産を管理して増やすことができれば、サイト終了自体も避けられるかもしれません。

良い“終活”は最後まで諦めない

最後に、サイトの“終活”について、読者へメッセージをお願いします。

サイトの「終活」は非常に重い決断です。いわば“会社の資産がひとつ死ぬ”わけですから。本当に大きな出来事です。

ただ、一番お伝えしたいのは、終活=終わらせることではないということです。できる限り、終わらせないでください。サイトはブランドとユーザーをつなぐ港です。そこに、まだつながっている誰かがいるのであれば、最後まで諦めるべきではありません。

インターネットとブランドの関係性はこれからさらに重要になります。つながる場所を失えば、これまで以上に厳しい状況になります。だからこそ、どうしようもない状況であっても、少しでも残す方法を考えていただきたいのです。

どうか、最後まで諦めないでください。そして、もし終わりを迎えるとしても、価値を残す形で終わらせてください。それが、インターネットに生きる私たちにできる、最も尊い姿勢だと思います。

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