ネットショップ担当者フォーラム

楽天が独自の配送サービス「Rakuten EXPRESS」を終了へ。ラストワンマイルは日本郵便などへ移管、出店者への影響はなし

4 years 6ヶ月 ago

楽天グループは、独自の配送サービス「Rakuten EXPRESS」を終了する。楽天が独自に消費者へ商品を届けるラストワンマイルは、順次、日本郵便を中心に他の配送キャリアに移行する。「楽天市場」出店者への影響はないという。

「Rakuten EXPRESS」は、楽天グループで生活用品や日用品を取り扱う「Rakuten24」などの直販、「楽天ブックス」、ファッション通販サイト「Rakuten Fashion」、家電ECサイト「楽天ビック」の商品、「楽天市場」出店店舗を対象とする物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」で受託する一部の荷物を自社配送するラストワンマイルのサービス。

楽天グループは、独自の配送サービス「Rakuten EXPRESS」を終了へ
終了する予定の「Rakuten EXPRESS」のイメージ

楽天グループが担っていたラストワンマイルは、資本・業務提携先の日本郵政傘下の日本郵便を中心に、他の配送キャリアへ順次、移行する。「Rakuten EXPRESS」の人口カバー率は約70%。三木谷浩史会長兼社長は、残りの30%を自社配送でカバーするには「コストが相当かかる」と説明していた。

「Rakuten EXPRESS」の業務委託先には5月に入り、サービスを終了する旨の説明をスタート。終了時期は明らかにしていないものの、委託先との調整を進め、順次、終了するとしている。

楽天グループは単独での物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の構築ではなく、日本郵便と物流拠点や配送システム、受取サービスの構築、楽天フルフィルメントセンター、ゆうパックなどの利用拡大に向けた取り組みを共同で進める構想を掲げている。

事業を推進するのは2社出資の合弁会社「JP楽天ロジスティクス株式会社」。まず、楽天グループが新設する完全子会社「JP楽天ロジスティクス合同会社」に、物流事業に関る権利義務を簡易吸収分割の形式で承継。7月1日に楽天、日本郵便が「JP楽天ロジスティクス合同会社」に出資し、翌日に「JP楽天ロジスティクス株式会社」へ商号変更する予定。

楽天グループ 楽天グループと日本郵便による合弁会社「JP楽天ロジスティクス株式会社」
楽天グループと日本郵便による合弁会社「JP楽天ロジスティクス株式会社」(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)
瀧川 正実
瀧川 正実

「熱狂的なファン」が集まるZapposがアパレルを拡充する理由。ロイヤル顧客の声に応えるザッポスの戦略意図とは? | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ

4 years 6ヶ月 ago
顧客志向のサービスで「熱狂的なファン」が集まるZapposがアパレル販売を拡充しています。その戦略意図を見ていきます

靴のECサイトを運営する「Zappos」は、女性向けファッションブランドの「M.M.LaFleur」とパートナーシップを結びました。今後も主要アパレルブランドの販売を拡充していくことでしょう。Zapposがアパレル販売を拡充する戦略意図を探っていきます。

「Zappos.com」内でアパレルカテゴリーが成長

「M.M.LaFleur」はZapposでのデビューと同時に、コロナ禍の影響で仕事を離れている多くの女性のために、プロフェッショナルな女性の服装に焦点を当てた仕事復帰キャンペーンを開始しました。

Zappos内で販売している「M.M.LaFleur」の商品例
「Zappos.com」内で販売している「M.M.LaFleur」の商品例(画像:「Zappos.com」から編集部がキャプチャ)

Zapposのクリスティ・ハウザー氏(オペレーションおよびブランドパートナーシップ担当ディレクター)は、「アパレルはZapposのMDの中で新たに成長しているカテゴリーで、全体の売り上げの中でアパレルが占める割合は、四半期ごとに大きくなっています」と言います。

ここ数年、Zapposは数百のアパレルブランドをサイトに追加していますが、「2021年にはアパレル商品を大幅に拡大する予定」とハウザー氏は言います。

Zapposは2016年、「New Balance」の衣類品からアパレル商材の販売をスタート。消費者の「『Zappos.com』でもっと衣料品を購入したい」という声を受け、アパレルへの本格的な進出を始めたのは、ここ数年のことです。

私たちは靴の販売で知られていますが、ここ数年、アパレルへの要望が増えています。我々はそんなお客さまの声をとても大切にしています。(ハウザー氏)

ロイヤルティの高い顧客層は、いろいろな商品をZapposで購入したいと考えています。彼らは、「Zappos.com」内で衣料品のショッピングが完結することを望んでいるのです。Zapposはここ数年、徐々に衣料品の取り扱いを拡大してきましたが、独自のアパレルブランドを立ち上げる予定はありません。(ハウザー氏)

収益は折半、「M.M.LaFleur」の取り扱い

「Zappos.com」で取り扱いが始まった最新のブランドの1つが、女性向けアパレルブランド「M.M.LaFleur」です。Zapposと「M.M.LaFleur」は2020年12月、パートナーシップを開始しました。ハウザー氏によると、両社の関係は卸売りに似た「収益折半モデル」。Zapposが「M.M.LaFleur」の商品を購入、倉庫に保管すると同時に、発送、返品、カスタマーサービスの問い合わせなどすべてに対応しています。

Zapposは2021年4月、数十種類の「M.M.LaFleur」商品の販売をスタートしました。この立ち上げは、コロナ禍の影響で仕事を離れているビジネスウーマンの仕事復帰に焦点を当てたキャンペーンと同時進行に行われました。

「M.M.LaFleur」が「Zappos.com」内で実施している仕事復帰キャンペーン
「M.M.LaFleur」が「Zappos.com」内で実施している仕事復帰キャンペーン(画像:Zapposのサイトから編集部がキャプチャ)

このキャンペーンは、「Zappos.com」内のブランドページで展開されています。そのページでは、コロナ禍後に再就職する女性のために、Zoomでの面接時におススメの服、職場復帰の初日、在宅勤務から職場に復帰する際におススメの服といった切り口で「M.M.LaFleur」の服を紹介。また、Zoomを使った就職面接のコツも解説しています。

Zapposと「M.M.LaFleur」は、コロナ禍で働く女性が直面する問題(自宅で子供の世話をするために、多くの女性が男性よりも職場を離れなければならないなど)に焦点を当てたキャンペーンを開始しました。同時にZapposは、非営利団体「Dress for Success Worldwide」に2万5,000ドルを寄付しています。

この寄付金は、恵まれない女性をサポートし職業訓練を提供する団体のプログラムのために活用されます。また、仕事用に新しいワードローブを必要としている身近な女性を消費者がZapposに推薦できるキャンペーンを行い、10人の女性に500ドルのギフトカードをプレゼントしました。

キャンペーンの効果測定は、エンゲージメントと商品へのフィードバックで

売上データは非公開ですが、「これまでのところ、このキャンペーンは順調に進んでおり、コロナ禍の問題に光を当てたことについて、顧客や顧客以外からも好意的なメッセージがZapposに寄せられている」とハウザー氏は語っています。「Zappos.com」内の「M.M.LaFleur」ブランドページへの顧客のエンゲージメントと、商品へのフィードバックをKPIにしてキャンペーンの成功を測定しています。

成功を測る方法はいくつかあります。「M.M.LaFleur」の服を着て、より快適に過ごしてもらうと同時に、職場復帰のストレスを解消するような課題に我々が取り組んでいることを、一般消費者とZapposの顧客の両方に認識してもらうことが大切です。(ハウザー氏)

全体的には、ハイヒールなどの仕事用アイテムやイベント用アパレルは、2020年の水準と比較して「上昇傾向」にあります。しかし、「決して急増しているわけではない」とハウザー氏は話します。「M.M.LaFleur」からはこの件についてコメントがもらえませんでした。

「M.M.LaFleur」の公式ECサイト。同ブランドは、2人の日本人女性がNYで立ち上げた
「M.M.LaFleur」の公式ECサイト。同ブランドは、2人の日本人女性がNYで立ち上げた(画像:「M.M.LaFleur」のサイトよりキャプチャ)

Zapposの顧客は、洋服も含め1つのサイト内での購入を求めている

「M.M.LaFleur」の商品は、ブランドサイトから直接購入することもできますが、多くの消費者はZapposでの購入を好む可能性がある、とハウザー氏は考えています。

消費者は、Zapposで靴を購入した後、「MMLaFleur.com」に移動して仕事用の服を購入するのではなく、カテゴリーを超えた複数のアイテムを一度にZapposで購入できる利便性を好むと考えられるからです。

さらに、Zapposのロイヤルティプログラムのメンバーは、寛大な返品ルール(365日以内返品可能)と送料無料の特典を利用したいと思うでしょう。「M.M.LaFleur」がまだ提供していない商品を、Zapposが先に提供する可能性もあります

「M.M.LaFleur」の商品はZapposの一般的な価格帯よりも高いですが、ハウザー氏によると、Zapposの顧客が「M.M.LaFluer」の取り扱いを望んだそうです。Zapposは「北米EC事業 トップ1000社データベース 2021年版」1位のAmazon傘下で、「M.M.LaFleur」は同データベースの504位にランクインしています。

Zapposは今後も「M.M.LaFleur」の商品を拡売していく予定で、Zoomに適した面接のコツを紹介している専用ランディングページは、他の関連コンテンツに随時変更されることになっています。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

Digital Commerce 360
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EC売上500億円めざすバローグループ。ネットスーパー、移動販売、ネット通販、モール出店などを活用するEC戦略

4 years 6ヶ月 ago

スーパーマーケットを中核に、ホームセンター、ドラッグストア、スポーツクラブを展開するバローグループの持株会社バローホールディングス(HD)は、3年後の2023年度までにEC売上高を前年度(2021年3月期)比で約2倍の100億円、将来的には500億円まで引き上げる。

決算説明会において中期経営計画で明らかにした。2020年度のEC売上高は51億円。売上高の内訳は、EC(ドラッグストア・ホームセンター事業)、事業所向け宅配「ainoma(アイノマ)、ドライブスルー、その他無店舗販売事業の売上高を含む。

スーパーマーケットを中核に、ホームセンター、ドラッグストア、スポーツクラブを展開するバローグループの持株会社バローホールディングスのEC戦略
各種KPIについて(画像はバローHDのIR資料からキャプチャ)

バローHDは、「ainoma」、ホームセンターバローが運営するECサイト「プロサイト」、DIYから作業工具などのファーストが運営するECサイト「FIRST」、中部薬品が展開するV・ドラッグやホームセンターバローのECビジネスなどでEC事業を展開している。

中期経営計画では、顧客とつながる「顧客との接点」を強化すると表明。DX(デジタル・トランスフォーメーション)を通じて、「顧客との接点」強化を進める。店舗での販売に加え、EC やプリペイドカード「LuVitカード」、アプリの活用に注力する。

スーパーマーケットを中核に、ホームセンター、ドラッグストア、スポーツクラブを展開するバローグループの持株会社バローホールディングスのEC戦略
DXを通じて「顧客との接点」を強化する(画像はバローHDのIR資料からキャプチャ)

EC戦略として2つの重点領域を設定し、主要業態がドミナントを形成する地域では自社の経営資源を中心に展開する「ドミナント自社EC」、2021年夏からアマゾンジャパンと開始するネットスーパー事業のような自社で足りない技術やマーケットを協業などによって補完する「広域協業EC」に取り組む。

特に、「ドミナント自社 EC」では事業所向け宅配「ainoma」、ドライブスルーによる商品受け取り、その他無店舗販売事業を通じ、複数の接点を持ちながら地域が抱える課題に対応していく。

スーパーマーケットを中核に、ホームセンター、ドラッグストア、スポーツクラブを展開するバローグループの持株会社バローホールディングスのEC戦略
顧客との接点強化に向けたEC戦略(画像はバローHDのIR資料からキャプチャ)

2021年夏にアマゾンジャパンと協業し、東海地方で生鮮食品のネット通販、最短2時間の配送サービスを始める。「Amazon.co.jp」のWebサイト、Amazonショッピングアプリ上にバローのストアをオープン。顧客からの注文後、バロー店内の専門スタッフが顧客に代わって商品を選び、Amazonの配送ネットワークで注文から最短2時間で注文商品を届ける。バローがAmazonに出店し、ネットスーパーを展開するビジネスモデルとなる。

アマゾンジャパンとバローホールディングスの協業イメージ動画(提供は、Amazon/バローホールディングス)
石居 岳
石居 岳

売上増も赤字転落。どん底からV字回復を遂げた釣り具とアウトドア用品の老舗「ナチュラム」の収益改善アプローチ | 『EC通販で勝つBPO活用術』ダイジェスト

4 years 6ヶ月 ago
EC通販における差別化成功事例①『EC通販で勝つBPO活用術』(高山隆司/佐藤俊幸 著 ダイヤモンド社 刊)ダイジェスト(第13回)

ナチュラム」は大阪に本社を置く釣り具とアウトドア用品の専門ショップだ。釣りに使う浮きや仕掛けなど釣り具用小物のメーカーが母体で、釣り具の小売店も運営していた。1996年よりEC事業を開始し、2000年に独立してナチュラムとなった。

同社の強みは圧倒的な品揃えにある。釣り具は魚種や釣り方によってさまざまな商品を揃え、釣り具の他にもキャンプ用品やアウトドアアパレルなどを扱い、かつては40万SKUに達していた。「ショップにないものでもナチュラムへ行けば必ずある」とマニアの間では有名である。

ここでは、そんなナチュラムがどうやって独自性を獲得してきたのか、その道のりを紹介する。

企業データ

ナチュラム
「ナチュラム」https://www.naturum.co.jp/
社名:株式会社ナチュラム
所在地:大阪府大阪市
設立:2000年2月1日
資本金:1億円(2015年12月現在)
事業内容:インターネットによる情報提供、通信販売

圧倒的な品揃えで急成長、一時は上場も

同社は早くから「ナチュログ」という釣りとアウトドアに特化したブログで情報発信を行ってきた。ユーザーも自由に投稿できる。日本最大級の釣りとアウトドアのコミュ二ティに成長し、月平均1,500万PVを獲得。

投稿したユーザー自身が商品ページにリンクを貼り、リンク経由で商品が売れた場合にはポイントを受け取ることができる「アフィリエイト・リンク」の仕組みも導入。まさにUGC(User Generated Contents)の先駆例である。

サイトオープンから業績は右肩上がりで、2007年には大証ヘラクレス市場に上場。EC通販事業者としては初めての快挙だった(その後、東証と大証の合併により東証ジャスダック市場へ移り、現在は上場廃止)。

売上増なのに赤字転落

しかし、その後は苦難の道のりが待っていた。

現在取締役社長を務める西田耕三氏によると、「上場後も売上は拡大していたのですが、2010年になると収益が急激に悪化し赤字に転落。2011年には売上も減少に転じ、3期連続の赤字となってしまいました」。

まさに経営は崖っぷち。そこで当時の経営陣は2つの手を打った。

1つは取扱商品の拡大だ。2011年からフランスの大手スポーツ用品メーカーであるDECATHLON(デカトロン)と提携し、同社のアウトドア用品、スポーツ用品を販売し始めた。さらに2014年8月にはデカトロンの出資を受けてその傘下に入り、上場を廃止した。

もう1は業務体制の見直しだ。売上の伸びに業務体制の整備が追い付いておらず、売上の伸びが少し鈍化しただけで、収益が悪化していた。経費からオペレーションに至るまで、ムダやムラが蓄積して“水ぶくれ体質”になっていたのだ。

例えば、バイヤーの仕事はそれまで、メーカーの新商品が出ればサイトに登録し、売上を管理し、補充発注を行うことでした。

しかしEC通販市場が拡大して競争も激しくなる中、そうしたルーティンワークに時間を割いても業績にはつながりません。そこでバイヤーの仕事を順に取り上げて、アウトソーシングしていったのです。

代わって、多様化する顧客ニーズに合ったシーン別の売り場を作ったり、潜在顧客へ働きかける新しいプロモーションを企画したり、未来の売上を創造するマーチャンダイザーを育てていきました。(西田氏)

2017年のキャンプブームで再び赤字転落、さらなる業務見直しへ

こうした対策で業績はなんとか持ち直した。2017年にはキャンプブームもやってきた。ところが、ここでまた売上が60億円になりながら、赤字に転落してしまったのである。

同社の事業モデルはもともと「専門ロングテール型」なので、売上に対して商品数、SKU数が多い。売れ筋に絞るやり方もあるが、品揃えという強みを手放すことができず、かつ売上重視の体質からなかなか抜け出せなかった。

社員も40名以上に膨らんでいた。1回の見直しだけでは取り除けなかった弱点が顕在化したと言える。

この段階でもう一度、業務体制の見直しに取り組みました。同時に、デカトロンの方針転換から2018年1月、スクロールの傘下に移ることになり、私が責任者に就いたのです。(西田氏)

スクロールグループ入りは、同社にとって業務体制の見直しを加速する効果があった。スクロールグループでは事業ユニットや取り扱う商品単位ごとに予算進捗、損益などを管理する「small teams earn profit(STEP経営)」という仕組みを導入している。ナチュラムでもこの仕組みを導入し、細かく損益状況をチェックした。

それまで年2回ほど、金額によらず送料無料にするキャンペーンを行っていたがこれをやめ、送料を一定額以上のみ無料に変更するなど、注文単位での損益管理を徹底することにした。売上が伸びているのに赤字になるということは、そもそも収益構造に問題がある。その点にもメスを入れた。

着目したのが自社ブランド商品のテコ入れだ。同社には「ハイランダー」というプライベートブランドがある。「ハイランダー」は2009年5月にスタート。小物アイテムから手掛け、数千万円ほどの売上になっていたが、その後はあまり力を入れていなかった。

しかし、アウトドア愛好者のニーズをとらえたアイテムを、海外有名ブランドと同等の品質で、かつ手頃な価格で提供できれば大きな武器になる。経営的にもナショナルブランドに比べて原価率を抑えられ、収益構造の改善に寄与する

こうしてナチュラムでは「ハイランダー」ブランドでテーブル、テントなどの新商品を開発し、プロモーションを積極的に行った。するとマスコミにも取り上げられるなどして、売上は倍々ペースで順調に拡大した。今後もアイテム数を増やし、生産ネットワークを拡充していく方針だ。

「ハイランダー」ブランドブランド商品の一例
「ハイランダー」ブランドブランド商品の一例(編集部でキャプチャ)

こう言うと自社ブランドにシフトしようとしているように聞こえるかもしれないが、必ずしもそうではない。

収益力を強化する上で自社ブランドは重要ですが、ナショナルブランド(NB)も大切にしており、そちらの売上も伸ばしていく考えです。なぜなら、NB商品がないとEC通販サイトとして面白くなくなり、顧客の支持を失ってしまうからです。(西田氏)

ナチュラムでは最近、自社サイトでNBブランドのショップinショップを強化している。あるアウトドア用品の人気メーカーは、2年ほど前から自社製品のモール出品を禁止しているが、正規取扱店の自社ECサイトであれば認めている。

同社はいまも多くのNBメーカーと良好な関係を維持し、オリジナルカラーなどのコラボ商品(SMU:Special Make Up)などの開発に取り組んでいる。

BPOの全面活用で売上アップと黒字化を達成

スクロールグループに加わった後の業務体制の見直しとしては、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の全面活用にも踏み込んだ。

同社はすでに2004年、中国四川省に成都インハナというBPOの子会社を設立し、業務の一部を移管していた。成都インハナには日本語が堪能な現地社員がおり、商品データの作成から、市場調査(競合店の価格調査)、受注処理、販売管理などへ担当領域を広げてきた。先ほどふれたバイヤー業務のアウトソーシングも成都インハナが受け皿になった。

また、成都インハナはナチュラムの基幹システムを共有しており、年間約10万SKUの新規商品の登録業務や、売り場における画像生成の業務を行うことで、ナチュラムのルーティーン業務が大きく削減されている。

成都インハナのサービス紹介より編集部でキャプチャ

2018年からはスクロール360の物流センターを活用している。現在、同社が扱っている商品は一時より減ったとはいえ25万SKUあり、物流センターでの在庫管理は資金効率の鍵を握る

この点、ナチュラムには独自の売上予測システムがあり、そこに過去の売上データなどを組み合わせ、月単位で翌月分の仕入を取引先に発注する。こうして無駄を減らしながら、幅広い注文に対して欠品を起こさない在庫水準を維持することに成功しているのだ。

売上予測システムは仕入だけでなく、売上管理にも利用されている。商品ごとの販売計画と実績のかい離に応じて自動補充発注による欠品の防止やアラートメール通知で予実かい離の確認、修正を行い、業務効率を向上させている。

顧客からの電話による問い合わせなどはスクロール360の浜松コンタクトセンターが対応する。この対応も単なるマニュアルベースではなく、ナチュラムの受注管理システムと連動することで、ケースに応じてオペレーターが注文のステイタス(現在状況)をその場で確認し、一歩踏み込んだ臨機応変な受け答えを行っている

1回の問い合わせで問題が解決し、二次問い合わせが以前より大幅に減少したほか、いわゆる「サンクスメール」の増加にもつながっている。

こうしてナチュラムはフルフィルメントをほぼ100%アウトソーシング化した結果、2018年に黒字化へ転換し、2019年も増収増益を達成している。

自社イベント開催などOMOで活路を開く

業務体制の見直しと並行して、マーケティング面でナチュラムが力を入れているのがOMO(Online Merges with Offline)の推進だ。

OMOと言うと、ユニクロやユナイテッドアローズといったアパレル企業による、リアル店舗とオンラインショップの融合が知られている。ナチュラムは逆に、ネット通販企業としてリアルイベント開催し、アウトドア用品を顧客に実際に体験してもらい、その様子をSNSなどで拡散するというアプローチをとる。

ナチュラムは2018年3月、キャンプブームの盛り上がりに合わせ、大阪の京セラドームで「touch the outdoor」と名付けたイベント開催した。50〜60のテントを展示するもので、告知は自社サイトと登録ユーザーへのメール、SNSのみだったにも関わらず、「こんなに多くの商品を一度に見られるところはない」と人気を集め、2日間で5000人が来場した。

その後も全国各地で開催されるアウトドア用品の合同展示会に参加し、2019年には同じ京セラドームで2回目の「touch the outdoor」を開催。今度は「ハイランダー」製品のほか、他社とのコラボ商品なども多数展示。ネットでの購入で使えるクーポンも発行したところ、来場者数は7000人に増えた。同社では今後も、こうしたリアルのイベントに力を入れていく予定だ。

「touch the outdoor 2019」の様子
「touch the outdoor 2019」の様子
https://touchtheoutdoor.naturum.ne.jp/e3204259.htmlより編集部でキャプチャ

アウトドア用品業界ではいま、大手メーカーがD2Cにシフトする流れがある。

我々EC通販事業者の強みは何なのか。1つは情報力です。ナショナルブランドでもメーカーは自社製品の売れ行きしかわかりません。それに対して当社は、自社も含めて複数ブランドの商品を扱っており、それぞれの売れ行きから業界のトレンドや顧客ニーズの変化をいちはやくキャッチできます

リアルイベントなどを通じて社員が直接、顧客の声を聞くことも貴重な情報源です。(西田氏)

市場環境がさらに厳しくなる中、老舗有名ショップとはいえ生き残るためには価格競争に巻き込まれない商品戦略(MD)ときめ細かな顧客対応によるファンの拡大が鍵を握る。

MDの点では新たな試みとして、2019年に災害用備蓄品や非常用保存食、防災資機材を扱うミヨシを子会社化した。

小売の原点を守りつつ、「独自の商品をつくる」ことと「独自のファンを育てる」ことの両面で挑戦を続けるナチュラムの今後に注目したい。

 
サイドストーリー

ナチュラム独自のロングテール戦略と8マスシステム

筆者とナチュラムとの出会いは2006年に遡る。筆者が総合通販ムトウ(現在のスクロール)のマーケティング課からソリューション事業部に異動した時だ。ソリューション事業部ではすでにナチュラムの物流を受託していた。

筆者はムトウでEC事業を手掛けていたが、ナチュラムのECは段違いだった。

わかりやすく言うと、カタログ販売の大量の在庫を使って片手間でECをしているムトウに対し、ナチュラムはECオンリーのオリジナルな仕組みで、仕入れから販売まで一貫して行っている。両者には大人と子供くらいの差があった。

これは現在、リアル店舗を主体とし、片手間でECをやっているアパレル企業と、ECオンリーで命を懸けている企業との差を連想させる。

筆者が特に驚いたのは、40万SKUという圧倒的な品揃えだ。ところが実際には、物流倉庫に置いてあるのは8万SKUだけだった。残りの32万SKUの商品は、注文が来てから発注する方式だったのである。

売れ筋の8万SKUについては取引先と価格交渉のうえ商品を買い取る。残りの商品は受発注だ。ショートヘッドの8万SKUだけで、全体の80%の売上を稼いでしまう。ロングテールの商品は取引先から取り寄せ後の発送となる。

図 売れ筋商品 ロングテール商品
受注予測をもとに成都インハナが補充。発注数の見直しを行っている
取引先とデータを共有し、注文があったら発注。商品が入荷したら発送
ナチュラムのロングテール戦略のイメージ

とはいえ8万SKUの発注を毎月人力で行うのは無理だ。そこでナチュラムが独自に開発したのが「8マスシステム」という受注予測のシステムだ。過去3年の受注実績から、SKU別に翌月の受注数量を予測するのである。

「8マスシステム」の例
「8マスシステム」の例(数値はダミー)

図の例で解説すると、このチェアーの2019年6月の受注数量を予測するには、2017年と2018年の4月〜6月、そして2019年の4月と5月と8つのマスの数値データから算出する。スコミでの露出による突発的な数値データは、異常値として予測に反映しないといったアルゴリズムが適用されている。

現在、この8マスシステムで予測された数量をもとに、補充発注数の見直しをしているのが、中国四川省にある成都インハナである。ナチュラムはコアな業務に集中するために、ルーティン業務を徹底的にアウトソーシングしてきた。

成都インハナは現在、スクロール360の100%子会社となり、ナチュラム以外の日本のEC事業者にさまざまなBPOを提供している。ロングテール型EC事業者には、ナチュラムで開発した8マスシステムの提供も開始している。

 

この記事は『EC通販で勝つBPO活用術』(ダイヤモンド社刊)の一部を編集し、公開しているものです。

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「オリンピック期間中、セール企画は期間外へ」。国や東京都などがオリ・パラ開催中の事業者へ協力要請していること

4 years 6ヶ月 ago

7月23日(金)から実施される予定の「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」。交通量の分散化・平準化のために国(農林水産省、経済産業省、国土交通省)や東京都、東京2020組織委員会は連盟で、事業者に対して「セール等販売促進企画の大会期間外への変更」などの協力を要請している。

「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」 国などが事業者に求める取り組みの例
国などが事業者に求める取り組みの例(画像は東京都オリンピック・パラリンピック準備局のHPからキャプチャのHPからキャプチャ)

現在、都内の道路交通は例年並みの交通量に回復。大会期間中は選手関係者が車両を使い移動することなどから、平年を上回る混雑の発生が想定される。

「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」 期間中の輸送に与える影響の例
期間中の輸送に与える影響の例(画像は東京都オリンピック・パラリンピック準備局が公表した資料からキャプチャ)

2019年11月に、東京都、国、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は「物流に係る御協力のお願い」を発出。2021年3月、大会の延期も含めて改めて物流事業者などに交通量の抑制、交通量の分散化・平準化などの取り組みへの協力を要請した。

国(農林水産省、経済産業省、国土交通省)や東京都、東京2020組織委員会は、以下の取り組み例を事業者に要請している。

交通量の抑制のための取組例

  • 複数荷主の連携による倉庫の共同使用、共同輸配送
  • テナントビル等における集配業務の共同化
  • 分散している複数荷主の物流拠点の統合による輸送網の集約
  • 静脈物流の集約・効率化
  • 輸送頻度の削減 など

交通量の分散化・平準化のための取組例

  • 十分なリードタイムでの発注による柔軟な輸配送時間帯の設定
  • 十分なリードタイムでの発注による柔軟な輸配送ルートの設定(首都高速道路や都心に向かう一般道を使用しない輸配送ルートの設定)
  • オフィス移転等大規模な物の移動が伴う作業の大会期間外への変更
  • セール等販売促進企画の大会期間外への変更
  • 在庫調整による輸配送日の平準化
  • 付帯作業見直しや検品作業の簡素化による納品時間の短縮、輸送の効率化
  • セール等販売促進企画の大会期間外への変更(渋滞が予想されるエリアへの配送について、拠点の変更や複数拠点からの配送等)
  • 納品時間の夜間への変更 など

その他

  • 特に渋滞が予想されるエリアにおいては、トラックの公道待機などによる渋滞悪化を防止するため、可能な限り「駐車スペースの確保」「スムーズな荷物の受け渡し」への協力
「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」スケジュール
オリンピック・パラリンピックのスケジュール(画像は東京都オリンピック・パラリンピック準備局が公表した資料からキャプチャ)
瀧川 正実
瀧川 正実

EC企業のSNS活用、最多はInstagram。課題は「効果の実感がない」「運用人材不足」「ネタ不足」

4 years 6ヶ月 ago

いつも.がEC事業を展開する企業に所属する205人に対して行ったSNS利用実態調査によると、過半数の企業が「今後SNSの取り組みを増やす」と考えている一方、51.9%が「効果を実感していない」と回答した。調査期間は2021年4月6日~4月21日。

SNS活用の目的は「認知向上」が最多

所属企業が活用しているSNSを聞いたところ、最多は「Instagram」(69.8%)で、次いで「Facebook」(58.5%)「Twitter」(50.7%)だった。

調査 EC事業者のSNS活用状況 企業として活用しているSNS
企業として活用しているSNSについて(複数回答可)(出典:いつも)

SNS活用の目的を聞いたところ、「認知向上」(71.2%)がトップで、「販売促進」(67.8%)「顧客対応」(11.2%)と続いた。

調査 EC事業者のSNS活用状況 SNS活用の目的
SNS活用の目的について(複数回答可)(出典:いつも)

約半数が「効果を実感していない」

SNSの効果として感じていることについて聞いたところ、51.9%が「効果を実感していない」と回答。「アクセスや問い合わせが増加している」(30.4%)「評判レビューが拡散・向上している」(21.5%)を実感しているのは一部にとどまった。

調査 EC事業者のSNS活用状況 SNSの効果として感じていること
SNSの効果について(複数回答可/n=79)(出典:いつも)

運用人材や投稿ネタ不足が課題に

SNS運用における課題については、「運用人材の不足」(51.7%)が最多。次いで「投稿ネタの不足」(46.0%)「効果が見えにくい」「フォロワーが増えない」(いずれも43.7%)となり、SNS運用の経験や時間が不足してる状況になっている。

調査 EC事業者のSNS活用状況 SNS運用における課題
SNS運用の課題について(複数回答可/n=87)(出典:いつも)

SNSの今後の取り組みについて聞いたところ、51.7%が「今後増やしていく」と回答した。また、「現状を継続する」は46.8%で、「今後減らしていく」という回答は1.5%。

調査 EC事業者のSNS活用状況 SNSの今後の取り組み
SNSの今後の取り組みについて(複数回答可/n=87)(出典:いつも)
調査実施概要
  • 調査タイトル「EC事業者のSNS活用状況調査」
  • 調査方法:アンケート調査
  • 調査期間:2021年4月6日(火)~2021年4月21日(水)
  • 調査対象:いつも.のオンラインセミナー申込者・参加者205人
藤田遥
藤田遥

三越伊勢丹HDのEC売上高は57%増の315億円、化粧品や食品定期宅配も伸長

4 years 6ヶ月 ago

三越伊勢丹ホールディングス(HD)の2021年3月期におけるEC売上高は前期比57.5%増の315億円だった。ギフトを含む一般EC売上高が200億円強、デジタル事業の売上高が約100億円。

デジタル事業は、化粧品ECサイト「meeco(ミーコ)」や食品定期宅配サービス「ISETAN DOOR(イセタンドア)」を展開。EC売上高は当初250億円を計画していた。2021年3月期のEC事業売上高は当初計画比26.0%増。

デジタルID会員数は計画比27.7%増の166万IDに拡大。掲載型数は同16.7%減の12万5000型だったが、これは量から質へシフトしたことが影響している。

三越伊勢丹ホールディングス(HD)の2021年3月期におけるEC売上高は前期比57.5%増の315億円
オンライン実績(画像は三越伊勢丹HDのIR資料から編集部がキャプチャ)

三越伊勢丹HDは2020年6月、「EC事業の強化」「ワン・トゥ・ワン・サービスの拡充」などを目的としたデジタル施策をスタート。「三越伊勢丹オンラインストア」とアプリも刷新。オンラインから実店舗に顧客を誘導する取り組みに加え、購入までオンラインで完結する仕組みを従来以上に強化した。

2020年11月末からは、デジタル接客「三越伊勢丹リモートショッピング」を開始。伊勢丹新宿店、三越日本橋店を中心に51ショップで実施している。さらに、チャットでスタイリストに相談できるサービスや、スマホで来店予約を行えるサービスなどを導入した。

三越伊勢丹ホールディングス(HD)の2021年3月期におけるEC売上高は前期比57.5%増の315億円 三越伊勢丹リモートショッピング
三越伊勢丹リモートショッピング(画像は三越伊勢丹HDのIR資料から編集部がキャプチャ)

このほか、3D計測データに基づいたスタイリスト(販売員)の接客で、体型や足型に合うパーソナルな商品提案を行うサービスを実施。2021年3月から、VR(仮想現実)を活用したスマートフォン向けアプリを開始した。新宿東口の街の一部エリアと伊勢丹新宿店を再現し、アバターを操作しながら会話が楽しめる。仮想伊勢丹新宿店内においても商品の購入が可能となっている。

三越伊勢丹ホールディングス(HD)の2021年3月期におけるEC売上高は前期比57.5%増の315億円 3D計測
3D計測(画像は三越伊勢丹HDのIR資料から編集部がキャプチャ)
三越伊勢丹ホールディングス(HD)の2021年3月期におけるEC売上高は前期比57.5%増の315億円 VRの活用
VRの活用(画像は三越伊勢丹HDのIR資料から編集部がキャプチャ)
石居 岳
石居 岳

「顧客体験」にこだわる中国EC企業が実践しているユーザーの感情分析とその実践法 | 中国の最新買い物事情~トランスコスモスチャイナからの現地レポート~

4 years 6ヶ月 ago
ユーザーの感情が顧客体験に大きく影響し、カスタマージャーニーの改善において重要視されています。多くの企業はさまざまな方法でユーザーの感情を分析し、CVR向上につなげています

先進的な中国企業の多くは、顧客の潜在欲求を正確に捉えて顧客体験の向上につなげることを戦略に掲げています。その実現のために、多くの企業がユーザーの感情をさまざまな方法で分析、そして、CVRの向上につなげています。ユーザーの感情は顧客体験に大きく影響し、カスタマージャーニーの改善において重要視されているからです。

ユーザーのプラス感情が商品のリピート購入につながる

ユーザーの感情を重視することは、顧客ロイヤルティと売り上げを向上させるだけでなく、企業のイメージアップにもつながります。ユーザーが買い物をする時には、必ず何らかの感情が生まれます。たとえば、ネットショップで商品を購入する際、期待値があがるものの、受け取った商品に問題があれば不満が生じ、カスタマーサービスにクレームが発生するということがあります。

オンラインコミュニティ「CustomerThink」に掲載された記事「カスタマー・エクスペリエンスにおける顧客感情の測定方法(How to measure emotion in customer experience)」によると、企業や商品に対してポジティブな感情を持つユーザーの74%はブランドを積極的に人に勧める傾向があり、63%は商品・サービスをリピート購入・利用するという結果が出ています。

一方、ネガティブな感情を持つユーザーの場合、ブランドを他人に勧める人は8%、商品・サービスをリピート購入・利用する人は13%でした。

このような結果も踏まえ、企業がユーザーに良い体験を提供するためには、ユーザーのプラスの感情がマイナスの感情を上回ることが大切だと考えているのです。

テキストマイニングを活用してユーザーの感情を可視化

企業はユーザーの感情をさまざまな方法で正確に理解しようとします。実店舗の場合、実際にユーザーの行動を見たり、商品・サービスに対する意見を聞いたりできます。もしユーザーが商品やサービスに満足しておらず、「ここをもう少し改善してほしい」などの意見が寄せられていれば、サービスの向上にも役立てられます。

ECサイトの場合、Tmall(天猫)やJD(京東)などのECプラットフォームには「DSR評価制度(Detailed Seller Ratings/セラー詳細評価)」が設けられおり、企業がユーザーの意見や感情を把握するための重要な役割を担っています。

「DSR評価制度」は、「商品詳細の的確性」「コミュニケーション」「発送のスピード」という3つの分野におけるサービスについて、消費者が評価する制度。この制度を活用し、企業は商品・サービスに対する評価からユーザーの感情を判断できるのです。

また、コンタクトセンターのオペレーターと顧客とのやり取りを分析することで、顧客の感情を正確に把握できるようになります。

Tmallのある店舗はCVR向上のために、ユーザーとオペレーターのやり取りの記録をテキストマイニング(大量のテキスト情報から有益な情報を発掘する方法)を用いて分析。その結果と「TGI指数(Target Group Index)」(ユーザーのある話題への関心度を示し指数)を基に出現頻度が高いコメントを分析することで、ユーザーが気に入る商品やサービス、またユーザーが離脱してしまう状況を把握し、ターゲットを絞ったサービスの改善に取り組み、店舗のCVR向上を実現します。

「TGI指数」は100を平均レベルとして、100以上ならターゲット層は関連業界・分野に対して関心を持っており、数値が大きいほど関心が高くなります。一方、100以下の場合は関連業界・分野に対する関心が低いことを意味します。「DSR評価制度」のようにモールに搭載されている機能ではありませんが、ターゲット市場特定のためによく使用するデータ分析手法です。

トランスコスモスチャイナ 中国EC ユーザーの声 CX 商品に対するコメント例
商品に対するコメント例(画像はトランスコスモスチャイナが作成)

テキストマイニングツール導入で、品質管理においてもより多くのサンプルが収集でき、効率的に客観的な分析ができるようになりました。ユーザーの感情可視化、深掘り分析を行えるため、顧客体験の改善がより効果的になったのです。

また、感情分析ツールなどを活用して、言語のサンプルを収集・整理します。クローリングツールを活用して、複数のチャネルから商品やサービスに対するユーザーのフィードバックを収集、膨大なデータをAIで分析します。AIによるテキスト情報解析を行い、コメントを作成して、ユーザーへ自動的にフィードバックすることができます。

カスタマージャーニー改善の取り組み

ユーザーの感情を把握した後は、ユーザーがカスタマージャーニーのどの段階に位置しているのかを判断し、ユーザーに質の高い顧客体験を提供します。たとえば、ユーザーが怒りをあらわにしているときは、その原因の根本的なものは何かを理解する必要があります。その後は改善を行い、ユーザーとの良好な関係を築くことで、ユーザーのブランド体験価値を改善していきます。

カスタマージャーニーを改善するために、顧客体験に関するアンケート調査を実施、購買行動プロセスを可視化します。ネットショップの運営において、顧客満足度の調査方法としてアンケートはとても一般的です。

アンケートでは、ユーザーが「どのような時に」「どのような感情で」「どのような行動を取ったか」などの全体的な顧客体験を把握します。商品検索のしやすさ、サイトデザインの美しさ、オペレーターの対応など、複数の段階に関連する問題について分析します。

チャットボット導入で顧客対応の効率とCVRを向上

トランスコスモスチャイナが運営しているTmall店舗では、チャットボットツール「店小蜜(ディエン・シャオ・ミ)」を導入し、24時間365日のオンラインカスタマーサービスを提供しています。リアルタイムで顧客対応を実施することで、ユーザーはいつでも問い合わせをすることが可能となります。

一方、有人オペレーターサービスでは、ユーザーの感情を理解して、不満がいつ発生したかを判断し、迅速に有効な措置を取ることで、顧客体験の向上につなげています。

トランスコスモスチャイナ 中国EC チャットボット 店小蜜 ディエン・シャオ・ミ
3Cブランド公式旗艦店のAIチャットボット「店小蜜」接客案件(画像はトランスコスモスチャイナが作成)

上の図は、ある家電ブランド公式旗艦店のAIチャットボット「店小蜜」がおすすめ商品を提案しているやり取りです。チャットボットは、簡単な問題を自動で返答できるだけでなく、オススメ商品の提案、人気商品の紹介といった情報提供を行っています。

ユーザーは問い合わせ内容をオペレーターに聞く前に知ることができ、カスタマーサービスの効率とショップのコンバージョンレートを大幅に向上させることができました。

上の図のように、ユーザーは「最適なおすすめ」をクリックして、各種の商品情報を見ることができます。そして、チャットボットとの会話によって、自分の希望に合った商品を素早く見つけて、ショッピングを楽しめるのです。

企業はさまざまな方法で顧客行動や経験、感情の変化をリアルタイムに把握し、顧客フィードバックによって持続的に改善に取り組んでいます。

海外向けECビジネスを実施・検討中企業は必見! 30か国のECデータをまとめた『海外ECハンドブック2020』

インプレスでは海外EC市場への進出を検討、進出済み企業などに向けて、世界30の国・地域のECデータを1冊の書籍にまとめた『海外ECハンドブック2020』(著者はトランスコスモス)を発刊。「世界のEC市場規模予測」「地域別EC市場データ」「越境EC市場規模およびEC利用者の推移」「EC市場データランキング」などを詳しくまとめています。

『海外ECハンドブック』は、グローバルECにおいて豊富な経験を持つトランスコスモスが、世界30の国と地域におけるECの現状と将来展望について、最新データを集約・整理した一冊
『海外ECハンドブック』は、グローバルECにおいて豊富な経験を持つトランスコスモスが、世界30の国と地域におけるECの現状と将来展望について、最新データを集約・整理した一冊

[主要30の国・地域のEC市場概況]

  • 世界のEC市場規模予測
  • 地域別EC市場データ
  • 30の国・地域のEC市場ポテンシャル
  • 越境EC市場規模およびEC利用者の推移
  • 越境ECの地域別利用状況
  • アジア10都市EC利用動向調査
  • EC市場データランキング(TOP10)
  • 各国のEC市場環境比較表2019年
    などを掲載。アジア太平洋、北米、中南米、欧州、中東・アフリカなど、主要30の国・地域について、各国のEC市場環境比較表などを掲載しています。
    https://www.amazon.co.jp/dp/4295010766/
トランスコスモスチャイナ(transcosmos China)
樊迪(Fenndy Fan)
トランスコスモスチャイナ(transcosmos China), 樊迪(Fenndy Fan)

イオングループのスポンサードスポーツユニフォーム制作サービス「Outfitter」。想定以上の売り上げを達成したECサイト構築の裏側 | CX UPDATES Digest

4 years 6ヶ月 ago
イオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド(ASSU)が2020年6月、国内初のスポンサードスポーツユニフォーム制作サービス「Outfitter」を開始した。ASSUの担当者とCX設計とシステム構築を担当した電通アイソバーが、EC構築の背景を振り返る。

2020年6月、イオングループの新会社であるイオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド(ASSU)が、国内初となるスポンサードスポーツユニフォーム制作サービス「Outfitter」を開始しました。目標に対して、想定を大幅に上回る売上を達成したEC構築の背景を、ASSUの岡田宣之さま、眞田智和さまと、一連のCX設計とシステム構築をご支援した電通アイソバーの寺嶋猛が振り返りました。

イオングループがスポーツユニフォームのEC事業を開始

――2020年6月に設立されたイオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド(以下、ASSU)さまは、ECサイト「Outfitter」にてカスタムユニフォームの販売を開始されています。まず、どういったサービスなのか教えてください。

ASSU 岡田さま(以下、岡田):チームのオリジナルユニフォームを、オンラインで簡単に作成・購入ができるサービスです。ユニフォームにスポンサーのロゴを入れると、一般的な価格より10%~最大50%の割引価格で購入することもできます。これは国内初のビジネスモデルです。

現在、「Outfitter」では、サッカーとフットサルのユニフォームが作成できますが、今後、ほかのスポーツのユニフォームにも広げていく予定です。

――そもそもなぜ、イオングループとしてASSUを立ち上げることになったのでしょうか? また、ユニフォーム事業開始に至る経緯を教えてください。

岡田:背景にあるのは、イオングループが変革の方向性の一つとして掲げている「デジタルシフト」です。これを実現するため、デジタルを活用した先進的な事業に取り組む企業との協業を進めています。

併せて全国に事業を展開するイオンとして、お客さまの健やかな生活に寄与したいという思いから、地域のコミュニティスポーツの支援などもおこなってきました。これにより、人と人とのつながりを創出して、地域の発展やお客さまの健康増進を目指せればと考えています。

その中で縁があったのが、ドイツのシグナ・スポーツ・ユナイテッドです。欧州No.1のスポーツECプラットフォームを持ち、その構築・運営ノウハウに優れた同社と協業し、日本で新会社を発足することで、お客さまの健康増進とともにグループ全体のデジタルシフトを加速させる狙いがありました。最初の事業として「Outfitter」の国内展開を開始しました。

――欧州企業との協業プロジェクトとして始まったのですね。このビジネスモデルを日本市場で展開するにあたり重視したのは、どういった点でしたか?

岡田特に重視したのは、サイトのUI/UX面です。

「Outfitter」は、そもそも本国ドイツで展開されているビジネスモデルが優れており、お客さまにとってもメリットが大きいサービスだという自信がありました。「ニーズがある方に認知してもらえれば興味を引ける」という仮説があったのです。そのため、認知施策に注力しつつ、興味を持ってサイトを訪れた潜在顧客を離脱させず、しっかりコンバージョンにつなげるわかりやすいUI/UXが必要だと考えました。そこで、UI/UXの設計に強みをお持ちで、EC構築の実績も厚い電通アイソバーさんにお声がけしました。

 

サイト訪問者のモチベーションを高めるクリエイティブとフリクションレスな体験設計

――認知を獲得してサイトに誘引したとき、より多くの訪問者がコンバージョンに至るために、何がポイントだと思われましたか?

ASSU 眞田さま(以下、眞田)「モチベーションアップ」と「フリクションレスな購買体験」の2つです。まずモチベーションについては、チームのユニフォームを新調して一層スポーツを楽しもうとしている方々の気持ちがさらに高揚する、そんなクリエイティブが必要だと考えました。そこで「チームにチカラを。」というタグラインを強調し、このサービスのどんな要素がチームにチカラを与えてくれるのかという観点で、特徴を訴求しています。

また「フリクションレスな購買体験」として、お客さま視点で選びやすいシミュレーションのフローや、迷わず購買まで進める遷移設計にこだわりました。途中で疑問が浮かびそうな部分にはあらかじめ説明を入れるなど、わからないまま興味が薄れて離脱することがないように配慮しました。

――ビジネスモデルは同じでも、サイトは日本オリジナルで開発したのですか?

眞田:そうなんです。ドイツではモバイルサイトがそもそもなかったため、実はビジネスモデル以外の要素のほとんどがトレースできませんでした。そのためサイト自体は日本向けに、ゼロから考えていきました。電通アイソバーさんには、はじめはシステム構築のみの依頼だったのですが、お客さまとの接点となるデザインやページ遷移などの表側もお願いすることになりました。

寺嶋:既存のグローバルサイトを踏襲しながら、決済などの一部機能を日本向けにローカライズするような案件だと、そもそも市場やターゲットが違うのでどこかで妥協せざるを得ないことも多いです。一方今回のプロジェクトでは、「日本におけるターゲットを意識した理想的な顧客体験」を描いた上でゼロベースでひざを突き合わせてUI/UXに優れたサイトを構築できたと思います。

――UI/UXの構築はどのようなプロセスでおこなったのでしょうか?

眞田:さまざまな場面における仮説を立て、電通アイソバーさんにプロトタイプをつくっていただき、検証を重ねました。本当に何往復もしてUI/UXを確定させていきました。

ビジネスモデルはあるわけですし、当初は本国のサイトのソースコードを転用する予定でしたが、やはり寺嶋さんが言われたように、日本のお客さま向けに最適な顧客体験をゼロから考えたことがよかったと思っています。結果、画面の仕様やユニフォームの色などの選び方は本国とかなり異なっています。
――CXデザインファームとしての電通アイソバーの強みが現れている部分ですね。

寺嶋:今回は、ECサイトの構築手法として「ヘッドレスアーキテクチャ」という構成を採用しました。ECサイトの仕組みは、直接ユーザーの目に触れるフロントエンドの部分と、受注管理や決済システムなどバックエンド部分に分けられます。「ヘッドレスアーキテクチャ」は、フロントエンドとバックエンドの仕組みを切り離して構築する手法です。

今回の場合、ユーザーがユニフォームの色などを選んでいくシミュレーションのページなどがフロントエンドに当たります。シミュレーションは一般的なECの購買フローよりもページ遷移が重なるので、読み込みのスピードが遅くなりがちですが、「ヘッドレスアーキテクチャ」で構築するとその問題が起こらず、ユーザーがストレスなく選んでいけます。

――そういった仕組みが、「フリクションレスな購買体験」につながるのですね。

寺嶋:そうですね。項目を選択していくシミュレーションは、操作が複雑になりがちなので、ロード時間やレスポンスが早く使いやすいことが大変重要です。

また、ヘッドレスアーキテクチャは、開発者目線でもメリットがあります。フロントエンドとバックエンドが一体型の場合、UIを変更したければその度に開発が必要となり、反映スピードも落ちます。対してヘッドレスアーキテクチャでは、ほとんどの修正をフロントサイドだけでおこなえるので、運用負荷が少なく済みます。PDCAのサイクルを細かく回していくことができる点も利点と言えますね。

今回ASSUさまが採用したのは、Salesforce社の提供する「Salesforce Commerce Cloud」というECプラットフォームですが、この製品がヘッドレスに対応しているため、柔軟なコマース体験を比較的容易に実現することができました。

ローンチ後、想定を大幅に上回る結果に

――では、具体的な成果について教えてください。

岡田目標に対して想定を大幅に上回る注文数の獲得と売上を達成しました。もともとユニフォームは3~6月に年間需要のほとんどが集中し、次いで9月が多いのですが、今年はコロナ禍の影響でスポーツ市場全体の需要が減っていました。それを加味しても、サービスを開始した2020年6月以降、継続的に注文が入っています。ユニフォームの加工会社さんからは、一般的な需要期だけでなく閑散期に差し掛かっても注文が途切れないことには大変驚いている、と聞いています。

また、開始時はTwitterなどでもサービスに対する好感のコメントが多く、「知ってもらえれば興味を引けるのでは」という仮説が合っていたと感じました。

Outfitterで作ったオリジナルユニフォームを着てプレーする島根県の大東FCサッカー少年団

寺嶋:コロナ禍の影響で、もう少し苦戦するかと思っていたので、予想以上でした。新規のサービスなので、すでにお客さまが集まっている場所からトラフィックを引っ張れるわけではありません。そのマイナス要素を踏まえても、ローンチ初期からかなり注文数が伸びていました。ビジネスモデルが支持されたことに加えて、興味を持った人を一定の割合でコンバージョンにつなげられたと捉えています。

――話題になっても、検討段階の離脱が多いと、機会損失になってしまいますよね。

岡田:本当にそう思います。それでは認知施策にいくら予算を割いても意味がありません。まだ改善の余地は多いですが、来訪したお客さまが思った以上にスムーズに購入まで進んでいただけています。途中までの方も、かなりの確率でデザインのシミュレーションをして画像を保存してくれています。タイミングが来たら、思い出して購入してくれる可能性もある。やはり優れたUI/UXが効いていると思います。

 

Outfitter事業を強化しながら、他スポーツへも拡大を

――最後に、今後の事業の展望をお聞かせください。

岡田:「Outfitter」では、UI/UXの改善とスポンサー開拓を進めつつ、サッカーとフットサルだけでなくバレーボールやバスケットボールなど、他のスポーツのユニフォームにも広げていきます。さらにASSUとしては、他のメディア事業やEC事業にも注力していきたいと考えています。

寺嶋:支援させていただいた側としての感想ですが、有数の企業が新規サービスのスポンサーになったことや、倉庫や物流などのオペレーション面の立ち上げがとても早かったことなど、今回はさすがイオングループさまだと感じました。今後、またイベント開催などが自由にできるようになれば、リアルなスポーツイベントとの連携や、オムニチャネルの展開などにも可能性を広げられそうです。そのお手伝いもさせていただけたらうれしいですね。

岡田 宣之 おかだ のぶゆき
イオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド 戦略・マーケティング部 部長
プロダクション、エージェンシー、コンサルティングファームを経て、デジタルマーケティングの会社を独立起業。2016年よりイオングループに入社。
20年に渡り、デジタルマーケティング領域で、制作ディレクションや開発のプロジェクトマネージャー、マーケティングプランナー、コンサルタントなどを経験。2019年よりイオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッドにてマーケティングとITの責任者を担当。

 

眞田 智和 さなだ ともかず
イオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド IT・物流部 マネージャー
大手人材紹介会社、外資系小売業を経て、イオングループに入社。イオングループへの入社までは、営業部や人事部、業務改善プロダクトマネージャー等を経験。イオングループでは数社へ出向し、新規店舗の開設、エリアマネージャー、オペレーションシステムやアプリ開発のプロダクトマネージャー等を経験し、現在はイオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド株式会社にてECサイト及びアプリ開発を担当。

 

寺嶋 猛 Takeshi Terashima
プラットフォーム・データ本部 本部長 
大手シンクタンク、家電メーカーを経て、アイソバー・ジャパンにCTOとして参画。シンクタンク、家電メーカー時代には大規模システム開発のテクニカルアーキテクト、プロジェクトマネージャーを経験。電通アイソバーにて、デジタルマーケティングのコンサルティングも実施しており、広範囲にわたってクライアントのビジネスを支援。現在はコマースビジネスのリーディングを中心に、自身でもアドバイザリーとして多くのプロジェクトに参画。

 

○ライター : 高島 知子
○カメラマン : 八田 政玄

 

CX UPDATES

コロナ禍でEC活用はどう変わった? EC利用率は33%、利用拡大の意向は44%、EC活用を検討している企業は約2割

4 years 6ヶ月 ago
日本貿易振興機構(ジェトロ)の「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、国内外での商品販売でECを利用したことがあると回答した企業は回答企業全体の33.3%

新型コロナウィルス感染症拡大で日本企業のEC活用はどのように変わったのか? 日本貿易振興機構(ジェトロ)が、海外ビジネスに関心の高い日本企業約1万3000社を対象に行った「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から、日本企業のEC活用の現状、海外向け販売の取り組み状況を見ていく。

日本国内のEC販売

商品販売でECを活用している企業は33%

国内外での商品販売でECを利用したことがあると回答した企業は回答企業全体の33.3%。このうち中小企業の割合が前回調査(2018年度)と比べて4.1ポイント増の34.3%と増加した。

今後、ECの利用を拡大すると回答した割合は43.9%。企業規模別にみると、大企業が28.5%、中小企業が46.7%。中小企業のEC利用の拡大意欲が強い。

利用したことがないが、今後の利用を検討している割合は20.2%。中小企業で22.3%、大企業で8.5%。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が、海外ビジネスに関心の高い日本企業約1万3000社を対象に行った「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」 EC利用の有無
EC利用の有無(時系列)(画像は「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から編集部がキャプチャ)

EC利用率を業種別にみると、繊維・織物/アパレル、小売、医療品・化粧品、木材・木製品/家具・建材/紙パルプ、飲食料品でEC利用の割合が50%以上となっている。

今後の利用拡大が見込まれるのが建設業。ECを利用したことがある割合は1.3%にとどまるが、今後の利用検討が23.1%にのぼっている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が、海外ビジネスに関心の高い日本企業約1万3000社を対象に行った「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」 EC利用の有無(業種別)
業種別のEC利用の有無(画像は「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から編集部がキャプチャ)

売上高に占めるEC販売額の比率は10%未満が最多

売上高に占めるECの割合(ECによる販売額/売上高)は「1~10%」が37.3%、「1%未満」が36.0%で、全体の7割強を占めた。

規模別では、大企業では「1%未満」が49.6%で最多、中小企業は「1~10%」(38.7%)が最も多かった。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が、海外ビジネスに関心の高い日本企業約1万3000社を対象に行った「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」
売上高全体に占めるECの割合(規模別)(画像は「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から編集部がキャプチャ)

EC利用の課題では、「販売先に関する情報不足」(38.5%)や「ECサイトや提携相手に関する情報不足」(31.2%)が多い。そのほかには、「インフラにかかるリスク」「必要な社内人材の不足」なども上位にあがっている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が、海外ビジネスに関心の高い日本企業約1万3000社を対象に行った「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」
規模別によるEC利用の課題(画像は「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から編集部がキャプチャし一部を加工)

海外向け販売

EC実施企業のうち65%が海外向け販売でECを活用

ECの活用実績がある企業のうち、海外販売でECを活用している企業は65.0%。海外販売のうち、日本国内から海外向けの越境ECを活用している企業の割合は45.5%。越境ECの利用率は、大企業の34.8%に比べ、中小企業が47.0%と10ポイント以上高い。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が、海外ビジネスに関心の高い日本企業約1万3000社を対象に行った「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」 ECの利用状況
ECの利用状況(画像は「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から編集部がキャプチャ)

海外販売でECを利用する際の販売方法は、国内自社サイトでの販売が35.4%で最多。次いで多かったのが一般貿易型のEC販売。海外のECモールに出店(出品)し、海外の輸入者との間で貿易手続きを行い商品をあらかじめ輸送、受注後は海外の輸入者から商品を発送する方法だ。

国内ECモールなどへの出店は20.7%、海外ECモールなどへの出店は25.1%だった。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が、海外ビジネスに関心の高い日本企業約1万3000社を対象に行った「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」 海外販売でECを利用する際の販売する手段
海外販売でECを利用する際の販売する手段(画像は「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から編集部がキャプチャ)

海外向けECでの販売先について、最も多いのは中国で47.6%。2位は米国(36.6%)、3位は台湾(28.8%)。いずれも前回調査から回答比率が上昇している。重視する販売先としては中国をあげる割合が最多だった。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が、海外ビジネスに関心の高い日本企業約1万3000社を対象に行った「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」 ECによる海外販売先、重視する販売先など
ECによる海外販売先、重視する販売先など(画像は「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から編集部がキャプチャ)

今後の販売先としては、中国(46.3%)、米国(37.1%)、台湾(31.1%)をあげる企業が多かった。

最重要視する国・地域にベトナムをあげた企業の割合は6.2%で、3位に入った。若年人口割合の高さ、高いインターネット普及率、伸び続けるスマートフォンの普及率により、東南アジア地域でEC事業の将来性が最も高い市場と言われている

日本貿易振興機構(ジェトロ)が、海外ビジネスに関心の高い日本企業約1万3000社を対象に行った「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」 ECによる今後の海外販売先や最重要視する国・地域など
ECによる今後の海外販売先や最重要視する国・地域など(画像は「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から編集部がキャプチャ)

EC売上に占める海外向け販売の割合は1%未満が最多

EC販売額のうち、海外向けが占める割合(ECによる海外向け販売額/ECによる販売額)は1%未満(48.1%)が最多。「1~10%未満」は23.1%。一方、海外ECが「91~100%」を占める企業は6.6%もあった。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が、海外ビジネスに関心の高い日本企業約1万3000社を対象に行った「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」 規模別のEC販売額に占める海外向けの割合
規模別のEC販売額に占める海外向けの割合(画像は「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から編集部がキャプチャ)

海外向け販売でECを利用している企業では、「販売先に関する情報不足」(50.3%)に加え、「自社ブランド認知度向上の難しさ」(42.5%)、「商品の価格競争」(39.3%)を課題にあげる企業が多い。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が、海外ビジネスに関心の高い日本企業約1万3000社を対象に行った「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」 EC利用の課題
EC利用の課題(画像は「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から編集部がキャプチャし一部を加工)
瀧川 正実
瀧川 正実

みんな最初は失敗する。EC業界のしくじり先生に学ぶEC事業の立ち上げ方【ネッ担まとめ】 | ネットショップ担当者が 知っておくべきニュースのまとめ

4 years 6ヶ月 ago
ネットショップ担当者が読んでおくべき2021年5月10日〜16日のニュース
ネッ担まとめ

EC事業って経験者でない限りはうまくいかない場合がほとんどです。コロナの影響でこれからEC事業に取り組む方も多いと思いますが、先人たち事例を見て、できるだけ失敗しないような運営を考えていきましょう。

「ECありき」だと失敗します

あなたの会社にECビジネスは必要ですか? 強みや弱み、環境分析で「自社に今一番必要なこと」を知る【検討フェーズ】 | ネットショップ担当者フォーラム
https://netshop.impress.co.jp/node/8637

まとめると、

  • EC事業を始める際は「私はECを通してこういった価値を提供したい」といったトップの考えや理念を社内に浸透させることが必要。EC事業が始動してからも理念から外れていないかをトップ自身が常にチェックする
  • 自社製品がECに向いているのか、対面販売など他の販売手法に向いているのかを見極めることも重要。「扱う製品にニーズがまったくない」「品質に問題がある」場合には社員教育などを優先する
  • 自社を取り巻く環境の分析は、①世の中全体の環境を理解する「PEST分析」、②業界環境を分析する「3C分析」、③自社の強みや弱み、脅威などを知る「SWOT分析」、④自社の基本戦略を考える……の順で行う

振り返ると、ECサイト開設後は失敗の方が多く、売り上げもしばらくはまったく伸びず、苦労したことが多かったECサイト運営。この記事では、「卒塔婆屋さん」の立ち上げや失敗、事業成長を振り返りながら、ECビジネスに役立つ情報を実例を交えて解説していきます。まずは、「そもそもECは適切なのか?」「自社の強みは? 弱みは?」などEC事業立ち上げ前の検討フェーズのお話です。

いきなりECで売れることはあまりないですよね。苦労して売れるようになったショップがほとんどだと思います。この記事では「卒塔婆」というニッチで、しかも価格を表に出すことがタブーとされている業界で、どうやって成功したかが書かれています。

内容はEC関連の書籍に書いてあることが多いですが、それだからこそ重要であると言えます。改めて読んで実行することで上手くいくこともあるはずですので、「知ってるよ」と言わずに読んでみてください。

ECサイトとSEOとWeb広告はひとまとめにして考えること

ネットショップ運営者がおさえておくべき2021年のWeb広告3つのトレンドはこれ! | ネットショップ担当者フォーラム
https://netshop.impress.co.jp/node/8566

ECサイト向け動画SEOのベストプラクティスをGoogleが解説 | 海外SEO情報ブログ
https://www.suzukikenichi.com/blog/google-explains-video-seo-best-practices-for-ecommerce/

まとめると、

  • 広告のトレンド①:Cookieに頼らない広告配信になる
    広告は自社サービスとの関連性の高い興味関心の集合体を見つけたり、その精度を高めたり、ファンを増やしたりするため使われるようになる
  • 広告のトレンド②:動画利用が必須になる
    動画視聴サイトでは人はおのずと趣味趣向に合わせて動画を選んで視聴することから、ターゲットの確度が担保できる
  • 広告のトレンド③:獲得広告と認知広告の捉え方が変わる
    単なる認知広告や獲得広告という分類ではない、統合的な高次の指標を改めて検討する時が来ている

整えたサイトに広告で誘導し、広告配信から得たデータを、サイト構成や商品・サービスへ反映させていく。ループを描きながら双方の改善をもたらすような、SEOと手に手を取った広告運用を私たちは「ダブルループ学習」と定義しています。

サーチエンジンマーケティングはこの形を目指す必要があると、私は考えます。
https://netshop.impress.co.jp/node/8566

① 広告の改善(シングルループ学習)
広告運用・改善をしつつ、インサイトをフィードバック
② 商品・サービスの改善(ダブルループ学習)
広告運用のフィードバックをサービス改善にいかす
商品・サービスビジネスモデル
ミニマムな広告展開
パフォーマンス
広告、サービスの双方を改善する「ダブルループ学習」

「広告=刈り取り」という考えだとこの先が難しそうな時代になりました。リターゲティングの精度も落ちますし、マス的な使い方になってくるのかもしれません。となるとECサイト全体の力と、それを検索エンジン上に反映させるSEO、広告データを活かしたサイト改善を合わせて考えていかないといけません。

つまり担当部署が分かれている場合は横断組織がないといけないということです。総力戦になってきましたので今のうちに会社組織から見直していきましょう。個別に動いていてはもはや成果は出せません。

Shopifyの定番アプリを押さえておきましょう

商品を売るならShopifyの著者 角間氏おすすめshopifyアプリ 配送~マーケティング編 | 世界へボカン
https://www.s-bokan.com/interview/post-22910/

まとめると、

  • 日本の配送会社の配送ソフトにデータを入れたいなら「Japan Order CSV」
  • 伝票を1枚ずつ発行したいなら「Ship&co」
  • 配送日時の指定は「配送日時指定」
  • 既存の国内のアフィリエイトASPと連携するなら「アフィリエイト連携」
  • すでにアフィリエイトをやっているなら「Referral Candy」
  • SEOは「SEOメタマネージャー」
  • レビューを入れるには「Product reviews」か「YOTPO」
  • メールのセグメント配信なら「Klaviyo」
  • アップセルをねらうなら「Product Upsell」か「Upsell & Cross Sell」
  • ヒートマップと操作のレコーディングは「Lucky Orange」
  • LPを作りたいのなら「将軍」か「ページフライ」
  • 地味に便利なのは「送料無料バー」

Shopifyで便利なアプリのまとめです。実際に自分で試すのが確実とわかっていても時間がかかるので、その道のプロのおすすめを使ってみるのが良いですよね。アプリがあることを知らなくて開発してしまうケースもあるので、まずはアプリを調べることから。

とはいえ、関連記事にあるようにアプリを入れすぎると読み込み速度が遅くなる場合もありますのでご注意を。

関連記事

EC全般

コロナによってECでの購買では注文のしやすさが重要に 安さを重視する人は減少 | 公益財団法人流通経済研究所
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000036006.html

EC利用が増えたシニア層は2020年の約3倍に。動画投稿サイトの閲覧などオンライン行動が多様化 | ネットショップ担当者フォーラム
https://netshop.impress.co.jp/node/8699

慣れない利用者が増えてくるとわかりやすさが重要になります。電話の重要性も増しているかも。

【重要】EC-CUBE 4.0系における緊急度「高」の脆弱性(JVN#97554111)発覚と対応のお願い(2021/5/13 19:00 更新) | EC-CUBE
https://www.ec-cube.net/news/detail.php?news_id=383

脆弱性対応版「EC-CUBE 4.0.5-p1」をリリース | EC-CUBE
https://www.ec-cube.net/news/detail.php?news_id=384

EC-CUBE 4.0系を使っている場合はすぐに対応を。信頼性のないショップは選ばれませんので。

<独自>ヤマト運輸、利用者に配達順を通知 | 産経ニュース
https://www.sankei.com/economy/news/210509/ecn2105090003-n1.html

トイレにいるのにヤマトが来た! ということがなくなるのは嬉しいですね。

JR九州が新幹線の未活用スペースを使い荷物の運送。新サービス「はやっ!便」&佐川急便との協業で実現 | ネットショップ担当者フォーラム
https://netshop.impress.co.jp/node/8690

「とれたて超特急! 新幹線でお届け!」みたいな施策もできるかも。

ECの初期費用・月額利用料が無料のフリープランを「カラーミーショップ」が始めた理由【GMOペパボのEC事業部長に聞く】 | ネットショップ担当者フォーラム
https://netshop.impress.co.jp/node/8675

「決済金額の6.6%(税別)の手数料と1決済ごとに決済処理料30円(税別)が発生する」。これはかなり重いかも……。

いつの間にか定期購買に、消費者が不利になるように誘導する「ダークパターン」に注意【被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー】 | INTERNET Watch
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/dlis/1324347.html

このせいで法律が厳しくなって、まっとうなEC事業者が苦しむのはどうにかしてもらいたいです。

今週の名言

やりたいことが先行しなくても、起きた事象に対して最善だと思う判断を積み重ねた結果が今です。

肩書は代表。役割は究極のサポーター|株式会社リワイア代表 岡田吉弘さん | Marketeer
https://marketeer.jp/okada/

冒頭の卒塔婆屋さんの記事に関連して。最初はうまくいかなくても、最善と思う判断を繰り返せば成功するはず。

森野 誠之
森野 誠之

アシックスがデジタルを軸にした経営への転換を掲げた中期経営計画の中身とは?

4 years 6ヶ月 ago

アシックスが策定した中期経営計画(2021年1月1日~2023年12月31日)は、デジタルを軸にした経営への転換を掲げている。

デジタルを活用したタッチポイントの拡大により、ECビジネスの成長を加速。中計最終年となる2023年のEC売上高は、2019年比の3倍以上に拡大する計画だ。

アシックスの2019年3月期のEC売上高は278億円。2023年12月期は単純換算で834億円以上に引き上げる。

アシックスが策定した中期経営計画(2021年1月1日~2023年12月31日)は、デジタルを軸にした経営への転換を掲げている
EC売上の計画など(画像は中計から編集部がキャプチャ)

なお、2020年12月期のEC売上は前期比85.8%増の517億円、EC構成比率は2019年12月期の7.4%から15.7%に拡大している。特に北米や欧州で大幅に増えており、北米のEC売上高は同111.9%増、欧州は同133.3%増。日本は同61.2%増、中華圏は同39.8%増だった。

アシックスの2020年12月期EC売上高は前期比85.8%増の517億円
アシックスのチャネル別売上高(画像は決算説明会資料からキャプチャ)

デジタルを軸にした経営の内容は、「デジタルサービスと連携したランニングエコシステムを通して、一生涯、心も身体も満たされるランニング体験」を提供すること。

無料のメンバーシッププログラム「OneASICS」、フィットネス・トラッキング・アプリ「ASICS Runkeeper(アシックスランキーパー)」などを軸にランニングエコシステムを構築、スポーツイベントの集客や商品の販売につなげている。

「OneASICS」「ASICS Runkeeper」などを活用、アシックスが進めるランニングエコシステム
アシックスが進めるランニングエコシステム(画像は決算説明会資料からキャプチャ)

「OneASICS」では2020年7月、ポイントプログラム制度を導入。アシックスジャパンが運営する店舗で会員が商品を購入すると、対象店舗でポイントが利用できるようにした。今後、顧客タッチポイントの拡大、ECサイト、EC中心のオムニチャネルでの利便性の高い購買体験を構築する。

ECに関する具体策は、①自社ECサイトのパーソナライズ・価値の向上②自社ECを中心としたオムニチャネルの推進③「OneASICS」によるロイヤリティ向上④データドリブンによるマーケティングの強化――などに取り組んでいく。

アシックスが策定した中期経営計画(2021年1月1日~2023年12月31日)は、デジタルを軸にした経営への転換を掲げている
デジタルを軸にした経営への転換(画像は中計から編集部がキャプチャ)

収益事業の変革として、直営店戦略を見直す。ECを中心としたオムニチャネル戦略を進めるため直営店を再編。出退店管理強化による直営店事業の収益性向上を図る。コロナ禍の影響を踏まえた直営店の厳選や、不採算店舗のスクラップにも着手する。

オムニチャネル戦略ではデジタルと連携した店舗体験を用意。店舗顧客の「OneASICS」会員化、パーソナライズされたサービスを提供する。さらに、アウトレットストアの役割を深化。顧客とのタッチポイントと、チャネル横断による在庫消化促進の両立を図っていく。

アシックスが策定した中期経営計画(2021年1月1日~2023年12月31日)は、デジタルを軸にした経営への転換を掲げている
ECを中心としたオムニチャネル戦略における直営店の再編(画像は中計から編集部がキャプチャ)

 

石居 岳
石居 岳

コロナ禍(1-3月)の自社EC利用はどうだった? 新規顧客は平均7割増、客単価は微増【フューチャーショップ調査】

4 years 6ヶ月 ago

SaaS型ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」のフューチャーショップは、2021年1-3月の消費者による自社ECサイトの利用状況に関する調査結果を公表した。新たに自社ECサイトを利用した新規顧客は月平均で前年同期比56.52%増、注文件数は同47.68%増だった。

「futureshop」シリーズを利用している店舗数は2800店以上。業種別の流通総額は1年以上継続利用している店舗に限定して調査。注文件数の変化などは、調査対象に、2020年と2021年1月~3月の期間中、各月の注文件数が100件以上の店舗の中から500店舗を無作為に抽出して調査した。

業種別の伸び率について

業種別の流通総額の変化について、「車用品・バイク用品」の流通総額が2020年1-3月平均と比べて、2021年1-3月平均は220%増。「スイーツ」「食品」は継続的に高い伸び率を維持しているという。

SaaS型ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」のフューチャーショップの調査 業種別の流通総額の変化
業種別の流通総額の変化

注文件数の変化

2021年1-3月の月平均の注文件数は、前年同期比で47.68%増。2020年2月頃から日本でも新型コロナウィルス感染症が拡大、ネット通販の利用が伸び始めた。そのため、2021年2月以降、伸び率は低くなっている。

SaaS型ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」のフューチャーショップの調査
EC注文件数

購入単価の変化

パソコンはスマートフォンより2割程度、購入単価が高い傾向が続いている。

SaaS型ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」のフューチャーショップの調査 購入単価の変化
購入単価の変化

3月の伸び率が他の月と比べて高いことについて、フューチャーショップは次のように推測している。

一般的に、既存顧客の購入単価は新規顧客よりもやや高い傾向が見られる。昨年3月は在宅推奨の呼びかけを受けたEC新規顧客が増加。一方、今年3月は既存顧客の購入が増加したため、単価自体は他の月と変わらないものの、昨対比では高い数字が出たと予想する。

新規顧客利用状況

2月、3月と増加率が低下しているのは、2020年2月頃から徐々に新規のEC利用が増加していたためと推測している。

SaaS型ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」のフューチャーショップの調査 新規顧客利用状況
新規顧客利用状況

決済手段の変化

決済方法を「クレジットカード」「ID・QR決済(Amazon Pay、楽天ペイ(オンライン決済)、Apple Pay、PayPay)」「現金・その他決済(店頭払いや後払い、銀行振込やコンビニ払いなど)」の3つにわけ、各月の総注文件数の割合を調べた。ID・QR決済利用が増加し、現金利用が減少している。

SaaS型ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」のフューチャーショップの調査 各月決済手段の割合/件数
各月決済手段の割合/件数(調査対象店舗全体)

決済方法を3つとも提供している店舗に限定して(n=332)調査結果では、現金から他の決済方法への移行が進んでおり、ID・QR決済の利用率が現金を上回った。キャッシュレス利用が全体の約3/4を占め、ID・QR決済利用は3割を超えている。

SaaS型ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」のフューチャーショップの調査 各月決済手段の割合/件数
各月決済手段の割合/件数(3種類の決済手段提供店舗のみ n=341)
◇◇◇

「futureshop」シリーズはコロナ禍で新規導入店舗が増加し、2020年4月の2500店舗から2021年2月には2800店舗を突破。2020年度の流通総額は前年度比48%増の1550億円を記録した。

瀧川 正実
瀧川 正実

コロナ禍の需要増でオイシックス・ラ・大地の売上は1000億円を突破【2021年3月期】

4 years 6ヶ月 ago

食品宅配大手オイシックス・ラ・大地の2021年3月期連結売上高は、前期比40.9%増の1000億6100万円、営業利益は同202.6%増の74億6500万円だった。

売上高は国内宅配事業の会員数増、1ユーザーあたりの平均売上高が増加、海外事業の業績が通年影響したことで2ケタ増収となった。

国内宅配事業の会員数増加の効果により約200億円の増収。さらに、新型コロナウイルスの影響による1ユーザーあたりの売上増の効果などで合計約300億円の増収効果があったと分析している。

食品宅配大手オイシックス・ラ・大地の2021年3月期連結売上高は、前期比40.9%増の1000億6100万円
前年推移(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)

オイシックス・ラ・大地は主に「Oisix」「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」の3つのブランドで食品宅配事業を展開している。

食品宅配大手オイシックス・ラ・大地の2021年3月期連結売上高は、前期比40.9%増の1000億6100万円 セグメント別業績
セグメント別業績(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)

「Oisix」の売上高は前期比39.2%増の498億6300万円、セグメント利益は同87.1%増の89億8400万円。第1四半期に、急激な需要増に起因する物流センターの出荷キャパシティー逼迫で新規会員獲得を停止したものの、第4四半期にはテレビCMなど新規会員獲得のプロモーション施策を行い、会員数は2020年3月末の23万9837人から、2021年3月末には30万8889人へと増加した。

食品宅配大手オイシックス・ラ・大地の2021年3月期連結売上高は、前期比40.9%増の1000億6100万円 会員数と顧客1人あたりの月単価
会員数と顧客1人あたりの月単価(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)
食品宅配大手オイシックス・ラ・大地の2021年3月期連結売上高は、前期比40.9%増の1000億6100万円 Oisixの新規会員の獲得について
Oisixの新規会員の獲得について(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)

「大地を守る会」の売上高は同32.6%増の139億7800万円、セグメント利益は同56.0%増の24億100万円。会員数は2020年3月末の3万7127人から、2021年3月末には4万5307人へと増加した。シニア層の健康・免疫意識の高まりに対し、手軽に野菜を摂取できるサービスや発酵関連の商品を積極的に展開。顧客ニーズに即した販売施策を実施したことで、購買頻度・単価ともに前連結会計年度を上回って推移した。

食品宅配大手オイシックス・ラ・大地の2021年3月期連結売上高は、前期比40.9%増の1000億6100万円 「大地を守る会」会員数と顧客1人あたりの月単価
「大地を守る会」の会員数と顧客1人あたりの月単価(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)

「らでぃっしゅぼーや」の売上高は同18.2%増の177億400万円、セグメント利益は同13.4%増の30億2300万円。会員数は2020年3月末の5万6935人から、2021年3月末には6万2751人へと増加した。家庭での調理機会の増加に対し、料理が楽しくなる商品・サービスの販売施策を実施したこと、メイン商材である季節の野菜の詰め合わせボックス「ぱれっと」の商品設計の改善などを行った結果、購買頻度・単価ともに前事業年度を上回って推移した。

食品宅配大手オイシックス・ラ・大地の2021年3月期連結売上高は、前期比40.9%増の1000億6100万円 会員数と顧客1人あたりの月単価
「らでぃっしゅぼーや」会員数と顧客1人あたりの月単価(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)
石居 岳
石居 岳

LINEとSTAFF STARTが業務提携。オンライン接客のパーソナライズ化に向け、「LINE STAFF START」を共同開発へ

4 years 6ヶ月 ago

店舗販売員のデジタル接客を可能にし、EC売上に対する貢献度を可視化するツール「STAFF START」を提供するバニッシュ・スタンダードとLINEは5月14日、業務提携契約を締結したと発表。新サービス「LINE STAFF START」の共同開発を行い、2021年秋頃のサービスローンチをめざす。

7万人超の店舗スタッフ、LINE公式アカウントの開設が可能に

「LINE STAFF START」は、「STAFF START」に登録している7万人超の店舗スタッフのLINE公式アカウント開設を可能にし、LINEを通じたオンライン接客が行えるというもの。主に以下の取り組みが行われる予定。

「STAFF START」登録コンテンツと連携、オンライン接客に活用

「STAFF START」に登録しているコンテンツ(商品やコーディネートなど)を手軽にLINE公式アカウントと連携し、メッセージとして配信。店頭での接客やLINEを通じた会話から得た情報をもとに、1人ひとりの顧客にあった商品などのコンテンツ提案が行えるようになる。

「LINE STAFF START」を通じた接客イメージ
「LINE STAFF START」を通じた接客イメージ(画像:「LINE STAFF START」紹介サイトより編集部がキャプチャ)

従来から、やり取りのために店舗スタッフと顧客間で、LINEやSNSアカウントを交換するケースはあったが、スタッフのLINEアカウントはプライベートで使用していることが多く、積極的にコミュニケーションが行えなかったという。また、企業側も店舗スタッフと顧客とのやり取りが見えず、オフィシャルなコミュニケーション手段として、LINEやSNSを採用しにくいという課題もあった。

「LINE STAFF START」は、企業側がどのスタッフにアカウントを発行し、どのようなやり取りをしているか把握できることから、LINEを公式の接客手段として活用しやすくなる

LINEでつながった顧客にコーディネート提案を送るイメージ
LINEでつながった顧客にコーディネート提案を送るイメージ(画像:「LINE STAFF START」紹介サイトより編集部がキャプチャ)

チャット機能やメッセージ、ビデオ通話やLIVEを利用できるほか、LINEのメッセージを通して自社ECサイトで売り上げがあった場合、店舗スタッフ個人の集客・売り上げとして可視化できる。

LINE STAFF STARTで利用可能予定の各種機能
「LINE STAFF START」で利用可能予定の各種機能(画像:「LINE STAFF START」紹介サイトより編集部がキャプチャ)

また、LINEを使った販売活動の実績をもとに、店舗スタッフの売上ランキングの確認、売れ筋商品、コンテンツの分析もできるという。

LIVEの利用イメージ
LIVEの利用イメージ(画像:「LINE STAFF START」紹介サイトより編集部がキャプチャ)

店頭での購買履歴や来店履歴との連携

デジタル会員証などをLINE上で提供することで、LINEアカウントとひも付いたオフラインの購買履歴を取り入れることができる。購買履歴や来店履歴に基づいたお得な情報を、LINE公式アカウントを通じて届けたり、日々のオンライン接客に生かすことが可能になる。

LINE Beaconを活用し、店頭での来店検知も行う予定。STAFF STARTとの提携を発表したLINEのオンラインカンファレンス「LINE BIZ DAY 2021」(2021年5月14日)によると、販売員はLINEでフォローされている「友だち」の来店を検知、過去の購入履歴を確認しながら接客ができるなど、オフラインでも「パーソナライズ」された接客を実現する機能の提供も検討しているという。

公文 紫都
公文 紫都

【WalmartのDX事例】Amazonショックに立ち向かうリテール王が進めたデジタルとリアルの良いとこどり | DX経営図鑑(全8回)

4 years 6ヶ月 ago
Walmartはアプリ活用でデジタル化を進めつつ、リアル店舗の強みも武器にしてきました。その一つが、デジタルで注文してリアルで受け取る「BOPIS」。BOPISで叶う顧客の新たなニーズとは。
DX経営図鑑

この記事は、書籍『DX経営図鑑』の一部を特別にオンラインで公開しているものです。

Part 1「世界のDX事例と価値交換の仕組み
 》 DX Case 2「Walmart Amazonショックに立ち向かうリテール王
 》 3「脱Walmart化とデジタル民主主義」、4「リアル店舗の資産をデジタルで最大化」より

Walmartが現在のWalmart.comとなるeコマースを本格的に開始したのは2007年のことです。Kosmixという検索エンジンとデータ分析の会社を買収し、2013年にWalmart Labsを発足させました。これは小売におけるさまざまなデータを分析し、次世代の小売業の開発を目指したもので、スタートアップの買収とインキュベーション(設立して日の浅い企業に経営ノウハウや資金などを提供して育成すること)も兼ねた機関でした。Walmartはその後も、デジタル企業の積極的な買収を続けますが、eコマース領域の成長は鈍く、Amazonが大躍進を続けるなかで苦戦を強いられます。その後、Jet.com買収からようやく潮目が変わるのです。

Jet.com創業者のマーク・ロアは、かつてベビー用品EC(電子商取引)のDiapares.comでAmazonと熾烈な競争を繰り広げましたが、その事業をAmazonに売却することになりました。その後、売却時に得た資本でJet.comを立ち上げます。Jet.comは「ECのCostco」を目指したホールセール型のビジネスモデルで、年会費に50ドルを払えば生活消費財や食品を破格で買うことができたため、大変な人気となりました。

しかしその後、創業わずか2年でWalmartに買収されます(2016年)。従来のWalmartであれば、Jet.comは解体され、ベントンビルの本部によってWalmart流に取り込まれていくのですが、このJet.comはそれまでとは異なる道を辿りました。2014年にWalmartのCEOに就任したダグ・マクミロンは、これまでの吸収型買収を止め、Jet.comを稼動させながら直営ECであるWalmart.comの改革をマーク・ロアに任せることにしたのです。

Walmart化の回避と成功

ロアの下で、Walmartは積極的にデジタルブランドの買収を始めます。ホーム&ガーデンのHayneedle、女性向けヴィンテージアパレルのModCloth、男性向けアパレルDtoCの騎手と目されたBonobosなどを傘下に加えながら、各ブランドサイトを無理やりに「Walmart化」することはせず、各ブランドのファン層を維持しながら、有効な顧客データを手に入れていったのです。

こうして、各ブランドサイトの買収を続けたWalmartは、顧客接点を拡大・多様化しながら、できるだけWalmart色を抑えることでミレニアル層を取り込みました。もとは、EDLP(Everyday Low Price)ブランドとして受け入れられてきたWalmartでしたが、デジタル世代の購買主力であるミレニアル層は、個性的でニッチなものを好み、大手量販店で売られるありきたりな商品を敬遠する傾向にあります。Walmartブランドはミレニアル層に忌避されると確信したWalmart CEOのマクミロンは、ロアのデジタルスタートアップの手法を大いに生かし、デジタルブランドのWalmart化を極力抑えることでミレニアル層の民意獲得に努めたのです。

アメリカのEC市場では、Amazonが圧倒的なシェアを維持しています。eMarketerの調査によると、2016年の段階では1位のAmazonが38.1%、2位のeBayが7.8%、3位のAppleが3.2%、Walmartは4位でわずか2.8%というシェア率でした。しかし、2019年にWalmartは4.6%の3位に、2020年には5.3%の2位に浮上しました。いまだAmazonはシェアを伸ばしていますが、2020年は微増の38.7%ですから、Walmartは他勢力を抜き去り、ポストAmazonの最有力ECプレーヤーに躍り出ることに成功しています。

さまざまなビジネスとの共存

技術面においては、Walmart.comはJet.comのマーケットプレイス要素を取り入れ、むしろ積極的に「Walmart.comのJet.com化」を推進しました。

デジタルビジネスの世界では、決済、ローン、リコメンド、配送管理といったさまざまな単機能型デジタルサービスが接続することで成立します。一企業が囲い込む従来の開発手法では、スピードや柔軟性に欠け、躍進するスタートアップに後れをとっていました。Walmart.comはWalmart Labsを設立するなど、最新技術の導入やプロセス改善に向けて積極的に動いていましたが、大きな成果をあげられませんでした。そのためCEOのマクミロンは、Walmartの従来の帝国主義的な発想を否定し、さまざまなビジネスとの共存による民主主義的な方法での成長を目指しました。Jet.comの買収とロアの抜擢はその象徴といえ、ブランドだけでなく技術開発面においても、脱Walmart化を推進したのです。

従来のプロセスからの脱却

マクミロンの選択は、DXを考えるうえで非常に大きなヒントになります。過去に大きな成功体験を持っている企業ほど、新しいものを「取り込む」という発想を持ってしまい、技術開発面でいえば「自社流にカスタマイズ」しようとします。しかし、デジタル化社会のビジネスは、先鋭化した各サービスがその個性を維持しながら繋がることで、カスタムという手間を極力避け、幅広いデータを処理し、指数関数的な成長をともに目指すエコシステムが主流です。いかに巨大な資本力やIT資産を持ち、先進的な技術を手に入れたとしても、従来のプロセスに閉じてしまっては、旧世代のIT化にとどまっているといえます。それでは「超高速」の世界には行けません。巨人Walmartは、2016年のJet.com買収で覚醒することができたのです。

リアル店舗の資産をデジタルで最大化

Walmartの覚醒は、「脱Walmart化」だけではなく、リアル店舗の小売業が持つ競争力や資産を有効活用し、AmazonなどEC企業との圧倒的な差別化を目指しています。そのキーワードがWalmartアプリであり、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)です。

Walmartアプリの進化

Walmartは2014年から、スマートフォンの公式アプリを本格的に稼働し始めます。当初の役割は、会員証のスマートフォンへの移行でした。多様なディスカウントや特典があるWalmart Membershipの機能をアプリに収めることで、購買時の割引やキャッシュバックポイントを可視化し、モバイルコマースの活用を実現しました。

そして2018年、それまでは別サービスで展開していたWalmart Pay(QRコード型のキャッシュレス決済アプリ)を1つにまとめ、現在のWalmart公式アプリに展開させたのです。このアプリは、2019年にはショッピング分野でのダウンロードランキングが上位に入り、ほとんどのアメリカ国民が持っているショッピングアプリになりました。同アプリは会員機能とQRコード決済に加え、EC購買やピックアップ予約、現金の送金や処方箋機能(処方箋が必要な薬を受け取る認証コードを発行)まで備えています。さらには、特定エリアに限定したバーゲン情報や、タイムセールの告知なども可能です。

こうしてWalmartアプリは、Amazonのような「デジタル」の強みを取り入れつつ、Walmartのような「リアル」の強みをさらに強化したサービスを提供する、万能型の小売アプリへと進化しました。

デジタルがいいもの、リアルがいいもの

BOPISとは、デジタルで注文してリアルで受け取るサービスのことで、2015年頃からアメリカのリアル小売の合言葉になっていましたが、本格的に実現させたのはWalmartでした。

ウェブサイトやスマートフォンで買い物し、店舗まで取りに行くというこのサービスは、受け取りに来た顧客をスピーディーかつ正確にさばくオペレーション体制の構築が課題となっていました。

BOPIS顧客が増え、顧客が受け取りまで待たされることになれば、レジ待ち行列に並ぶのと何ら変わりません。むしろ、すぐ入手できると思っていた消費者にとってはマイナス体験になります。

Walmartは大規模なピックアップセンターを整備し、ドライブスルーのように車で乗り付け、専用のピックアップガレージで受け取りができる仕組みを作りました。消費者はWalmart.comで購買後、受け取り先を最寄りの店舗に指定するだけでいいのです。あとは指定されたガレージに向かい、スマートフォンのバーコードをかざすだけで商品を受け取ることができます。生鮮食品ですら当日配送ができる現代、買い物は全て自宅配送でよいのではないかという意見もあるでしょう。一方で、「今日の晩ごはん」や「明日のイベント」のために、今すぐ欲しい緊急のニーズも常に存在します。また、子どもと店舗までドライブする時間も、日常生活の中で軽視できない体験といえるでしょう。

BOPIS──Walmartのさらなる努力

逆説的にいえば、これらはAmazonでは手に入らない価値であり、Walmartをはじめとする実店舗型リテールの最大の競争力でもあります。Amazonの躍進によって撤退や倒産を余儀なくされたビジネスは、以前はToys“R”UsやSports Authorityなどのホビー用品店、Searsなどの雑貨店、J.C.Penneyなどの高級百貨店でしたが、生鮮食品・雑貨を中心としたWalmartやそのライバルであるCostco、Targetは今も生き残り続けています。

それまでも、日常消費のエンターテインメント性を主張する企業は数多くありましたが、「デジタルのほうが便利なこと(注文、決済、予約)」を積極的に取り入れ、「リアルのほうがありがたいこと(即時ピックアップ)」を本格的に実現できたのはWalmartだけでした。このデジタルとリアルの双方を取り入れるのは非常に大変なことです。多くの企業がBOPISを提唱しつつもうまくいかなかった背景には、受付時間の制約やミスの多発、顧客対応がスピーディーに進まないなどの「期待値と体験のギャップ」がありました。Walmartはデジタルスピードに合わせて既存のオペレーションを組み直し、理想的なBOPIS体験を提供するようになったのです。

Walmartが取り去るペイン
──今欲しいものを最短で手に入れるために

1970-80年代のIT化、そして2015年以降のデジタル化を通じてWalmartが一貫しているペイン除去は、全体購買時間の短縮です。Walmartの大型店舗は、行けば何でも揃う「ワンストップソリューション」という価値を提供します。何店舗にも行かなければ揃わない生活雑貨や生鮮食品などがWalmartでは全て手に入るので、街中を駆け回る非効率性を回避できます。

一方、eコマースの登場によって、Walmartに「行かなくても」何でも手に入る時代が訪れました。アパレルや家電、大物雑貨の需要はeコマースに大きく流れますが、生鮮食品など「今すぐ手にに入れたいもの」を店舗で購買する需要が絶えることはありません。BOPISで受け取り予約を入れ、注文し忘れたものは受け取りついでに店舗で買えば、「今欲しいものを今手に入れる」ことができ、レジ待ちも回避できます。

eコマースの配送は極めて便利ですが、何時に届くかわからない以上、「今欲しいもの」の入手には向いていません。むしろ、このタイムラグは、eコマースが生み出した新しいペインです。Walmartはeコマースができない「ワンストップで必需品の調達」を実現し、買い回りやレジ待ちという非生産的な時間の短縮に努めています。

Walmartがもたらすゲイン
──最短・最安と、入手方法の自由

Walmartがもたらすゲインは、今欲しいものを「最短・最安」で手に入れるという創業からのペイン除去に立脚しています。明日でいいものはAmazonで十分なのです。Walmartは「明日でいいけど、今日あったほうがいいかもしれない」ものも含めて提供し、日常消費を小さなエンターテインメントにします。急がない商品は配送で、今欲しいものはBOPISで、気づいていないものは店舗で思い出して買えばいい、という入手方法の自由が、買い物体験の利便性と娯楽性を同時に高めているのです。

配送という選択肢しかないAmazonは、ここが最大の弱点です。Walmartによって消費者は、消費のエンターテインメントをスタイルに合わせていつでも楽しめる、極めて大きなゲインを手に入れたのです。

小売業のビジネスモデルを転換するWalmartのDX

2020年、コロナ禍に苦しむアメリカでは第3四半期のeコマース消費が前年比79%に増加し、Walmart.comもまた79%増となりました。Walmartは同年にサブスクリプションサービスのWalmart Plusを発表していますが、これは明らかにAmazon Primeを意識したものです。また、2014年からWalmart Closed Loop(ウォルマート閉域網)と呼ばれる広告ネットワークを構築し、広告事業にも力を入れ始めています。Walmart.comと買収したデジタルブランド全ての測定を一元化し、店舗データとのマッチングを行うことで、リアルでもデジタルでも広告の売上貢献効果が確認できる仕組みを作りました。

現在展開するWalmartのデジタル広告は、同社が提供するプラットフォーム上から広告主や広告代理店が直接買い付け、管理できる、Amazonと同様のモデルです。Walmartの広告プラットフォームを通じてGoogleやFacebook広告を買い付ければ、デジタル・リアル双方のWalmart店舗での売上貢献を測定することができます。現在のWalmart.comおよび関連ブランドの総アクセス数は月間4億訪問を超える勢いで、日本の楽天と同レベルの媒体力を持っています。Walmart実店舗の訪問顧客数は月間10億人を超えるとされ、9割のアメリカ人が、少なくとも年に1度はWalmartを利用しています。Walmartのデジタル広告進出は、先述の「製販同盟」のデジタル版ともいえるでしょう。メーカーはWalmartでの売上に加えて、広告効果のデータを入手できるので、販売・生産予測はもちろん、ブランディングや販売促進のための莫大な広告費の投資効率を上げることができ、デジタル世代にも正確に訴求できることはメーカー各社にとっては嬉しいサービスです。

Walmartは、ブランドスローガンであるEDLPを常に実現すべく、積極的にデジタル化を取り入れてきました。小売業という低収益率の弱点を補うべく広告領域に力を入れ、さらなる投資原資を確保して、新しい小売業のビジネススタイルを模索しています。

  • 著者: 金澤 一央、DX Navigator 編集部
  • 発行: 株式会社アルク
  • ISBN: 978-4757436787
  • 価格: 2,310円(税込)

勝てるDXの本質
~次に生き残るのは、誰か?~

世界の伝統的企業やスタートアップがいち早く取り組んできたDXの数々。各事例をつぶさにレポートしてきた「DX Navigator」編集部の知見をまとめ、事例分析と価値提供のプロセスを可視化した一冊です。

本書は世界全32社のDX事例を収録。いずれも、顧客/ユーザー視点での「ペイン(苦痛)」と「ゲイン(利得)」を切り口に、顧客/ユーザーが最終的に得た「価値」について解き明かします。

Part 1では、従来の商習慣や価値提供の概念を新しい基準に転換させた「ゲームチェンジャー」である9社―Netflix、Walmart、Sephora、Macy’s、Freshippo、NIKE、Tesla、Uber、Starbucks―を取り上げます。

Part 2では、海外のスタートアップを中心に日本企業も加えた23社の事例を、業界別に紹介。多くの顧客/ユーザーから支持を得た、各社のエッジが効いた斬新なアイデアとその背景に鋭く迫ります。

日本の「DXブーム」には問題も潜んでいます。DXとは単なる技術導入やカイゼンを言い換えた言葉ではなく、「ユーザーが最終的に得る価値」を見つめ、新しい価値提供の仕組みを創り出すということ。これからも続く企業の変革、世の中の変革のなかで、次に生き残るのは誰か?

金澤一央+DX Navigator 編集部
金澤一央+DX Navigator 編集部

EC利用が増えたシニア層は2020年の約3倍に。動画投稿サイトの閲覧などオンライン行動が多様化

4 years 7ヶ月 ago

オースタンスの調査・ビジネス推進組織「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)シニアコミュニティラボ」と博報堂のプロジェクトチーム「博報堂シニアビジネスフォース」は、コロナ禍がシニア世代に及ぼした影響について調査、2020年4月の調査結果と比較した。「コロナ前と比べてネットショッピングの利用が増えた」と回答した人は、2020年の約3倍になった。調査対象は「趣味人倶楽部」会員で60~94歳の男女797人、期間は2021年3月9日~22日。

「ネットニュースを読む」以外は2020年より増加

オンラインで行うことについて、コロナ前より「増えた」と回答した数値を2020年4月の調査結果と比較。減少した項目は「ネットニュースを読む」(20年:60.9% → 21年:49.8%)だった。

一方、増加した項目は「無料の動画を見る(動画投稿サイトなど)」(20年:27.6% → 21年:39.6%)「ネットショッピング(20年:12.9% → 21年:30.0%)」「メッセンジャーアプリで友人や家族と会話する(20年:10.6% → 21年:16.3%)」「Web会議ツールを利用して友人や家族と会話する(20年:2.3% → 21年:11.9%)」だった。

調査 シニア層 趣味人倶楽部 新型コロナウイルスの流行以降にオンラインで行うことが増えたこと
新型コロナウイルスの流行以降に、オンラインで行うことが増えたこと(複数回答可、上位10項目)(出典:趣味人倶楽部シニアコミュニティラボ)
調査 シニア層 趣味人倶楽部 新型コロナウイルスの流行以降にオンラインで行うことが増えたこと 男女別
新型コロナウイルスの流行以降に、オンラインで行うことが増えたこと(男女別)(複数回答可、上位10項目)(出典:趣味人倶楽部シニアコミュニティラボ)

女性を中心に「ネットショッピング利用増えた」

ネットショッピングでの買い物頻度の変化について聞いたところ、「コロナ前に比べネットショッピングでの買い物が増えた」と回答した人は30.5%で、2020年の9.6%の約3倍だった。

オンライン購入が多い物は「衛生用品(マスクなど)」「趣味関連商品」「食品」。オンライン購入が増えたジャンルは「家電・電化製品(20年:3.6% → 21年:15.3%)」「趣味関連商品(20年11.6% → 21年:18.9%)」「衣類(20年:3.2% → 21年:10.4%)」だった。

調査 シニア層 趣味人倶楽部 ネットショップに関して、新型コロナウイルスが広がる前と比べて、買い物の頻度に変化があったか
ネットショップに関して、新型コロナウイルスが広がる前と比べて、買い物の頻度に変化はあったか(出典:趣味人倶楽部シニアコミュニティラボ)
調査 シニア層 趣味人倶楽部 ネットショップに関して、新型コロナウイルスが広がる前と比べて、買い物の頻度に変化があったか 男女別
買い物頻度の変化グラフ男女別入れる ※キャプ:ネットショップに関して、新型コロナウイルスが広がる前と比べて、買い物の頻度に変化はあったか(男女別)(出典:趣味人倶楽部シニアコミュニティラボ)
調査実施概要
  • 調査タイトル:「新型コロナウイルスによる生活への影響に関するアンケート2021」
  • 調査方法:インターネット調査
  • 調査期間:2021年3月9日~2020年3月22日
  • 調査対象:60歳~94歳の男女で趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)会員797人

※本調査は「趣味や交流を楽しんでいる活動的な60歳以上のアクティブシニア」を対象とする

藤田遥
藤田遥

カクヤスがモール事業に参入。「日本酒+つまみ」に特化した専門EC「カクベツ」を開設

4 years 7ヶ月 ago

カクヤスグループの子会社であるカクヤスは2021年7月、酒とつまみに特化したモール型専門ECサイト「カクベツ」をオープンする。コロナ禍で厳しい状況下にある日本の酒蔵を応援するのが目的。

「カクベツ」は、酒蔵や食材事業者が一般ユーザーへ直接販売できるプラットフォームを提供する出店型の通販サイト。

カクヤスグループの子会社であるカクヤスは2021年7月、酒とつまみに特化したモール型専門ECサイト「カクベツ」をオープンする
カクヤスが展開するECモール「カクベツ」のイメージ

145万人の会員を抱えるカクヤスのECサイト「なんでも酒やカクヤス」とアカウントを連携し、送客する。出店者が負担するのは、売上金額に対する手数料率5%(クレジットカード手数料込み)。なお、出店商品のカテゴリーによって手数料は異なる。初期・月額費用は発生しない。

主目的は日本の酒蔵を応援すること。酒好ユーザーに「酒蔵の思いやこだわり」を発信しながら、酒類業界を活性化、酒蔵とお酒好きなユーザーを橋渡しするサイトをめざす。

酒蔵のある地域には酒に合う地域自慢の食材が豊富にある。そういった食材も今後、積極的に取り扱っていく。

「カクベツ」は今後、酒蔵・食材業者の出店を募り、全国の一般ユーザーに商品を届けていく。将来的には、海外への販路拡大も視野に入れており、酒類業界のさらなる売上拡大につなげていく。

  • 「カクベツ」の出店担当窓口
    kakubetsu_shop@kakuyasu.co.jp
石居 岳
石居 岳

「雇用調整助成金」特例措置と「休業支援金」の申請対象期間、6月末まで延長【ネッ担アクセスランキング】 | 週間人気記事ランキング

4 years 7ヶ月 ago
2021年4月30日~5月13日にアクセス数の多かった記事のランキングを発表! 見逃している人気記事はありませんか?
  1. 「雇用調整助成金」の特例措置、緊急事態宣言の対象地域は6月末まで延長

    現在、東京都、大阪府、京都府、兵庫県の4都府県に「緊急事態宣言」を発令中。営業時間の短縮協力を求めるなど「雇用調整助成金」の一部内容を変更、4都府県を対象に特例措置を6月末まで延長する

    2021/5/6
  2. 休業者が直接申請できる「休業支援金」の申請対象期間を6月末まで延長、1日あたりの支給上限額は原則9900円に減額

    緊急事態宣言、感染が拡大している地域は特例を設け、事業主に休業させられる労働者が休業手当を受け取れないときは支給額上限額1万1000円を維持する

    2021/5/7
  3. 楽天と日本郵便が合弁会社「JP楽天ロジスティクス」を新設、めざすはオープンな物流プラットフォームの構築

    JP楽天ロジスティクスがめざすのはオープンなプラットフォームの構築。将来的に他のEC事業者や物流事業者にもプラットフォームへの参加を促進していく

    2021/5/6
  4. 顧客満足度の高い「ウォーターサーバー」ランキング、宅配水事業で後発の通販大手ジャパネットグループが1位

    ミネラルウォーターを製造している山梨県・山中湖の自社工場隣にクラフトビールの醸造拠点となる醸造所「富士麦酒醸造所」。クラフトビール市場にも参入する予定

    2021/5/7
  5. タイムセールの場合は最終申込画面でも販売期間などを表示せよ! 通販・EC業界に影響大の可能性「特商法改正案」とは

    特定商取引法改正案には、ECプラットフォームの大規模改修の必要が生じる可能性のある内容が盛り込まれている

    2021/4/30
  6. ECサイトのコンバージョン率を向上させるための10の方法とヒント

    今回の記事では、EC事業者のコンバージョン率向上に役立つ10のヒントをご紹介します。

    2021/5/6
  7. 今はアイデア次第でAmazonにも勝てる時代。ECは「原理」×「市場環境」で攻略【ネッ担まとめ】

    ネットショップ担当者が読んでおくべき2021年4月26日〜5月9日のニュース

    2021/5/11
  8. ECビジネスやデジタル化など支援の「IT導入補助金2021」1次公募の締切は5/14まで

    2次公募の締め切りは7月中旬頃の予定。「IT導入補助金2021」では、令和2年度第3次補正予算で実施する「低感染リスク型ビジネス枠(特別枠:C・D類型)」を新たに設けている

    2021/5/12
  9. 「バイク王」がEC子会社「株式会社バイク王ダイレクト」設立、バイク車両と周辺部品・用品を販売

    車両の通信販売需要が高まっていること、用品・部品といった周辺ビジネスが拡大していることから、EC子会社「株式会社バイク王ダイレクト」を設立した

    2021/5/11
  10. 「EC-CUBE 4.0系」で緊急度「高」の脆弱性、該当するECサイトは緊急対応を

    開発元のイーシーキューブは複数サイトでの攻撃を確認。脆弱性を悪用したクレジットカード情報の流出を確認しているという

    2021/5/11

    ※期間内のPV数によるランキングです。一部のまとめ記事や殿堂入り記事はランキング集計から除外されています。

    内山 美枝子

    楽天の国内EC流通総額は1.1兆円で約22%増、ショッピングECは約40%増【2021年1Qまとめ】 | 大手ECモールの業績&取り組み&戦略まとめ

    4 years 7ヶ月 ago
    楽天グループの国内EC流通総額は1兆1220億円で前年同期比22.4%。ショッピングECの流通総額は前年同期比33.9%増

    楽天グループの2021年1-3月期(第1四半期)連結業績における国内EC流通総額は1兆1220億円で前年同期比22.4%だった。出店店舗数は2020年12月期から686店舗増の5万4480店舗。

    楽天グループの国内EC流通総額の四半期ベースの推移
    国内EC流通総額の四半期ベースの推移(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    国内EC流通総額は「楽天市場」の流通総額に加え、トラベル(宿泊流通)、ブックス、ゴルフ、ファッション、ドリームビジネス、ビューティ、デリバリー、楽天24(ダイレクト)、オートビジネス、ラクマ、Rebates、楽天西友ネットスーパーなどの流通額を合算した数値。

    ショッピングECの流通総額は前年同期比33.9%増と物販系のネット通販は大きく伸びた。ショッピングECは、「楽天市場」、1stパーティー(ファッション、ブックス、楽天24、楽天西友ネットスーパー、Rebates、チェックアウト、ラクマが対象。「楽天市場」の流通総額に占めるモバイル経由の比率は同2.8ポイント増の78.3%。

    楽天グループの2021年1-3月期の国内ECとショッピングECの流通総額について
    2021年1-3月期の国内ECとショッピングECの流通総額について(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    「楽天市場」の流通総額に占める楽天カード決済比率は66.8%。

    「楽天市場」の流通総額に占める楽天カード決済比率
    楽天カード決済比率の推移(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    クロスユース率(当該月間の楽天スーパーポイント獲得可能サービスの利用者が、過去12か月間に他サービスを利用した場合をカウント)は73.5%。

    楽天グループ クロスユース率の推移
    クロスユース率の四半期ベースの推移(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    新規購入者、1年以上「楽天市場」を使っていなかったユーザーの復活購入、1人あたりの月間購入額の増加、ユーザーの定着率(リピート購入)などが流通総額の拡大要因となった2020年12月期の決算。

    前四半期(2020年10-12月期)に「楽天市場」で購入したユーザーが、2021年1-3月期(第1四半期)も利用した割合は約73%。2021年1-3月期に「楽天市場」「ラクマ」「楽天ブックス」を利用したクロスユースユーザーの割合は前年同期比で39.4%増だった。

    楽天グループ リピート購入率とECサービスのクロスユースについて
    リピート購入率とECサービスのクロスユースについて(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    2021年1-3月期のユーザー1人あたりの購入金額は同15.5%増、購入頻度も同15.9%増。ユーザーの定着およびクロスユース、ユーザーあたりの利用が順調に拡大しているという。

    楽天グループ 「楽天市場」ユーザー1人あたりの購入率額と購入頻度
    「楽天市場」ユーザー1人あたりの購入率額と購入頻度(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    2021年1-3月期に1回以上商品を購入したユーザー数の増加率は、「楽天市場」が同16.4%増、ブックスは22.6%、ファッションが47.9%増、ネットスーパーが55.6%増。

    楽天グループ ECサービスのユーザー数の伸び率
    ECサービスのユーザー数の伸び率(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    楽天モバイルの相乗効果

    顧客獲得のペースは加速しており、累計契約申込数は400万を突破。5月11日時点で410万契約に達している。

    楽天グループ 楽天モバイルの累計申込契約数の推移
    楽天モバイルの累計申込契約数の推移(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    楽天モバイル契約者に占める楽天サービス新規ユーザーの割合は2021年3月時点で18%。2020年3月-2020年9月に楽天モバイルを契約したユーザーのうち、契約後半年から1年以内に「楽天市場」を利用した割合は「3人に1人」など、クロスユースが拡大しているという。

    楽天グループ 楽天モバイル契約者における新規、既存ユーザーの内訳
    楽天モバイル契約者における新規、既存ユーザーの内訳(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)
    楽天グループ 楽天モバイルをきっかけとしたクロスユース
    楽天モバイルをきっかけとしたクロスユース(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    注力する物流

    楽天グループは日本郵便と、物流拠点や配送システム、受取サービスの構築、楽天フルフィルメントセンター、ゆうパックなどの利用拡大に向けた取り組みを共同で進める。

    この事業を推進するのが2社出資の合弁会社「JP楽天ロジスティクス株式会社」。まず、楽天グループが新設する完全子会社「JP楽天ロジスティクス合同会社」に、物流事業に関る権利義務を簡易吸収分割の形式で承継。7月1日に楽天、日本郵便が「JP楽天ロジスティクス合同会社」に出資し、翌日に「JP楽天ロジスティクス株式会社」へ商号変更する。

    楽天グループ 楽天グループと日本郵便による合弁会社「JP楽天ロジスティクス株式会社」
    楽天グループと日本郵便による合弁会社「JP楽天ロジスティクス株式会社」(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    三木谷浩史会長兼社長によると、楽天グループで生活用品や日用品を取り扱う「Rakuten24」などの直販店舗、「楽天ブックス」、ファッション通販サイト「Rakuten Fashion」、家電ECサイト「楽天ビック」の商品と、「楽天市場」出店店舗を対象とする物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」で受託する一部の荷物を自社配送している「Rakuten EXPRESS」の人口カバー率は約70%に達しているという。

    ただ、残りの30%を自社配送でカバーするには「コストが相当かかる」(三木谷会長兼社長)。日本郵便の配送ネットワークを活用することで、「将来的には数百億円単位でのコストメリットを得られる」(三木谷会長兼社長)と言う。

    なお、楽天グループは2023年までに、多摩・八尾・福岡の3拠点へ自動化・省人化の物流施設を開設する予定。

    楽天グループ 物流拠点を拡充する
    物流拠点を拡充する(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    なお、楽天の総合物流サービス「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」を利用する店舗、出荷量は前年同月比で大きく拡大。利用店舗における流通総額も高成長を遂げているとした。

    楽天グループ の利用店舗数と出荷量の増加について
    「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」利用店舗数と出荷量の増加率(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)
    楽天グループ 「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」利用店舗の流通総額の伸び
    「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」利用店舗の流通総額の伸び(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    好調のネットスーパー事業

    楽天グループと西友が共同運営するネットスーパー「楽天西友ネットスーパー」について、2021年1-3月期流通総額の伸び率は前年同期比29.9%増。スーパーマーケット業界売上高の伸び率を大きく上回っている。

    楽天グループ 「楽天西友ネットスーパー」の流通総額の伸び率
    「楽天西友ネットスーパー」の流通総額の伸び率(画像は楽天グループのIR資料からキャプチャ)

    需要拡大を踏まえ、2021年1月に神奈川県横浜市でネットスーパー専用の物流センターを稼働。2022年には大阪府茨木市で専用物流センターを稼働する予定。

    楽天グループは子会社の楽天DXソリューションを通じて西友の株式20%を保有。楽天グループのネット事業で培ったOMO施策、データマーケティングなどさまざまなノウハウを生かし、西友、全国の食品や日用品等の小売り事業者におけるDXの推進支援を手がけるとしている。

    瀧川 正実
    瀧川 正実
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