日之出出版の男性向けミドルエイジ誌「Safari」の公式ECサイト「Safari Lounge」は、2023年にサイト開設14周年を迎える。雑誌のタイアップ広告との連動やメディアコマースなどの施策で、成長事業としての地位を社内で確立。高価格帯のアパレル商品のほか、最近では数十万円もするeバイクにも力を入れている。高額商品や予約商品のスムーズな販売、注文ロスの防止、新規顧客のファン化など、「Safari Lounge」の取り組みをSafari Lounge室アシスタントキャップの和田陽太郎氏に聞いた。
日之出出版 Safari Lounge室アシスタントキャップの和田陽太郎氏
雑誌連動のECサイト「Safari Lounge」は読者層との相乗効果が高い
日之出出版が2003年に創刊した男性向けミドルエイジ誌「Safari」は、2009年に公式ECサイト「Safari Lounge(サファリラウンジ)」を開設。出版社のなかでは、ECによる物販に取り組み始めた先駆者的な存在であり、社内でも会社全体の売り上げ・利益を支える柱の1つとして位置付けられている。
ブランドが推したい商品を、「Safari」らしいテイストで商品を紹介するタイアップ広告では、「Safari Lounge」で購入できる商品にマークを付けてECサイトへの流入を促している。
「Safari Lounge」の売り上げにつながるだけでなく、読者にとっては気になる商品がシームレスに購入でき、ブランドにとっても反響がわかりやすいといったメリットが大きいという。
ミドルエイジ誌「Safari」(写真左)と公式ECサイト「Safari Lounge」連動の冊子
雑誌「Safari」では、ラグジュアリーブランドを中心に、アメリカ西海岸のライフスタイルを提案するようなカジュアルスタイルのコンテンツを掲載。購読者のボリュームゾーンは30代後半~40代前半で、高所得者層をターゲットとした雑誌のため、必然的に購買力の高い読者が多く、ECとの高い相乗効果を発揮しているという。
「Safari Lounge」はブランドからの仕入販売や委託販売の形で商品を展開しているほか、ここ2~3年はオリジナルブランドの企画も強化している。
メディアコマースを確立すべく、フルスクラッチでサイトリニューアル
以前の「Safari Lounge」は、オープンソース型のカートシステムで構築していたが、2019年にフルスクラッチ開発で完全リニューアル。出版社のECサイトとして、毎日のように商品紹介を盛り込んだ記事をアップし、読者に「読んで、買ってもらう」というメディアコマースの流れを確立しようと考えた。
しかし、既存のカートシステムではメディアコマースの実現が難しく、自由度の高いECサイトをめざしてフルスクラッチで開発することになったという。現在の「Safari Lounge」のコンテンツは、雑誌からの転載ではなく、ほぼ全てがオリジナルで書き起こした記事をアップしている。
ゲスト購入機能と「Amazon Pay」を導入、新規顧客の購入件数が1年で1.5倍に
「Safari Lounge」は雑誌連動のため、多くの読者がECサイトに訪問する。だが、従来の「Safari Lounge」は会員登録をしなければ商品を購入できない、いわゆる“ゲスト購入”ができない仕様だった。
リニューアルを機にゲスト購入機能を追加。さらに、ゲスト購入機能との親和性の高さを見込んで、Amazonが提供するID決済「Amazon Pay」を導入した。
ショッピングカートでは、「ログインまたは会員登録して購入」「会員登録せずに購入」「Amazon Pay」を設けている
ゲスト購入機能と「Amazon Pay」の導入から1年後には、新規顧客の購入件数が1.5倍に増加し、それに応じて「Safari Lounge」全体の売り上げも底上げされた。和田氏は「『Amazon Pay』の効果は、当初の想定を大幅に上回るインパクトがあった」と振り返る。
新規顧客だけでなく、既存会員による「Amazon Pay」の利用も加速。それまではクレジットカード決済比率が約60%と最も多かったが、導入から半年後にはクレジットカード比率がやや落ちる形で、「Amazon Pay」が約20%を占める状況となった。
「Amazon Pay」はさまざまなECサイトで導入されているため、使い慣れたお客さまも多く、簡素化された購入フローでスムーズに利用いただいているのだと感じる。クレジットカード決済より「Amazon Pay」は多少手数料が高いものの、新規顧客の獲得に大きく寄与している。そのため増益につながっており、今の「Safari Lounge」にとっては、手数料よりも新規顧客の獲得、増益のメリットの方が大きい。(和田氏)
「Safari Lounge」の年間の平均購入単価は2万5000円~3万円程度で、アウターが売れる秋冬は5万円程度まで上昇する。リニューアル前はクレジットカード決済、代金引換、キャリア決済をラインアップしていたが、「高額な買い物のため、与信が必要な決済手段が少なかったことは、今考えると課題だったのかもしれない」と和田氏は回想。「Amazon Pay」の導入が決済手段の拡充、および高額単価商品の購入に役立っていると見ている。
「Amazon Pay」導入がクレカ停止のリスクヘッジ、販売機会の損失を防ぐ
また、コロナ禍以降、特に多発しているクレジットカードの不正アクセスに対して、「Amazon Pay」の導入は強力なリスク回避策につながっている。
2020年5月に「Safari Lounge」は不正アクセスを受けた際、状況を確認するための期間中はクレジットカード決済を停止せざるを得なかった。そうした事態のなかでも、「Amazon Pay」は通常通りに利用できたため、ECサイトの営業自体は全面停止することなく継続できた。
サイト上でもクレジットカード利用のユーザーに、「Amazon Pay」を利用するよう促したことで、売り上げを落とさずに推移できたという。
「Amazon Pay」の新機能、Dynamic Authorizationで注文タイムアウトが0件に
「Amazon Pay」がECサイトにさまざまな好影響をもたらすことを実感した「Safari Lounge」。以降は、「Amazon Pay」に登場する新機能を積極的に導入・実装する方針を採用している。その1つの新機能が「Dynamic Authorization」だ。
通常、「Amazon Pay」の与信は30秒で処理が完了しなかった場合にタイムアウトとなる。AmazonのECでは日用品などの数千円単位の買い物が多いため、「Safari Lounge」で取り扱っているような高額商品や、家電やブランド品などの換金性の高い商品を注文した場合には、異常行動と判断されやすくタイムアウトになってしまうケースがあるという。
「Dynamic Authorization」を導入すれば、同期オーソリから非同期オーソリで処理することができ、本来通るはずの与信がタイムアウトとなって注文をロスするといった事態が防げるようになる。
「Safari Lounge」で「Amazon Pay」を利用した場合、購入単価が上がる秋冬を中心に、従来は3~5%の注文がタイムアウトしていたが、「Dynamic Authorization」を導入して以降、注文タイムアウトが0件となった。これにより、今シーズン以降の秋冬には数千万円規模の売り上げがカバーできると予測している。
10万円程度のアウターはもちろん、50万円以上のジュエリーをECで買うお客さまもいる。また、「Amazon Pay」は、「Safari Lounge」が最近力を入れている数十万円の価格帯のスタイリッシュなeバイク(電動アシスト付き自転車)との相乗効果も高い。受注生産のeバイクを買うお客さまの8割は「Amazon Pay」で決済しており、なおかつ新規のお客さまからの購入が多いため、タイムアウトによるロスがなくスムーズに購入していただける点で、「Dynamic Authorization」 はとても良い機能だ。(和田氏)
予約・受発注商品にも支払い適用ができる再オーソリ機能がeバイクの販売促進に寄与。アパレルの予約件数も前年の3倍に
ファッション中心のECサイトのなかでも、「Safari Lounge」のようにeバイクを豊富に取りそろえているサイトは珍しく、差別化ポイントになっているという。
eバイクは受注してから組み立てるので、商品が到着するまでに時間を要する。そのため、「Safari Lounge」では利用できる決済手段を「Amazon Pay」と銀行振込のみとしている。クレジットカード決済は通常、与信の保持期間が30~90日程度だが、その間に商品の発送が完了できない可能性があるためだ。
eバイクは決済手段を「Amazon Pay」と銀行振込のみにしている
「Amazon Pay」も通常の与信保持期間は30日だが、再オーソリ機能を実装すれば、再度与信を取り直すことにより 180日まで延ばすことができ、さらに180日を過ぎる商品を取り扱っている場合には別途設定によって最大13か月まで延長できる。
このため、再オーソリ機能は予約限定商品やメーカー発注品などの取りこぼし防止、代金引換による受け取り拒否と送料のリスク回避につながるという。
再オーソリ機能実装による与信期間延長のイメージ
「Safari Lounge」は2022年6月に 再オーソリ機能を実装。eバイクだけでなく、予約販売の商品が多い主力のアパレルでも有効に働いている。
予約販売の商品数を増やしたことや、再オーソリ機能を実装したことなどが奏功し、予約件数は2021 年比で約3倍に拡大したという。
6月は夏物のセールが始まる時期で、早いお客さまはすでに秋冬商品を探すようになる。私たちも予約商品を毎年用意しているので、そうしたお客さまに対して再オーソリ機能は良い打ち手になった。予約してまで購入するお客さまは「Safari Lounge」へのロイヤリティが非常に高い。にもかかわらず、これまでは与信が必要とされる決済を提供できず、一部の決済手段しか提案できていなかった。与信保持期間がネックになって決済手段を狭めてしまうほど、もったいないことはない。今は予約商品の購入でも「Amazon Pay」が使えるようになり、お客さまの利便性は向上している。(和田氏)
予約販売を積極化している
メールによる再アプローチ機能や、入力フォームの離脱を防ぐWeb接客型機能も導入
「Safari Lounge」では再オーソリ機能と同じ時期に、メール型機能(メールによる再アプローチ機能)も実装している。
これは、商品をカゴに入れたまま購入していないユーザーに対してメールで再アプローチする際、メールの文面に「Amazon Payボタン」を配置し、「Amazon Pay」を利用しているユーザーであればそのまま直接購入できる機能だ。
「コンバージョンや購入件数を見る限り、日常的に『Amazon Pay』を利用するお客さまにとって、メール型機能は間違いなく効果を発揮している」(和田氏)と言う。
メール型機能(メールによる再アプローチ機能)で送られたメールの例
このほか、ECサイトで会員登録をせずに購入に進んだユーザーに対して、入力フォーム画面で「Amazon Pay」の利用を勧めるポップアップを表示する「Web接客型Amazon Pay」も導入・実装した。
通常、会員登録をせずに商品購入する場合、入力フォームで名前、住所、電話番号、メールアドレス、決済方法など多くの情報を入力しなければならない。その手間と労力を省く手法として「Amazon Pay」を訴求、入力フォームでの離脱率低減につなげると同時に、ユーザーの利便性向上を支えている。
「Safari Lounge」では、このポップアップで表示される画像を、「Amazon Pay」が標準で用意している画像から「Safari」らしい画像に変更し、より自社の顧客層に適した表示をめざしている。「Web接客型Amazon Pay」を導入した2022年6月からの3か月間で、総額約40万円の注文がポップアップ経由で購入完了に至ったという。
表示される「Amazon Pay」のポップアップ
ただ、「Amazon Pay」の新機能を追加するほど効果は高まるものの、追加開発が必要となる。その点、Amazonの開発支援が安心につながっていると和田氏は評価する。
「Amazon Pay」の効果は十分実感している上、新たに登場してくる機能も魅力的だったので、社内でも基本的には全ての機能を追加していこうという合意が取れている。
仮に機能追加の開発が困難であれば二の足を踏んでしまうところだが、Amazonからの開発支援もいただけるので、すぐに踏み切ることができている。もちろん、2019年の最初の導入では時間をかけて開発したが、その際もAmazonが設計や画面フローなどもしっかり作ってくださったので、不安や支障もなく進められた。(和田氏)
「Amazon Pay」が新規顧客の「Safari」のファン化を後押ししてくれる
購買層には雑誌の読者が多いが、「Safari Lounge」としては雑誌「Safari」を定期的に読んでいないユーザーにも、積極的にアプローチしていきたい方針だ。
最近では公式Instagramや、Webマガジン「Safari Online」を閲覧して「Safari Lounge」に訪れる人も多いと見ており、こうした新規のユーザーにも、「Amazon Pay」の利便性がファン化に一役買うと期待している。
ECサイトで商品を買って、フィジカルにその商品を受け取るという行為自体が、人にとってすごく印象に残るアクションになると思っている。媒体を見て興味を持った物を購入し、受け取るまでの全てに「Safari」が携われるという価値は大きい。
その際に、初めて「Safari Lounge」を利用するお客さまが「Amazon Pay」でストレスなく購入できるのであれば、「Amazon Pay」がファン化を後押ししてくれていると言えるのではないだろうか。(和田氏)
今後は、eバイクをはじめとした高額商品の品数やバリエーションをさらに増やしていく考えだ。「Safari Lounge」が展開していく商品に対して、「Amazon Pay」のあらゆる機能がよりいっそう効果を発揮していくと期待している。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:雑誌「Safari」連動のECサイト「Safari Lounge」が高額商品販売、予約商品の注文ロス防止、新規顧客のファン化を実現している施策と「Amazon Pay」の関係性は?
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