コロナ禍のEC需要の拡大により、売り上げが拡大したというEC事業者の声は多く聞かれている。ECサイトへの来訪者が増えれば売り上げもアップするものだが、コンバージョン率や離脱率などはどのように推移しているのだろうか。
「ネットショップ担当者フォーラム 2022 春」に登壇したNTTレゾナントの北岡恵子氏は「何の施策もないままにユーザーを増やすだけでは、穴の開いたバケツに水を入れ続けるようなもの」と警鐘を鳴らす。“隠れ損失”を生みがちなサイト内検索に焦点を当て、改善ポイントやAIを活用した検索エンジンの有効性について解説した。
NTTレゾナント株式会社 スマートナビゲーション事業部 シニアコンサルタント 北岡 恵子氏
検索機能は購買率と離脱率に影響し、“隠れ損失”を左右する
国内のECサイトの大半はすでにサイト内検索を導入しているように見受けられるが、検索機能を導入しただけで完結してはいないだろうか。AIを活用したECサイト内検索エンジン「goo Search Solution(グーサーチソリューション)」を提供するNTTレゾナントのシニアコンサルタント・北岡恵子氏は「検索機能がECサイトの“隠れ損失”を左右する」と説明する。
検索機能が損失に影響する理由は、大きく以下の3点が挙げられる。
① 検索機能で商品にたどり着いたユーザーは、他の流入経路より圧倒的に購買率が高い
② サイトに訪れた後に検索を利用するユーザーが多い一方で、その大半は検索で欲しい商品が見つかっていない
③ 検索で欲しい商品が見つからなかったユーザーの8割以上が離脱する
この3点の理由をそれぞれ詳しく見ていきたい。
理由①サイト内検索で商品にたどり着いた顧客の購買率は他経路の約10倍
「どの流入経路で商品ページに到達した場合が購入に至る確率が高いのか」を算出した購買期待値を見ると、キーワード検索で商品にたどり着いたユーザーはほかの流入経路に比べて、約10倍も購買に結び付きやすいことがわかった。
商品ページに至るまでの流入経路は、外部の検索エンジン(SEO)や広告、特集などさまざまな手段があるものの、欲しい商品が決まっているユーザーほどピンポイントで探せる検索を利用する傾向にある。このため、キーワード検索と購買率の高い関係性は当然の結果だと考えられる。
検索機能を利用して商品にたどり着いたユーザーは他の流入経路に比べて購買率が圧倒的に高い
理由②サイト来訪者の7割が検索を利用。そのうち8割以上は欲しい商品が見つかっていない
NTTレゾナントが2022年3月に実施したユーザーアンケートによると、ユーザーの7割が「サイトを訪れた後、まずはキーワード検索をする」と回答。しかし、このうちの8割以上が「検索で欲しい商品が見つからなかったことがある」と答えている。
ECサイトに検索ボックスを設置していても、ユーザーのニーズを満たす検索精度になっていない可能性が高いことの表れだ。
サイトに訪れたユーザーの約7割がサイト内検索をするが、そのうちの8割以上は欲しい商品が見つからない経験をしている
理由③検索で欲しい商品が見つからなかったユーザーの約8割はサイトを離脱する
同じアンケートで、「欲しい商品が見つからなかったらどうするか?」という質問に対しては、「他のサイトに行く」(58%)、「実店舗に行く」(27%)と回答。検索で商品が見つからなかったユーザーの実に85%が、せっかく来訪したECサイトから離脱してしまうことがわかった。
サイト内検索で欲しい商品が見つからなかったユーザーのうち、85%は離脱する
検索しても「見つからない」要因とその対策
サイト内検索で商品が見つからなかった場合にユーザーがとる行動から考察すると、「見つからない」をなくすだけで売り上げに直結することが明らかだ。
検索ボックスがあるのに商品が「見つからない」3つの要因
では、なぜ「見つからない」事態が起きてしまうのだろうか。その要因は大きく以下の3点に集約されるという。
① ユーザーの検索ワードが悪い
② 検索結果に表示されているが、後ろの方にあるのでユーザーが見ない
③ キーワードに当てるだけの検索になっているため、求める商品が出せていない
この3点の要因について、それぞれ詳しく解説していく。
見つからない要因①Google検索では10人に1人がスペルミス。日本語検索はさらに多様化
Googleが2020年に実施した調査では、「検索入力の10件に1件はスペルミスがある」という結果が出ている。これは英語で行う検索を調査したものだが、日本語になると漢字、ひらがな、カタカナ、漢数字など文字が多様化するため、入力ミスや入力の仕方の違いはさらに多く発生がちだという。
見つからない要因②検索結果の2ページ目以降はクリック率が大幅に減少
これもGoogleの調査によるが、Googleの検索結果ページにおけるCTR(クリック率)は1ページ目が最も高く約4割に達するものの、2ページ目になると約1割にまで一気に減少。以降のページも減少傾向にあることがわかった。
商品検索結果も、1ページ目に欲しい商品が表示されているとクリックされる確率は上がるが、2ページ目になった瞬間に4分の1にまで低下してしまう可能性がある。ユーザーの欲しい商品が1ページ目に表示されていなければ、よい検索結果が出せていないということだ(北岡氏)
見つからない要因③キーワードに反応しただけで全く関係のない商品が表示される
「キーワードに当てるだけの検索になっているため、ユーザーが求める商品が表示されない」という事象は、たとえばPC製品の「バイオ(VAIO)」を探したいユーザーに対して、「バイオ」のキーワードに当たった「バイオ対応のイヤホン」や「バイオレット色の掃除機」などの全く関係のない商品が検索結果に表示されるケースをいう。
北岡氏は「検索ボックスを設置していても、こうした事象は多くのECサイトで見受けられる」と指摘する。
キーワードだけに反応して、ユーザーの求める商品以外が検索結果に表示されてしまうECサイトが多く見られる
ECサイトにおける検索は、店舗のスタッフがユーザーの欲しい商品を探してあげる仕事と同じ役割を持つ。検索の目的は、欲しい商品を見つけて購入していただくことなので、検索結果を最適に表示できなければ目的が達成できていない状態といえる。検索に限らず、チャットボットやレビュー、レコメンドなども同様に、ツールを導入した後の運用や調整が重要だと考えなければいけない(北岡氏)
対策①ユーザーが求めている商品を出す検索のポイントは「キーワードの解釈」と「表記ゆれの吸収」
ユーザーが求めている商品を出す検索にするためにはまず、キーワードを正しく解釈することが必要だ。たとえば、電子レンジを探しているユーザーが「レンジ」と検索した場合、「オレンジ」にも反応してしまい、電子レンジと全く関係のない「オレンジ」を含む商品が表示されるケースがある。
これは検索ツールがキーワードを正しく解釈できていないために起こる問題のため、最適化に向けた調整を行わなければならない。
検索ツールがキーワードを正しく解釈しなければ、関係のない商品が表示されてしまう
次に、表記ゆれを吸収することが必要となる。たとえば、「ごみ箱」を探すユーザーの検索ワードを見ても、「ごみ箱」「ゴミ箱」「くずかご」「ダストボックス」など、漢字、ひらがな、カタカナ、スペースの有無のほか、漢字の変換ミスなど、表記ゆれや入力の違いはこれだけ多く発生している。
同じ「ごみ箱」を探すユーザーでも、入力されるワードは何通りも発生する
日本語で考え得る表記ゆれは、種類だけでも非常に多い。「ごみ箱」の例だけでも多くの入力パターンが考えられたが、これが「アディダスの黒のショルダーバッグ」のように、ブランド名+商品タイプ+カラーといった具合に検索条件が重なると、「アディダス 黒 ショルダーバッグ」「adidas カバン ブラック」「ADIDAS ショルダーポーチ」のように、表記ゆれが複合的に発生することも考慮しなければならない。
日本語で考え得る表記ゆれの種類は多く、検索では複合的に発生している可能性が往々にしてある
対策②ユーザーが求めている商品を、ユーザーが求めている順に表示すべき
キーワードの正しい解釈と表記ゆれの吸収のほか、検索結果をユーザーが求めている順に表示することも重要となる。ここで押さえておくべきポイントは「ユーザーが求めている順≠売れ筋順」ということだ。
単純な売れ筋順で表示してしまうと、「Tシャツ」を探しているユーザーに対して「Tシャツに似合う」というキーワードが入った売れ筋のスニーカーやパンツが上位にヒットしてしまう。よい検索結果にするためには、「Tシャツ」のキーワードを入力したユーザーに最適な商品は何か、シーズンやメディアで話題になっている商品なども考慮しながら上位から表示しなければならないという。
売れ筋順で検索結果を表示すると、検索キーワードに商品の説明文が反応して関係のない商品が表示される可能性がある
キーワードの解釈、表記ゆれ、検索結果の並び順をAIで解決
NTTレゾナントはAIを活用して検索結果を最適化する検索エンジン「goo Search Solution」を提供。その大きな特長は以下の3点だ。
① ユーザーの行動ログをベースに検索結果を最適化できる
② 表記ゆれに強い
③ 運用の手間がかからない
①ユーザーの行動ログをベースに検索結果を最適化できる
ECサイトにユーザーが来訪したときにサーバーに蓄積されるユーザーの行動ログ(何をクリックしたか、何を検索してどういう絞り込みを行ったか、何を購入したかなど)を、「goo Search Solution」のAIが学習データとして活用して検索結果を改善する仕組みを指す。
この行動ログは当該のECサイトだけに蓄積されたログであるため、そのサイトの検索結果を最適化するためにはとても重要な材料となる。サーバーに蓄積したログを人の手で解析するには膨大な労力を要してしまうところ、AIによってほぼ自動的に検索結果を改善していけるという。
②表記ゆれに強い
表記ゆれ対策の強化にも、それぞれのECサイトが独自に保有するログが用いられている。NTTレゾナントが25年間運用しているポータルサイト「goo」で蓄積した多様な表記ゆれのデータの“辞書”を「goo Search Solution」に活用。加えて、導入サイトのログから独自の表記ゆれ辞書をAIが自動生成して活用するため、各サイトの独特な表現や専門用語などもカバーしながら表記ゆれに対応することができるという。
③運用の手間がかからない
上述の行動ログ解析、表記ゆれ辞書の自動生成などにAIを活用するため、運用の手間を大幅に省くことができる。
「goo Search Solution」は、ポータルサイト「goo」の表記ゆれ辞書と導入サイトごとの表記ゆれ辞書を組み合わせて、表記ゆれに徹底対応する
サイト内検索でもパーソナライズが求められている
ECサイトではパーソナライズされた各種サービスが年々進化を続けているが、検索においても同様にパーソナライズ化が求められてきている。たとえばホームセンターのECサイトで「スコップ」と検索された場合、冬の北海道では雪かき用のスコップを探すケースが多いと考えられるが、雪が降らない沖縄では園芸用のスコップを探していると考えられる。
「goo Search Solution」はパーソナライズ機能でエリアごとのログを解析し、エリアごとに検索結果を出し分けている。関係のない商品を表示してしまわないためにも、パーソナライズ機能は有効だという。
このほか、パーソナライズ機能によって法人顧客と個人顧客で検索結果を出し分けることも可能だ。たとえば、「砂糖」を検索したユーザーが菓子店などの事業者であれば大容量の業務用サイズを上位から表示し、個人であれば家庭用サイズを優先的に表示する。こうすることで、検索のユーザビリティーが改善できると考えられる。
実際に、お菓子やパンの材料を販売するECサイト「cotta」で「goo Search Solution」の導入後に法人・個人向けで検索結果を出し分けるようにしたところ、検索結果からのコンバージョン率が171%までアップしたという。
若年層ほど検索のパーソナライズ化に肯定的
NTTレゾナントが18歳から60代の消費者を対象に、検索のパーソナライズに対するアンケート(※)を実施したところ、36.7%が「過去の自分の履歴や行動履歴から、自分に合った商品を選んで表示してほしい」と回答した。
※調査結果は以下からDL可能
https://searchsolution.goo.ne.jp/materials/10_personalize/
3人に1人以上がパーソナライズされた検索を希望している
さらに年代別に見ると、若年層ほどパーソナライズな検索結果を望む割合が高いと判明。今の若年層が今後のECのメイン購買層になってくるため、検索のパーソナライズを進めることはECサイトの成長に向けた1つの大きなポイントになると思われる。
若年層ほど検索のパーソナライズを望んでいる
同じアンケートで、「(ECを利用する中で)どのような場面・場所でパーソナライズしてほしいか?」という質問に対しては、「検索結果」(39.9%)が最も多い結果となった。
EC利用において、パーソナライズが求められる場面に「検索結果」が最も多く挙がった
冒頭のユーザーアンケートで8割以上が「検索で欲しい商品が見つからなかったことがある」と答えているように、自分の求めている商品と検索結果があまりマッチしていないと思われるユーザーが非常に多くいる。だからこそ、パーソナライズが望まれているのだと思う。ユーザーは、検索で欲しい商品がすぐに見つかることにメリットを感じている(北岡氏)
検索精度を高める上で、AIの活用はより一般的な選択肢になる
「goo Search Solution」の導入社では、コンバージョン率の向上や「0件ヒット」の改善、離脱率の軽減など、さまざまな成果が出ているという。中でも、AIを活用することで運用のために要する人手が大幅に削減できたという声は共通して聞かれているようだ。
NTTレゾナントでは、自社で運用するECサイト「NTT-X Store」で、AIを活用した検索エンジンとAIを活用していない従来型の検索エンジンを用いてA/Bテストを実施。AIがログを学習する期間の2週間を過ぎた頃から購買率に差が開き始め、1か月後には15%もの差が生じた。その後もAIを活用した検索エンジンは、持続的に改善を続けている。
AIを活用した検索エンジンと、AIを活用しない検索でA/Bテストを実施。1か月後の購買率は15%もの差が生じた
人の手による検索機能のチューニングは効果が限定的
「多くのECサイトでキーワード構成がロングテールになっている中、検索機能を人の手でチューニングしようとしても、効果は非常に限定的であることを意識してほしい」(北岡氏)と指摘する。
ロングテールは、下の図の青枠で示している「多くの人が検索しているワード(ビッグワード)」と、赤枠で示している「ニッチなワード(テールワード)」で構成される。検索機能の効果を高めるためには赤枠のテールワードまで細かく改善することが重要となるが、そのほとんどが人の手では対応できないほど煩雑になっているという。このため、検索精度を高める上でもAIの有効活用がより一般化してくるものと考えられる。
検索のキーワード構成はロングテールなため、人の手でチューニングできる部分は限定的
北岡氏は「自社のECサイトの検索が機能しているか、まずは下の『検索精度 簡易チェック表』で確認し、日々の運用の中でも心掛けてほしい」としている。
検索精度の簡易チェック表
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オリジナル記事:「隠れ損失」を防ぐサイト内検索改善とは? 検索結果を最適化するポイントとAI活用術
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