消費者が小売事業者のECサイトを訪れたとき、購入に踏み切るきっかけは何でしょうか? EC事業者が2020年に実践したコンバージョン率(CVR)向上に役立つ10のヒントを紹介します。
EC事業トップ1000社のCVR中央値は2.9%
消費者が購入に至るまでのカスタマーエクスペリエンスを作り上げるには、多くの要素が絡み合っています。ECサイト自体の構成から消費者をサイトに誘導する方法まで、コンバージョンにつなげるやり方は数多くあります。
消費者が小売事業者のECサイトを訪れたときに購入に踏み切るきっかけは、安定した検索結果、商品ページの写真や動画、シームレスなチェックアウト体験などいくつかの要因が考えられますが、それだけではありません。
2020年初頭にコロナ禍が始まり、より多くの消費者がオンラインで買い物をするようになったため、小売事業者は従来の機能をさらに強化し、アップグレードする必要がありました。
小売事業者は素早くピボットしECビジネスへ目を向けたことで、オンラインでの売り上げとコンバージョン率は向上しました。『Digital Commerce360』が発表した最新のレポート「コンバージョンを改善する方法 2021年版」によると、「北米EC事業 トップ1000社データベース 2020年版」に掲載されている小売事業者のコンバージョン率の中央値は2.9%でした。
ここから、EC事業者が2020年に実践したコンバージョン率向上に役立つ10のヒントをご紹介します。
1. サイト内検索の強化
自動入力機能や画像検索を含む使いやすいサイト内検索は、消費者が必要なものをより早く見つけるのに役立ちます。また、サイト内検索で目的の商品にたどり着くまでのプロセスがシームレスであれば、消費者はより商品を購入する可能性が高まるでしょう。
オンラインで樹木を販売している「FastGrowingTrees.com」は、2020年初頭にサイト内検索サービスを提供する「Searchspring」の検索&自動入力ツールを導入しました。この検索ツールには自動入力機能が提供されており、消費者が検索キーワードを入力すると、複数の選択肢が表示されます。
また、大まかな検索ワードを考えている消費者に対しては、検索窓に入力すると、商品画像やレビューを含む具体的な商品がビジュアルと共にドロップダウンで提案されます。さらに、植物の生育場所や日照レベルなどの情報から、検索結果をフィルタリングすることもできます。
2020年1月から3月中旬にかけて、新しい検索ツールを利用した消費者のコンバージョンは6.1倍も改善。現在、収益面では30%、注文では28%がサイト内検索に起因しています。検索を利用しない場合の平均注文額は223.45ドルですが、検索を利用した場合の平均注文額は250.38ドルとなっているのです。
2. 商品ページの改善
商品ページを見直し、高品質な画像や詳細な説明を追加しましょう。また、商品ページにトラストバッジ(編注:ビジネスが正当なものであることを訪問者に保証するため、サイトに表示するロゴやシンボル)を掲載することで、消費者は信頼できる小売事業者から購入しているという安心感を得ることができます。同時に「PayPal」「Apple Pay」「Google Pay」など、複数の決済方法を提供しましょう。
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複数の決済手段を提供する靴のD2Cブランド「Allbirds」(画像:サイトより編集部がキャプチャ)
オンラインのみでナイフを販売している「Frontier Blades」の場合、商品ページの改善でオンライン売上とコンバージョン率を向上。コンバージョン率は前年の1.16%から1.40%へと21%上昇しています。
3. カスタマーレビューを強調する
レビューが確認できると、購入への自信につながります。「Frontier Blades」のビル・ジョセフCEOは、「レビューをまとめて商品ページに掲載することは、コンバージョンを高める非常に効果的な手法であることが証明されています」と話します。
ある商品に4人がレビューを残した後、その商品のコンバージョン率は775%増加し、別の商品でも2人がレビューを書いた後、コンバージョン率が500%増加しました。
4. チェックアウト時にインセンティブ提供する
送料無料や購入者へのプレゼントといったインセンティブや特典は、購入の後押しになります。「Frontier Blades」では、全ページに送料無料のバナーを設置しており、これが購買意欲を高めています。
「商品ページを改善することで、検索から増えたトラフィックをコンバージョンにつなげていくことができるのです」とジョセフ氏は言います。
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「Frontier Blades」のトップページ。「送料無料」を強調している(画像:サイトより編集部がキャプチャ)
5. 返品ルールの重要性
『Digital Commerce360』と調査会社「Bizrate Insights」が2021年2月に実施した調査(EC利用者1,047人が対象)によると、返品に関しては半数が「簡単で分かりやすい返品ルール」を求めています。
『Digital Commerce360』のシニア・コンシューマー・インサイト・アナリストであるローレン・フリードマン氏は、「返品窓口や販売チャネル別の返品手続きがわからないことほど、イライラすることはありません」と話します。
『Digital Commerce360』の調査によると、消費者の63%が「リスクのないショッピング体験」を求めていますが、それは返品無料を意味しています。「北米EC事業 トップ1000社データベース 2020年版」のうち、29%の小売事業者が「返品無料オプション」を採用しています。消費者は、今後さらに返品無料オプションが広がることを期待しているでしょう。
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「Amazon.com」の商品ページ内にある返品ポリシーについて。Amazon.comから配送している商品については、大半が全額返金としている(画像:サイトより編集部がキャプチャ)
6. 海外の消費者を逃さない
複数の言語と通貨を追加することで、海外の消費者が購入できるようになります。
オンライン専用の時計ブランドである「Vincero Watches」は、グローバルなECベンダーである「Global-e Online」の技術を利用して、ウェブサイトに国別のページを開設しました。
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日本への配送に対応していると紹介する「Vincero Watches」(画像:サイトより編集部がキャプチャ)
共同創業者のアーロン・ハラーマン氏によると、2020年春に国別ページを公開してから4か月後には、海外からのコンバージョン率が31%も上昇。それに伴い、米国以外の主要な海外市場からの注文も大幅に増加したといいます。
ハラーマン氏は、「海外向け販売は簡単ではありません。消費者に最高の体験を提供するためには、多くの物流上の障壁を乗り越えなければいけないからです」と話します。
7. 新しい要素を試してみる
新しいランディングページやナビゲーション、ビジュアル要素など、ECサイトに新しい機能を追加する際には、A/Bテストを行いどの機能が最も購買意欲を高めることができるかを確認しましょう。
調理器具を販売する「Made In Cookware」は、単にサイトを変更して効果を期待するのではなく、パーソナライゼーションベンダーの「surefoot」を利用してWebデザインの変更をA/Bテストし、カスタマーエクスペリエンスの改善を確認しました。
共同設立者のチップ・モルト氏によると、商品ページに動画を使用するテストでは、動画を視聴するオプションがあった場合、30.9% の消費者が「動画を最後まで視聴」。さらに「動画を見た消費者がその商品をカートに入れる確率」は26%高かったそうです。
「Made In Cookware」が提供している動画
私たちにとってユーザーエクスペリエンスが全てです。私たちには店舗がありません。消費者が商品に触れて感じることはできませんが、最高のプロ用調理器具を提供しています。触れられず、感じられずに、どうやって消費者にそれを伝えるかを追求するのです。(モルト氏)
8. 重要なテクノロジーに投資する
自社のECサイトに最適なテクノロジーに投資しましょう。たとえば、AR(拡張現実)機能、新しいECプラットフォーム、3D画像などの機能です。
住宅リフォーム・建築資材の大手チェーン「Home Depot」は、米国でコロナ禍が発生した2020年3月中旬の約4~6か月前から、アプリとモバイルサイトでAR機能を展開していました。
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「Home Depot」のアプリで提供するAR機能例(画像:アプリダウンロードページより編集部がキャプチャ)
この技術は、「Home Depot」が自社開発したものです。EC事業と顧客エクスペリエンス部門のジャスティン・バーレイ副社長によると、トラフィックの3分の2はモバイルユーザーによるものです。そのため、スマートフォンを利用しているユーザーに向けた機能に投資し、展開することは理にかなっています。
人々が携帯電話で買い物をするのは業界のトレンドです。コロナ禍では、それが加速していることがわかりました。人々は本当に携帯電話を中心に、デジタルライフを送っているのです。(バーレイ氏)
こうした事象ははコンバージョン率で確認できます。「Home Depot」のAR機能を利用した消費者のコンバージョン率は、利用しない消費者に比べて2~3倍高いそうです。
9. 適切な見込み客を適切なタイミングで呼び込む
消費者を呼び込むには、デジタルマーケティングが重要です。特にコロナ禍以降の時代には、商品や販売を宣伝する以上の存在になることで、小売事業者は消費者とつながりを持てるようになります。Instagramなどのソーシャルメディアは、オンライン販売を促進するドライバーとして成長していますが、Eメールが王道であることに変わりはありません。
アスレチック・アパレルの「lululemeon」は、デジタルマーケティングへの投資を増やしてECを強化。コンバージョン率、売り上げを高めることができました。2020年11月1日に終了した第3四半期決算によると、ECが総売上高の43%を占めるようになりました。
「lululemon」は2020年6月に買収して以来、約1億5,000万ドルの収益を上げたワークアウトプログラム「MIRROR」を活用。消費者に「MIRROR」を紹介するEメールキャンペーンが功を奏しています。
Eメールの効果を感じているのは「lululemon」だけではありません。デジタルマーケティング担当者の76%が、最も効果的なマーケティング戦術はEメールであると回答しており、ソーシャルメディアが61%と僅差で続いています。
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「lululemon」サイト内で「MIRROR」を紹介(画像:サイトより編集部がキャプチャ)
10. D2Cのその先へ
多くのオンライン小売事業者は、マーケットプレイスを活用して起業したり、ビジネスを拡大しています。「Amazon」や「eBay」が運営するようなマーケットプレイスで小売事業者やブランドが販売する場合、サイト内検索やEメールマーケティングなど、コンバージョン率に影響を与える重要な要素をコントロールできません。しかし、マーケットプレイスの販売者は、商品ページのタイトル、画像、説明文などの詳細を改善することはできます。
アパレル用マーケットプレイスの「Jane」では、出品者に送料無料のサービスを提供するよう促しコンバージョン率が向上。2020年の平均コンバージョン率は4.49%でしたが、秋に送料無料キャンペーンを実施し、すべての販売者が送料無料にしたところ、コンバージョン率は6.05%に上昇しました。また、他の季節にも同様のプロモーションを実施したところ、同じような結果が得られました。春には5.79%、夏には5.50%のコンバージョン率になりました。
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アパレル用マーケットプレイスの「Jane」トップページ(画像:サイトより編集部がキャプチャ)
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:ECサイトのコンバージョン率を向上させるための10の方法とヒント | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
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