今回の記事は、ウェブアナリスト・コンサルタントとして株式会社プリンシプルで活躍されているRayさんにご提供いただきました。
大作です!ありがとうございます。*1
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それでは、早速どうぞ!
従来、Google社はWEBサイトのアクセス解析に加えモバイルアプリの計測をするためのモバイルアプリ向けGoogleアナリティクス(以下、「モバイルアプリ向けGA」)を提供していました。
専用のSDKをモバイルアプリに実装することで、アプリ内の各ページの閲覧数や、クリック等のイベントトラッキング等のデータ集計を行い、それらをセグメントのデータ解析を行うことができました。
ですが、2019年10月より順次モバイルアプリ向けGAのサービス終了がアナウンスされ、今後もGoogle社のツールでアプリ解析を行うには「Firebase 向け Google アナリティクス(以下、「Firebase Analytics」)に移行する必要があります。
また、関連アップデートとして2019年8月よりアプリデータとWEBデータを統合して分析ができるGAの新機能「App+Webプロパティ」もベータ・リリースされました。
Firebase AnalyticsデータをGAとリンクしてGA側で「App+Webプロパティ」として閲覧できるようにすることで、GAのUI・機能を用いたアプリ分析とWEB・アプリの行動データを統合した分析が可能になります。
この記事では、Firebase Analyticsへの移行を検討する担当者の方や、アプリ分析ツールとして導入検討をしている担当者向けに、
- Firebase Analyticsの特徴やモバイルアプリ向けGAとの比較
- Firebase AnalyticsとApp+Webプロパティを連携した時のメリット
- Firebase Analyticsデータの活用方法
という3点をおさえながらFirebase Analyticsの活用方法をご紹介させていただきます。
Firebase Analyticsについて
アプリ分析ツールという点では従来と同じですが、実際に収集するデータや収集方法等については全く別といえます。
Firebase Analyticsとアプリ用GAの違う点は多々ありますが、その中でも特に気になった点をいくつかご紹介します。
①イベントヒットデータとしての集計
従来の計測では、ユーザースコープやセッションスコープ等、複数のスコープでデータが集計されていたので、ユーザー別の行動履歴が見れる [ユーザーエクスプローラ] レポートや [行動フロー] レポート等が利用可能でした。
一方、Firebase Analyticsの場合、基本的にヒットスコープでの計測設計となっています。
そのため、標準レポートで閲覧できるレポート内のグラフのほとんどは、イベント単位での集計がされています。
これにより、例えば従来はWEBと同じように目標コンバージョンの一致タイプは4種から選択ができました。
・到達ページ
・滞在時間
・ページビュー数 / スクリーンビュー数(セッションあたり)
・イベント
しかし、Firebase Analyticsではイベントのみで指定が可能です。
今までの目標到達プロセスの指定は一致タイプが「到達ページ」の時のみURLベースでの指定が可能でしたが、Firebase Analyticsではイベント単位での指定ができるようになっています。
また、Firebase Analyticsでは目標コンバージョンと目標到達プロセスはそれぞれ独立して設定できるようになっており、目標コンバージョンは30個、目標到達プロセスは200個まで作成可能になりました。
ですので、コンバージョンまでの経路が複数考えられるWEBサイトでは、従来よりもどの遷移パターンでコンバージョンしているかを分析することが可能です。
②自動収集イベント
Firebase AnalyticsはSDKを実装することで、アプリ内で行われた初回の定期購入(App Store・Google Play経由の決済のみが対象)やアプリのクラッシュが発生した時等のイベントデータを自動収集してくれます。
※自動収集の種類は下記ヘルプドキュメントをご確認ください。
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今までの場合、イベントトラッキングはじめ標準のSDKで計測できない計測項目は別途実装が必要でしたが、上記の通り、Firebase Analytics用SDKを実装する場合はカスタムで取得しなければならないイベントデータがあるかどうかをチェックした上で実装を行います(作成上限は500個です)。
③BIツールに接続する際はBigQueryを
従来であれば、WEB・アプリデータは各BIツールから直接プロパティ・ビューを指定して抽出ができました。
しかし、Firebase AnalyticsをデータポータルやTableauに接続しようと考えた際、2019年12月現在では直接接続することはできず、BigQueryを介して接続する必要があります。
BigQueryを利用することで、Web UI上のレポートで得られる情報より多くの情報を得ることも可能です。
BigQueryのスキーマの詳細については、下記ヘルプドキュメントをご確認ください。
support.google.com
上記の理由から、外部ツールで分析する場合はSQLスキルが必要であることと、BigQueryの利用料金がかかってくること等が注意点です。
BigQueryはストレージ、エクスポート、クエリ実行などそれぞれが課金対象で、一部を定額課金とすることも可能です。
あらかじめチェックを行った上でFirebase AnalyticsとBigQueryを接続するようにしましょう。
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④カスタム定義がユーザープロパティに
ユーザースコープのカスタムディメンションにかわる機能として、ユーザープロパティという機能がFirebase Analyticsには存在します。
カスタムディメンションの無料版の上限数は20個でしたが、ユーザープロパティは1プロジェクトあたり25個まで作成可能です。
どのような可視化をすべきか等の理由から、ユーザープロパティの設計は導入段階から入念に検討していく必要があります。
⑤カスタムレポートが存在しない
Firebaseプラットフォーム上には、カスタムレポート機能が存在しません。
基本的には標準で用意されている固定のレポートのみが利用可能です。
ただし、この問題についてはApp+Webプロパティと接続することで、 カスタムレポートに類似した機能である [探索] 機能が使えるようになります。
[探索] はデータポータルのようなUIでカスタムレポートを作成することが可能です。
カスタムレポートのフラットテーブルと似た機能である [データ探索] の他、下記のレポートを作成できます。
・ [目標到達プロセスの分析]
・ [セグメントの重複]
・ [経路分析]
・ [ユーザーエクスプローラ]
「①イベントヒットデータとしての集計」に記載した行動フローやユーザーエクスプローラをはじめ、従来のGAに存在していたグラフは、Firebase Analytics利用時には [探索] 機能で独自に設定していく必要があります。
カスタムレポートでは、ディメンションは最大5個、指標は10個まで指定が可能でしたが、 [探索] では行が5個、列が2個、指標が10個まで指定可能となっており、TableauのようなBIツールとまではいきませんが、より深堀り分析に向いた機能といえます。
また、セグメント比較できるよう、レポートの設定画面でセグメントを4個まで指定が可能となっているのも従来とは異なる点です。
加えて、セグメント作成時に [オーディエンスを作成する] というチェックボックスにチェックを入れると、オーディエンス*2を作成することができます。
作成したオーディエンスは、後述するアプリにおけるプッシュ通知の配信対象する等が可能ですので、分析目的だけでなく、Firebaseを軸としてアプリ構築・運用をする場合は特に活用していきたい機能です。
⑥データ保持期間設定が厳しい
GDPR(EU一般データ保護規則)が施行されるタイミングから、GAにはユーザー情報に関するデータの保持期間を指定できる設定メニューが追加されました。
GA管理画面だと
- 14か月
- 26か月
- 38か月
- 50か月
- 自動的に期限切れにならない
と選択肢の幅がありました、
Firebaseでは
のみが選択可能と変更されています。
以上のことから、便利になった反面、以前はできたことができなくなっていたり等がいくつか見られます。
ですので、導入する際は計測項目や可視化方法等は改めて設計し直す必要があります。
Firebase Analyticsをより活用するポイント
Firebase Analyticsは、Firebaseというアプリ構築基盤の中の1つの機能であることから、モバイルアプリ向けGAよりも、更にデータ活用がしやすい基盤が整っていると考えています。
こちらも、いくつか例を挙げさせていただきます。
①BigQueryと接続してより詳細なデータを入手・可視化
GAであれば、有償版の360はGAの管理画面から簡単に接続が可能でしたが、無償版利用だとAPIを利用してデータを取得し、BigQueryに転送する必要があるため、ハードルが上がります。
しかし、Firebaseは各プロジェクトの管理画面からBigQueryへの接続が可能となっています。
GAの標準レポート自体は深堀り分析にあまり向いていないので、データをエクスポートし、かつBigQueryでしか確認できないようなより詳細な情報量が扱える点は非常に有用と思います。
②AnalyticsデータからセグメントをしてA/Bテストをしながらアプリ改善
Firebaseプラットフォームには、収集したAnalyticsデータをより活用していくための下記のような機能が備わっています。
・In-App Messaging
「ある商品を購入した」「あるページを見た」等が発生した時にアプリ内メッセージを表示
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・Cloud Messaging
特定のセグメントに対してプッシュ通知を送信
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・Remote Config
新しいバージョンを公開する前に、一部のアプリ内機能を変更
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・A/B Testing
上記のような機能を対象としたA/Bテスト機能
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これらは、Analyticsデータをもとに独自にセグメントを作成して配信することが可能です。
アプリ内でFirebaseを利用する箇所がAnalyticsのみの場合は難しいですが、「Firebaseを使って分析~アクションまで活用していきたい」という場合には、各SDKを実装して積極的に使っていきたい機能です。
③広告やGoogle Play、Slack等とも連携が可能
②で記載したセグメントは、広告のターゲティングリストとしても活用可能です。
また、モバイルアプリ向けGAで廃止となっていたGoogle Playと連携してアプリ内購入データを閲覧できるようにしたり、検出されたアラート情報をSlackの特定channelに通知させる等といった使い方もできます。
これからFirebase Analyticsの導入をされる場合
最後に、これからFirebase Analytics SDKを利用したい企業の担当者向けに、導入に向けて検討すべきポイントをご紹介します。
①収集すべき指標
以下のような観点から足りない指標を検討していきます。
・KGI・KPIに関わるかどうか
・レポートで確認できるようにしたい
・セグメントをしてプッシュ配信をしたい 等
Firebaseは自動収集イベントがありますが、それに含まれていないが必要な指標がないかどうかを検討する必要があります。
②どこまでFirebaseを利用するか
Firebaseプラットフォーム内の各機能は、それぞれのSDKを実装することで動作します。
そのため、AnalyticsだけであればAnalytics SDKのみの実装ですが、Cloud MessagingもとなるとCloud Messaging SDKの実装も必要となります。
他社のアプリ分析ツール等も導入されるのであれば、一旦アプリ運用のタスクを一覧にし整理する必要があります。
③モバイルアプリ向けGAを利用していた場合:過去のアプリデータを保存
過去データと比較できるようにする場合、データの保存方法も検討する必要があります。
Google社からアナウンスされているモバイルアプリ向けGAの提供終了までのスケジュールは以下のようになっております。
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・これらのプロパティに関するデータの収集と処理は、2019 年 10 月 31 日に停止します。それ以降のデータは、これらのプロパティでは使用できません。
・これらのプロパティの過去の履歴データは、2020 年 1 月 31 日までアナリティクスのインターフェースや API 経由で引き続きアクセスできます。
・Google アナリティクス開発者サービス SDK のサポートがすべて終了すると、Google アナリティクスのインターフェースでも API 経由でも、これらのプロパティにアクセスすることはできなくなり、それらのデータは Google アナリティクス サーバーから削除されます。
また、GTMの削除スケジュールは以下の通りです。
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・2019 年 6 月 30 日: [以前の Android] や [以前の iOS] の新しいコンテナを作成することができなくなります。 最新の [Android] や [iOS] などの他の種類のコンテナは、引き続き作成可能です。
・2020 年 : 以前のモバイルアプリ コンテナはアプリで機能しなくなります。リクエストに対しては「204 (no content)」のレスポンスが返されます。従来のモバイルアプリ コンテナは Google タグ マネージャーから削除され、アクセスできなくなります。
正確なタイムラインがまもなく、2020 年 1 月 31 日以降に表示されます。
タグマネージャからコンテナが削除されるスケジュールについては、2019年6月時点で「2020年3月31日」とアナウンスがされていましたが、現在は曖昧な表現に変更されました。
また、英語版ヘルプドキュメントでは以下のように記載されています。
・2020: Your legacy mobile app containers will no longer work in your apps.
Requests will return a 204 (no content) response.
Legacy mobile app containers will be removed from Google Tag Manager and will no longer be accessible.
Exact timeline coming soon – no earlier than June 30, 2020.
上記のことから、過去データも引き続き閲覧できるようにするためには、遅くとも2020年1月31日までにエクスポートを行う必要があるので、利用されている場合は優先的に対応することをおすすめします。
④App+Webプロパティの導入
カスタムレポートを利用する目的等でも充分導入価値があると思います。
上記の目的でApp+Webプロパティを利用するには、下記いずれかの作業を行う必要があります。
◆Firebaseをまだ利用したことがない場合
1:https://console.firebase.google.com/ にアクセスし、 [プロジェクトを追加] をクリック
2:プロジェクトの作成(手順 3/4)にて、 [このプロジェクトで Google アナリティクスを有効にする 推奨] を有効にする
◆Firebaseは利用しているがFirebaseプロジェクトとGoogle Analyticsを連携していない場合
1:Firebase管理画面の [プロジェクトの設定] > [統合] > [Google Analytics] にアクセス
2:[Google アナリティクスの構成] にてGAアカウントを選択し、有効にする
◆2019年7月以前からFirebaseとGAを連携している場合
1:Firebase管理画面のAnalytics Dashboardに表示されているアップグレードの案内バナー、または [プロジェクトの設定] > [統合] > [Google Analytics] にアクセスし、連携設定のアップグレードの案内リンクをクリック
誤った連携を行ってしまった場合は、下記手順で解除可能です。
1:Firebase管理画面の [プロジェクトの設定] > [統合] > [Google Analytics] にアクセス
2:ページ上部に表示されている [Google アナリティクスのプロパティ] の右端にある [︙] > [このプロジェクトからアナリティクスをリンク解除] にて解除
補足ですが、App+Webプロパティを利用する上での注意点としましては、Firebase AnalyticsとApp+Webプロパティでヒット数のカウント方法が異なる点です。
Firebase Analyticsはヒット数上限はありませんが、App+Webプロパティは従来のGAと同じく、プロパティあたり1,000万ヒット/月の上限があります。
developers.google.com
まとめ
GA関連のアップデートはここ数年は大分落ち着いてしまいましたが、2018年~2019年にかけて、モバイルアプリ計測のアップデートは非常に変化が多かった時期です。
変化が多かったものの、ヘルプドキュメントから情報を探すにはGA用とFirebase用と見比べる必要があり少々手間がかかるので、今回1つの記事に概要部分ですが情報の集約を行いました。
こうしてまとめてみると、Firebase Analyticsは、モバイルアプリ向けGAと比べて、よりアクションに繋げやすいツールになった印象です。
モバイルアプリ向けGAの提供終了まで1か月ほどとなったタイミングで恐縮ですが、ぜひFirebase AnalyticsならびにApp+Webプロパティのご活用をぜひご検討ください。
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簡単に掲載の経緯など
早い者勝ち!(既にお声がけありそうですが!) https://t.co/Wo7HS3j43v
— Taku Ogawa (小川 卓) (@ryuka01)
2019年12月26日
Rayさんが掲載先を募集していた
↓
Twitterでリツイートした
↓
小川さんの所で掲載可能?
↓
OK!
という感じです!
Rayさんとはa2iでご一緒に登壇させていただくなど、ご縁があったので私としても大変嬉しいです。
a2i.jp
今回は素敵な原稿ありがとうございました。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします!
*1:詳しい経緯は記事の後に
*2:Firebaseのレポート名称はAudiencesですが、ヘルプドキュメント上はユーザーリストと書かれていたり表記ゆれがあります。本記事ではオーディエンスで統一します