高校野球でも大阪府や神奈川県のように強豪地域があるように(前回は高校野球に関するECのお話をしました)、ECにおいても先進的な地域があります。講演などでお話する際に、EC先進県として岐阜県・宮崎県・島根県・佐賀県などをあげています。今回はその中でも先進的な佐賀県の取り組みを紹介します。
県内経済の縮小、人口の減少など「課題」が山積
佐賀県商工課が2012年から始めたECの支援事業。ここ数年、佐賀県内の店舗の売り上げ、店舗数の伸びは全国トップクラスとなっています。
なぜ県がEC支援を? その背景には県が抱えていたいくつかの「課題」がありました。
- 県内小売事業者の売上高の落ち込み(2012年度は6868億円で2002年比で20%の落ち込み)
- 人口は1996年の88万5000人をピークに右肩下がり(2014年には83万5000人まで減少)
- ヒト・モノ・カネを福岡県に吸い取られる「ストロー現象」が発生(佐賀駅から博多駅まで特急で40分)
このまま放置しておくと、佐賀県の小売業はジリ貧になる。
こう危機感を抱き、具体的なアクションを起こしたのが佐賀県庁商工課の市丸さん。「県域を越えた振興策を考えなければならない」と考え、ネット通販の活用で地域活性化を考案。
当時、楽天の福岡支社で地域活性の担当だった光枝(みつえだ)に連絡し、「どうしたら佐賀県をネット通販で活性化できるか一緒に考えてほしい」と相談しました。
光枝と市丸さんは、これまで各地方自治体が実施してきたEC支援事業とその問題点を洗い出し、次の4点を軸に事業を設計しました。
- 「県産品の販売支援」ではなく「事業者の支援」を行う
- 「出店費用の補助」ではなく「学ぶ場の提供」をする
- 店長仲間の「つながり」を作ることでお互いに成長しあえる環境を作る
- 佐賀県内の2店舗を県からのアドバイザーとして認定、EC事業者に協力してもらえる態勢作り
①モノへの投資から、ヒトへの投資へ
「県産品を売り込むためにネット通販を支援する」という従来型のモノへの投資を止め、「佐賀の特産品を売る人、他の地域にも存在する商材を売る人も、同じように支援する」と考え方を変えました。
「モノではなく、ヒトに対する投資」とも言い換えられるでしょう。モノを売るためのプロモーションはもちろん大事。ただ、本質的に「モノを売る力」がなければ、一過性で終わってしまいます。
この事業では、販売する人たち(楽天の店舗さんたち)に、「ネットでどうやったらモノが売れるか」「お客様にどうやったら喜んでもらえるか」という商売の本質を伝授。事業終了後も、継続的に成長し続けてくれるであろうという「狙い」と「想い」があったのです。
②学び場の提供
楽天が提供している店舗さんたちの「学び場」である楽天大学。「事業者の育成支援」は、まさに楽天大学の「強み」を生かすことができるフィールドでした。
ちなみに、佐賀の事業は最初からうまくいっていたわけではありません。初年度の設計は、楽天の出店費用に対しての補助金がメイン。補助金目的の事業者もいて、本気度が高くない事業者も集まってしまったこともありました……。
この失敗を踏まえ、出店費用を自腹で払う「本気」の人事業者に、県庁と楽天から「学ぶ環境」を提供するという今の「佐賀モデル」に進化していったのです。
③楽天大学のノウハウ活用
「店長仲間のつながり」については、「本質的なネットでのモノの売り方」をみんなで考えていく講座(「ECアタマの磨き方」)を、楽天大学の仲山学長が自ら実施。月に1回ほど佐賀へ出向しました。仲山学長がFacebookでよく、「天気がいいから佐賀にいこう」と投稿していたのは、この取り組みをしていたためです。
「店長業は孤独である」とはこのEC業界では よく聞く言葉ですが、同じ佐賀県内で、同じネットショップを運営する店長仲間と情報交換をしあったり、刺激しあえたりする関係ができているのも、この佐賀モデルの特徴といえます。
ECアタマの磨き方という講座について、多くの店舗さんから「あれは何をやっているの?」という問い合わせや、「うちの県でもやれないかな?」という要望をいただいたりします。なかなかこの講座の内容を一言で言い表すのが難しいため、2年前に佐賀県が発表した内容を引用してお伝えします。
「ECアタマの磨き方」
商売をする上で必要な、顧客心理をつかむための「価値創造」と「価値伝達」の考え方を学ぶ
ビジネス基礎として、商売をする上で必要な顧客心理をつかむための「価値創造(商品づくり)」と「価値伝達(売り方)」の考え方を、5回にわたってじっくり学ぶカリキュラム。
一方的に話を聞くだけの講座ではなく、参加者同士の意見交換や共同作業を中心としたグループワーク中心の講座となっており、普段孤独になりがちなネットショップ事業者にとって、お互いの情報交換や悩み相談など横のつながりが広がる貴重な交流の場ともなるものです。
④先輩店長をアドバイザーに活用
県から公式アドバイザー店舗として認定を受け(県知事からの委任状もあります)、協力いただいているのは「イマリ」の久保さんと「エリカ断食道場」の北島さんのお二人。
アドバイザーの役割は「県も楽天も、なかなか言いにくいことを店舗さんたちにはっきり伝えること」。時に、佐賀チームのFacebookグループのなかで、参加店舗さんたちに「愛あるダメ出し」や「喝」を入れたりもします。
ちょうど先日も、こんな久保さんの投稿がFacebookにありました。
クーポンのページから久々にみんなのページ見ましたが、正直ひどいですね。
自分がお客さんとして、自分のページを見たときに本当に買いたいと思いますか?
うちのページが100点とは思ってませんが、売れてるお店には売れてる理由があるし、売れてない店には売れてない理由があります。
自社のページを改めて見て下さい。
もうね、酷過ぎ。
そりゃ、売れないですよ。
本気だからこその久保さんの投稿。この熱量の高さに支えられ、佐賀チームはただの「仲良しグループ」ではなく、「売り上げを伸ばすために本気の人たちが集まったチーム」へと進化しているのだと思います。
全国に広がる「佐賀県モデル」
今、この「佐賀ECモデル」が全国に横展開し始めています。
今年の8月、宮城県が同じような「EC活用による事業者支援」を開始しました。宮城県の店舗さんたち向けに行ったセミナーでパネラーとして登壇していたのは『佐賀モデル』を牽引してくださった久保さん・北島さん。加えて、1期生の「岩本商店」岩本さん・「おつまみギャラリー伊万里」の小島さんでした。
佐賀の事業での「学び」と「つながり」について講演した4人のお話に、同じ立場の店舗さんたちは共感してくださいます。地域での成功事例が伝播していくことで、ECを活用した地域活性が広がっていくことに、我々としても大きな手応えを感じています。
今年の8月に宮城県内で実施された県内店舗さん向けの勉強会。
佐賀ECのアドバイザー店舗である久保さんと北島さんが講師として登壇した
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オリジナル記事:なぜ佐賀県はEC先進県になったのか? 商工課が実施した4つの施策 | Eコマースは地方を元気にする~楽天が地方自治体と取り組む活性化の現場レポート~
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