EC×CGM×コーポレートでユーザーとのつながりを強化、レナウンのWeb戦略プロジェクト
6月30日、Webサイト制作のロフトワークが主催するセミナー、「改革を掲げるレナウンが語る!EC+コーポレート+CGMのシナジー 消費者と距離を縮めるWeb戦略プロジェクト全貌」が東京で開催された。
セミナーでは、アパレル事業大手のレナウンが掲げる新たな経営戦略「RMAP(Renown Make Again Plan)」達成の一環として立ち上がった、Webプロジェクトの全貌が語られた。この記事では、セミナーの様子をお伝えする。
販売チャネルの多角化のためWebプロジェクトを立ち上げ
「改革 レナウンRMAPを実現したWeb戦略~プロジェクトと展望~」と題した講演では、レナウンの戦略事業部 プロジェクトグループ プロジェクト担当 担当課長の斉藤 淳氏が、パートナー企業5社と取り組んだWebプロジェクトを紹介した。
レナウンでは、2009年4月に新経営戦略のRMAPを掲げ、効率経営の徹底と企業価値向上に取り組んでいる。そのなかで重要な戦略とされたのが販売チャネルの多角化だ。その1つとして、これまでなかった直販ECの立ち上げなど、Webへの本格的な参入が求められ、Webプロジェクトが立ち上がった。
「戦略構築では強みが何かを検証しなくてはならない
」と斉藤氏が言うように、レナウンがWeb戦略の立ち上げに際して行ったのが、レナウンが持つ強みや財産が何かを再確認することだった。そこで浮かび上がった、「全国に展開する販売拠点」「真摯な商品づくりの姿勢」「商品の思いを伝える販売員」3つの財産を生かすためにはどうすればいいのか。そこで考えられたのが、販売店以外のユーザー接点を増やし、ユーザーとより強い信頼関係を築くことであり、その達成ために必要なこととして考えられたのが次の4つだ。
- 企業およびブランドが、正しく、タイムリーに情報発信をする
- ユーザーにとって利便性の高い情報を配信
- 双方向のコミュニケーションでの信頼強化
- 信頼されるに値する「企業価値」「ブランド価値」の創造と育成
これらを実現するためには、「コーポレートサイト」「ECサイト」「コミュニティサイト」という3つのメディアと店舗の相互連携が必要だと判断したと斉藤氏は話す。こうして、プロジェクトは2009年11月にマーケティング部門で開始され、2010年2月に戦略事業部が立ち上げられた。
Web戦略の第一段階では、2月10日にコミュニティサイトとして「ダーバン」のブランドCGMサイト「D'URBAN COMMUNITY」を公開し、既存ロイヤルユーザーの情報発信を促し、双方向コミュニケーションによる消費者の生の声の蓄積、新たなロイヤルユーザーの育成を図る。4月20日には直販ECサイトの「R-online "The Shop"」を公開、全国24時間の新しい販売チャネルを提供して利便性を向上させた。5月19日には、コーポレートサイトにCMSを導入してリニューアルし、企業およびブランドのメッセージ発信を強化している。
半年間で、リニューアルを含めて新たに3サイトを公開するという、非常にタイトなスケジュールだったが、現在は各サイトとも次のステップへと順調に移行しているという。
Webへの理解を求め、社内関係者を説得
各サイトとも順調に公開され、プロジェクトは順調に見えるが苦労がなかったわけでもない。スケジュールがタイトであったことも挙げられるが、一番苦労したのは社内調整だと斉藤氏は話す。
Webサイトは広報、宣伝、営業、システム部門など多くの関係者が関わることになる。ECであれば、商品部門との調整も必要だ。従業員数が1000人を越えるレナウンでは、社内調整は大規模なものになることが想像できるが、十分な調整を行わずに進めたために現場で使えないサイトができあがったり、あとで大幅な修正が必要になったりするケースもあるため、Webプロジェクトの成功には欠かせない。この点については、サイト設計を行ったロフトワークと協力して綿密なヒアリングを行っている。
社内調整のなかで一番問題となったのが、ECサイトを開始することによって、店舗の顧客がECに奪われるのではないかという、店舗や営業からの不安の声だったという。また、百貨店への出店も多いことから、営業から百貨店に説明ができないという声もあった。これに対して斉藤氏は、「導線を奪いあうのではなく、新しい導線を増やす目的であってWebから店舗への送客もできる
」ことを説いていったという。
また、企画部門に対しては、ECサイトへ載せる詳細情報や特集コンテンツの協力など、情報更新の負荷が増えることが課題となったが「ブランドの認知と信頼性、新たな顧客を自分達で創造する
」ことを説いたという。商品部門では、ECの在庫リスクを各ブランドにお願いすることから、売り上げを各ブランドに戻して評価するように調整したという。
3つのサイトがそろい、Webの戦略基盤ができてから2か月ほどしか経っていないため、まだ明確な成果には達していないというが、CGMサイトではすでに会員のコミュニケーションが活発に行われており、店舗だけでは気づかなかった意見も拾えているという。一方で、社内の意識は大きな変化を見せている。企画部からは、ブランドサイトで情報を発信したいとの声が、商品部からはCGMサイトでダーバン40周年企画への期待を聞きたいといった声があり、Webサイトの積極的な活用が生まれている。また、ECサイトの商品を実際に見てみたいと、店舗に来店するようにもなったという。
今後の展開として斉藤氏は、ブランドサイトの商品情報からECへ誘導したり、CGMの声をECサイトに取り込んだりするなど、各サイト間の連携を強化すると話した。また、まだCMSが導入されていないブランドサイトにCMSを導入し、各ブランドの担当者が更新して情報発信できる仕組みを整え、ユーザーとのさらなるコミュニケーションを図る。ECサイトもプロモーションを強化し、サイト間で連携しながら売り上げへとつなげていく考えだ。
専門性の高いパートナー5社とプロジェクトチームを結成
レナウンのプロジェクトで特徴的なのが、各分野で専門のパートナーと組んでプロジェクトを実行した点だ。「一社ではカバーしきれないアイデアと多様な視点を得ることができ、我々とパートナーで共有できた
」と、斉藤氏は複数のパートナーと連携するメリットを伝えた。具体的には、プロジェクト管理やサイト設計構築をロフトワークが担当し、CMSはオラクルのUCM(Universal Content Management)を導入している。ECサイトでは、物流システムやサポートをCSKプレッシェンドが、戦略構築をデジタルワンが行っている。CGMでは、豊富な運用実績からエイベック研究所の協力を得た。
レナウン社内のプロジェクトチームは、消費者の現場に近いキャリアを中心としており、ITの専門集団ではなかったため、今回のように各専門分野の知見を得られたことは、大きなメリットになったようだ。
また、セミナー冒頭でロフトワークの代表取締役社長の諏訪光洋氏は、「企業のWeb戦略が多様化しており、現在はどうやってパートナーを選ぶか苦労されている
」と、同じ業種でも100倍予算が違うことも、考え方やリソースが異なることもあり、一昔前のように代理店に依頼すればうまく行くといった状況から大きく変化していることを話した。「我々も苦手なことがたくさんあり、むしろできないことの方が多い。そのためパートナーと組むのが戦略
」と、プロジェクトの背景を話す諏訪氏は、今回のように多くのパートナーが関わる大規模プロジェクトでは、各社が直接レナウンと向き合ってコミュニケーションすることが、コミュニケーションの複雑さを減らし、成功につながることを語った。
なお、セミナーの第二弾が7月22日に大阪で開催されるので、関西方面で直接事例を聞きたいという方は申し込んでみてはいかがだろうか。
http://www.loftwork.jp/seminar/2010/20100722_renown.html
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