効率的なデータ活用のために注目される「CDP」。しかし、エートゥジェイの飯澤満育氏は「CDPだけで顧客を捉えることには思わぬ落とし穴がある」と指摘し、対策として口コミの活用が有効だと言う。「定量」と「定性」を融合したハイブリッドなマーケティング活動について、実用的な手法を解説した。
CDPでの定量データ分析に加え、口コミを活用するべき理由
顧客の属性や行動データを統合・分析する基盤として注目を集める「CDP(Customer Data Platform/カスタマー・データ・プラットフォーム)」。デジタルマーケティングにおける魔法の杖のように思われがちだが、エートゥジェイの飯澤満育氏はこう指摘する。
CDPだけでなく定性情報も交えてハイブリッドに顧客を捉えることが大切であり、CDPには落とし穴が潜んでいることも認識すべき。(飯澤氏)
エートゥジェイ 代表取締役社長 飯澤満育氏
CDPの落とし穴とは、
- Whyが見えない
- 施策となるコンテンツの「ネタ」は提供してくれない
- 見つけにくいファクトと課題
この3点の解決策として飯澤氏は「口コミの活用が有効」と説明。口コミを活用することによって、顧客の解像度を上げ、どのような施策を行うと効果があるかが明らかになるという。
CDPは定量的なデータを使うのに対し、口コミは定性的で性質が異なる。定性的な口コミを活用すれば、たとえば「この商品は美味しかったけれど袋が開けにくかった」というような、定量化しにくい情報やファクトを見つけ出せる。定性と定量の両面からアプローチすることで顧客の解像度を上げると、当然ながら打ち手の確度は高まるという。
CDPと口コミではアプローチが異なる
CDPだけ活用したマーケティング施策の落とし穴
しかし、実際にエートゥジェイが支援する現場でも、解像度を高めたつもりで打ち手に失敗するという事例が起きているという。その原因として、CDPやCRMなどのツールを多用し、分析した気になって施策を考えている状況が見えてきた。
もちろんCDPやCRMなどの活用が悪いわけではない。しかし、なぜ顧客をよく知るためのCDPがちぐはぐな施策を生み出してしまうのか。その解決策を考える上で、EC事業者の実際のマーケティング活動のフローを知っておくことが必要だという。
一般的には、まず「顧客を知り、課題を見つける」というフェーズから始まり、顧客理解のためにCDPやBIを活用、アイデアの立案と意思決定を行い、コンテンツを考え、制作実行フェーズでCRMやMAを活用するという流れだ。そして、実行した施策の結果が再びCDPに反映され、さらに改善されていくことが理想だろう。
顧客理解のためのCDP活用のフロー
CDPからCRMにつなぎ込む部分を細かく見ると、CDPには会員データや注文データ、商品データ、GAデータ、販促データ、予算・経費などのデータが集められ、加工され、ダッシュボードなどで可視化されている。それをデータ連携してCRM活用しながらシナリオ設定や配信設定を行い、広告やメール、SNSなどの各チャネルを通じて顧客へと提供されていく。
データ活用のイメージ
CDP活用は目的を明確にするところから
データ活用やCRMの重要性はわかっても、何をすればいいかわからない企業は多いという。しかし、取り組みが進むうちに「会員からの売り上げがほしいからCDPでどうにかしたい」「ノウハウやリソースがないのでデータ活用の支援をしてほしい」といった相談が増えてくるという。
また、施策実施の意思決定スピードアップや施策の優先順位向上などを意図した「経営層を説得するために、数字としての武器がほしい」という相談も多い。
そこで、エートゥジェイではCDP活用を進める際に、まずは経営層や現場でCDP導入の目的を明確にすることから始めているという。
「CDPを導入すればなんとかなる」という考え方では決してうまくいかない。「これを解決するためにCDPを入れよう」という明らかな目的意識を持って取り組むことが大切。(飯澤氏)
データ活用の進め方
そして次に、上図の②のようにダッシュボードの作成や既存のExcelレポートのBI化などの作業を行い、顧客・事業の理解、CRMの課題把握や目的設定などを実施し(③初期分析)、その後、KPIのダッシュボードの作成を行っていく(④CRM戦略・策定、KPIの選定など目標設定)。
③の初期分析で導き出した結果としてよく見受けられるのが、下記の(1)〜(3)のような分析結果だ。分析に基づいて施策を決める手法だが、それは良い施策とは言えない。なぜなのか、飯澤氏はそれぞれについて解説した。
分析結果(1)
店舗が強い「新規の多くは店舗で獲得しており、店舗で新規獲得した会員の半数以上は2回目購入まで至っている」という分析結果が出た場合、「店舗出店を強化しよう」と決定する。
しかし、なぜ店舗が強いのか、なぜ店舗で獲得した会員が2回目購入をするのか、その「Why」がわかっていない。そのため「店舗出店を強化する」といっても、ユーザー体験向上のためにどのような施策を用意すれば良いかわからないため、有効な出店ができない可能性がある。
分析結果(2)
休眠顧客にはメルマガが有効休眠顧客へのクーポンメルマガの効果が高いことがわかると、「休眠顧客へのメルマガ配信の頻度を上げよう」と決定する。
しかし、休眠顧客にはメルマガが打ち手としてよいとわかっても、内容としてどのような情報が良いのか、「コンテンツのネタ」として何が適しているのかまではわからない。むやみにクーポン施策を打つだけではマイナスになる可能性もある。
分析結果(3)
売れている商品は固定化しているサイトで強く押している商品Aが一番売れているということから「商品Aについてもっと広告費をかけよう」と決定する。
しかし、もともとプロモーション費用が大きいので売れているだけという可能性もある。他にもっと売れる商品(=見つけられないファクト)に気付けていない可能性がある。
定量&定性によるハイブリッドなデータ活用の成功事例
このような落とし穴を経験と勘で埋めていくのが今までの一般的なアプローチだが、エートゥジェイでも数多くの失敗を経験してきたという。だからこそ、落とし穴をより精度高く埋めていく方法として、「口コミの活用」という結論を見出した。定量のCDPと定性の口コミによるハイブリッドなデータ活用とは、いったいどのように行うのか。
なお、定性情報には、口コミ以外にもアンケート結果、インタビュー、問い合わせ情報、店舗スタッフからのヒアリングなども含まれる。そのなかで特に口コミの活用を推奨する理由として、飯澤氏は「データとして取り扱いやすく、各商品からブランドまで横断して情報を獲得でき、さまざまなマーケット施策に活用できる」ことをあげる。そして、それぞれ前述の3つのケースで、口コミを活用した分析と施策について紹介した。
1.「Why」が見えていない→
「店舗で新規獲得が多い理由」を口コミから探すある化粧品ブランドで、「サンプルやアドバイスを提供してくれたスタッフの人がすごく親切だった」「スタッフの人が私の肌タイプに合った製品を提案してくれてサンプルも持ち帰れた」という口コミに着目し、提案力とサンプルが店舗での新規獲得につながっているという仮説を立てた。そこで、店舗での無料カウンセリングやサンプリングをメルマガで告知し、その後でクーポン施策を実施することにした。
2.「コンテンツのネタ」まではわからない→
口コミをコンテンツとして活用するエートゥジェイのグループ会社が開発・提供するレビュー収集活用ツール「ReviCo(レビコ)」で、顧客が書いたレビューを収集し、その言葉や表現をメルマガやLPなどさまざまな場面でコンテンツとして活用した。
レビューをメルマガのコンテンツとして活用した事例
3.「見つけられないファクト」に気付けない→
口コミから自社の強みを知るあるメーカーでは自社のコーヒーメーカーについて、本格的なコーヒーが自宅で入れられることが強みだと考えていた。しかし、レビューでは「赤ちゃんが寝ていても大丈夫なほど静か」といったコメントが寄せられ、静音性への評価が高いことに気付くことができた。そこで商品説明やキャッチコピーなどで、静音性を訴求する内容に変更した。
定量分析では製品の品質に対する評価が見えず、過去データを使った分析のため新たなニーズも拾えない。さらに自社データを分析しているので、競合製品との比較評価もわからない。
そこで、口コミのなかから満足度が高いものをピックアップすることで、関連製品のアップセル、クロスセルを狙った施策、小売店へのアプローチ、カテゴリに特化した製品開発への注力といった打ち手が見えてくる。(飯澤氏)
マーケティング活動のフローで顧客理解の精度が上がり、施策の確度を高められる
飯澤氏は「CDPと口コミによるハイブリッドなデータ活用は、施策の見える化と効果の最大化だけではない。DXやEX、CXに対してより良い効果を生み出す」と話し、エートゥジェイによるCDP×CRMの全体像を提示した。そのなかで、同社では「メルカート」「ReviCo」「SechstantCDP」「SechstantCRM」などのツールを提供している。「ぜひハイブリッドなマーケティング活動の推進に役立てていただければ」と語った。
エートゥジェイが提供するツールでCDPと口コミを活用したハイブリッドなマーケティング活動を実現
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