失敗談から学ぶ成功体験! やずや矢頭氏、北の達人木下氏、オルビス小林氏のガチトーク【D2C業界のしくじり講座】 | 「D2Cの会」が解説、D2Cビジネス成功の秘訣 | ネットショップ担当者フォーラム

ネットショップ担当者フォーラム - 2023年11月15日(水) 08:00
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D2C事業で実績をあげているやずや、北の達人コーポレーション、オルビスが、自社の“失敗談”を赤裸々に語る。D2C事業運営のヒントにしてほしい

やずやの矢頭徹代表取締役社長、北の達人コーポレーションの木下勝寿代表取締役社長、オルビスの小林琢磨代表取締役社長が「D2Cの会」(売れるネット広告社主宰)に登壇し、「D2C業界のしくじり先生」をテーマに、自社のエピソードからD2C事業を展開する企業が失敗しやすいポイントを語った。

向かって右からオルビスの小林氏、北の達人コーポレーションの木下氏、やずやの矢頭氏向かって右からオルビスの小林氏、北の達人コーポレーションの木下氏、やずやの矢頭氏
【オルビス】「精度の高いギャンブル」だったデータ分析

ポーラ・オルビスホールディングス傘下で売上高約50億円のディセンシア社長、その後は売上高約400億円の親会社オルビスの社長に就任した小林氏。ディセンシア時代はユニットエコノミクス(1顧客あたりの採算性)と向き合い、顧客からのヒアリングを積極的に重ねてきた。オルビスに籍を移してからはデータドリブンに着目し、社内のアナリストチームとデータを掘り下げ相関関係を探したが、成果は思うように上がらなかった。

膨大な量のデータが“宝の山”に見えて、アナリストチームと一緒に分析と議論を繰り返しました。過去の積み上げであるデータを掘り下げても相関関係しかわかりませんし、相関関係だけでは因果関係を導くことができず、お客さま像が明確にないまま事業を続けることになります。それは精度の高いギャンブルのようなものなんです。

「誰に何を届けるか」という最も大切なことが見過ごされてしまうんですよね。データドリブンに頼ると大きな失敗はしませんが成功もしません。(小林氏)

現在は四半期に1度のペースで、顧客と対面で話す機会を設けているという小林氏。本来取るべきステップは、インサイトに着目し、そこから仮説を立ててデータを見ることである。

大切なのは媒体に合わせたUI/UX作り

効率的にコンバージョンを獲得できる広告媒体探しに躍起(やっき)になり続ける危険性についても小林氏は警鐘を鳴らす。「顧客を獲得できる媒体を延々と探し続け、資金と時間を溶かしてしまった」(小林氏)と言う。北の達人コーポレーションの木下氏は後進のD2C企業に向け、改善策を次のように指摘した。

取れる媒体と取れない媒体があるのではなく、どんな媒体でも、取れるWebマーケッターと取れないWebマーケッターがいます。媒体に合わせたUI/UXを作れば獲得できるし、作れなければ獲得できないのです。重要なのは「獲得できるUI/UXを作ること」。加えて「今、伸びている媒体に焦点を当てること」です。(木下氏)

【北の達人】アバウトなLTV予測が赤字を誘引

木下氏は過去にLTV(顧客生涯価値)から計算した上限CPO(新規顧客獲得単価)以下で新規顧客獲得に乗り出したものの、獲得に伸び悩んだ。その原因を調べたところ、広告媒体ごとにLTVが違うことが判明した。

上限CPO以下で獲得する新規顧客数を増やしましたが、それに応じた売り上げが思うように上がらなかったんです。LTVを計測し直すと、広告媒体ごとに違うとわかりました。

北の達人コーポレーション 代表取締役社長 木下勝寿氏北の達人コーポレーション 代表取締役社長 木下勝寿氏
広告媒体ごとにLTVと上限CPOを分ける重要性

木下氏はこの気づきをきっかけに、LTVと上限CPOは広告媒体ごとに分けて設定して運用するようになった。

価格のオファーをつけた、または影響を及ぼしそうなクリエイティブを使ったタイミングで必ずLTVを計測し直します。化粧品関連で言うと、即効性が期待できる商品・クリエイティブと、長く使うことで効果が期待できる商品・クリエイティブがある場合、前者はCPOは下がりやすくLTVは伸び悩む傾向にあり、後者はCPOは高くLTVは上がりやすい傾向にあります。(木下氏)

行き過ぎた効率化でクリエイティブ力が低下

成功した事例にならって広告制作を進めた結果、クリエイティブ力の低下を招いたとも語る木下氏。最初のクリエイティブは商品やユーザーを考えて作られるが、その次からは「広告を見て広告を作る」ことに陥りがちであり、これは業界全体的に見られる傾向とのこと。

商品ではなく「広告を見て広告を作ること」を繰り返していると、新しい広告表現をゼロから作ることができなくなってきてしまうんです。こういった傾向を理解していないと、クリエイティブの内容を見ずに数値だけで物事を判断するようになります。(木下氏)

改善策として、木下氏は社内教育用に書籍を執筆・出版。「ユーザーと商品への理解」について書いた。さらに木下氏は顧客へのヒアリングも欠かさない。現在はオンラインで1対1のヒアリングも行い、細かいニーズの調査も行っているという。

得意分野でない商品投下の結果、ビッグマーケットで玉砕

数々のニッチな商品で顧客を獲得してきた北の達人コーポレーション。マーケット規模の大きくない商品は競合が少ないなかで高収益率を維持できるメリットがあり、売上高100億まで上り詰めた。その頃、育毛剤商品を発売し、競争の激しいビッグマーケット(育毛剤市場)に挑戦したものの、計画していたほどの成果は出なかったという。

競争の激しいマーケットに飛び込んで見事に玉砕しました。発売当時、当社の育毛剤は世間では話題になりましたが……実は、全然売れなかったんです。評価してくださった方の大半は、髪の毛に悩んでいなかった人たち。本当に悩んでいる方には響かなかったんです。(木下氏)

単に「ビッグマーケットが悪い」という話ではなく、ニッチな商品で売り上げを伸ばした北の達人コーポレーションの得意分野ではないという結論を出した木下氏。これを機に、得意分野のマーケットで勝負する“原点回帰”をした。

対してオルビスは、美容カテゴリというビッグマーケットで約30年間勝負をしてきて現在に至る。小林氏はビッグマーケットで、顧客リピートを一番大切にしているとのこと。すでに購入されている商品から“飛び地”させるような、別カテゴリの商品とのクロスセルは失敗しやすいため、近しい商品のクロスセルをしていると語った。

我々は顔に使う商品が得意ですが、既存商品が市場で売れているからといって、たとえば体を洗うものを打ち出してもヒットするイメージは持てません。あくまで我々のお客さまが必要としているものに立ち返ります。(小林氏)

【やずや】排除命令を契機に、ひとつの商品や事業に頼らないビジネスモデルを構築

やずやは早くからメディアミックスを取り入れた企業の一つ。テレビCMでの露出を増やしながらDMやチラシをうまく配合し、広告費用を回収できるモデルを作り上げた。しかし、広告を公正取引委員会に指摘された過去がある。「熟成やずやの香醋(こうず)」というサプリメント商品だ。

「お酢を20倍に濃縮する」というフレーズは「栄養素が20倍に上がっている、という誤解を与える」と指摘されたのです。「日本語としては正しいけれど誤解を与える」という理由でした。(矢頭氏)

やずや 代表取締役社長 矢頭徹氏やずや 代表取締役社長 矢頭徹氏

この出来事を踏まえて、やずやはビジネスモデルについても見直しを行った。指摘前は売り上げの約8割を「熟成やずやの香醋」が占めていたが、現在は上位約10商品で売り上げの8割を構成している。さらに、通販だけに頼らないビジネスモデルに切り替えた。現在やずやグループの売上高は300億ほどあり、そのうち6割が通販、残り4割はホテルや海外事業だ。

新卒採用&商品開発における各社の視点とは?

事業展開において欠かせない人材管理。やずやは企業の採用を学生目線で見直した。書類選考ではなく面接を重視しており、採用時には通販の顧客に届けるようなDMを送っている。

木下氏は近年、セミナーイベントでの登壇回数を増やしているという。その目的は“採用”だ。北の達人コーポレーションの理念に共感してくれる人を採用したいという思いがある。

小林氏は採用時に求職者本人の適正やビジネス感覚のバランスを重視している。①経営企画をやりたい人 ②商品企画において独創性を出せる人 ③テクノロジー・デジタル・数字をきっちり見ながらマーケティングできる人――この3タイプの人をバランスよく採用している。

商品開発についても3者はそれぞれの知見を持つ。やずやでは商品開発のテストのパターンが以前とは変化しており、テストの分母が増えた分、販売を見送る商品も増えた

北の達人コーポレーションは売れやすい商品とそうでない商品は数値で判断ができるほどになっていった。

オルビスの小林氏は、リピーター獲得を意識した商品開発の例として、飲むスキンケアとして2019年に発売した美容食品「オルビス ディフェンセラ」のケースをあげた。

従来、新しい技術で開発された商品は「ポーラ」ブランドから販売されるのが社内の通例でした。「オルビス ディフェンセラ」もポーラから発売される予定でしたが、「オルビス」から発売したいと「ポーラ」の社長を説得したんです。高級ラインから販売するために付加価値をつけて価格帯を上げると、リピートにつながりにくいですから。(小林氏)

“失敗”を積み重ねてD2Cで生かすコツ

3社は後進のD2C事業者に当てて次のようにメッセージを送っている。

全く新しいイノベーションに手を出すよりも、先人たちの失敗をキャッチアップしてください。基本をやり切ってから新しいことにチャレンジをするのが一番いいです。僕の思う基本は「顧客を見る」こと。ここを抜きにすることはありえないと痛感しています。(小林氏)

「10回やれば9回失敗する」という前提で仕事をしています。失敗からどれほど学べるかに重きをおいています。そのためには、スピーディーかつ、コストをかけずに失敗していくこと。失敗のパターンを学び尽くせば自ずと成功していくので、ぜひ失敗をたくさん経験してください。(木下氏)

「わからないこと」は楽しいことであり、それらをチームで議論し続けることが重要です。通販のノウハウはホテル事業やスポーツ事業に展開できます。通販のビジネスモデルってコアで面白いんですよね。ぜひみなさん、通販について議論して突き詰めていただきたいです。(矢頭氏)

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次回の「D2Cの会 フォーラム」は、2024年6月13日の開催を予定している。

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