バルクオムの野口卓也氏(代表取締役CEO)、I-neの伊藤翔哉氏(執行役員兼ダイレクトマーケティング本部本部長)、サティス製薬の山﨑智士氏(代表取締役CEO)が「D2Cの会」(売れるネット広告社主宰)に登壇し、「売り上げをアップする商品開発」をテーマにヒットを生み出す商品開発の黄金法則について語った。
【BULK HOMME】「ずばぬけた使用感」を重視
バルクオム 代表取締役CEO 野口卓也氏とバルクオムの製品
「BULK HOMME(バルクオム)」は、2013年にデビューした男性向けスキンケアブランド。2019年には、イタリアで開催された世界的な化粧品展示会「Cosmoprof Awards 2019」のHair Product部門で「THE SHAMPOO」がナンバーワンのアワードを獲得するなど、数々の受賞歴を持つ。
野口氏は当初、化粧品の知識がゼロの状態で、次のようなプロセスで最初の商品開発に取り組んだ。
- 全国のOEM会社約100社に問い合わせ
- 各社の仮説を聞き、試作を依頼
- 「これまでになかった使用感」を重視
- 本番クオリティの試作品をブラインドテスト
その結果、サティス製薬へ商品製造を依頼した。商品開発で重視したのは、実際に使ったときの「ずば抜けている」感覚(これまでになかった使用感)だ。
ユーザーは、化粧品の処方や品質の確かさ以上に、使ったときの感覚で良し悪しを判断することが多いのが現実です。「品質と使用感の両立」をコンセプトに、できるだけ市場に存在しないテクスチャを表現したいと考えていました。
バルクオムならではの商品開発について話す野口氏
たとえば「BULK HOMME」の洗顔料は、従来の洗顔料のいいとこ取りをしたような生せっけんタイプ。初めて使ったときの印象が、“斬新で忘れられない”インパクトになるような設計にしている。今までにないテクスチャや使用感は受け入れにくさにもつながるが、「ギリギリを攻めた」と言う。
この点について、「BULK HOMME」の製品作りを担うサティス製薬 代表取締役CEOの山﨑氏は次のように語る。
新しいブランドが今までにないような使用感を提示すると、ユーザーの感情は「不安」の方が大きくなってしまいます。ユーステストで30%程度の人がその製品に対し好印象を持っていることが、不安に傾きすぎていない新鮮な体験のラインです。
もっと多くの人が満足している状態をゴールに設定してしまう企業が多いですが、70~80%の人が「良かった」と答えた場合、過去の体験に基づいた安心感がベースになっていることが多いので、過去の体験に勝てなくなってしまいます。
つまり、下げすぎてもいけないし、上げすぎてもユニークさに欠ける商品になってしまうのです。
サティス製薬 代表取締役CEO 山﨑氏
製品の品質よりも、ユーザーによる「知覚品質」を追求
発売前には、最終テスト版の製品を100個製造し、20~30代の男性100人に市販の上位5製品とともに中身が見えない状態のまま試してもらい、使用感と満足度のブラインドテストを実施。その結果、ナンバーワンを獲得できたので製品化に至った。
野口氏は「ユーザーが製品をどう評価するか」を重視する
スキンケアだけでなくヘアケア製品も展開する現在、「BULK HOMME」の製品開発のポリシーは、高い「知覚品質」を追求することだ。
化粧品としての品質は信頼のおけるOEM会社に依頼することで担保しているものの、ユーザーがその製品をどう受けとめるか(どう評価するか)は、製品の品質と必ずしもイコールではない。だからこそ、バルクオムとしてはユーザーが受け止める「知覚品質」を厳しく見ているという。
商品開発の際にバルクオムが実施している項目
定番製品については少なくとも3000件以上のブラインドテストを行い、「使用感」「満足度」「香り」の項目で1位にならなければ発売しない。
さらに、ユーザーニーズを深堀りするための1on1のインタビューも実施しており、パッケージ、同梱物、クロスセルの方法など、自分たちのイマジネーションを刺激するヒントを得るために活用している。
【I-ne】ブランドは「アジャイル開発」。常に約1000個のアイデアを集める
I-ne 執行役員兼ダイレクトマーケティング本部本部長 伊藤翔哉氏
I-neはヘアケア製品、化粧品、美容家電等の企画開発や販売を行う企業。「BOTANIST」「YOLU」「DROAS」の伸長で、ドラッグストア市場におけるヘアケアカテゴリーのカンパニーシェアは日本2位※。ミニマル美容家電の「SALONIA」は、ヘアアイロン市場で2年連続1位を獲得している。
※ドラッグストア市場におけるシャンプー・リンスカテゴリー販売金額より(自社調べ)
売上構成比では卸の割合が最も大きく、オンラインで認知を獲得して、オフラインでスケールさせるモデルを採用している。テストマーケティングを繰り返し、いわばブランドの「アジャイル開発」を行っている。
テストマーケティングで活用しているのはI-neのブランドマネジメントシステム「IPTOS」という独自のフレームワークだ。
Ⅰ-neが推進する「IPTOS」の内容
全社員からブランドのアイデアを募ったり、「トレンドハンターチーム」を結成して毎月何らかのアウトプットを出してもらったり、AIからキーワードのヒントを得たりして、常に1000個ほどのアイデアを集めている。その中から、実現可能性などを踏まえてアイデアを絞り込み、調査に入っていくという。
精度の高い“需要の予測”がヒットを支える
最終的にはオフラインでのスケールをめざしているため、オフラインの売上目標から逆算して、需要予測を行っている。
商品開発に当たってヒットの予測精度が高いこともI-neの強み
ヒットの再現性の秘密に、この需要予測の精度があります。2022年1~5月の予測精度は全ブランド平均で99.8%でした。以前の予測精度は50%程度でしたが、KPIと売上相関の明確化、数理モデルでの売上予測などによる新しい予測モデルの構築により、予測精度の向上を実現しました。
ヒットの再現性について仕組みを語る伊藤氏
「20億円のブランドを作るためには、購入意向度が〇%以上でないといけない」といった明確な数字があるため、OEM会社の協力を得て、ゴールに向けて何度も改良を重ねている。
ただ、購入意向調査では「なじみのあるもののほうが高い点数が出やすい」という事実があるため、一定以上の点数が出たものの中から、どのブランドを商品化するかを決める際には、定性的なマーケティングの視点も必要になってくる。
たとえば「YOLU」は購入意向調査やHUT調査では3位だったが、「夜間美容シャンプー」というコンセプトがキャッチーなので、“決め”で商品化に至ったという。
【サティス製薬】ユーザーに支持されるものづくりとは
サティス製薬 代表取締役CEO 山﨑智士氏
サティス製薬は、D2Cをメインに800社以上のブランドの立ち上げを支援してきたOEM企業。100種類以上のオリジナル原料の開発に加え、100種類以上の項目で評価試験を行って品質を数値化することで、PDCAを回している。
サティス製薬に情報提供を行っているOEM企業30社が世に送り出した小売価格の総額は、1983~2010年の30年弱で上昇。小売価格の総額の上昇に比例するようにして、広告費も上がっている一方、原料費は下がってきている。
広告費増加に相反して原料費は減少傾向にある
化粧品業界では35万SKUもの商品が流通し、毎年製品数が増えているなかで、自社製品の存在を知ってもらうための広告にコストが費やされているのが近年の状況だ。
原材料にかけるコストが削減され、D2C製品の質が低下傾向にある中で、良いものを作れば製品インパクト・体験インパクトが出しやすいので、ある意味チャンスだといえる。
顧客満足度につながる要素について、山﨑氏は次のように語る。
同じブランドに複数の製品がある場合、ブランドにおける製品の戦略的意味付けが変わってきます。
市場を開拓する役割を担うフロント製品には「なんか新しい」「期待していいかも」と、数日間のうちにワクワク感を高めることが求められます。この場合、短期間でどのような体験ができるかという意味での「機能性」の評価が大事になってきます。
一方、客単価を上げていく役割を持っているバックエンドの製品は、評価試験上で肌を変えるエネルギーよりもトラブルを起こさない安全性を重視して開発したほうが良いです。(サティス製薬 山﨑氏)
F2転換率と原価の商品別概念図
サティス製薬の取引先企業のデータ(データの公開に承諾している企業分のみ)をバブルチャートにすると、原価率が上がるとF2転換率が上がることは一目瞭然だ。このことから、原価をかければ、そのぶん使い続ける動機となる満足感につながるといえる。
ただ、商品によっても差があり、化粧水は原価率とリピート率の相関関係が低い傾向にある。一方で、「これを気に入ってもらえれば全アイテムに広がる」という一番のキーマンも化粧水だという。化粧水はCPAが高いが、ハマったときのインパクトは大きい。
PMF(プロダクトマーケットフィット)においては、「共感」が最初のポイントになる。ユーザーが自分自身とブランドのメッセージ・パーソナリティを同質化できるか、その上で、ユーザーの課題を解決するために新しい提案ができるか、ということだ。
ここで「それなら綺麗になれそう」「今度こそやってくれそう」と期待をどこまで広げられるかがカギとなる。
山﨑氏は顧客からの「共感」が最初のポイントだと説明する
商品の評価を“ユーザー任せにしない”ことが大切
具体的な「体験」の面では、ユーザーがその期待に対して確証を持てるように落とし込む必要がある。ブランドが大事にしている「らしさ」からぶれないことを前提に「インパクト」「一貫性」「ユニークさ」「コミュニケーション」が体験を構成する要素になる。
この「コミュニケーション」で気を付けるべきは、ユニークな体験、インパクトのある体験を打ち出したときに、それをどう知覚するのか、どう評価するのかをユーザー任せにしてしまっているブランドが多いことだ。
いかにユニークな演出をしても、体験の知覚や評価をユーザー任せにしていると気付いてもらえないことがある。
そのため、ユニークなモノ作りをしたときは、「どうしてそれがユニークなのか」という理由付けをした上で、ユニークな体験ができる正しい使い方や、使う際に意識するポイント、タイミングなどをしっかりと伝えることが大切だという。
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オリジナル記事:バルクオム野口氏、I-ne伊藤氏、サティス製薬の山﨑氏が語るヒット商品を生む黄金法則【BULK HOMME、BOTANISTの成功秘話】 | 「D2Cの会」が解説、D2Cビジネス成功の秘訣
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