いつでもどこでも買い物ができるようになった昨今、売り上げを向上させるには、商品力を追求するだけでなく、顧客体験の向上が不可欠だ。
「NP後払い」や「atone」など、創業から20年に渡り後払い決済サービスを提供しているネットプロテクションズと、2022年10月に「毎日お得な新生Yahoo!ショッピング」へとリニューアルしたYahoo!ショッピングが、コストを抑えて顧客体験を向上させ、選ばれるショップになる方法について語り合った。
市場は堅調に拡大、一方でEC事業者からあがる「売り上げが伸びない」という相談
ECの市場規模は2021年度時点でおよそ20兆円を越えているが、これまでは年間10%くらいだった成長率が、2020年はコロナの影響で横ばいになり、全体のボリュームに影響してしまった。
ネットプロテクションズ ビジネスディベロップメントグループ 執行役員 秋山 瞬氏
成長が鈍化した要因は、コロナ禍でサービス系の分野が大きく縮小したことだ。一方、物販系とデジタルコンテンツ系は順調に伸びているため、全体の伸長率は7.35%まで回復し、成長路線に戻ってきている。
BtoC-EC市場の動向(2019年度〜2021年度)
また、EC決済サービスの市場規模は毎年10%成長していくという予測もある。これに関してヤフーの杉本務氏(ショッピング統括本部 プロダクション2本部、事業企画本部 本部長/ショッピングユニットマネージャー)は「ネットショッピングの利用者が増えていることはもちろん、売る側として商売してみたいと考えている人も増えているのではないか」と分析する。
EC決済サービスの市場規模予測
Yahoo!ショッピングを統括する杉本氏は、日々多くのEC事業者からさまざまな相談を受けている。なかには「自社ECだけだとなかなか売り上げが伸びない」という悩みがある。具体的には以下の4つがあげられるという。
- ストア構築……サイトのデザインやUI・UXを改善したい。より回遊性の高いサイトを作りたい
- 配送……物流との連携が良くない。伝票番号の印刷など作業量が多くなってきている
- 広告……販促をどう強化すればいいのかわからない。効果的なバナーを作成したい
- 分析……販促を行なったはいいが、その効果を分析できない。なにが足りないのかがわからない
これらの悩みや課題を「集客」と「利便性」の2つに分類し、Yahoo!ショッピングの取り組みを杉本氏に聞いていく。
ヤフー ショッピング統括本部 プロダクション2本部、事業企画本部 本部長/ショッピングユニットマネージャー 杉本 務氏
Yahoo!ショッピングが取り組む「集客」「利便性」の課題へのアプローチ
グループのアセットを活用した圧倒的集客力
「集客」に関してはYahoo!ショッピングの得意とするところだ。Yahoo!JAPAN全体の訪問者数は月間およそ8600万人、日本人の64%が訪問しているということで、認知率に関しては圧倒的だ。
現在ヤフーは持株会社Zホールディングスの傘下となっており、LINE、PayPayなどソフトバンクグループ全体の相乗効果も大きく、「集客に関しては他にはないアセットを持っている」と杉本氏も自信を見せる。
ユーザーの年齢層的にも、Yahoo!JAPANだけで見ると30代以上が多いが、LINEなど他のグループ内サービスからの集客を含めると全年代をカバーできているという。
「利便性」の向上でユーザの離脱を防ぐ
「集客」を成功させた後に待ち構えている課題がある。それは、ユーザーがECサイトを訪問するも、商品を買うことなく去っていく「離脱」だ。杉本氏は離脱ポイントには大きく2つあるという。1つ目はカート(買い物かご)に商品を入れる以前の離脱。そしてもう1つはカートに商品を入れたのに、決済をする前に起こる離脱だ。杉本氏は「この2つの離脱ポイントに対して、しっかり対策を練ることが重要」と語る。
カートに商品を入れる前に離脱する理由は何なのだろうか。まず考えられるのは「探しているものがない」という、品揃えや在庫の問題。また、商品があるのにたどり着けないというケースもある。その場合は検索の精度や商品分類の方法を見直す必要がある。
上記はすでに欲しい物があってサイトに来ているユーザーだが、これ以外に欲しい物がまだ明確ではないユーザーに対して、効果的なサイト内回遊や、より積極的なレコメンドなどの施策も必要になってくる。
希望する決済手段がなければ4人に3人が離脱する
カートに商品を入れたにも関わらず決済前に離脱してしまうパターン、つまりカゴ落ちの理由については、カート自体の使いやすさといった問題もあるが、やはり大きいのは決済手段だ。
初めて訪れたサイトで自分が持っている決済方法が使えるかどうかは、非常に大きな要素。多様化した決済方法のニーズに対応していくことが重要。ヤフーの調査でも、希望する決済手段がないために離脱が生まれるという結果が見て取れる。(杉本氏)
決済方法に関するニーズの調査によると、「ECサイトで購入する際、希望する支払い方法がない場合はどうしますか?」という設問に対し、22.8%がその時点で購入をやめると回答した。「別のサイトで購入する」という52.5%と合わせると約75%、4人に3人が「希望する決済手段がないとカゴ落ちしてしまう」という結果が出ている。
決済方法に関する顧客ニーズ
また「ECサイトで購入する際、クレジットカードを意図的に利用しなかった経験がありますか?」という設問に対しては、75%が「ある」と回答している。クレジットカードがメインの決済方法というECサイトは多いと思われるが、その一方で意図的にクレジットカードの利用を避ける「非クレカ層」が存在していると言える。
クレジットカードを持っていないユーザーだけでなく、持っていてもセキュリティ面の心配や、番号入力の手間から利用を避けるユーザーもいるという。たとえば電車の中でスマートフォンからECサイトにアクセスしている場合、電車内でカードを財布から取り出し、番号を入力するのは手間がかかりセキュリティ面でのリスクもあるだろう。このようなカード番号を入力できないシチュエーションでもスマホで完結する決済手段を用意していれば、離脱を軽減できる。
Yahoo!ショッピングの「ゆっくり払い」とは
Yahoo!ショッピングは「決済UX」の向上を目的として、ネットプロテクションズ協力のもと「ゆっくり払い」の提供を2021年より開始した。「ゆっくり払い」は、注文後2か月以内に支払えば良いという後払い決済だ。
ベースとなっているネットプロテクションズの「NP後払い」では、2週間以内に支払いを済ませる必要があるが、Yahoo!ショッピングの「ゆっくり払い」に関しては、思い切って2か月以内と長いリードタイムを取っている。「ニーズに沿った仕様に柔軟な対応できる点もネットプロテクションズの提供する後払い決済の特徴であり、実際に効果も出ているのではないか」と秋山氏はアピールする。
「ゆっくり払い」を使用したユーザーのうち、新規ユーザーの割合がクレジットカード払いユーザーの1.7倍だったという、興味深い数字もある。
多くの新規ユーザーに選ばれた「ゆっくり払い」
「ゆっくり払い」を導入にしたことにより、「初めてのサイトでクレジットカードを使いたくない」という層のカゴ落ちを防止していると考えられる。
「ゆっくり払い」が若い女性の増加に寄与
これまでの後払い決済では、郵送などで届く払込票を受け取り、その払込票をコンビニなどに持参して支払う必要があったが、「ゆっくり払い」ではスマートフォンに送られたバーコードをレジで見せるだけで支払いできるようになった。これも決済UX向上ポイントの1つであり、ネットプロテクションズが提供する後払い決済の柔軟性を物語る進化だ。
従来の後払いと「ゆっくり払い」の違い
「ゆっくり払い」利用者のデータを見ていくと、女性と若年層の利用が多いことがわかった。実はこの層はこれまでのYahoo!ショッピングが若干苦手としてきた層なので、「決済UX」を整えたことは単なるカゴ落ち防止にとどまらず、新しいユーザー層の誘導にも効果があったということになる。
「ゆっくり払い」利用者の性別構成比と世代別構成比
ネットプロテクションズ、ヤフーの今後の展望は?
今後の展望について、杉本氏は「今後はYahoo!ショッピング単体だけでなく、しっかりグループのアセットを使いながら各サービスと連携して集客や利便性を強めていきたい」と語った。
ネットプロテクションズでは「NP後払い」から始まり、サービスやデジタルコンテンツなどの無形商材にも対応する会員制後払いサービス「atone」、リフォーム、ハウスクリーニングなどの訪問サービス(役務)を提供している企業向けの「NP後払い air」など、派生サービスが次々登場。「AFTEE」のサービス名で台湾とベトナムにも進出を果たしている。
また、BtoBでは「NP掛け払い」も提供しており、BtoC、BtoBを問わずECと実店舗の両方で使える後払い決済を提供している。
ネットプロテクションズが提供する後払い決済サービスの概要
「NP後払い」の年間ユニークユーザー数は1500万人を越え、2022年3月1日時点の概算では、国民の7人に1人が「NP後払い」を利用したことがあるという計算になる。また、BtoBの年間ユニーク購入企業数は46万社と、約8社に1社が導入している大きなサービスへと広がりを見せている。
ネットプロテクションズの年間取扱高の推移(2017年度〜2021年度)とUU数
ネットプロテクションズ全体の2021年度の年間取扱高は4725億円を突破。累計取引件数は3.7億件、加盟店は19.9万店舗を突破しており、2021年12月には東証プライムに上場を果たした。
「atone」の会員規模が520万人に広がってきたが、まだまだ「NP後払い」の方がボリュームとしては大きい。「atone」の会員規模を増やす取り組みとして、「atone」会員基盤を生かしたより使いやすい決済サービスを、今後リリースしたいと考えている(秋山氏)
「atone」の520万人の会員基盤を活かした新サービスを提供予定
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:クレカ対比で新規ユーザーが1.7倍。決済UX向上を目指してYahoo!ショッピングが導入したネットプロテクションズの後払いとは
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