リモートワークやネット通販が浸透し、働き方や人々の意識が変わるなか、対面での営業や商談が難しくなったBtoB(法人向け)の取引でも、デジタル化が急速に進んでいる。ただ、多くの成功事例がある一方、失敗事例も少なくない。普段は競合関係にあるDai、アイル、ネットショップ支援室、ジェーエムエーシステムズのキーパーソン4人が、BtoB-ECの基礎から、成功のポイント、失敗の要因、今後の方向性について事例を含めて語り合った。
コロナ禍でBtoBのデジタル化が一気に加速
Dai取締役・鵜飼智史氏(以下、鵜飼氏):BtoB-ECの市場についてお話しをします。経済産業省が公表したデータによると、BtoB-ECの市場規模は334兆円、EC化率は33.5%に達しています。
BtoB-ECの市場規模とEC化率
EDI(電子データ交換)なども含まれていますが、まず認識していただきたいのはBtoBの取引はECと非常に相性が良いということです。BtoB-ECのサービス、システムの導入実績やBtoBのモールの出店企業は増加し、流通額も伸びています。
Dai取締役 B2BソリューションDiv.マネージャーの鵜飼智史氏。BtoBの受発注業務をEC化するクラウドサービス「Bカート」を提供している
BtoB-ECの効果は、業務効率化、売り上げアップ、+α
鵜飼氏:BtoB-ECには、1st-Wave、2nd-Wave、3rd-Waveという3つの波があります。1st-Waveでは「ASKUL」「モノタロウ」などがサービスをスタート。2000年代に入ると2nd-Waveに移り、「SUPER DELIVERY」「NETSEA」など、ネット上で小売業者に卸売りするモールサービスが出てきました。そして現在、3rd-Waveを迎えていると言えます。3rd-Waveの特徴は、自社の業務フローにECを組み込んでいくことで、業務改善も同時に行っているという傾向があります。
BtoB-ECの変遷
BtoBはアナログな体制で業務フローを構築していたのですが、コロナの影響でデジタル化が進んでいます。BtoB-ECは、取引先との接点を強化し、社内の業務を効率化することができます。
オフラインとオンラインの業務フロー比較
ネットショップ支援室 執行役員営業統括部長 三宅晋平氏(以下、三宅氏):Webで商品を見たい、比較したいというお客さまが増えており、売り買いするためのサイトだけでなく、情報をきちんと伝えることが昨今は求められています。私たちがBtoB-ECの支援サービスを立ち上げた時は、アナログの受注をどうにかしたいという要望が大半を占めていました。しかし、最近は8割ほどが業務の効率化の問い合わせです。売り上げを伸ばしたいというニーズも増えていますね。
ネットショップ支援室 執行役員営業統括部長・三宅晋平氏。BtoBのWeb受発注システム「楽楽B2B」を提供している
アイル BtoB-EC推進統括本部・江原智規氏(以下江原氏):お得意先から、「御社は電話やファックスだけなのか、ネットで注文できるところが増えてきているよ」と指摘され、重い腰をあげるという企業も増えましたよね。
アイルのBtoB-EC推進統括本部・江原智規氏。BtoB-EC、WEB受発注システム「AladdinEC(アラジンEC)」を担当している。アイル30年にわたって販売管理・在庫管理などの業務管理システム「AladdinOffice(アラジンオフィス)」を提供(2022年2月時点)
鵜飼氏:さらに+αで増えてきたのが、新規事業を立ち上げる際にBtoB-ECを組み込みながら、ニューノーマルな働き方を取り入れてオペレーションコストを抑えたいというニーズ。これまでのお話をまとめると、BtoB-ECの効果は、業務効率化、売上アップ、+αの3つが大きいと言えるでしょう。
BtoB業務のEC化で期待される効果
営業スタイルや働き方などを大きく変えたコロナ禍、BtoB-ECの導入のきっかけに
鵜飼氏:コロナ禍とBtoB-ECについて、事例を踏まえて見ていきましょう。地方の服飾雑貨系の会社のケースですが、営業マンが営業先の店舗に直接商品を納品し、次の注文を取り、月末に集金するというルート営業を行っていました。1回目の緊急事態宣言下で、お客さまから「ご来社を遠慮していただきたい……。」と言われ、訪問できないことには事業が立ち行かない、ということでEC化を決断。BtoB-ECサイトで受注や請求業務を行い、配送は物流業者にアウトソーシングするスタイルに変えました。
コロナ禍でルート営業ができない状況に
三宅氏:コーヒー豆などを扱っているクライアントの事例ですが、そこでは営業マン自身が契約してきたお客さまの発注を、手作業で打ち込んでいました。直営店15店舗と卸先600店舗を抱えているので、ピーク時は月に3000件の受注処理が生じ、入力工程は毎月132時間に達しました。そこで、既存の販売管理ソフトを変えずに、「楽楽B2B」を導入したことで、手入力がゼロに。現地に行って営業マンに話しを聞いたところ、「これを待っていました」「ありがとうございました」と言っていただけました。
BtoB-ECで業務が効率化
ジェーエムエーシステムズ 営業部 統括マネージャー 岸直之氏(以下、岸氏):工場向け機械の製造販売をする企業様のケースを紹介します。
ジェーエムエーシステムズ 営業部 統括マネージャー 岸直之氏。流通業、製造業を中心に、サプライチェーンの最適化、受注業務のデジタル化を支援している
営業マンがパンフレットを持参して対面で営業していたのですが、コロナ禍でそれが思うようにできなくなりました。そこで、リモートワーク環境を整備し、Web会議とWeb商品紹介サイトを組み合わせて、サイトでリアルタイムに商品を見せてリモート営業できる体制を構築。リアルタイムで在庫照会もできるようにしました。さらに、Web上で個別のカスタマイズに対応できる見積もりシミュレーションが作成できる機能も搭載しました。
リモート営業できる環境を整備した
江原氏:コロナ禍より以前にBtoB-ECを導入していた事例です。食器やグラスを扱うクライアントで、商品詳細に対する電話での問い合わせが多く、FAXの注文、カタログ配布など、手間がかかる業務も多かったため、「アラジンEC」を導入していただきました。導入後、電話での問い合わせが年間8000件削減、手作業も大幅に減りました。コロナ禍では、テレワークや非対面営業へとすんなり移行できたそうです。
BtoB-ECシステム導入済みのためテレワーク・非対面営業へスムーズに移行できたという
しがらみ、過剰な要求、後出しじゃんけん……BtoB-EC失敗あるある
鵜飼氏:ここまでは成功例を紹介してきましたが、もちろん失敗してしまうパターンもあります。そこで、普段はあまりすることの無い「失敗あるある話」を皆さんにお聞きしてみたいのですが……。いかがですか?
岸氏:失敗するケースは、お客さまが意気込み過ぎて“あれもこれも”と120点をめざすことが多い印象ですね。お金も時間もかけてBtoB-ECを導入したのに、本当にやりたかったことがぼやけてしまい、その結果50点になってしまう。最初の段階では80点をめざし、運用スタート後に段階的に加点していって、最終的に120点にたどり着くという考えの方がうまくいくように感じます。
江原氏:失敗する企業は後出しじゃんけんも多いですよね。担当者と打ち合わせを重ね、契約した後に、営業や物流の部門が契約外のことを言い出したり、あれやこれやと要望を出してきたり……。こうなるとうまくいきません。
鵜飼氏:社内でしっかりコンセンサスを取っておけば後出しジャンケンは起きないんですよね。
三宅氏:BtoBの場合、会社の業務やシステムの根幹に関わってくるので、組織全体を動かさないといけない。それなのに、上に話しが通っていないというケースはよくありますよね。
鵜飼氏:確かに、しがらみが多いのも問題ですね。社内もそうですが、メーカー、卸、小売、消費者が関わるなかで今までのやり方を変える側面もあるので、うまくまとめていかないと失敗してしまう可能性は大きいです。
これからのBtoB-EC
江原氏:Adobe社が実施した調査に興味深いデータがあります。今、就職活動をしている若者が、企業選びで重視するのが、「デジタル化が進んでいるかどうか」です。データによると、デジタル化が進んでいる企業は社員満足度も高いそうです。業務のデジタル化が、人材採用にも影響を及ぼす時代になっているんですね。
採用にもデジタル化が重視される
鵜飼氏:僕も採用に携わることがありますが、就職活動でデジタル化が非常に重要な要素になっていることを実感しています。
江原氏:社員の満足度という要素で言えば、1つエピソードがあります。アイルが支援した食品卸会社は、仕入れ先との発注、支払い業務で購買部門の方の負担が非常に大きかったのですが、「アラジンEC」を導入した結果、業務の50%、時間にして年3000時間を削減でき、担当者の方に「定時に帰れるようになり、ライフワークが変わりました」とお礼を言われました。システムを導入することによって、その会社で働いている方が元気になる、幸せになるというのは、我々にとってもやはり嬉しいことです。
BtoB-ECは顧客満足度にも直結する
鵜飼氏:「Bカート」を導入している BtoCとBtoBのEコマースに取り組んでいる企業では、クラウドサービスを組み合わせて受注、決済、在庫の一元管理から物流の出荷業務までを自動化されました。業務を自動化することで捻出された時間を付加価値の高い商品開発や、顧客接点の強化に集中させて業績を向上しているそうです。
BtoBとBtoCのバックヤード業務を完全自動化した
三宅氏:これからは、業務効率化という守りの話しだけではなく、売り上げを増やすための攻めの姿勢が大事になるでしょう。営業が直接出向いて交渉し、受発注はFAXというスタイルの化粧品関係の会社の例ですが、アポが取れなくなり営業ができず、顧客がゼロに近い状態で月商は150万円程度まで落ち込みました。2020年7月に「楽楽B2B」を導入して、それを機にオンラインマーケティングに集中。多くのサンプルを送付し、届いた頃にオンラインで「どうでしたか」と確認、良かったという返答を得た企業に「買いませんか」とプッシュするという攻めのスタイルに転換しました。合わせてメルマガも配信することで、約3か月で売り上げは8倍になり、2021年2月には15倍の2000万円を達成したそうです。
売り上げを伸ばす攻めのBtoB-ECも重要という
鵜飼氏:BtoB-ECで業務の効率化を図り、販路を拡大して売り上げを伸ばしていく。これからはそういう時代ですね。
岸氏:海外進出に成功した事例を紹介します。その企業では、国内需要が頭打ちになり、海外進出を図ったが成果が出ていませんでした。そこで海外向けBtoB-ECを開設したところ、海外企業からの引き合いが増え、売り上げも増えていったのです。リアルで展開する場合、海外拠点を設けて人を採用、顧客を開拓するといったことに多大なコストと時間が掛かります。ECなら、24時間365日注文を受けることができます。そして、販路を一気に拡大できるのです。
BtoB-ECで海外需要も開拓できる
鵜飼氏:海外進出を比較的容易に取り組めることもBtoB-ECの大きなメリット。今後は国内市場がシュリンクしていくので、海外への進出も視野に入れる必要がありますね。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:BtoB-ECの「基礎」「成功ポイント」「失敗あるある」「将来の方向性」をキープレイヤー4社が解説 | 鵜飼智史のBtoB-EC早わかり講座
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