ECサイトを運営している企業の責任者や担当者には、EC支援ベンダーなどからよく営業の電話がかかってくることでしょう。時には1日10件以上もかかってくることも……。皆さん、その電話に対して「またかよ」「うるさい」などと即座に切っていませんか? すべての電話に対してではありませんが、私は可能な範囲で電話対応し、スキルアップ、自身のEC知見向上、ノウハウを学ぶための機会にしていました。
すぐに電話を切ることで無駄な時間を省くことにつながるかもしれませんが、一方で最新のEC情報を得る機会の損失につながっている可能性も。1つの考え方として、私が行ってきた営業電話を学びの機会にする体験談をお伝えします。
ECの知見ゼロからEC責任者への道
私はECの知見ゼロから、神戸土産の洋菓子「壺プリン」で知られるフランツに入社。10年以上、ECの責任者を務めてきました。
10年以上、EC責任者を務めたフランツのECサイト
Flashコンテンツ制作を中心としたWebサイト構築、Webデザイン制作などの経験はあったものの、物販を手がける企業での就業は人生初。入社1年後にはECサイト運営のすべてを任され、その1年後にはバラバラで運営していたデザイン部門とカスタマー部門を統括し、EC事業部責任者に就任しました。
ある程度知名度のある会社で、ECの知見・経験・スキルはゼロの状態から2年後にEC責任者になった私。Webコンテンツ、コミュニティーへの参加などさまざまな方法で知見を蓄えました。EC責任者としての基礎となる知識、それをベースとした戦略&戦術作り、ツール選びなどに役立ったのが、EC支援ベンダーとのコミュニケーションでした。
私個人の考えですが、Webは多くの情報が多岐に渡って公開されているため、どれが真実で正しいのか、まずそれを取捨選択するだけでも苦労します。特に最近のGoogle検索は、検索履歴やクリック履歴などを分析し学習、検索意図を理解し、検索者の趣味嗜好に適した情報を上位表示させてくれます。
効率的ではありますが、偶発的な出会いは発生しません。つまり、特定の情報しか頭に入らなくなるフィルターバブル(アルゴリズムがネット利用者個人の検索履歴やクリック履歴を分析し学習することで、個々のユーザーにとっては望むと望まざるとにかかわらず見たい情報が優先的に表示され、利用者の観点に合わない情報からは隔離され、自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立するという情報環境。出典:総務省)状態に陥ってしまいます。
今後、フィルターバブルが頻発に起きる可能性があります。偏った考えや知識しか得られない現象が起こる可能性があり、個人的にはWeb検索だけの学習は“危険だな”と思っています。
電話対応の初期段階で会社のスタンス、一緒に仕事をしたいかなどを判断
ここからは、営業電話からスキルアップ、ECの知見を高めていった私の経験を説明していきます。
「中林さんは、すべての電話営業に対応し、知見をためようとしているのですか?」。答えは、半分正解で半分不正解です。
まずかかってくる営業電話は2種類あります。企業の営業さんが直接電話してくる場合と、テレアポ専用会社が連絡するケースです。
電話対応の初期段階ではどの種類の電話か判断しにくいため、まずは専門的な質問を投げかけます。そこで、「営業ではないので」「私はそこは担当していないので」といった返答があった場合、メールアドレスを伝えて資料を送ってもらいます。資料を見て、会社に必要なサービスなのかを否かを判別していました。
電話対応の初期段階では、EC支援会社のスタンスなどが見えてくるので、「やり取りする」「コミュニケーションを取る」「深く聞いていきたい」といったことを判断する材料にしていました。
どんな会社で、どんな人がいて、その人と仕事をしたいのかどうか、最初のアポイント電話である程度、ふるいをかけるという頭で対応します。アポイント電話は判断を下すための材料が豊富にあり、それを基に判断を下す鍛錬にもなるのです。
電話対応の心構え、よく考えること
電話対応は、駆け出しのEC担当者からバリバリのEC責任者になっても継続しました。駆け出しのEC担当者時代は、ECの知識が足りない状態。それでも積極的に電話に対応しました。
自身の知見・スキルが足りない状況ですが、兎に角にも話を聞いてわからないことは質問をする、でもダラダラと説明を受けることを避けるために時間制限を設けました。自社の経営・サイト運営に関わる数字を踏まえて、営業いただいた会社およびサービスが必要なのか、どんな影響を与えてくれるのかをロールプレイングしながら説明を受けます。
これは、必要なサービスなのかどうかを知りたい自分と、なんとか直接営業できる機会を作りたい営業さんとの激しい攻防の場です。
こうした意識および対応をすることで、「経営・ECサイトに与える影響」「各種数値」「自身がそのサービスのジャンルに精通しているか否か」「そのサービスに関するスキルを自身およびスタッフは持っているのか」など頭のなかを整理することができます。
なによりも会話を通じて、最新の情報、現状の不足点、今後の戦略などを考えることができるんです。それらが、EC責任者に必要な素養にもなります。
ECのスキル、知見、情報収集力などの向上は各種能力アップに直結
こうした電話対応でECの知見やスキル、情報収集能力を高めていったことは、ECツールの選定や各種判断能力の向上にも役立っています。
イベントでの製品展示、営業、Webコンテンツなどを見ながら、いろいろな情報と比較対象できるようになります。「何が新しいのか」「何が旬なのか」「何が高くて何が安いのか」「何が優位性なのか」などをキチンと理解できるようになるんですよね。
ハイプサイクル(新技術の社会的な立ち位置を説明する指標)と照らし合わせながら、今後の業界動向などを踏まえてさまざまな判断ができるようになりました。
この方法は地方に本社を置く企業こそ活用してほしいところです。東京であればビッグサイトなどで各種イベントへ足を運ぶことができますが、地方企業は労力とコストがかかりますので。
費用対効果を考えながら電話対応を学びの場に
ただ、「明日からバンバン電話を受けます!」というのはNGです。考えなければいけないのは、電話対応であなたがお話しする1時間に、会社は人件費を払っているということ。
所属している会社に必要な情報なのかどうかを選別していくことは、無駄な時間を過ごさないための重要なファクターになります。この点は肝に銘じておきたいところです。
なかには営業のプロがいますので、そんな人と会話をすることで自分の大きな知識向上、経験のアップになるはずです。
要するに、費用対効果を考えながら、キチンと学んでいるEC支援会社とコミュニケーションすると自身も会社も成長していくことができます。
電話相手はそれなりに学び、サービスを契約してもらうために最新の知識や武器を持ち合わせています。EC事業者側は、営業電話を通じて利点と欠点をキチンとヒアリングしたりしながら、どんどん知識を吸収し経験を積んでください。
大事なことはインプットとアウトプットを繰り返すことによる最短距離での成長です。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:ECのスキル・経験・知見ゼロから責任者になった僕が「支援企業からの営業電話」を学びの機会にした経験談 | EC責任者になるための仕事術
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