EC売上40%増「ぬま田海苔」4代目当主が語る、新規顧客増につながった新商品発売の裏側 | 「Shopify」でECサイト構築・運営 | ネットショップ担当者フォーラム

ネットショップ担当者フォーラム - 2021年9月29日(水) 08:00
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勝負所でプロに依頼できるかどうかが成否の分かれ目─。海苔専門店「ぬま田海苔」の沼田晶一朗氏とEコマース先生こと川添隆氏が食品ECを語る

「ぬま田海苔」は、東京合羽橋に実店舗を持つ海苔専門ブランド。九州・有明産の1回しか採れない初摘みの海苔にこだわり、レシピやペアリングなど、海苔の食べ方についても積極的に発信しています。

家業である「ぬま田海苔」を継ぎ、ブランドを率いる4代目当主の沼田晶一朗氏と、Eコマース先生こと川添隆氏が、食品EC展開する際の課題やポイント、そして、ユーザーから選ばれるブランドになるための秘訣について語り合いました。

「ぬま田海苔」のECサイト
「ぬま田海苔」公式サイト(https://numatanori.com/
アパレル企業を辞めて家業を継いだ理由

川添隆氏(以下、川添氏):沼田さんは、以前はアパレル企業で働いていたんですよね。家業を継ぐ前提で、他業種で修行されていたのでしょうか?

沼田晶一朗氏(以下、沼田氏):いえ、もともとは家業を継ごうという意思はありませんでした。ただ、1人で家業の海苔屋を切り盛りしていた母が高齢になり、家族で海苔屋の今後について話し合う機会があり、家族で協力して事業を進めようとなったのが2017年の冬です。当時、母は電話とFAXで注文を受ける形で事業を営んでおり、まずはECサイトを立ち上げ、注文の受け皿をオンライン化することから始めました

店舗立ち上げの準備を始めた頃に、前職を辞め家業に入りました。それから2018年5月に浅草・合羽橋に実店舗をオープン。ただ実を言うと、その頃は「店舗が軌道に乗ったらアパレルに戻ろう」という気持ちも少しありました(笑)。

ぬま田海苔 4代目当主 沼田 晶一朗氏
ぬま田海苔 4代目当主 沼田 晶一朗氏
1977年生まれ、神奈川県川崎市出身。大学卒業後大手アパレル企業に就職し、東京、千葉、京都、福岡と全国の旗艦店店長を経験。17年勤務した後、家業である海苔屋に転職。東京合羽橋に「ぬま田海苔」本店をオープン、2019年に代表取締役に就く。海苔の魅力を伝えることで日本の食文化を海外に知ってもらおうと、越境ECに向けた準備を進めている(写真提供:ぬま田海苔)

川添氏:そうだったんですか。ECサイトや実店舗といったBtoCの接点を増やすことと並行して、商品設計やデザインなどリブランディングを進められたんですよね。どういう形で「ぬま田海苔」の魅力を伝えようと考えたんですか?

Eコマース先生 川添隆氏
Eコマース先生 川添隆氏
1982年生まれ、佐賀県唐津市出身。全国のEC担当者を応援し、ECビジネスの可能性を伝えるEコマース業界の先生。企業再生を2社経験し、独自のメソッドと実践を通じてEコマース売上2倍以上に携わったのは6社。アパレル関連企業3社を経験後、2013年7月よりメガネスーパーに入社。8年でEC関与売上は8倍、自社ECの月間受注は13倍に拡大。現在は親会社のビジョナリーホールディングス 取締役 CDO 兼 CIO(現任)として、EC事業・オムニチャネル推進などの領域、IT・情報システム、新規事業を統括。2017年より代表を務めるエバンでは小売企業(モノ・スイーツ)、大手メディア、B2Bスタートアップ、D2CブランドへECやDX領域のアドバイザーに従事。著書に『「実店舗+EC」戦略、成功の法則~ECエバンジェリストが7人のプロに聞く~』がある。

沼田氏:うちは海苔屋なので、まずは海苔へのこだわりです。一般的に海苔屋というと全国各地の海苔を扱うことが多いですが、「ぬま田海苔」は九州・有明産の希少な初摘みの海苔しか置いていません。これがトロッと口溶けがよく、本当においしいんですよ。

採れた漁場や等級に着目したシングルオリジンの提案をしているのも特徴の1つです。どこで採れた、どんな評価の海苔かわかるとお客さまの安心につながります。しかも、それぞれの海苔に個性があり、採れた場所によって味が変わります。それぞれの海苔に合った食べ方を提案できるのが「ぬま田海苔」の魅力の1つです。

創業期の「ぬま田海苔」
創業期のぬま田海苔(画像提供:ぬま田海苔)

川添氏:食やファッションなど小売り全般の傾向として、昔と比べてさらに商品のバリエーションや競合が増えていますよね。技術革新もあって、生活者は低価格で良質な商品を手に入れることができます。一方、中途半端な価格帯で特徴が際立たない商品やブランドは苦しい状況になってきています。

こういった中で、中小企業発で相対的に値の張る商品を売っていくには、一点突破するためのポイントを絞る必要があると考えています。言うは易く行うは難しですが、そのあたり沼田さんはどうやって乗り越えましたか?

沼田氏:実店舗に関しては試食が大きいです。やはり実際に食べると、「今まで食べてきた海苔と全然違う」と皆さん言ってくださいます。食べ比べで味のおいしさの違いを伝えることにも力を入れています。あとは、実店舗もECも、どれだけ「食べたい!」と思ってもらえるかが勝負です。おいしさを伝える工夫として、動画や画像なども活用しながら挑戦しているところです。

集客の足掛かりになったInstagram

川添氏:これまでの間で大変だったことを挙げるとすれば何ですか?

沼田氏:そうですね。ECも店舗も立ち上げの頃は認知度がゼロに等しかったので、集客面でしょうか。その頃行ったのが、インフルエンサーに海苔を差し上げてInstagramで紹介いただくモニターアクションです。そこから認知が広がった感覚はあります。その時につながった方々とは今でもお付き合いが続いています。

特にアンバサダー制度などがあるわけではないですが、定期的に商品をおススメしてくれています。立ち上げ期は大変な時期でしたが、その時にやってよかったと思います。

インフルエンサーによる商品紹介の様子(画像提供:ぬま田海苔)

川添氏:今のようなお話を聞いてもECサイトを見ても、本当にしっかり運用されていますよね。食べ方の提案やレシピなどコンテンツの充実に加え、プレスリリースも打っている。ただ、そうやってブランドに愛情をカタチにしていくのは手間暇かかると思いますが、どのような体制で運用しているんですか?

沼田氏:基本的には自分たちでやるスタンスで、私とブランドディレクターの2人で回しています。ただ、勝負所に関しては、デザイナーやカメラマンなど各領域のプロに助けてもらう形をとっています。商品のデザインも非常に重要になりますから。

プロのフォトグラファーに依頼した商品撮影(画像提供:ぬま田海苔)

川添氏勝負所でプロに依頼できるかどうかはブランドの成否の分かれ目になりますよね。それができない企業が意外と多いんですよね。すべて内製化することも大事ですが、その結果疲弊して運用を辞めてしまうケースも見ます。それに肝心なところをケチると、伝えたいことが伝えられないということも出てくる。ここの見極めはとても重要です。

沼田氏自分たちだけだと、いつもと同じ提案になってしまうところがあって。やるからには結果を残したい。だから、プロの皆さんと良いもの作り送り出したい感覚はあるかもしれません。

「初摘み海苔のうまみフレーク」でEC売上がアップ

川添氏:ECをスタートして、手応えを感じるようになったのはいつ頃ですか?

沼田氏:本当に手応えを感じたのは2020年末ですね。それまでは実店舗が主軸で、ECで買いやすい商品を考えられていませんでした。そんな中、コロナ禍になってEC強化の必要に迫られ、オリジナル商品の開発が進みました。それが「初摘み海苔のうまみフレーク」です。

2020年12月に発売を始めてすぐ売り上げがぐーっと伸び、EC売上は前年対比40%増を達成できました。ヒット商品の誕生もあり、コロナで実店舗の売り上げが厳しい中でも、事業全体の売り上げが前年比9%増と前年を上回る結果も残せました

「初摘み海苔のうまみフレーク」のパッケージはプロのイラストレーターさんに依頼しましたが、そのデザインも今回の成功の要因の1つだと思います。

ぬま田海苔のオリジナル商品「初摘み海苔のうまみフレーク」(画像提供:ぬま田海苔)

川添氏:ECでは試食の物理的なハードルが高いため、パッケージデザインも含めて画像を魅力的にする工夫が必要ですよね。ECを利用されているのは、来店歴のある方ですか。それとも口コミなどを経由した新規のお客さまですか。

沼田氏:以前はリピーターのお客さま中心で、お店に来ていただく代わりにECを利用されるケースが多かったです。それが「初摘み海苔のうまみフレーク」の発売以降、ギフトシーンで活用いただいたり、口コミで新規に購入していただけたりと、以前より新規のお客さまが増えてきている印象です。

川添氏:店舗とECで売れ筋の傾向も違いますか? 

沼田氏:海苔は賞味期限が長いのでまとめ買いしたいという方が多く、実店舗では「全形海苔」が売れ筋です。一方、ECではやはり「初摘み海苔のうまみフレーク」が好調です。今年に入り、自炊料理家・山口祐加さんと新味を開発し種類が2つに増えて、さらに売り上げが伸びています。

川添氏:店舗での売れ筋に頼らずに、“ECで買いやすい商品”(エントリー商品)をつくるというのはできそうでできないことです。店舗とECでは試食も含めて、お客さま側が可能な行動に違いがあります。そこを新商品でカバーされたのが素晴らしいと感じました。

ECでおいしく見せる工夫

川添氏:私がアドバイザーとして実際に事業に関わってみた実感として、食品ECには、意外とリピートされにくい、ブランド化しにくいなど、特有のハードルがあると思います。店舗のように試食もできません。そうした事情に加えて、海苔は比較的画力の部分で地味だと思います。そういった前提の中で海苔をおいしく見せるため、ここだけは譲れないというポイントはありますか?

沼田氏「そんな食べ方あるの!?」「食べてみたい!」と思ってもらえる提案をすることですね。たとえば、最近は生ハムや発酵バターとペアリングしてみたり、チーズのパッケージと一緒に撮影したりとさまざまな試みを行っています。

川添さんがおっしゃるように、海苔だけだと代わり映えもしないですからね。「ぬま田海苔」には個性的な海苔が揃っているので、それぞれに合った食べ方の提案をできます。その特徴を活かしたり、他の食べ物と組み合わせたりして、おいしさを演出しています。

高級バターとして有名な「エシレ」との食べ合わせを提案(画像提供:ぬま田海苔)

今年4月には、冷凍の「羽根つき焼きおにぎり」を発売したんですが、それも「羽根つき」のフォルムは意識しました。おいしさが伝わるよう焼いている動画を作って発信したり、オンラインでおいしさを伝える工夫もしていたりします。

羽根付き焼きおにぎり」(画像提供:ぬま田海苔)

川添氏:ブランドがいざ商品を売ろうとすると「うちのブランドが」「うちの商品が」となるのが一般的です。そもそも味という軸で、自社ブランド以外の食品とも組み合わせた提案をできるのが「ぬま田海苔」の強み。その強みを生かして、レシピやそれに基づいたクリエイティブはどんどん増やすことが可能になる。

そして食べる側も、それによってどう食べるのかのイメージできるんだとわかりました。いい意味で他の食材の力も借りながら味を想起させたり、「インスタ映え」に気を配ったりというのは、できそうでなかなかできません。

沼田氏:お客さまのことを考えた提案を大事にしたいと思っています。

気になるアプリをすぐに試せる手軽さと越境対応が決め手

川添氏:現在のECサイトはShopifyを利用しているそうですね。

沼田氏:はい。立ち上げた当初は別のシステムを使っていましたが、2019年3月にリプレイスしました。アプリの追加や外部機能との連携のしやすさが魅力で、最近は「Intercom」を導入し、チャットによる1on1接客に活用しています。

川添氏:比較的短期間でECシステムのリプレイスをされていますが、Shopifyにして良かったと思うのは、どんなところですか?

沼田氏:ダイナミックな表現ができる点ですね。食品を商材として扱う場合、いわゆる“シズル感”を伝えることが重要で、それにマッチしたUIだと思います。

あとは「Intercom」もそうですが、何か新しい施策を行いたいと思ったときに、専用のアプリを使ってすぐに試せることでしょうか。私たちのような中小の事業者にとって、そういった小回りが利くのは大きなメリットだと思います。

川添氏:なるほど。一般のECシステムと比べると、Shopifyのデザインレイアウト(テーマ)はどれも画像などのクリエイティブが中心に据えてあるので表現しやすいと思います。また自社の事業に適したアプリを選んですぐに利用できるのは、私もShopifyの強みだと捉えています。こういった小回りが効くところは、ビジネスの後押しになっていますか?

沼田氏:それは感じます。システム改修をしなくても、さまざまなな機能を搭載できるのはありがたいです。また、事業拡大に向け海外展開を視野に入れているので、越境に強いところもShopifyを選んだ大きな理由の1つでした。海外展開は今年中に実現したいと思っています。

川添氏:逆に使ってみて想定と違った点はありますか? ここはちょっと違うなとか、改善してほしいな、とか。

沼田氏:ギフト対応ですね。日本のお中元やお歳暮はドメスティックな贈答文化なので仕方ないのかもしれませんが、1回の注文で違う配送先を選択できなかったり、お客さまが注文を間違えて送り主の記載がないままギフトを送ってしまったりする場合があります。

川添氏:それは、私がアドバイザーとして関わっている企業からも声が出ていますね。私も1ユーザーとして送り先の入力を間違えたことがあります(笑)。

沼田氏:せっかくのギフトが失礼になってしまうのは避けたいので、私たちの方でも気を付けながらおさまの注文を確認しています。あとは案内の仕方を工夫し、お客さまと1対1でやり取りしながら個別の対応に応えています。

日本の海苔の魅力や食文化を海外に届けたい

川添氏:先ほども少し話題になりましたが、食品ECってギフト需要がすごくありますよね。ギフトは注文者と贈る相手という2人のお客さまが自動発生する仕組みなので、それ自体に広告効果があり、ギフトが伸びれば新規客も増える可能性がありますよね。

ただし「お中元」「お歳暮」など、決まったタイミングにブランドを思い出してもらうのは事業者が思っているほど甘くないと思います。何か施策として取り組まれていることはありますか?

沼田氏:これは皆さんもされていますが、シーズン早めのタイミングでSNSを使って告知をしています。あとは、そのシーズン限定の詰め合わせギフトも展開しています。

長崎県産の五島そうめんとうまみフレーク、きざみ海苔をセットにした「うまみと五島そうめん詰め合わせ」(画像提供:ぬま田海苔)

お客さまに思い出してもらうという点に関していえば、日々の接客対応を磨くのが肝心で、「特別に送るのだから、この商品を」と思ってもらえるサービスをお客さまに提供できるかが鍵だと思っています。それは店舗だけでなくてECでも同じこと。どうやり切るかが勝負です。

川添氏:なるほど。最後に改めて、こだわりも含めて「ぬま田海苔」というブランドや、沼田さんが大事にしていることを教えてください。

沼田氏:ちょうど2年ほど前、有明の海苔漁師さんを訪問して種付けを手伝ったことがあります。今より1%でも良質な海苔を採ろうと努力する姿に感銘を受け、私ももっとこの仕事に本気で向き合わなければと思うようになりました。これからも色々な海苔の食べ方を提案し、この食文化を日本だけでなく、世界にも広げていきたいですね。何より、たくさんの楽しい提案ができる海苔屋でありたいと思っています。

川添氏:すっかり「ぬま田海苔」の海苔が食べたくなりました(笑)。今日はありがとうございました。

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