新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け政府は1月7日、東京都、千葉県、埼玉県を対象に「緊急事態宣言」を発令した。首都圏への「緊急事態宣言」で消費はどうなるのか。1回目の「緊急事態宣言」による消費支出、ネット通販利用の変化などを振り返る。
消費全体は落ち込みが続く
総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は前年同月比で、4月度は11.1%のマイナス、5月度は16.2%のマイナスとなった。外出控えの反動で6月度の消費支出は大幅に改善されたが、その後の消費の回復は鈍い。
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総務省統計局が調査した消費支出(画像は「ITナビゲーター2021年版」からキャプチャ)
2019年の消費増税の反動があるものの、プラスに転じたのは10月度。それまで消費支出はマイナスが続いた。
緊急事態宣言が解除された5月。家計調査での支出項目を見ると、家具・家事用品を除いたすべてのジャンルで消費支出はマイナスに。食料、交通・通信、教養娯楽、衣服および履物は8月までマイナスが続いた。
野村総合研究所(NRI)が実施した新型コロナウイルス感染症拡大前と比較した購入金額の変化に関する調査によると、巣ごもり消費は好調。一方、外出を伴う海外旅行などのサービス消費が縮小した。
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新型コロナウイルス感染症拡大前と比較した購入金額の変化(画像は「ITナビゲーター2021年版」からキャプチャ)
リアルの小売市場は商材、業態の特性で明暗がわかれた。自宅で過ごす時間が増えたためDIY関連用品需要が増加したホームセンター、内食需要を取り込んだスーパーなどは売り上げが拡大。一方、嗜好(しこう)品中心の百貨店やショッピングセンターなどは消費の引き締めといった影響が直撃した。
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2020年の小売企業各社の既存店売上(画像は「ITナビゲーター2021年版」からキャプチャ)ECの利用世帯、利用金額が緊急事態宣言後に急上昇
小売全体の中で需要が一気に増加したのが物販EC。総務省の家計調査(2人以上の世帯)によると、ネットショッピング利用世帯の割合は4月以降に急上昇し、5月には50.5%を記録。調査をスタートした2002年以降、初めてネットショッピング利用世帯が5割を超えた。緊急事態宣言解除後の6月も50.8%、10月も5割を維持し50.9%となっている。
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ネットショッピング利用世帯の割合の推移(2人以上の世帯、2017年1月~2020年6月。画像は総務省統計局の「統計Today No.162」からキャプチャ)
ネットショッピング利用世帯は増えたが、どのような年齢の世帯での利用が増えたのか。世帯主の年齢階級別にネットショッピング利用世帯の割合の推移を見てみる。
34歳まで、35~44歳の世帯は7割超。45-54歳の世帯では60%後半で推移。55-64歳の世帯も6割近い割合まで拡大している。また、65歳以上の高齢者層の世帯の利用も増加。5月には3割を突破し、6月には31.2%となった。
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ネットショッピング利用世帯の割合の推移(世帯主の年齢階級別、2人以上の世帯、2017年1月~2020年6月。画像は総務省統計局の「統計Today No.162」からキャプチャ)
今や高齢世帯主世帯でも3割の世帯がネットショッピングを利用するようになり、ネットショッピングが当たり前の時代になりつつある。(総務省の「新型コロナウイルス感染症で変わるネットショッピング-家計消費状況調査の結果から-」から引用)
ネットショッピングの利用のほか、支出額(1世帯当たり1か月間のネットショッピングの支出総額)も伸びた。増加傾向を毎年続けてきたが、新型コロナで一気に急増。緊急事態宣言発出後の4月は1万4622円、5月は1万5873円、1万7252円となっている。その後も高い割合で推移しており、10月は1万7876円だった。
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ネットショッピングの支出額の推移(2人以上の世帯、2017年1月~2020年6月。画像は総務省統計局の「統計Today No.162」からキャプチャ)
総務省の調査では、品目別のネットショッピング利用の支出額も調査している。旅行関係費とチケットの支出はコロナの影響で激減。一方、家電、婦人用衣類、健康食品、化粧品など幅広い品目で支出額が伸びている状況だ。
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家電、婦人用衣類、健康食品、化粧品、旅行関係費、チケットのネットショッピングの支出額の推移(2人以上の世帯。画像は総務省統計局の「統計Today No.162」からキャプチャし、各グラフのキャプションを編集部が加工)
こうした状況を踏まえ、物販やサービス、コンテンツ系を含めた広義のEC市場について、2020年度のBtoC-EC市場は2019年度比2.6%増の20兆円になると、野村総合研究所は「ITナビゲーター2021年版」で予測している。
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BtoC-EC市場とオムニチャネルコマース市場の推移(画像は「ITナビゲーター2021年版」からキャプチャ)
物販分野ではオンラインシフトが拡大したものの、旅行、航空券、リアルイベントのチケットなどサービス系の消費支出が縮小したため微増になるというのがその要因だ。
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NRIがまとめたEC市場における拡大・縮小カテゴリ(画像は「ITナビゲーター2021年版」からキャプチャ)民間調査、EC利用1人あたりの金額が増加
ジェーシービー(JCB)とナウキャストによる、現金も含むすべての消費動向を捉えた国内消費指数「JCB消費NOW」でも、総務省調査と同様の傾向が出ている。
コロナ感染拡大前(1月後半)と現在(8月後半)の消費動向の比較によると、「燃料小売業」「交通」「宿泊」「娯楽」「旅行」など外出の自粛に伴って消費が押し下げられた業種は、消費者の人数・1人あたりの消費金額の双方とも減少した。
「コンテンツ配信」「機械器具小売業(家電)」「EC」「電気・ガス・水道」など外出自粛やリモートワークの広がりで消費が押し上げられた業種は、消費人数も消費金額も増加した。
デジタル消費の「EC」や「コンテンツ配信」はコロナ前に比べて大きく消費が伸びたものの、その伸び方は違いがある。「EC」は1人あたりの消費額が増加、「コンテンツ配信」は利用人数が増えている。
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コロナ感染拡大前(1月後半)と現在(8月後半)の消費動向の変化
また、新型コロナウイルス感染拡大後の2020年6月~8月と2019年6月~8月の「EC」を年齢別に比較すると、全世代で消費行動のデジタルシフトが起きている。
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コロナ前のEC前年比(年齢別)
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コロナ禍である6~8月のEC前年比(年齢別)
ミクロ業種で見ると、ECは右上(消費者の人数も金額も増加したことを示す)に集中。特に家電を含む「EC(機械器具)」は、1人あたりの消費金額が大きく増加している。
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ミクロ業種でのコロナ感染拡大前(1月後半)と現在(8月後半)の消費動向の変化
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緊急事態宣言の対象となる1都3県の総人口は約3500万人。日本の人口の約3割を占める。全国を対象とした前回の緊急事態宣言から対象地域は限定されているが、消費に大きな影響を与えることが想定される。
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オリジナル記事:緊急事態宣言で消費支出、通販・EC利用はどう変わる?[2020年の振り返り]
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