Webメディアに記事にしてもらうには?というPR担当者の声に応え、さまざまなWebメディアの中の人たちに取材するメディアインタビュー第4回。
今回は、「品川経済新聞」「和歌山経済新聞」の2つのエリア媒体を運営する有限会社ノオトの宮脇 淳氏にお話を伺いました。エリア媒体ならではのニュースの集め方、ヤフトピ掲載を意識した画像とタイトル作りなどネットで話題になるニュースの仕掛け方のコツから、ソーシャルメディアでファンを増やす方法まで幅広いアドバイスが聞けました。
お話を伺った方
有限会社ノオト 代表取締役 宮脇 淳氏
毎週5本の記事ネタはみんなで足で探す
──「品川経済新聞」や「和歌山経済新聞」のようなネットのエリア媒体では、どのように地域のニュースを集めているのでしょうか?
宮脇(以下、敬称略):基本的には足で探しています。街を歩いて、建物や店舗の入れ替わりのような変化を探す感じで。他に、Twitterで誰かが今品川駅でこんなイベントをやっているとツイートしているのを見かけて、面白そうなら取材に行ったりもしています。
品川エリアのホテルや商業施設で開催されるイベントは、プレスリリースで情報をキャッチすることも多いですね。でも、そのまま記事にするのではなく、何かしらユニークなポイントを見つけて取材記事に仕上げるようにしています。
「和歌山経済新聞」は品川と違って、地方なのでプレスリリースはほぼ来ません。ですので、編集スタッフが自分たちで歩き回って探したり、知り合いが独立して新しいお店をオープンするとか、シャッター商店街を利用してみんなで綱引き大会を開催するとか、そういうローカルな記事を口コミで得たりして記事にしています。
──記事はどのくらいの頻度で更新していますか?
宮脇:どちらも月曜から金曜まで、平日は毎日1本ずつ記事を上げています。新聞としては、それほど頻度は高くないんですけれど。
──平日毎日となると、ネタ探しは大変そうですね。
宮脇:本当に大変です(笑)。「品川経済新聞」はノオトの若手編集スタッフがネタ探しから記事の執筆、更新まで行っていますが、「和歌山経済新聞」の場合は、和歌山にあるコワーキングスペースの会員さんたちが情報を集めてくれて、毎週1回みんなで持ち寄ったネタをホワイトボードに書きながら編集会議を開いています。みなさん本業は別にあって、ボランティアで記者として活動しています。まあ、私もボランティア編集長なんですけどね。もう3年近く継続しているので、創刊当初から書いている記者の実力はかなりついてきていますね。
記事はYahoo!ニュースにも掲載
──今、地方の自治体や企業でも、ネットで情報発信を積極的に行おうという気運が高まっています。そうした流れの中で「みんなの経済新聞ネットワーク」のようなエリア媒体はとても興味深い存在だと思います。実際に「品川経済新聞」や「和歌山経済新聞」は、どういう人たちにどのくらい読まれているのでしょうか?
宮脇:実は我々もよくわかっていないんですよね(笑)。そう言うと、「じゃあ、なんでやってるんですか?」とよく聞かれるんですけれど……。
──なぜ、やっているのでしょうか?(笑)
宮脇:「品川経済新聞」は、私が東京で会社を興して、今年でちょうど12年になりますが、たまたま品川エリアにいいオフィスを見つけて品川が拠点になったから始めたんです。
和歌山は私の出身地で、妻子が和歌山に住むことになってしばらく東京との2拠点生活を送っていたとき、ちょうど地元のコワーキングスペースに集まっている人たちと親しくなったので立ち上げました。3年前ぐらいです。
当時、和歌山ではネットでの情報発信メディアがほとんどなかったんですよ。せっかくいろいろなコンテンツがあるのにもったいないと思いまして。そういう話をしたら、情報発信で地元を盛り上げたいと言う人たちが他にもたくさんいて、協力者が集まってくれた。
「みんなの経済新聞ネットワーク」はYahoo!ニュース提供社のひとつなので、記事を上げるとYahoo!ニュースに配信されるようになっています。地元の人たちにとってYahoo!ニュースに記事が出るのはNHKに取り上げられたぐらいのインパクトがあって、みんなものすごく喜んでくれるんですよ。だから完全に地元への善意だけでやっているメディアです。
「ヤフトピを取れるか?」は企画アイデア次第有限会社ノオト 代表取締役 宮脇 淳氏
──「品川経済新聞」や「和歌山経済新聞」で取り上げるニュースの選定基準について教えてください。
宮脇:絵作りができるかを、まず基本的には判断します。
例えばプレスリリースは他の媒体も見ているので、同じ内容をそのまま記事に書き起こして出すことに価値を見出しにくい。ですからプレスリリースの情報をベースに、うちはこういう切り口で取材できるかな、という何かしらのひねりや付け足しが思い浮かべば記事にしやすいですね。ニュースに“花を添える”と言いますか。本来、それは編集者が考えるべきことではありますが、そういったプラスアルファの報道がしやすいリリースの中身になっているといいのかなと思います。デキるPRの人は、そういう仕込みが上手ですよね。
──やはり絵作りは重要なんですね。
宮脇:エリア媒体でも他のメディアでも、ニュースを探すときはヤフトピを取れるくらいのインパクトがあるかどうかを常に意識していますから。
──ヤフトピに載るくらい大きなニュースですか?
宮脇:大きいというより、アイデアです。記事にしたときに目を引く絵が作れるかというのと、もう一つはタイトルで文字のインパクトが出せるかどうか。
例えば、和歌山県に三段壁(さんだんべき)という波に侵食された断崖絶壁があって、地元では有名な自殺の名所でもあるんですが、今年の10月にそこで高飛び込みの世界大会が開催されるんです(笑)。そういうイベント告知がプレスリリースで送られてくると、絵も浮かぶし、インパクトありますよね。自殺の名所で飛び込み大会をして安全なの? みたいな疑問はみんな当然気になるから取材要素になる。いかにも「火曜サスペンス」のクライマックスシーンに出てきそうな崖から参加者が飛び込む瞬間をカメラで押さえたら、Yahoo!の写真ニュースに来そうだな、とか。
そんなふうに絵柄と取材内容がパッと浮かぶ企画モノの情報が入ってくると、メディアは食いつきやすいんです。もちろん、あまりヤラセの臭いがするとダメですけれど、“ニュースを作る”という概念はもっとあっていいと思います。
「誰もやっていない」「珍しい」要素をプラスする
──自殺の名所というネガティブ要素を、楽しいイベントで逆手に取る発想が面白いですね。
宮脇:ネガティブな要素をポジティブに塗り替えてしまうPR発想は、最近手法として多いじゃないですか。
たとえば、青森県が平均寿命の短さを掲げて「短命県体験ツアー」を企画したり。そういうのはネタになりやすい。
中には、そういうふざけたPRを嫌がる担当者も当然います。ですが、誰にも見られないよりは100倍マシだと私は思っているので。自虐の入ったPRは匙加減とセンスの問題だと思います。
──自虐でなくても、何かしらユニークな要素を盛り込めれば面白くできそうですよね。
宮脇:まだ誰もやっていないとか、こういうのは珍しいんじゃないかという要素を積極的に取り入れて、それをニュース化するとメディアは取り上げやすいと思います。
地元向けの記事が全国に広まることも
──そうした記事作りをする中で、エリア媒体の小さな記事が全国に広まった事例はありますか?
宮脇:エリア媒体は基本的に地元の人に響く記事作りを心掛けていますが、それが結果的に全国にも広まることはあります。最近もありました。
和歌山県には日本で初めて抹茶のアイスクリームを作ったと言われている玉林園という会社があって、そこが抹茶を使ったコンビニスイーツを共同開発したんです。県内で大人気なので取材したところ、通常のスイーツの10倍の個数が毎日完売になり、あまりの人気で店長はまだ味見すらできていないという話が聞けまして。「和歌山・玉林園の「グリーンソフト」がコンビニスイーツに 店長はまだ食べられず」というタイトルで記事を出しました。出したときは地元の人にしかウケないと思っていたんですよ。東京の人が見ても、おそらく何のことかわからないだろうと。それがたまたま全国の人が読んでも面白いと思ってもらえたようで。そういうケースもありますね。
記事へのエンゲージメントを上げる工夫
──基本的には地元の人に響く記事を書いているわけですね。
宮脇:「品川経済新聞」は東京のメディアということもあって、多少ネットを意識した記事作りをしてはいます。
例えば、有限会社ノオトが2016年7月に「コワーキングスナック」をオープンしまして、そのボトルキープチケットをイベントチケットの販売サイト「Peatix」で売ってみたんです。手数料もかかるのになぜわざわざPeatixを使ったかというと、たぶん誰もやったことがないと思ったから。
そうやって人々が「えっ!?」と思うようなフックになる要素を加えると、「コワーキング“スナック”ってなんだよ」とか「わざわざPeatixで売るのかよw」といったツッコミが入ったりする。都心部の人たちはこういうちょっとしたところをよく見ています。ただ、和歌山で「Peatix」と言っても、なかなか地元のみなさんには伝わりづらいと思います(笑)。
有限会社ノオトが2016年7月にオープンした「コワーキングスナック」
──企画を工夫することで、記事に対するエンゲージメントが得られるわけですね。そのようにニュースを面白く書くコツはありますか?
宮脇:これを言うと身も蓋もないんですけれども、結局、面白くないことはどんなリリースを打ったって面白くないんですよ。本当にもう、残念ながら。だったら、もともと面白くないことをどうやって面白くするのかということを考えるのが、編集者やPR担当の仕事だと思うんです。
──書き方の問題というより、元のファクトを工夫するということですね。
宮脇:もう数年前の話ですが、iPadが日本に初上陸したとき、一足先に輸入品を仕入れて十数万円で先行販売しようとした中古PCショップがあったんです。日本発売の1カ月ぐらい前に。当時iPadは大注目されていたので、店の経営者は「iPad先行販売!」と宣伝するだけで売れるだろうと思ったら、2週間過ぎてもまったく売れない。
そこで、仕入れたiPadを1台開封して、「iPadおさわりできます。3分間100円」というふうに店頭に飾ってニュース記事にしたら、途端に客が大勢訪れて2日間ほどで仕入れた十数台が完売した事例がありました。少し待てば数万円で買えるiPadが十数万円で売れちゃったわけです。
さらに、iPad上陸前夜だったこともあって、この店にラジオやテレビ番組の取材が殺到しました。お店にとってはいいPRですよね。 このケースでは「おさわり」というキーワードと、「金取るのかよ!」というツッコミどころにネット民が反応したわけですが、ニュースの元となるファクトを工夫するというのはこういうことだと思います。
(元記事:「武蔵小山の中古PC店、iPadを輸入販売-3分100円でおさわりも」)
楽しい気持ちを共有して生活者とつながる
──企業や自治体の中にいると、PR施策でツッコミどころを作るのが難しい空気もありそうです。
宮脇:そうなんですよね、たぶん。でも企業の中にいる真面目そうだったり偉そうだったりする部長でも、お酒を飲みに行くとけっこうふざけて冗談言ったりするじゃないですか。本当はみんな楽しいことが好きで、面白い情報を見つけたら笑って手を叩いて喜ぶんですよ。そういう出来事を世の中に広めていけばいい。
真面目ぶって外面を良く見せようとして、楽しい気持ちに蓋をしてしまったら、生活者の気持ちとつながることはできません。世の中には、もうちょっとひねれば面白くなるニュースってたくさんあると思いますよ。
──ニュースを楽しい情報や出来事にして発信する、と。
宮脇:今のパブリックリレーションズの大部分はメディアリレーションズで、いかにメディアに取り上げられるかを課題にするPR担当の方が多いですよね。けれど、メディアを通さずに企業の誠実さや真面目さを生活者に直接伝えられるTwitterやFacebookのようなツールが充実しているので、メディアにこだわる必要はないと思うんですよね。ということをメディア側の人間が言うのもどうかと思いますが(笑)
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