「Webメディアにニュースとして取り上げてもらうには?」というPR担当者の声に応え、さまざまなWebメディアの中の人たちに取材して効果的なメディアリレーションのあり方を探るメディアインタビュー。
2回目は、朝日新聞出版が運営するニュースサイト「dot.」のプロデューサー・北元 均氏と、記者&編集者の金子 哲士氏にお話を伺いました。
お話を伺った方
ニュースサイト「dot.」
プロデューサー 北元 均氏
記者&編集者 金子 哲士氏
スタッフは週刊誌や雑誌で活躍するベテラン揃い
──dot.でオリジナル記事を制作している編集者や記者の方は、何人ぐらいいらっしゃいますか?
北元(以下、敬称略):社内の編集者と外部スタッフの編集・ライターさん合わせて、だいたい10人ぐらいですね。人数は流動的ではありますが。
金子:ライターさんは私が『週刊朝日』編集部にいたときにお付き合いがあった方々や、専門分野の記事は、例えばサッカーならサッカージャーナリストの編集長レベルの方に書いていただいています。予算的に大人数を抱えられず、人員は少ないですが、いずれも実力のあるベテランの方々ばかりです。
──ベテランの方々も、プレスリリースから記事のネタを拾うことはあるのでしょうか?
金子:企画記事をつくるときの参考にはすごくしています。リリースの情報をそのまま記事にするのではなく、あるテーマで3本ぐらいのリリースに横串を通して記事化したり。
例えば季節のテーマで「お花見」の記事を書くときに、花見で使える新商品をいくつか集めて紹介するような形です。Webの記事は紙媒体と違って文章が長いと読んでもらいにくい傾向がありますが、グッズなどを3つぐらいポンポンポンと配置するとテンポがよくなって読みやすくなるので、そういった記事の作り方はわりと多いですね。
北元:製品発表会や記者会見などのリリースは、内容を見て取材モノとして成立すると思ったら、まずは記者に行ってもらいます。
ニュースサイト「dot.」 プロデューサー 北元 均氏
──dot.の編集部には毎日どのようにプレスリリースが届いていますか?
北元:ニューズ・ツー・ユーさんのようなリリース配信サービスから編集部のメールアドレスに送られてくるものと、編集部のFAXに流れてくるもの、郵送で届くもの。ほかに、名刺交換させていただいた方が直接個人宛に送ってくださることもあります。
金子:一度お会いした方だと、顔が浮かぶので目にとまりやすいですね。お電話いただいて、ご挨拶で一回お会いしてからメールで送っていただくこともけっこうあります。
──郵送のプレスリリースもまだありますか?
北元:今も必ず郵送で送ってこられる会社が2、3社あります。映画の試写状やイベント招待なども郵送が多い。でも、ほとんどはリリース配信サービス経由のメールで、1日に100通、200通という量ですね。
金子:そういう状況なので埋もれて見逃しているリリースも多いんですよねぇ。
タイトルは包装紙のようなもの。人目を引く工夫を
──その中でも思わず開いてしまうリリースは何が違うのでしょうか?
金子:タイトルが面白いかですね。リリースも記事と同じで見出しは大事ですよね、包装紙みたいなものですから。PR会社の方からよく同じ質問をされますが、全体的にタイトルが長すぎて何が言いたいのか一目で掴みにくいものが多いので、タイトルをもっと工夫されると良いのではと、いつもお話させていただいています。
──タイトルをつけるときのコツを教えていただけますか?
北元:記事につける見出しは、だいたい三十数文字ぐらいまでが一般的。リリースのタイトルも、Webやメールで見られることを考えれば同じくらいがいいと思います。メールはメーラーで見るので、デバイスや画面設定によって件名に表示される文字数は違いますが、それでもやはり三十数文字以上は読んでもらえないのではないでしょうか。
金子:タイトルは「短く、わかりやすく」が基本ですが、記事の場合は「全部言い切らない」という方法がよく使われます。見出しで全部言い切ってしまうと記事を見ずに満足されてしまうので、「何だろう?」と思って中身を確認したくなるタイトルを心掛ける。そういうのはニュースリリースにも応用できるのではないかと思います。
ただし、顔見知りの担当者から届いたリリースのタイトルが思わせぶりだったら、ちょっとイヤかもしれません(笑)。その場合はストレートにわかりやすい件名で送ってもらったほうがいい。ですので、そこは書き分けが必要かもしれませんね。
社会性と結びついたリリースに注目
ニュースサイト「dot.」 記者&編集者 金子 哲士氏
──記事として取り上げやすいのはどのようなリリースでしょうか?
金子:季節や時流を捉えたものですね。上手な人は、そのとき最もタイムリーなキーワードと絡めてリリースを送ってきます。最近の話題で言うと「保活」とか。タイトルにそういう文字が入っていると中身が気になりますし、先ほどお話した企画記事の参考になるかもしれないので目を通す可能性が高い。
北元:客観的な調査データが織り込まれたリリースも取り上げやすいですね。ただし、最初から結論ありきで取ったアンケートではなく、社会性と客観性があるデータに限ります。露骨に宣伝っぽいと、僕らの立場では取り上げにくいんですよ。
金子:2月に掲載して反響が大きかったマスクの意外な着用理由の記事は、リリースが元で生まれたものですよね。
“伊達マスク”着用理由1位は「顔が隠せる」ではない! 意外な1位とは? 〈dot.〉|dot.ドットじわじわと増え続けている”伊達マスク”愛好者。そもそも伊達マスクとは、本来の衛生上の理由とは異なる目的で常にマスクを着用することを指す。いわゆる伊達メガネと同じカテゴリーとしての伊達マスクだが、伊達…
北元:あれは季節性があり結果が意外だったことと、客観性のあるデータだったので、記事に使ってもいいだろうと判断して書き起こしてもらいました。
ほかにも定期的に調査を行っている企業があれば、記事のネタ探しで見に行くライターさんは多いですよ。ミキハウスさんやベネッセさんが子どもに関するアンケートを定期的に行っていますし、最近は旅行予約サイトが旅に関するアンケートをよく行っていて、「○○に行ったら何を食べたいですか?」みたいな話題は記事に使いやすいですね。
──季節や時流と結びついていたり、社会性のある調査データなど、自社の宣伝にとどまらず公共性が感じられることが重要なんですね。
金子:今はよほどニュース性が高い話題でないと、一社だけではなかなか記事にしにくいんですよ。
北元:ステマ問題があるので、リリースを見て記事にしたいと思っても、単独で取り上げると広告と間違えられるかもしれないということを最近は意識するようになりましたね。ニュース性が高ければ一社だけでも取り上げますが、コモディティ化した分野などは単体で記事に取り上げにくくなっています。
金子:こちらで面白いと思って取材して書いた通常の記事でも、コメントにステマと書かれたりするんですよ。ステマじゃないのに。
北元:お金いただけるなら欲しいですよ(笑)。でも本当に最近そういうケースが増えて、読者の方々が広告記事かどうかをとても気にして見ているのがわかります。
“現場の声”を拾って取材のきっかけづくりに
──ところでdot.では、どのような視点で記事の企画を考えていらっしゃるのでしょうか?
北元:分野を絞らずに幅広い人たちが興味を持ちそうな話題を取り上げています。新製品や新オープンなどのインフォメーション記事ではなく、そこに専門家の分析が加わったり、開発の裏話やストーリーを伝えて読み応えのある記事を多く出すようにしています。
金子:開発に成功するまでにどういう紆余曲折があったかといった現場の話はおもしろいですよね。そういう秘話をいろいろ仕込んで、リリースにひと言添えるといいのではないでしょうか。詳しく説明しなくても、一文程度でいいので。
北元:我々は広く一般の方が読まれるメディアですので、専門誌や業界誌が取り上げるようなレベルの難しい話ではなく、開発秘話といっても一般の人が興味を持って理解できる話題ですね。
速報メディア、深掘りメディア、専門(業界)メディアに分けてリレーションを
金子:ですから、メディアのカテゴリーごとにリリースを書き分けたほうが本当はいいんでしょうね。とても手間がかかると思いますが、実際にやっているPRの方はいらっしゃいますから。
北元:例えば、リリースに書かれた内容をそのままインフォメーション的に報じる速報主体のWebメディアには、見てすぐ記事が書けるようなリリースを送るといいのだと思います。
我々のように企画や取材で深掘りして伝えるメディアには、裏話や取材できる人物に関する情報をひと言添える。業界向けの専門メディアには、より専門的な情報を書くというふうに、上手く書き分けられるなら2段階、3段階に分けて考えるといいのかもしれません。
──なるほど。ほかにも記事にしやすいリリースの書き方のアドバイスがあれば教えてください。
金子:リリースに盛り込む情報は絞ったほうがいいと思います。上手な方は、メディアが取り上げやすいポイントの目星をつけて、そこをギュッとわかりやすく書いています。情報を盛り込みすぎるとピントがぼやけて結局何が言いたいかわからなくなり、どこにも刺さらなくなってしまう。
北元:反対に書くことが見つからず、知らせたいことはタイトルですべて言い切っていて、前文も本文もタイトルの内容を膨らませて同じ話をくり返しているリリースも少なくないですよね。何を書いていいかわからないのだと思いますが。
金子:そういう場合は、市場の話題や業界事情を書くといいかもしれません。新商品の市場規模が今このくらいで、どのように拡大していて……という俯瞰的な情報ですね。ある商品やサービスを紹介するときに、メディアは競合や市場の動向、海外事情の話題をよく記事に入れ込みますし、そういった情報がリリースにあれば取材の参考にもなります。
北元:ベンチャー企業や中小企業で、大手企業のように年に何本もニュースになるような話題がない場合は、経営者の人柄がおもしろくて記事になる場合がありますので、その方面をアピールしてもいいかもしれませんね。今なら大手の電機メーカーからスピンアウトして会社を興された方の話などは記事になりやすいと思います。
北元様、金子様、ありがとうございました!
まとめ
今回の取材で伺った、記事に取り上げられやすいリリースの書き方のポイントを以下にまとめます。
1. タイトルで読んでもらえるのは三十数文字ぐらいまで。短く、わかりやすく。
2. 一斉送信リリースのタイトルは、「何だろう?」と思わせる書き方も有効
3. 季節や時流のキーワードと掛け合わせて話題性をつくる
4. 調査リリースは社会性、客観性のあるデータを提供
5. 開発秘話や開発者情報をひと言添える
6. リリースの訴求ポイントを絞り、情報を盛り込みすぎない
7. 市場や業界動向、海外事情も織り交ぜるとニュース性が高まりやすい
8. ベンチャーや中小企業は経営者の人柄がニュースになることも
9. メディアの特性に合わせてリリースを2、3パターン書き分ける
市場調査は、潜在顧客の発見とメディアへの話題提供に活用できて一石二鳥。Webサービスやアプリを提供している会社は、自社データの知見をリリースで告知して社会に役立てることが有効なメディアリレーションにつながります。
以上、みなさまのWebメディアリレーション活動にぜひお役立てください。