キーワードは「心地よい距離感と関係性」サッポロビールが挑戦するコミュニケーション強化法とは
消費者向けメーカーが消費者と直接つながることは少なく、マス広告で広く認知を取り、小売店を介して購入を促す手法が一般的だ。そんな中、「顧客とのエンゲージメント強化」に方針転換し、CDP(Customer Data Platform:カスタマーデータプラットフォーム)を活用した顧客データの取得・統合・活用へと舵を切ったのがサッポロビールだ。
「Web担当者Forum ミーティング 2024 秋」に、同社の小林夏実氏、同社のCDP導入・構築を支援してきたUNCOVER TRUTHの小川卓氏と小畑陽一氏が登壇。小畑氏がモデレーターとなり、CDPを活用して顧客とのエンゲージメントを強化した背景や取り組み内容を、ディスカッション形式で解説した。
![(左)株式会社UNCOVER TRUTH CAO 小川卓氏、(中央)株式会社UNCOVER TRUTH 取締役COO 小畑陽一氏、(右)サッポロビール株式会社 マーケティング本部ビール&RTD事業部メディア統括グループ リーダー 小林夏実氏](https://webtan.impress.co.jp/sites/default/files/images/blank.gif)
CDPを導入した目的と4つの課題
「サッポロ生ビール黒ラベル」や「YEBISU」などのビールをはじめ、さまざまなアルコール飲料を製造・販売する大手酒造メーカーのサッポロビール。同社のマーケティングを担当する小林氏は、顧客とのコミュニケーションについて4つの課題を持っていたと語る。
BtoBtoC企業なので顧客の顔が見えにくい
顧客が何を感じ、何を価値だと思っているのかを把握したいパワーゲーム以外の独自のコミュニケーション方法を確立したい
ビール業界はマスメディアに大量出稿し、大量生産・大量消費で売り上げ・利益を生むビジネスモデル。そのパワーゲームに頼り続けず、顧客とのコミュニケーションを確立したいリサーチデータと実際の行動のズレを補完したい
アンケートやインタビューなどの調査を行っても、回答と実際の行動にはギャップがある。実行動のデータを取得し、リサーチとのズレを補完したいコミュニケーションの効果を可視化したい
導入当時の会員組織におけるポイントプログラム(現在は廃止)は、マーケティングやブランディングにどう貢献しているのかを可視化することが難しかった。コミュニケーションによる貢献度を可視化したい
メーカーと流通で比べると、メーカーは市場の解像度が高く、小売りや飲食店などの流通は顧客の解像度が高いことが知られている。顧客を直接知る機会が少ないBtoBtoCメーカーゆえの悩みともいえるだろう。サッポロビールは顧客理解を深め、これらの課題を解決するためには顧客データを収集・統合するCDP(Customer Data Platform:カスタマーデータプラットフォーム)が必要になると考え、2018年に導入した。
![サッポロビールはUNCOVER TRUTHの支援を受け、2018年にTreasure Data CDPを、2023年にBigQuery(ビッグクエリ)を導入した](https://webtan.impress.co.jp/sites/default/files/images/blank.gif)
「顧客は自分を知ってもらっていることがわかる」という顧客視点を重視
顧客データを蓄積し分析することで顧客理解を深める。これはCDPでデータ活用に取り組むすべての企業が考え、実践していることだろう。顧客をどれくらい理解しているかを示す指標である「顧客解像度」を上げることで、商品ラインナップやプロモーションを増やし、顧客の満足度を高め、売り上げも向上する好サイクルが生み出せる。
しかし、顧客解像度ばかり突き詰めると利益を上げることや、企業が考える理想型に顧客を寄せていくことに偏りがちになる。そのためサッポロビールでは、顧客を知ることだけではなく、顧客がどう感じているかを大切にし、「顧客は自分を知ってもらっていることがわかる」という“顧客視点”の価値観を、CDP導入当初から重要だと考えた。
お客様自身が価値を享受し、それがいいことだと認識していただくことで、お客様と弊社が心地よい関係を築けるところまで持っていきたいと考え、CDPの運用を開始しました(小林氏)
![サッポロビールの小林氏](https://webtan.impress.co.jp/sites/default/files/images/blank.gif)
ジャーニーから顧客にとって心地よい距離感を見つけ、PDCAを回す
こうしてCDPを導入し運用を始めると、カスタマージャーニーマップの仮説と現実にギャップがあることに気づいた。
「さまざまなタッチポイントを整備していくと、タッチポイントごとに企業側の思い入れや役割があるため、お客様にはすべての接点を踏んで欲しい」という願望を抱きがちだ。しかし、それは企業側が考えた理想であって、顧客は思い通りすべての接点に触れてくれるわけではない。
CDPを導入することで、あるキャンペーンに参加した顧客がWebサイトを訪問したのか、同様の別のキャンペーンに参加したのかなど、次にどのような行動をしたのかがジャーニーとして見えるようになる。それは描いた理想のジャーニーより行動量は少ないかもしれないが、それぞれの顧客が自分に合った楽しみ方を試みた結果であり、顧客の心はポジティブに動いている場合もあるだろう。こうした行動を可視化することで、顧客ごとの心地よいコミュニケーションが見えてくるわけだ。
サッポロビールでは、ブランドサイトやファンコミュニティ、キャンペーン、SNSなど多数のメディアを展開しているが、すべてをオウンドメディアと捉えている。そしてデータによってそれぞれの接点で「顧客の心が動く心地よい距離感」を見つけ、それを次の種にしてPDCAを回していくことを重要視している。
ファーストパーティデータを基本とし、補完的にサードパーティデータを使う
ではCDPの運用でどのようなデータを使うのか。その詳細は明かせないとしつつ、ファーストパーティデータとサードパーティデータという対比では、ファーストパーティデータを重視し、基礎として分析していると小林氏は語る。
ファーストパーティデータを分析した結果から得られたコミュニケーション方法が成り立った上に、どのようなサードパーティデータを載せればいいか議論するということだ。
UNCOVER TRUTHの小川氏は、サードパーティデータを活用すべき場面は、大きく2つあると語る。
接点を持っていないユーザーにアプローチしたいとき
自社の顧客はこういう行動をしているけれど、顧客ではないユーザーに対してどうコミュニケーションを取るべきか、どのような接点があるかを見るファーストパーティデータだけでは施策を出せないとき
そのデータがないと市場規模のあたりがつけられないとか、どのような先行事例があるかを知りたいといった場合に、ピンポイントでデータを取る
サードパーティデータは次のシナリオにつながるような、補完するデータとして使う方がいいでしょう(小川氏)
![UNCOVER TRUTHの小川氏](https://webtan.impress.co.jp/sites/default/files/images/blank.gif)
適切なメルマガの配信頻度とは
メルマガは顧客とのコミュニケーションに欠かせない手法のひとつだが、UNCOVER TRUTHの小畑氏から「メルマガの適切な配信頻度」と顧客との距離感との関係性について質問がなされた。
![UNCOVER TRUTHの小畑氏](https://webtan.impress.co.jp/sites/default/files/images/blank.gif)
小林氏は「配信数自体にはあまり意味がないと思います」と語る。3回が適切という人もいれば、5回まで大丈夫という人もいる。あるいは、キャンペーンの告知メールばかり5回も届くのは嫌だが、読み物コンテンツなら嬉しいという人もいるだろう。顧客をタイプや到達ステージで分類し、それぞれに合ったコミュニケーションを取るという考え方が重要だ。
メール開封率を上げるテクニックは、あるにはある。しかし、メールを読んで何かのアクションをしてもらわなければ、コンテンツとして成果があったとはいえない。開封率だけ上げても、ビジネス成果につながらなければ意味がないからだ。
1つの指標だけで判断するのではなく、お客様は何を思って5回の配信をいい、または悪いと判断したのか、というところまで目を向ければ、顧客をタイプや到達ステージで分類し、それぞれに合ったコミュニケーションを取れると思います(小林氏)
顧客が離脱する兆候をとらえ、早期に改善する
小川氏は、距離感を計る先行指標として、顧客の気持ちが離れつつあるという兆候を捉えることも重要だと指摘する。
メールを開封しない、イベントの参加人数が減るなど、接点が減っていくのは、コミュニケーションの内容か量のどちらかに問題があるためだ。数値が下がり始めたタイミングで、その原因を見つけることが重要だ。なぜなら、問題点を改善しなければ離れてしまった顧客を呼び戻すのは非常に難しいからだ。
CDPを構築しておけば、離脱した人の過去のデータが手元にある。離脱が増え始めたタイミングで直近の行動データを分析すれば、何が原因かは如実に表れる。完全に離脱してしまう前にやり方を変えてリテンションできるかもしれないし、仮にできなかったとしても新たな気づきが得られる。
「顧客が離脱する兆候」を行動データからひもといてコミュニケーションを改善するのが正しい順序です(小川氏)
適切な距離感を保ちつつプラスαの価値提供を目指す
サッポロビールが目指すコミュニケーションは、CDP活用を始めた2018年と変わらず、“顧客は自分を知ってもらっていることがわかる”ことを理解してもらい、心地よい関係性を築くことだ。
そのため、適切な距離感を保とうとすると、「顧客が嫌がることはしない」という消極的な姿勢になりがちだ。CDPを立ち上げた当初は「お客様の負担にならないように」という考え方が強かったが、現在はそこから一歩進み、プラスαの価値提供が必要との考え方に変化しているという。
もちろんお客様の負担になることはやりませんが、それ以上に「自分にちょっとよいことをもたらしてくれる企業だな」と感じてもらえることを目指しています(小林氏)
また、サッポロビールは「一方通行にならないお客様とのコミュニケーション」を目指し、それを体現する「SAPPORO STAR COMPANY」というファンコミュニティを運用している。同社の社員が多数参加するのが特徴とのことで、小林氏は「ぜひ覗いていただき、私たちのコミュニケーションを体感してみてください」と呼びかけ、セッションを締めくくった。
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