原材料の価格高騰などを受け、2023年は値上げが進んだ1年でしたが、その流れに歯止めをかけようとする意見が増えています。メーカーから商品を仕入れる小売事業者は、2023年に販売価格のインフレ(値上げ)が急速に進んだため、一度は商品価格の値上げを実施したものの、二度目の大幅な値上げには踏み切れない事業者が少なくありませんでした。今、小売事業者には消費者の傾向を踏まえたマーケティングの変革が求められています。
2024年は値上げには歯止め、「収益性確保のために販売価格を重要視する時代は終わった」
米国の大手コンサルティング企業Deloitte Touche Tohmatsu(デロイト・トウシュ・トーマツ)が発表したメーカー調査の最新データによると、メーカーの半数は「事業成長の源泉として商品価格は期待できない」と考えています。調査対象企業のうち、2024年の主要な戦略の一環で「値上げを計画している」と答えたのは2%でした。
こうした結果についてデロイトは「収益性確保のために販売価格を重要視する時代は終わった」と考えています。その理由は次の3つです。
- 消費者の購買意欲と支払い能力が低下している
- 小売事業者にとって、これ以上の値上げは得策ではない
- 販売価格の上昇は、予期せぬ代替品との新たな市場競争を生み出した
必ずしも、値上げ=売上高アップになるわけではない
デロイトの調査は、米スタンダード・アンド・プアーズキャピタル社が提供する経済関連のデータベース「S&P Capital IQ」から抽出した売上高上位100社のうち、上場しているメーカーを分析。高級ブランド、タバコ、複数企業の経営統合など、商品から得られる利益が50%未満の企業は除外し、「売上高の成長」「資産の効率的な活用(総資産利益率で測定)」の両方を、5年間の複合統計指数を用いて評価しました。
また、食品・飲料、家庭用品、パーソナルケア、アパレル商品を扱うメーカーの経営層250人を対象にグローバル調査を実施しました。
さらなる値上げは消費者に受け入れられない
一部の消費者はすでに、値上げの影響で、購入する物をより厳選せざるを得なくなっています。
デロイトが調査したメーカー各社の経営層によると、2024年の消費者が抱える3つの課題のうち、2つは、“消費者が「持つ者」と「持たざる者」に分断されていること”“消費者が高い買い物をすることを望まなくなったこと”だと指摘しています。
デロイトの研究者は「消費者からのニーズを大幅に損なうことなく、販売する商品の値上げを続けられると考えている経営層はほとんどいない」と報告書で指摘しています。
値上げの影響を受けているのは消費者だけではありません。メーカーから商品を仕入れする小売事業者は、2023年にあまりにメーカーからの仕入れ価格が上昇したため、一度は値上げをしたものの、商品価格のさらなる大幅な値上げに踏み切ることはできませんでした。
消費者が値上げを受け入れるのは一度きりだった可能性があります。調査によると10人中4人の経営層が「2024年、小売事業者がさらなる値上げをすることを消費者は受け入れないだろう」という考えに同調しています。(デロイトの調査報告書より)
あまりに多くの商品の値上げが進んだため、デロイトは「消費者は自分たちのニーズを新たな方法で満たそうとするかもしれません」と推測。たとえばピザを購入しようとする際、地元の食料品店の売り場よりもレストランでのデリバリーの方が安い場合、レストランでの単品購入を選ぶ可能性があります。
マーケティングは収益性重視にシフト
デロイトが、経営者による2024年の成長戦略において、次の3つのうちどれを最も重視するか聞いたところ、次のような回答を得ました。
- より収益性の高い商品の取り扱いや、商品サイズの変更に踏み切る(62%)
- 販売量を増やす(36%)
- 販売価格を引き上げる(2%)
小売事業者は近年、値上げによる消費者の買い控え、広告・宣伝費のコスト縮小の影響で苦戦を強いられています。商品の供給料や生産数に制約がかけられたため、販促費を有効に活用できなかった企業もありました。
しかし、現在は、10人のうち6人(72%)の経営者が、「2024年の業績目標を達成するためには商品の販売数量を増やさなければならない」と回答しています。
調査では、10人中7人の経営幹部が最近、生産能力を大幅に向上させたと回答。生産能力を拡大した企業は、そのコストを吸収させるため、高い生産量を維持するために必要なシステムを整備する可能性が高いでしょう。(デロイトの調査報告書より)
デロイトは2024年、「企業がマーケティングにかける費用はまた増加に転じる」と予想しています。調査対象の経営者の3分の2以上(68%)が、「売上高に占める広告・マーケティング支出の割合を増やす」と回答。また、64%は「販促費を増やす」と答えているからです。
小売事業者は既存ブランドの育成に注力
調査に回答した経営層の3分の2(66%)は、自社のマーケティングにおいて、新商品のラインアップ拡充よりも既存の主力ブランドの訴求を重視する予定です。デロイトはこのことを「販売価格を維持するための施策」と考えています。
マーケティング費用を増加させたり、顧客をターゲティングしたプロモーションを増やす企業が多くなると予測
小売事業者が近年の販売量減少を受けてパニック状態になり、過剰なプロモーションを行う可能性があると考えるアナリストもいますが、デロイトはそうはならないと予想しています。先見の明がある企業は、プロモーションを計画的に行い、販売数の目標を巧みに達成するでしょう。(デロイトの調査報告書より)
デロイトは、多くのメーカーが収益成長管理(RGM)の必要性をより強く認識するようになったと説明。デロイトは、RGMには次の項目が含まれることを付け加えました。
- 同じ商品棚に並ぶ競合商品を考慮した価格設定
- 顧客のターゲット層を絞ったプロモーション戦略
- 潜在層の顧客のニーズ掘り起こし
- 販売価格と商品の大きさのバランスの調整
- 小売事業者の収益管理
- 該当カテゴリーに対しての消費者の認識
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オリジナル記事:2024年は物価上昇に歯止め? 値上げに頼らず収益力をアップさせる米国企業の戦略とは | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
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