組織における人材育成は全ての企業にとって重要なテーマであり課題でもある。 I-ne はダイレクトマーケターの育成を完全内製化し、日本一優秀なデジタルマーケターの育成をめざしている。執行役員の伊藤翔哉氏(ダイレクトマーケティング本部本部長)と、I-neのマーケティング人材育成をサポートするグロースXの津下本耕太郎社長が対談。I-neならではのマーケティングの強み、組織内の人材育成において企業が陥りやすい“落とし穴”などを語った。
I-neならではの「組織作り=全社一丸となったマーケティング」
――津下本氏から見たI-neのマーケティングの強みを教えてください。
津下本氏:I-neさんの事業展開は、オンラインを販路としたD2Cブランドから出発して、ドラッグストアチェーンなど小売店を通じた大規模な卸売……というようにマスに展開していくというものが多い。いわば、コンパクトな事業規模で迅速・柔軟にPDCAを回しながら、ブランドを大きく成長させることに長けた事業者です。「ボタニスト」など数々のブランドがマスで反響を得ていることから、それは明確であると言えます。
I-neさんは部分最適ではなく、それぞれの部門が横串でしっかりと統合している(連携している)企業体質があると思っています。たとえば、社内の意思疎通がしっかりできていて、調整しなくてはならないことも比較的少ないのではないでしょうか。
I-neさんの人材育成は、「一人前のビジネスマンをきちんと育成する」という意識がとても明確。マーケティングだけに長けたプロになるのではなく、マーケティングをベースとした、「会社の事業全体のビジネスのプロになる」というゴールを皆が描けている会社なのかなと、客観的な視点で感じています。
たとえば「顧客のライフタイムバリュー(LTV)を高める」という目標があるとします。部分最適の組織だと、純粋に売上アップをミッションとする部門、ブランディングを追求する部門で意見の食い違いや衝突が起きることがあります。そうすると、顧客に対するコミュニケーションの一貫性を失ってしまうことが発生します。これは、部門間で利害が対立する組織構造が原因のことが圧倒的に多い。しかし、I-neさんはこうした問題が少ないそうですね。
グロースX 代表取締役社長 津下本耕太郎氏
伊藤氏:はい、社内でそのような課題はほとんどありませんね。それは、創業時の経営方針に由来していますね。私を含めた初期の経営メンバー5人は、ブランディング、商品開発、セールスなどそれぞれの役割が明確であったため、事業成長のためのディスカッションを毎日行ってきました。
これにより、納得いくまで議論して、皆が腹落ちできる答えを探るというカルチャーが社内に醸成されたように感じています。会社の規模が大きくなっても、各チームに少なからずそうした意識が根付いているのでしょう。
津下本氏:I-neさんの社内ではリスペクトという言葉が多く聞かれるそうですね。
伊藤氏:はい。社内ですごく飛び交っています(笑)。お客さまに対してももちろんリスペクトの気持ちを持っていますし、一緒に働く仲間に対してもそう。他部署の仕事にリスペクトを持たないスタッフはいません。
津下本氏:部署横断かつ、風通しの良い組織作りを体現されていますね。
I-neは部分最適ではなく、全体最適を実現している
組織内の人材育成で企業が陥りやすい“落とし穴”とは
――人を育てるという観点で、企業が陥りやすい“落とし穴”とは何だと考えますか。
津下本氏:長期継続の育成に取り組むことができず、その場しのぎの単発の育成プログラムを組み、育成できた気になってしまうことだと考えます。その結果として、当初思い描いていた成果(人材育成)をあげることができない企業が多いように見えます。
伊藤氏:企業によっては、新入社員の研修のやり方を毎年変更したり、外部の講師を月に1度招いてマーケティングや経営ノウハウなどを講義してもらい、それで「育成したつもりになっている」ケースもありそうですよね。
I-ne 執行役員 ダイレクトマーケティング本部本部長 伊藤翔哉氏
津下本氏:それは実際に多いですね。時間的コスト、人的コストを適切に費やして、長期目線で育成しなければ、一人前の経営人材を育てることは難しいでしょう。
伊藤氏:同感です。I-neは完全に長期的なビジョンで人材を育成しています。新入社員や中途入社の社員だけではなく、組織の中堅以上のポジションにいる人材も、自らのスキルをアップデートしていくことは欠かせません。
津下本氏:そうですね。旧来型のキャリアの考え方は、たとえば40歳くらいで自分の職業的スキルが「仕上がる」感覚かもしれませんが、現在は40歳でスキルが仕上がることはありません。新しいテクノロジー、刻々と変化していく市況、顧客のニーズ――。こういったものを次々とキャッチアップして、本質たる幹を捉えながら枝葉も見ていくというのが、社会人の素養の1つとしてすごく大きいですね。
伊藤氏:学び続けるという基礎習慣はとても大切ですよね。市況やニーズに応じて事業の方向性をアジャストできなかったり、組織の体質を柔軟に変えていくことができなくなってしまったりした瞬間に、その企業は時代遅れのレガシーになってしまいます。
経営側は「育成したつもり」、人材側は「育成されたつもり」になってしまっている企業は少なくない
DX化の波が去ったら、組織が問われるのは「人」の能力
――人材育成といえば、「リスキリング(職業能力の再開発、再教育)」という言葉を耳にすることが多くなりました。
津下本氏:リスキリングは、近年急速に進んだDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応するために人材戦略としても注目されており、これはDXの次の段階の世相を反映しているとも言えます。どんなにDX化が進んでも、やはり“人の問題”が立ちはだかるということです。DX化は何もかも解決してくれる「魔法の杖」ではありません。
組織としてどのような体制を作って、「あなたのキャリアはこういうふうに考えていく必要があるよ」ということをきちんと教えて、育成される側にもそういう意識を根付かせる。人材育成においてはそれが大切なポイントだと思います。I-neさんはすでに実現していますが。
伊藤氏:スキルやキャリアが育つのは元来、楽しいし、うれしいことですよね。逆に言うと、その喜びを設計できないマネジメントには問題があるでしょうね。
津下本氏:往々にして、長期ビジョンを描いて組織作りをする企業は将来が明るいですし、そうでない企業は逆になってしまいます。組織に属する人を育てることは一番、レバレッジがかかること。会社全体の大きな成長、成果に貢献してくれる人材になってくれるかもしれません。一社でも多くの企業に、手を抜いたり、挫折せずに人材育成に取り組んでいただきたいです。
I-neの伊藤氏(右)とグロースXの津下本氏
めざすは売上高1000億円。成長の裏に人材育成あり
――I-neは2025年12月期を最終年度とした中期経営計画で、売上高550億円(2022年12月期は352億円)、営業利益率13%(同9.2%)をめざす方針を掲げています。
伊藤氏:ヘアケア系の商材を中心に、美容家電カテゴリーの商材、スキンケアブランドの拡充を推進し、増収増益を加速させていく予定です。また、この中期経営計画を終えて、2025年度以降を見通す長期ビジョンでは、2030年までに売上高1000億円、営業利益率15%を計画しています。
ブランドを育てるためには、人を育てることが欠かせません。人材育成プログラムの受講者には今後、新たなブランドの発案や運営などに携わってもらい、さらなる成長の加速を促したいと考えています。
I-neが描く、長期ビジョンの事業成長
◇◇◇
本連載の最終回となる第4回では、I-neの人材プログラムを受講する社員2名が登場。成長の手応えや今後の抱負などを語ってもらいます。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:売上1000億円めざすI-ne流“人材育成術”。優秀なダイレクトマーケターを育てるための組織作り&陥りやすい“落とし穴”とは | 「ボタニスト」のI-neが挑む、D2C人材育成戦略の全ぼう
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.