時代の変化に合わせて、音楽・映像のパッケージ販売に加え、IP(知的財産権)ビジネスにも注力しているキングレコード。ECサイトは公式オンラインショップ「KING e-SHOP」と、アニメや声優の商品をメインに扱う「キンクリ堂」の2サイトを運営している。
そんなキングレコードでは、昨今の消費行動の多様化により顧客体験の向上が課題となっていた。決済手段の多様化を通じて買い物体験の向上、業務効率化を実現したキングレコードの改善策を取材した。
オリジナル商品の展開でコアなファンが集まるECサイト
キングレコードが手がけるECビジネスの特徴は、自社が保有するアーティストやアニメといった各作品のIPに、コアなファンが付いていることだ。
アーティストやアニメのオリジナル商品、特典といったマーチャンダイジング(MD)をECサイトで展開。他社では取り扱っていない、つまり“キングレコードのECサイトでしか売っていない”商品をそろえることで、ECサイトにはその商品購入を目的としたファンが集まっている。
たとえば、キングレコードで取り扱っているアーティストのCD。「KING e-SHOP」オリジナル仕様の写真集やTシャツなどのグッズをバンドル販売するなど、レコード会社独自のECを展開するようにしている。 (開発営業部 ダイレクトマーケティンググループ 永田陽子氏)
「KING e-SHOP」限定で扱う商品の例。さまざまな商品で「ストア限定」「オリジナル特典付き」などを用意している
ただ、レコード会社による自社サイトゆえの悩みもある。レコード会社の場合、他のレコード会社の商品は基本的に取り扱わない。さらに、CDなどは「再販売価格維持制度」に該当し、商流との関係もあり値引き販売が難しい。
レコード会社の自社ECサイトは、保有するIPに関する商品しか基本、扱っていない。そのため、大手ECモールや小売店のECサイトのように、いろいろなアーティストやキャラクターの商材のまとめ買いニーズには対応できない。
こうしたデメリットがある一方で、自社ECサイトの強みを打ち出す必要がある。それがレコード会社のIPを活用したオリジナル商品、特典の提供などでファンのEC利用につなげている。(永田氏)
直販は利益率の向上、コアユーザーの囲い込みなどを狙い、キングレコードが全社としてECに注力する方針を打ち出したのは2019年頃。商売において「コアファン=リピート購入」と一般的に考えられるが、レコード会社の直販は若干異なるようだ。
ファンはECサイトではなく、アーティスト作品ごとに付いていることが多いため、商品力が次回購入にも大きく影響するという。
当社のECサイトを利用するお客さまは、何かしらの直販ならではのメリットを求めている。その期待を裏切らない商品や特典を用意することにより、“ここでしか買えない”といった要素を提供すれば購入していただける。
いわゆる一般的なECサイトが行っているリピート施策や販促はあまり行っていない。基本的なリピート要素は商品力。商品に魅力があればコアユーザーは支持してくださるので、商品企画に最も注力している。(永田氏)
「代引き決済」の受取拒否、返品率の高さや対応業務などのコストが課題に
顧客の期待を裏切らない商品力で顧客の支持を集めるものの、消費行動の多様化などで課題も出てきた。その1つが決済面で、「代引き決済」がネックにあがった。
キングレコードを利用する消費者の中には、クレジットカードを持たない消費者も多い一方で、ECではクレカ以外の選択肢は少なく、またクレカ同等の利便性を持つ決済も少なかった。「代引き決済」を選んだ場合、商品受け取り時に家に居合わせ、現金を用意しておかなければならない。それに煩わしさを感じる消費者も少なくなかったという。
顧客体験という側面に加え、運営側のコストも課題だった。「代引き決済」では一定程度、受け取り拒否が発生。それによる返品率の高さ、返品対応、機会損失などさまざまなコストが問題となっていたので、その解消が必要不可欠であった。
「代引き決済」から銀行振込などの「前払い」への移行による課題解消という選択肢もあるが、入金待ちと未入金キャンセルによる販売機会の損失といったリスクに加え、入金確認などの手間が増えてしまう。
消費者の購買体験を良化し、事業者側で抱えるリスクや手間などのコストが増え過ぎない――。「代引き決済」に変わる新たな決済手段としてたどり着いたのが、ネットプロテクションズが提供する後払い決済サービス「atone(アトネ)」の導入だった。
ユーザー体験が良くコストが低い「atone」導入、「代引き決済」停止で課題解決へ
「atone」は、後払い決済サービスのひとつ。消費者は会員登録をすればすぐに利用できる。利用代金はまとめて翌月払いでき、利用代金200円ごとに1NPポイント(「atone」と「NP後払い」の共通ポイントサービス)を受け取れる。
利用の際にクレジットカードや銀行口座の登録、事前チャージは不要で、事業者(EC・実店舗)側の手数料は、決済額の1.9%+30円~導入できる。
携帯電話番号とパスワードのみで利用できる簡便さが特徴の1つ
後払い決済のなかでも「atone」が特徴的な点は、そのUX設計だ。決済に必要なのは電話番号とパスワードのみで、スマホファーストを意識。1か月分の利用代金は翌月にまとめて支払え、利用のたびにポイントも付与される――。
「atone」と他の決済方法の比較
繰り返し使う上で簡単、便利でお得に利用できるため、消費者の利便性の向上に直結するサービスなのだ。結果的に、若年層から中年層を中心に利用客が多い。
ネットプロテクションズの会員数の推移と年齢分布
クレジットカードを持たない消費者でも簡単に利用でき、宅配配送員との金銭のやり取りがなくなる。キングレコードにとっても「代引き決済」で発生する手間や販売機会のロスを解消できるといったメリットがあった。
こうした説明をネットプロテクションズから聞いたのは2020年のこと。「通常であれば他社サービスも含めていろいろなお話を伺うが、『atone』の説明で納得。導入を即決した」(永田氏)
「atone」を「キンクリ堂」と「KING e-SHOP」に導入したのは2020年9月。「atone」は大きな開発は必要とせず、数行のJavaScriptコードの埋め込みと数本のAPI開発のみでスタートすることが可能。
キングレコードのECシステムと「atone」を連携するための開発・改修には全面的にネットプロテクションズのスタッフが協力。各種ベンダーとの交渉などはネットプロテクションズのスタッフが関わり、実装のフォローも充実していたという。「想定よりもスムーズに改修、実装を完了できた」(永田氏)
若年層購入者の10%が「atone」を利用
「atone」導入後、抱えていた課題はすぐに、解決へとつながった。「atone」導入と同時期に「代引き決済」を停止。商品の受取拒否による返品がなくなり、それに伴う雑務からスタッフは解放された。利用者の大半は「atone」による決済に移行した。
決済比率を見ると、若年層購入者の比率が高い商品の購入においては、購入者全体の7~8%が「atone」を利用。10代から20代に限った決済比率では、導入から6か月で約10%を占めるに至っている。「atone」は、クレジットカードを持たない層が求めるニーズにピタリとハマった。
「atone」導入で一番大きかったのは、課題だった受取拒否による返品がなくなったこと。荷物を引き取ってもらえない場合、返品に関する連絡や対応などの雑務が大きな負荷になっていた。
「後払い決済」導入のメリットには、貸倒率が減少するという安心感もあげられる。若い消費者は「後払い決済」をオンラインショッピングの決済で普通に使っており、「atone」利用によるポイント付与も加えると大きなユーザーメリットにつながっている。(永田氏)
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オリジナル記事:代引きの受取拒否リスクの解消と顧客体験の改善を同時に実現。キングレコードが導入した後払い決済「atone」とは
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