消費者庁がアフィリエイト広告の規制を検討する。アフィリエイト広告は、その構造の複雑さ、ステークホルダーの責任回避の連鎖から不当表示の温床になっている。消費者庁は、景品表示法上、責任を負うべき「表示主体者」の定義の整理、広告健全化の方策を議論する。議論の行方によっては、法改正につながる可能性も排除していない。
表示主体者の解釈、健全化に向けた議論を実施
「景表法の適用に関する考え方」「不当表示の未然防止のための取り組み」を検討する。前者は、「表示主体者」の解釈に踏み込む議論、後者は、業界の自主規制を含めた健全化に向けた議論になる。消費者庁は、検討会と並行して今夏、アフィリエイト広告の実態調査をまとめる。調査結果も検討に活かす。
検討会は6月から月1回ほどのペースで開催。関係者のヒアリングなどを行い、年内をめどに一定の結論を得る。
表示責任の見極めが難しいアフィリエイト広告
最大の論点は、「表示主体者」の定義の整理になる。現行法の解釈は、08年の高裁判決がベース。①自ら、もしくは他者と共同で積極的に表示内容を決定した者、②他の者の表示内容に関する説明に基づき、その内容を定めた者、③他の事業者にその決定を委ねた者のいずれかの該当で判断する。
2008年に東京高裁判決で示された「表示主体者」に関する解釈
アフィリエイト広告で、なぜこの解釈が問題になるのか。景表法は、その規制対象を「商品・サービスの供給者」に限定する。一般的な純広告は、「広告主=商品供給者」で、表示責任を負う。
一方、アフィリエイト広告は、広告主だけでなく、アフィリエイター、ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)など、複数の関係者が絡み構造が複雑だ。広告の制作者はアフィリエイターで、「商品供給者」と一致しないケースもある。
表示責任の見極めも難しい。広告は、ASPを介して企業が禁止事項などレギュレーションを提示。アフィリエイターが作成した広告を、広告主が成果発生の事前・事後に承認する。内容は基本的にチェックできる。
ただ、運用に際しては、管理が行き届かないケース、「薬機法、景表法遵守」など通り一遍のレギュレーションを提示するものの、管理をASPやアフィリエイターに丸投げする事業者もいる。広告素材の提供を通じて、深く関与する事業者もおり、広告主の関与の度合いを推し量るのは難しい。
景品表示法と薬機法の規制対象の違い
アフィリエイターも制作した広告への誘導を目的に自ら広告出稿する者、有力アフィリエイターを囲い込み法人化する者など業界の成熟が進む。企業によるチェックが行き届かない夜中に表示を改変して成果発生を狙う者もいる。成果報酬型であることから、虚偽・誇大広告を行うインセンティブも働きやすい。
表示責任に対する専門家の見解も「禁止事項を細かくするほど関与が深い、不当表示でも一切ノータッチなら関与が薄い、とみられるかもしれない」(景表法に詳しい弁護士)、「全くの白紙委任で景表法上の責任を問えるかというと厳しいのでは」(公取OB)といった見方がある。
執行例にみる、消費者庁の「表示責任」への解釈とは
消費者庁は、これまでの執行で表示責任の解釈を示している。
今年3月、アフィリエイト広告を対象に初めて違反認定したT.Sコーポレーションの事案では、広告素材の提供や内容の合意から「他者に委ねたというより、積極的に関与した」(消費者庁)と判断した。判断は、表示主体者の①に該当。一方で③の「白紙委任」を対象にした処分は例がない。
同時期に公表した消費者安全法に基づく「アフィリエイト広告の注意喚起」では、白紙委任に対する法解釈の一端がうかがえる。担当課は、表示責任の所在を広告主に求めた景表法上の観点について、「ASPへの委託、再委託を承知し、広告内容を把握していた。内容が虚偽・誇大なら修正できる権限を有していたが放置した」と、「修正できる立場」をもって、広告の表示主体者と認めた。
近年のアフィリエイト広告規制をめぐる動向について
アフィリエイト広告ではないが、昨年末にはアマゾンジャパンによる行政処分取消訴訟(17年提訴。東京高裁で敗訴確定)でも、「白紙委任」の責任を問う判決が下されている。
裁判は、サイト内で行われた不当な二重価格表示の表示主体者が争点。アマゾンは、比較対照となる価格の登録が納入業者であり、自らは「価格を機械的に表示する仕組みを構築したに過ぎない」「表示内容の説明を受けず、決定に介在する余地はなく、委ねた事業者にも当たらない」と主張した。判決は、アマゾンが「どう表示するか自由に決定できる立場」をもって「表示主体者」と認めた。
「表示主体者」の定義変更で、法改正に発展するか
検討会を通じ、消費者庁は表示主体者の定義を整理するとみられる。公取OBは「白紙委任の責任をどこまで問うか、解釈を示すのでは」と話す。
ただ、景表法は規制対象が「商品供給者」に限られる制約がある。現行法では、ASP、アフィリエイターは規制対象になり得ない。「アフィリエイターを広告主とともに供給者とみなし、規制する方策があるか考えているのかもしれない」(前出OB)とする。
アフィリエイターについての定義
「表示主体者」の定義変更を含む法改正議論に発展するかもポイントになる。前出OBは「『何人規制』のように解釈を広げると、有象無象のアフィリエイターを取り締まる必要がある。景表法はあらゆる商品が対象で、行政コストも重くなる。これまで運用の積み重ねで解釈を示してきた」と否定的な見方を示すが、定義変更に発展すれば、検討の影響は広告全般に及ぶ。
消費者庁・西川康一表示対策課長に聞く、検討会立ち上げの目的
消費者庁表示対策課の西川康一課長に、検討会の狙いを聞いた。
――アフィリエイト広告の問題意識は。
広告主ではない者が表示し、広告主自身が内容を管理しにくい特徴がある。もう1つは、商品が売れた場合に報酬を支払う成果報酬型。媒体への出稿費用などもアフィリエイターが負担する。商品が売れなければ、赤字にもなりかねない。内容を盛ってでも売ろうとするインセンティブが働く傾向がある。
消費者からすれば、「あなたが商品を購入したら私にお金が入ります」と正直に書いてあるわけでもない。広告と思わず見ている場合もある。不当表示を生みやすい背景がある中で消費者への影響も看過できず、検討会を立ち上げた。
――景表法の規制対象は、あくまで商品・サービスの供給者。アフィリエイターの問題点に触れているが、規制対象にはならない。
現行法が前提ならそうなる。「ASPやアフィリエイターも規制対象に」という意見もあるかもしれない。改正の可能性を排除するものではなく、幅広く議論してもらう。
――ASP、アフィリエイターなどの責任は明確になるのか。
現行法でもはっきりしている。基本は、商品の供給者(広告主)。アフィリエイターに広告内容の決定を委ねている場合も広告主が責任をとる。
検討会委員の一覧
――不当表示の未然防止の取り組みは何を想定しているのか。
行政の取り組みだけで健全化するとは限らない。広告主、ASP、代理店、アフィリエイター、媒体社など関係者に果たせる役割もある。どのようなべストプラクティスがあるか、それをどう広げるか議論してもらう。
――「アフィリエイト広告等」を検討するとあるが、広告全体の議論に発展する可能性もあるか。
それ以外の表示広告に議論が及ぶ可能性があるため。深い意味はない。
――消費者がわからないなら、広告であることを明らかにすることも考えられる。
あたかも第三者のレビュアーが書いたように見えれば、騙されるリスクは増える。消費者問題を少なくするには、そうした取り組みをすべきという意見も出る可能性はある。
――白紙委任はどう判断されるのか。
T.Sコーポレーションは広告内容にコミットしていた。ただ、白紙委任であれば捕まらないとは誰も言っていない。事件化していないが、今後出てくるかもわからない。健食留意事項に「アフィリエイターに広告内容の決定を委ねている場合も含む」と触れている。白紙委任を聖域と思っていたら、それは都市伝説だと思う。
――専門家でも判断が分かれる。
必ずしも正しい意見ではないと思う。
――オブザーバーとして警察庁が参加する。
昨今アフィリエイト広告を対象にした取り組みをされて薬機法の摘発もある。こちらから声をかけ、関心を持たれて参加された。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:アフィエイト広告規制はどうなる? 執行例などにみる表示責任の議論と解釈&消費者庁に聞く検討会立ち上げの目的 | 通販新聞ダイジェスト
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.